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第7話 機能美の追及

 生徒会長を家へ送って来た……オレとエレーヌさんは家に帰って来た。

 この二日間、色んな事があって疲れた。

 明日は学校が休みだ。体育館をめちゃめちゃにしてしまった。うーん罪悪感がある。

 学校はどうなっているかな……。

 オレ達三人はリビングにいた。ガラステーブルを囲み、お茶を飲む。

 クララさんは大きくなっている。さっきまで小さくなってベッドで寝ていたんだんだけど。

「クララさんは何で小さくなったり、大きくなったり出来るんですか?」

 クララさんはキョトンとした顔になった。突然話題を変えられてびっくりしたかな?

「そうですね、元就さんには話した方がよさそうですね。戦闘天使の真実を」

 クララさんとエレーヌさんがお互い向き合って頷いた。そしてオレの方を向く。その顔は真剣で、少し悲しい顔をしていた。

「私達戦闘天使は魔物たちと戦う為に作られた存在なの。自分で判断し、魔物を駆逐する、対魔自動戦闘兵器が私達」

 初めて見た、こんな悲しい顔をするエレーヌさんは。それに凄い衝撃を受けた。エレーヌさん達が創られた兵器だったなんて。

「私は第四・五世代戦闘天使。第四世代のプラットフォームに限定的第五世代の装備を加えた戦闘天使です。第五世代の能力を獲得した代わりに、体力の消費が早く戦闘行動時間が短いから、普段は子供の姿で節約する必要があるのです」

 クララさんが子供になったり、大きくなったりするのはそのせいか。

「私は第五世代多目的戦闘天使。最初から第五世代として作られました。高度な探知装置。武器運用能力。統合戦術情報伝達システムのホストバージョン搭載。長い作戦高時間。もう殆ど化け物よ。クララ見たく子供になってセーブする必要がないんだから。そしてこの武器は一生外せないのよ」

 ジェイソンってオッサンが言っていたことか?エレーヌさんは最高傑作だって。

 エレーヌさんは顔を伏せて話し出した。

「私は生まれてすぐ、戦闘天使としての能力を植え付けられました。実は私は今三歳なのよ。戦闘天使の能力を植えつけられて、いきなり十八歳の身体にされた。精神年齢も含めて。」

 それって平たく言うと改造人間、もとい、改造天使ってことか?エレーヌさんは更に話を続けた。

「身体や戦闘能力だけあればよかったのよ……私は普通の十八歳の女の子の精神も植え付られたのよ。高度な戦術判断を自分でする為に。でも、それは友達とお喋りするのが楽しかったり、甘いお菓子が好きだったり、誰かの事を好きになったり、夢を持ったり………普通の女の子と同じなのよ。でも私、第五世代守護天使はクララと違って、戦闘兵器なのよ。兵器が心を持つなんて、夢を持つなんて、残酷よ……兵器の目的は戦う事よ」

 エレーヌさんは顔を伏せている。その頬に伝う一筋が見えた。それを見た瞬間、オレの胸の中熱くなり。ギュウギュウと締め付けられる感覚があった。

「エレーヌさん、オレは、上手く言えないけどそれは逆に良い事だと思うよ」

 オレは何とかエレーヌさんを励ましてあげたかった。自分の言葉で。どうしたら、エレーヌさんに笑顔が戻るか、頭にある言葉の記憶を総動員して、励ましの言葉を作ってみる。

自信は無いけど、何か言わなきゃならないと思った。

「元就君、その言葉は私にとっては辛いわ」

「違うんだよ。それはエレーヌさんが戦う必要が無くなった時、普通の女の子に戻るための大事なものだと思うよ」

「これでも?」

 突然、エレーヌさんはオレに背中を見せた。昼間の戦いで、傷ついた翼が痛々しい。左の翼は三分の二が失われていた。

「見て元就君。貴方が綺麗と言ってくれる私の翼は造り物なの」

 失われた翼の切断箇所を見ると、確かにキラキラと光る金属の構造物が見える。

「私は、生まれてすぐに天使の翼を切断したのよ。親から貰った大切な翼を。そして代わりにこの造られた翼をつけたのよ。空中戦で魔物より優位に立つ為。やっぱり私は戦闘兵器なのよ」

