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神影鎧装レツオウガ  作者: 横島孝太郎
#4 始まりと終わりの集う場所
189/194

第188話「ヴォルテックッ! バスタアーッ!」

――」

 しばし、辰巳(たつみ)は呆気にとられた。

 確かにオリジナルRフィールドが無貌の男(フェイスレス)の本拠地かもしれない、という推測を立てては来た。だが、それがこうも呆気なく証明されるとは。

 しかも相手はたった一人。この広大なフィールドの中にあって、随伴する(まがつ)の一体さえいない。

 些か上手く行き過ぎている気もするが……どうあれ、辰巳はレツオウガ・エクスアームドを操作。アメノサカホコ・レプリカを無貌の男へ突きつける。

「ふん、どうやらアンタの方が先に手札が無くなったワケか。このまま大人しく――」

「ああ、まったく。計画に障害はつきものとは言え、ここまで上手く行かないのは本当に久しぶりだ。あるいは初めてかもしれないな」

 無貌の男は辰巳の警告を聞かない。神影鎧装の武器を突きつけられているというのに、気にした素振りさえ見せない。辰巳は眉間にシワを寄せた。

 一体どうしたものか。そもそもこの無貌の男を倒せば終わるのか。変質したRフィールドとの関係は。否応なく、そんな事を考えてしまう。

 そして、それ故に。

「だが、まあ、何だ。こういう時は」

 判断が、遅れた。

「とりあえず、憤りを表す事にしようか」

「――! 辰巳!」

 レーダーを担当していた風葉 (かざは)が、同じタイミングで何かに気づいた事もあるだろう。

 だが、それ以上に。

 生身のまま跳躍し、滞空する大鎧装へ殴りかかってくる襤褸姿の男という光景に。

 一瞬、対応が遅れた。

「な」

 切瑳に、辰巳はレツオウガ・エクスアームドを操作。アメノサカホコ・レプリカを盾のように構える。

 直後、襲い来る衝撃。揺れるコクピット。殴られたのだ。無貌の男に。

「ぐ、う!?」

 数メートルであるが、ノックバックしてしまうレツオウガ・エクスアームド。切瑳に推力調整をして体勢は安定するが、無貌の男の追撃は止まらない。

「ア、ア、ア、ア、アアアアアッ!!」

 拳打、拳打、拳打、拳打、拳打、拳打、拳打の嵐。愚直に、一直線に打ち込んで来るそれに、しかし大したダメージは無い。アメノサカホコ・レプリカの防御が続いているし、何より大きさが違いすぎるからだ。人間で例えるなら小鳥がつついて来ているようなものである。

 だが、このままでは対応しきれない。故に、辰巳はアメノサカホコ・レプリカを操作。術式を解除し、槍になる前のパーツへと戻す。

「いい、加減にッ」

 自由になった拳を握る。引き絞る。拳打の構え。その間に、四つのパーツが胸部へと再合体。

「しやがれええッ!!」

 振り下ろす一撃。鉄拳は真正面から無貌の男を捉える。

「っ!?」

 だが違和感。手応えがあまりに軽いというか、柔らかい。慣性制御? 重力制御? 恐らく先程から跳躍や飛行に用いている術式の作用。致命打どころか大したダメージにさえなっていまい。風圧がフードを跳ね上げたのがせいぜいで。

「だっ、たらっ」

 殴り抜けた勢いのまま、レツオウガ・エクスアームドはスラスターを起動。全力噴射。突き出す拳に無貌の男を貼り付けたまま、目がけるは灰色の地面。

「これでッ どうだあああっ!!」

 そのまま、容赦なく、叩きつけた。渦巻く風。響く轟音。息をついた後、辰巳はまたしても眉をひそめた。

 さっきもそうだったが、手応えがおかしい。レツオウガ・エクスアームドの拳は、間違いなく地面についている。だが仕留めた確信が無い。痕跡が、残骸があって良い筈だ。だが見当たらない。感触も無い。無貌の男は、するりと消えてしまったのだ。

 そもそも殴りつけた地面が、このRフィールド内部自体がどうにも奇妙というか――と、そこで辰巳は思い出す。風葉が何か言いかけていた事を。

「そういや風葉、さっきは――」

「ああ。だが、そうか。そうだな」

 だが、辰巳が問うよりも先に。

 第三者の納得が、それを阻んだ。

「完全制御できなくとも。開けさせてしまえば良いのだな」

「!?」

 切瑳に、辰巳はレツオウガ・エクスアームドを立ち上がらせようとした。全周警戒のために。

 だが出来ない。地面の下。殴りつけた拳を掴みながら、新たな敵が姿を表したからだ。

「うっ」

 引き込まれるような感覚。だが違う。敵は、這い登る段差代わりにレツオウガ・エクスアームドの拳を掴んでいるだけだ。その証拠に、地面から現れたもう一方の腕が地表を掴んでいる。

