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神影鎧装レツオウガ  作者: 横島孝太郎
#4 始まりと終わりの集う場所
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Chapter13 四神 03

 その時、利英(りえい)は眉をひそめた。

「なんだ?」

 おかしい。艦橋から見える光景に、立体映像モニタへ映る戦場に、何か、違和感がある。

 だが、それは一体何なのか――それを精査しようとした矢先、彼女達の声は響いたのだ。

「デュアル・フォーメーション! 二神合体!」

「なんだァ!?」

 目立つ対象だったため、注意がそちらへ逸れたのは仕方の無い事だったろう。

 だがそれは、結果的に彼女達の目的を幇助してしまうのだった。



『Roger DualSaver Activate』

 サラの叫びに対し、まず最初に動いたのはビャッコだった。

 両脚部が折り畳まれ、下半身が左右へ展開。内部パーツが迫り出し、腕部ブロックが形成。

 そこへセイリュウが飛来、ビャッコの下半身があった場所へ首の下部分のブロックを接続。尾部が一直線に伸び、左右に分かれ、脚部を形成。

 最後に龍の頭が変形して大鎧装の頭部を形成し――脚部スラスターを噴射しながら、組み上がった大鎧装はずしりと着地する。

『Roger DualGunner Activate』

 また、ビャッコと同じタイミングでゲンブも動いていた。

 頭部が上を向き、車体下部四箇所に配置されたキャタピラ、それを含めた付近のブロックが内部パーツを展開。

 上空ではスザクが脚部と翼を折り畳み、大鎧装の胸部と腕部を形成。そのまままっすぐに降下し、ゲンブ頭部を接続して胴体が完成。スザクの頭部も折り畳まれて胸部装甲の一部となって、入れ違いに現われた大鎧装頭部カメラアイがぎらと光り。

 最後にキャタピラ部が更に展開し、馬を思わせる脚部が力強く立ち上がる。

 奇しくもその位置は、同じタイミングで合体を終えたサラ機のすぐ隣であり。

 がつん。どちらともなく互いの拳を打ち合わせた二機の合体大鎧装は、ゆらりと凪守(なぎもり)側へカメラアイを向ける。

 そして、朗々と名乗り上げたのだ。

「デュアルセイバー・ライグランス……合体完了」

「デュアルガンナー・スノーホワイト。合体完了ッス」

 以前の愛機たるライグランスとスノーホワイト、その名を継承する新型の名前を。

「ほほう! 胸に虎か!」

 そんなヴァルフェリア達の機先を制するべく、雷蔵(らいぞう)の駆る迅月(じんげつ)がスラスターを噴射。進路を阻もうとしたタイプ・レッドの頭を踏み潰しつつ、ジャンプ台の要領で更に高く跳躍。

「親近感がッ湧くのう!」

 振りかぶる丸盾。合わされる照準。更に唸りを上げるスラスター。一秒後にデュアルセイバーをたたき伏せていただろう大質量は、しかし届かない。

「こっちも見て欲しいもんスね」

 デュアルセイバーの隣。人馬のシルエットとなった大鎧装デュアルガンナーが両腕を上げる。

 その手の中には、スザク時の脚部へ装備されていたエーテル・ビームガンが握られており。

「ち、ぃ!」

 舌打つ雷蔵。丸盾を構え直す迅月。しかしてその防御は、コンマ五秒遅かった。

 一、二、三、四、五発。恐るべき精密さを備えた速射が、迅月を迎撃する。二枚の丸盾でその内の四発を防いだ雷蔵だが、最初の一発だけはかいくぐられてしまった。

「ぐうッ!?」

 爆発し、回転し、バランスを崩す迅月。その隙にペネロペが再照準を狙った矢先、雷蔵は吼えた。

「がぁあるルァ!」

 ソニック・シャウト。雷蔵の獣性を弾頭とした銃声が、二機の合体大鎧装へ向けて放たれる。

 威力よりも範囲を重視したその指向性音波砲は、さながらショットガンだ。とはいえ相手に防御姿勢をとられた上、切磋の射撃だったため威力は微々たるもの。けれども目を逸らさせるという最低限の目的は達しており。