 オレはエレーヌさんの翼を見つめていた。いや、見とれていたと言った方が正しいかもしれない。その翼は明らかに造られたものだ。でも……。

「エレーヌさん、翼に触ってもいいかい?」

「えっ?なに?」

 エレーヌさんの了解を得ずに翼に触れてしまった。

「この翼は応力外皮構造モノコックでメインフレームはチタン合金を真空ビーム溶接した物。溶接のビートが美しい。フレームから伸びてる支柱の構造物はオートクレーブ成形のCFRP。炭素繊維の網目が素晴らしい。それに羽はグラスファイバー。石英がキラキラと光を反射している。朱鷺色に見えるのはこのグラスファイバーの輝きなんだね」

 オレが幼い頃読み耽った技術書の数々。エレーヌさんの翼を見ればその志の高さが解る。こんな若造のオレでも。

オレの将来の夢は技術者なんだ。物を造る技術者になりたかった。動かないバイクを修理して動くようにしたり。廃品のカメラを数台合体させて完動のカメラを作るのが楽しいと感じる男なんだ。

「エレーヌさんの翼は最先端技術を持って造られた逸品だよ。とっても美しいよ。何て言うか。オレが尊敬する技術者の言葉で「機能的に研ぎ澄まされた物は見た目も美しい」と言った人が居るんだ。エレーヌさんの翼は、そう、機能美ったやつだよ」

「元就君はこの翼を美しいと言ってくれるの」

 オレは左手から神威を抜いた。蛍光灯の光を反射してギラリと光る。

「この刀もそうだよ。これは武器で人を傷つける物だ。でも、美しさを感じてしまう。造った人が《斬る》て事に対して突き詰めた結果だよ。それと一緒さ」

 神威を左手に納めた。エレーヌさんとクララさんを見る。オレどうしても彼女達に笑顔を取り戻して欲しかった。

「エレーヌさんとクララさんが戦う事を止めても、天使の翼の美しさは勿論、エレーヌさん達が女の子を止める訳ではないだろう?じゃあ、フツーの女子の心があった方がイイに決まっている」

「私が戦う必要が無くなる?私はクララとは違って戦う為に作られた戦闘天使。第四世代の戦闘天使のように引退する事は無いわ。だって私の身体は半分造り物よ!」

「エレーヌ……」

 クララさんがエレーヌさんを抱きしめた。クララさんもエレーヌさんのことが心配で、たまらない様子。優しい人だよ。こんな女の子達にいつまでも戦わせている訳には行かないよな。オレは紫苑流最強の剣士と言われた……何処まで通用するかわからないけど。

「じゃあ、今すぐ引退させてあげるよ。オレが責任をもって」

「元就君、そんな事……嬉しいけど不可能よ」

 エレーヌさん諦めが早いよ。

「オレが魔物を倒す。エレーヌさんが戦う相手がいなくなったら、引退するしかないだろう。悲しいかな、オレは霊感が強くて魔物が見えるらしい。そして、この左手に収めている刀に斬れないものなんて無い……今の所……」

「元就君」

「元就さん」

 二人は目を真っ赤にしてオレを見る。そんな目で見られたら、カッコイイところ見せなきゃならいよな。

「オレに任せてくれないか。歴代紫苑流最強のプライドもちょっぴりある。何処まで通用するかわからないけど、最強を誇るなら負けはしない。オレより強いヤツに会ってみたいいと思う気持ちもある。だから、二人は武器を手放して欲しい」

 オレは、二人にハンカチを渡した。涙を拭う仕草を見ているとグッとくるな。

「有難う、元就君」

 エレーヌさんはオレの手を握り、お礼を言ってくれた。


 皆疲れていたのか、その後は呆けているだけで、会話もなくなっていた。そろそろメシの準備でもしようかなと思ったときだった。

「そうだ、ねえ、クララ」

「なあに、エレーヌ」

「さっき、元就君の心臓を取り戻した時、レガリアの宝玉をそのまま、元就君の胸に戻したでしょ?どうして摘出しなかったの?」

 そう言やそうだ。エレーヌさんの言う通り、さっき宝玉を摘出するチャンスはあったハズだ。

「そうですね、まあ、今のところ、一番安全な場所に保管してもらっているって事かしら」

「なに?オレの胸が一番安全?さっき奪われそうになったじゃん」

「クララ、回りくどいわよ。元就君を囮に使おうとしてるんじゃないの?」

 そうか、オレを囮にして宝玉を奪おうとして来るヤツら、ジェイソンを捕まえようって魂胆か?