 このまま出てくるつもりか? だとしても、いちいち付き合う義理なぞ無い。

「こ、のっ」

 辰巳は振り払いながら後方跳躍、同時に術式を起動。左腕に霊力が収束。拳を固めながら、レツオウガ・エクスアームドは体を撚る。引き絞られる膂力。

 それが、着地と同時に、解き放たれる。

「ヴォルテックッ! バスタアーッ!」

 現れたのは、莫大な霊力をうねらせる破壊の嵐。台風もかくやと言わんばかりの破壊術式が、地面から生えかけた腕に直撃。轟音。爆裂。

 立ち込める霊力光はすぐさま晴れていき――現れたのは、奇妙な穴。

 ヴォルテック・バスターによる破砕跡なのだろう、状況的に考えるのならば。

 しかし、そうして現れた断面に。改竄されていたオリジナルRフィールドのはらわたに。

 風葉は、見覚えがあった。

「あ、れは」

 夜よりも、宇宙よりも黒い色彩。それを縛るように。埋めるように。夥しく刻みつけられた術式文様。

 曼荼羅にも似たその光景に。質量さえ感じさせるその情報量に。

「虚空、術式……!?」

 風葉は、ありえぬものを連想してしまっていた。

「何だって!?」

「う、ううん、違う。全然違う。雰囲気が似てるってだけ。でも、けど、あれは」

 あれは、むしろ。

 亀裂の映像と己の直感。二つを元に、風葉は過去の画像データベースと照合。

 答えは、すぐに出た。

「やっぱり……! あの術式、さっきまでいたアフリカの地面を覆ってたヤツと、一致部分がかなりあるんだ!」

「何!? どういう事なんだ!?」

 混乱する辰巳達。それに応えるかのごとく、第三者は口を挟む。

「やれやれ。舞台裏に飛び込んでくるばかりか、大道具まで壊してくれるとはな」

 右後方。すぐさま辰巳は操縦桿を撚る。振り向くレツオウガ・エクスアームド。

 そのツインアイに映ったのは、地面から生えてくる二本の腕だった。

 大鎧装サイズのそれは、平坦なフィールドを難儀そうに掴む。力を込め、身体を引き上げる。

 そうして、現れたのは。

 炎、のように全身から霊力を立ち上らせる、奇妙な巨人。

 その異様を、辰巳は知っていた。

「スルト、だと」

 北欧神話に謳われる、炎の巨人。かつてオリジナルRフィールドで観測され、合同調伏部隊と死闘を繰り広げた恐るべき禍。成程場所が場所である以上、出て来るのはある意味当然ではある。だがそれ以上に、背後の壁が辰巳を驚かせた。

 そう、壁だ。今し方、アメノサカホコ・レプリカで叩き割ったRフィールド外殻。赤色の塗装を剥ぎ取られたその壁の穴は、辰巳の気づかぬ間に塞がっていたのだ。

「ああっもう完全に……だめ、アリーナさんとの通信途切れちゃった!」

 風葉も声を上げるが、辰巳ほどの驚きはない。無貌の男が殴りかかってくる前から、この事に気づいていたからだ。

 今までとは違い、崩壊しない術式力場。これが一体何を意味するのか。

 それを考える暇を奪うかのように、スルトはレツオウガ・エクスアームド目がけ走り出す。右腕を刃へと変えながら。

「その有り様は――」

 身体を変形させ、予想もつかない攻撃を仕掛けて来るあの禍、シャドーに似ている。

 偶然ではあるまい。どちらが先かは分からないが、関連がある事は明白。

 何にせよ。

「セット! ブレード二本!」

「Roger Blade Etherealize」

 辰巳に応じるシステム。術式はまたたく間に二振りの日本刀を編み上げ、レツオウガ・エクスアームドは二刀流となる。それと並行して、風葉は周囲を警戒していた。故に、すぐ分かった。右後方。同じく現れた二体目のスルトの存在に。

 やはりあれもシャドーと同様、一体だけではないのだ。

「辰巳!」

「分かってるさ!」

 正面から踏み込んだスルトの斬撃を、右刀で受け止める。続いて後方、数秒遅れて打ち込んで来る二体目の唐竹割りを、左刀で受け止める。

 静止、は一秒。スルト達が逆手を武器へ変じようとするよりも先に、辰巳は裂帛の気合を叫んだ。

「つ、あ、あッ!」

 膂力を開放するレツオウガ・エクスアームド。バランスを崩し、ノックバックする二体のスルト。超神影合体によって強化された機体性能は、二対一の状況なぞ苦もなく跳ね返すのだ。