「ぬん!」

 その隙に空中で身を捻り、バランスを取り戻す雷蔵。更にスラスター推力をあえて殺さず、殴り合っているディノファングの群れの向こうへと落下し、着地し、立て直す。

「損傷は、まだまだ大した事は無いが、のう」

 右肩部。ヒビの入った装甲を、雷蔵はカメラアイ越しにちらと見る。幸い内部機構へのダメージは無いが、そう何度も受ける訳にはいかない。

「さ、て。どうするかのう?」

 逡巡する雷蔵。その隙を突くかのように、デュアルセイバーは動いた。

「おや、小休止ですか?」

 言いつつ、デュアルセイバーは踵を鳴らす。すると両足首部から電子回路じみた霊力の線が延び、瞬く間に像を結ぶ。

 それは、霊力で構成された翼であった。

 かつてヘルガの鎧装に装備されていたものに似ているが、あくまで姿勢制御補助でしかなかったそれとは違って、かなりの大型だ。膝くらいまで高さがあるだろうか。

 どうやら独自に推進システムも内蔵しているらしいその翼から霊力光を噴出しつつ、デュアルセイバーは腰へ手を伸ばす。

 そこには、いつのまにか一振りの太刀を佩かれていた。足首の翼と同じタイミングで現出していた霊力武装の鯉口を、デュアルセイバーは鳴らす。引き抜かれた刃が、陽光にぬらりと踊る。

「では、次はこちらのステップを……」

 サラは言葉を切った。短く吐き出される呼気。無音の気迫と共に、デュアルセイバーの太刀が閃く。

 一つ、四つ、八つ、十七――音の速度を超える斬撃が、五月雨じみて舞い狂う。一拍置いて、十七個の爆発がデュアルセイバーの周囲で咲き乱れる。

 上空からから撃ち下ろされた赤い矢の雨を、サラは一呼吸で全て斬り払ったのだ。

「うひゃあ」

 ブレイズ・アームを軽く振りながら、射手のマリアは舌を巻く。一発でも当れば御の字と思っていたが、どうやらその想定すら甘かったらしい。

 ではどうするか。高出力モードへ切り替えるか、それとも別の()を使うか。

 そんな逡巡を――無論秒単位のごく短いものではあったが――している合間に、デュアルセイバーは動いた。

「目の覚めるスピーダでしたね」

 踵を打ち鳴らすデュアルセイバー。アイドリング状態だった両脚の翼が、本格的に霊力光を噴射する。

 デュアルセイバーが、ふわりと浮かび上がる。

「次は私のコンパスを、ご覧頂けますかっ!」

 向こうの風景が透けて見える程の繊細さとは裏腹の、非常に力強い加速力でデュアルセイバーは加速。セカンドフラッシュ目がけ、恐るべき速度で距離を詰める。

「いきますよ、デュアルセイバー……いえ、ライグランスっ!」

 かつての乗機の名を呼びながら、サラは空を駆けていく。その残滓たる霊力光を横目に、ペネロペは操縦桿を動かす。デュアルガンナーがエーテル・ビームガンを構え直す。

「気合い入ってるッスねぇ。んじゃまぁ、こっちも負けないよう頑張るスかね、デュアルガンナー……や、スノーホワイト」

 やはりかつての乗機の名を呼びながら、ペネロペは大地を走る。凪守を、敵勢力を、撃滅するために。

 ――ライグランス。そしてスノーホワイト。かつての同名機とは構造がまったく違うこの二機の正式名は、当然ながらデュアルセイバーとデュアルガンナーだ。だが余程の事が無い限り、サラとペネロペがその名で乗機を呼ぶ事はないだろう。

 何故ならば。

 ヴァルフェリアとして自我と過去を漂白された彼女らにとって、乗機の名すら数少ない記憶の一つである為だ。

 だから。

 そんな(よすが)に寄って立つ、彼女(ヴァルフェリア)達にとって。

「いつかの続きを踊りましょうか! ファントム6!」

 戦う事は、己の存在証明そのものなのだ。

「く……強引な、お誘いですねっ!」

 口端を無理矢理に上げつつ、マリアはセカンドフラッシュを更に加速。真下から砲弾じみて襲い来るデュアルセイバー・ライグランスの突貫を、間一髪の所で交錯回避。

 後部カメラでちらと見やれば、今まさに刀を振り抜いたDSライグランスが遠ざかっていくのが見えた。そのカメラアイがぎょろりとセカンドフラッシュを睨んだが――マリアの心胆を寒からしめたのは、その目ではない。