「ゴメンなさい。元就さん。でも協力して欲しいの。人間の貴方が宝玉を持っているって事は、冥府の者は《容易に奪える》って隙を見せますわ。でも、元就君から宝玉を奪うのは簡単な事ではないもの……紫苑流史上最強の看板が有りますでしょ」

「そうね、いいアイデアだわクララ。私とクララで元就君を護ってあげるから、大船どころかキティホーク級航空母艦にでも乗った気分でいて。任せてよ」

 そうかい。笹舟にならないようにしてくれよ。

「二人とも、元気が出たようだね」

「うん。元就君に負けたくないもの。私も前向きに生きる事にしたわ。その方が楽しもの」

 エレーヌさんの笑顔にドキッとしてしまった。

「私だって……不思議な人ですね。元就さんは。私達運がイイかも知れません。今回の事件を解決る為に一番必要な人と逢えたのですから」

「有難う、エレーヌさん、クララさん。オレも鼻血が出るくらいやる気になったよ」



 夕食後、元就が入浴中の出来事だった。居間のテーブルを挟んでエレーヌとクララが向い会う。クララは終始ニコニコしているが、エレーヌはムスッとして、頬を膨らませていた。

「エレーヌ……貴女運が良いですわね」

「どうして?」

「戦闘天使の正体を見られた相手が元就さんで……」

 エレーヌは頬を膨らませたまま、クララから顔を逸らした。

「私が元就君に正体を見られた事をからかっているの?」

 クララは更に目を細めてコロコロと笑う。

「違いますわよ。元就さんがいい人で良かったと言う事ですわ。しかも……」

「し、しかも、何よ……」

「優しいし、料理は上手だし、真面目だし……何より、剣の達人で人間離れした強さよ。剣で戦ったら、戦闘型の私でも勝てるかどうかですわ」

「そ、そうかな?」

 エレーヌは顔を真っ赤にしながら俯いた。それを見たクララはニコッと笑う。

「別にエレーヌの事を褒めた訳じゃないわよ」

「なっ……」

 エレーヌは「しまった!」と小声で呟いた。自分の気持ちをクララに見透かされたと思った。

「わかりやすい人ですわね」

「もう……イジワル……」

 エレーヌはテーブルに突っ伏した。

「エレーヌがはっきりしないなら、私が元就さんを貰っちゃおうかな!」

「ダメ!」

 突っ伏していたエレーヌが飛び起きた。クララは「全く、本当にわかりやすい人」といいながらニコニコ笑いながら……。

「あら、どうして?」

「だ、だって、元就君は私の子分だから……」

「子分さんの方が主さんより強いじゃない。どっちが主だかわからないわ」

 エレーヌは「むううう」と唸り声を上げて、再びテーブルに突っ伏した。


 一方、風呂の元就は。

「海ィーの漢の艦隊勤務!月月火ぁ水木金金!♪」

 風呂のエコーを利かせながら、気分良く歌っていた。


 草木も眠る丑三つ時。

「眠れないわ……」

 エレーヌはベッドの中でモゾモゾもと寝返りを打つ。

「気付かされてしまった……。クララや、桜子が元就君に近付くと正直面白くない。これって……」

 その先を考えようとすると、全身に電気が走ったような感覚になる。顔が火照り、心臓が早鐘の鼓動を打つ。

「元就君が気になる……私の事をどう思っているのか」

 自分でも気付いていた。今まで自分の気持ちを誤魔化す為に、元就へ怒りの矛先を向けた事を。

「私じゃない人に向いたらどうするの?」

 途端に不安になってしまった。

「それは嫌!絶対に嫌」

 エレーヌは考えた。眠れないもどかしい夜どんどん更けていく。

「決めた、ここは得意の電撃作戦で行こう。もう躊躇している暇は無いわ。この間にもクララや桜子が元就君と仲良くなってるかも知れない」

 こんな深夜に元就がクララや桜子が仲良くやっているわけ無いのに。彼女は相当焦っていた。

そして少女は決意した。

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