「し、いッ」

 更にそのまま、流れるような踏み込み。レツオウガ・エクスアームドは右スルトを切り裂く。スルトは構成を破壊され、霧散していく――よりも先に、レツオウガ・エクスアームドは斬撃の勢いのまま胸部を蹴る。

 吹き飛ぶスルト。だが目的は撃破ではない。そこから生まれる反動を利用し、二体目へと間合いを詰める。その加速を十全に乗せ、辰巳は斬撃を振るう。

 二体目のスルトに、それを防ぐ手立てなぞある筈もなく。

 炎の巨人は分割され、霊力光となって溶け失せた。

 かくて辰巳は残心、しない。出来ない。この程度で終わりの筈がない。その証拠に、先程ヴォルテック・バスターで開けた穴すらも塞がっているではないか。

 ただの術式場ではない。術者が直接繋がって制御しているのか? だが、だとしても――などと、推察している余裕なぞ辰巳にはない。

 なぜなら前後左右、四方八方の地面から。燃える巨人の禍が、スルトが続々と姿を現し始めていたからだ。

「ふん。風葉、射撃の方頼む」

「ん!」

 二刀を構えるレツオウガ・エクスアームド。同時に両肩部、及び両脚部から折りたたまれていたエーテル・ビームキャノンが展開。風葉側のコンソールに、それら砲門の照準が預けられる。

 それに合わせたかのごとく、スルト達も己の武器を展開。ある者は腕を刃に変じ、ある者はライフルを生成装備し、ある者は腹部からキャノン砲のような円柱を生やす。やはりシャドーと似た挙動。あるいはこちらがオリジナルなのかもしれないが。

 どうあれ、両者は準備を終えた。

 そして、動いた。

 生じたのは、嵐である。

 スルト部隊の刃が、銃撃が、砲弾が。たった一機の敵を目がけて集中する。

 だがそんなものが、レツオウガ・エクスアームドに通じる筈がない。

 確かにまったくの被弾なし、と言う訳ではない。だがダメージは皆無だ。辰巳の絶妙な機体制御によって被弾は最小限、かつその箇所も全て増加装甲部位である。

 増加装甲は利英 (りえい)が考案した最新の霊力装甲術式であるリジェネレーション・アーマーが用いられており、霊力が続く限り容易に再生が可能。

 故に。夥しい攻撃に晒されながら、レツオウガ・エクスアームドは止まらぬ。

「は、あッ!」

「う、わ、わあああっ!!」

 辰巳の斬撃が。

 風葉の銃撃が。

 嵐のごとく、スルトの群れを薙ぎ払っていく。

「ふ、う」

 やがてレツオウガ・エクスアームドは立ち止まり、辰巳は一つ息をつく。

 気づけばそこはフィールドの中央近く。周囲に敵影は無い――いや、真正面に現れた。

 今度は三体同時だ。即座に攻撃しようとして、しかし辰巳は踏み止まった。

「ほほう。立ち回りだけは今まで以上の素晴らしさだな」

 中央の機体に、無貌の男の姿が見えたからだ。

 では、何故見えているのか。単純な話だ。コクピットがむき出しになっているからだ。

 そしてそのむき出し機体の名前を、辰巳と風葉は良く知っていた。

「オウガ、だと!?」

「え、な、なんで!?」

「ハハハ。なぜ驚く必要がある? そもそも元の設計データはこっちにあるんだぜ。それを元にすれば、霊力でいくらでも作れる。当然だろう。そして」

 無貌の男は襤褸を脱ぎ捨てる。顕になったのは、黒い鎧装に身を包む一人の男。辰巳に良く似た、しかし一回りは年上の顔立ち。

 即ちゼロワン。令堂紅蓮(れいどうぐれん)。サトウ、及び標的(ターゲット)Sの正体。

 辰巳とグレンの、オリジナルと思しき姿。

 腕組み仁王立ちする無貌の男――ゼロワンは、左右に侍る己の手駒を順に見る。

 左、スルト。

 右、ネオオーディン・シャドー。

 一体何をするつもりなのか。隙だらけである以上、攻撃する事自体は容易だ。だがそれで倒しきれる確信はないし、何より倒しきれる算段がつかない。そんな逡巡を辰巳がしている間に。

「こちらも相応しい機体を作らせてもらおうじゃないか。あえて、このキーワードを使ってね」

 ゼロワンは、体制を整えた。

「超・神影合体」

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