「ウソでしょ」

 DSライグランスが腰から取り外した鞘。その鯉口が太刀の柄尻と合わさった瞬間、霊力武装はその姿を変じたのだ。

 即ち。DSライグランスの背丈にも匹敵しそうな、大型の弓へと。

 きりり、と引かれる弓弦。気付けば当然のごとく番えられている矢を見据えながら、マリアは思い出す。最後の魔術師事件の戦闘データを。

 以前、ライグランスは超長距離からオウガを狙撃した事があった。ペネロペも大概だが、サラもまた相当な射撃の腕を持っているのだ。

 そして今、後継機のDSライグランスが射撃武器を構えている。

「ま、ず、いっ!」

 利英へ緊急コールをかけつつ、マリアはセカンドフラッシュの右腕を反転。後部カメラではロクな狙いもつけられないため、とにかくひたすら連射する。

「くす。そんなセンティードでは――」

 セイリュウの時と同様、最低限の動きで赤い矢の雨を回避しながら、DSライグランスは照準を固定。

「――到底乗れませんよ?」

 サラの笑みとDSライグランスの射出は、同時だった。

 全力加速するセカンドフラッシュへ、悠然と追いつく恐るべき豪速矢。マリアは苦し紛れに軌道を変えるが、サラに思念誘導される矢がその狙いを違える事は無く。

「く、う」

 マリアが歯噛みした直後、DSライグランスの矢は、大鎧装の装甲を貫通した。



 同じ頃、デュアルガンナー・スノーホワイトは狙撃地点を確保していた。

「絶好の位置スね」

 真正面。グラディエーターとディノファングの混成部隊が造り上げている一進一退の戦線の、ずっと後ろ。

 左のハンドガンを格納しつつ、もう一挺を掌中でくるくると回転。しかる後、DGスノーホワイトは改めて銃を構えた。

 直後、ハンドガンの銃身上部と銃底が展開。精密回路のような紋様が走る内部機構が剥き出しになるのは、しかし僅かに一秒。

 その精密回路から霊力光の線が延び、絡み、ワイヤーフレームのような骨組みを形成し――瞬きする間に、ハンドガンの延長パーツとなって現出する。

 即ち、大型のライフルへと。

 DGスノーホワイトが用いていたハンドガンは、霊力で拡張されるM・S・W・Sの基部でもあったのだ。

 かくて完成した大型ライフルを、DGスノーホワイトは構える。前身機のような安定脚は無い。四脚の人馬型となって安定性の増した今、補助装置に頼る必要は無くなったのだ。

「は、ぁ」

 息を吐く。止める。狙う。照星の向こう。小競り合いを続ける敵味方。そして霊力障壁の出力を上げる凪守の拠点コンテナ。誰だか知らないが、良く戦況を見据えている。

「ま、鴨撃ち(ダックハント)にゃ変わんねッスけど」

 引金を引く。霊力光が迸る。

 大型ライフルの銃口から射出されたその光は、射線上にいた敵と味方のディノファング三匹を貫通。威力も速度もまったく減衰せぬまま、拠点コンテナの霊力障壁へ着弾。

 轟。

 特火点(トーチカ)の集中砲撃にも匹敵する大爆発が、拠点コンテナ一帯を揺るがした。

「ふむん」

 弾着は当然。だが撃破も出来ていない。やはり相当強力な霊力源を持って来ているのだろう。まぁ、そうでもなければああまで露骨な拠点なぞ構えられまいが。

「じゃ、ま、第二射をば」

 狙撃を阻止したいのだろう、こちらを睨む零壱式(れいいちしき)部隊をグラディエーターなどで適当に足止めしつつ、DGスノーホワイトはライフルを再装填――。

「ノックなら、もっと、優しくして貰おうかのうッ!」

 ――するのを阻むべく、背後から迅月が跳びかかった。

 高速移動目的だったビーストから攻防一体のヒューマノイドへ、鮮やかに変形する。またもや盾が振りかぶられる。

「おや」

 片眉を上げるペネロペ。成程、確かに速度は先程以上だ。ぼんやりしていたら潰されてしまうだろう。

 だが。当然ながら、ペネロペがぼんやりしている筈は無く。

 真正面から迫る大質量。その獣性を嗅ぎ取りながら、ペネロペはもう一挺のハンドガンを取り出す。銃身上部と銃底が展開する。霊力光が溢れ出し、拳銃は一秒で姿を変える。

 即ち。接近戦での取り回しに優れたサブマシンガンへと。

 そしてその銃口が、迅月を捉えた。

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