第3話 剣道部対薙刀部
からっと上がった翌日の太陽。時は既に昼休み。さあ、本日の中継地点。弁当を食べる。オレは自分の席で弁当を広げた。
「ごめんなさい……席を貸して戴けますか?」
「は、はい……えっ?レイセオン先輩?」
オレの前の席に座る女子生徒を押しのけたのはエレーヌさんだ。いきなりオレの前に座り弁当を広げた。
「な、何ですか?エレーヌさんは学年もクラスも違うでしょ。だから弁当作って渡したんじゃないですか!」
オレはエレーヌさんに抗議する。彼女が広げている弁当は今朝、オレが作ったものだ。
「だって、離れていたら貴方を監視出来ないでしょ?昼休みだって安心出来ないわ、貴方が秘密をバラすんじゃないかと……まだ信用出来ないもの」
そう言いながら、エレーヌさんは弁当箱の蓋を開いた。
「おおおおおお!」
「ひゃああああ!」
男女混合の歓声が上がった。理由は多分……オレの弁当とエレーヌさんの弁当の中身が全く同じだったから……だと思う。当然だ、だって、オレが作ったんだもん。
全く、オレは何だか恥ずかしやら困ったやらでこの場でドギマギしてしまう。
「元就ィィィィ!どう言う事だ?これは!レイセオン先輩の弁当とお前の弁当の中身が一緒ってのは?」
鬼の形相で鼻水垂らしながらオレを睨むのは忠勝だ。それはもはや睨み殺そうとしている領域だ。
「い、いやあ……こ、これは……」
オレがしどろもどろ、ごまかそうとしていたら、エレーヌさんが、ぴしゃりと言い放った。
「どうも、こうも無いですわ……中身が一緒って事は、そういう事ですわ」
エレーヌさんは遠まわしに言っているが、クラスの皆はそんなに鈍くない。オレとエレーヌさんが只ならぬ関係で有る事に気付いたようだ。「おおおおおお!」「やるな、貴島!」とか再び歓声が上がった。
「く、くっそう!俺の……俺の……憧れの先輩を!」
忠勝が自分の席に立て掛けてあった、長物の袋を掴んだ。紐を解き中身を引き抜く。
「元就!お前を愛刀《伊舎那》のサビにしてくれる!」
我を忘れ、傍若無人の狂戦士状態の忠勝は真剣でオレに斬りかかって来た。
「あ、危ねえ!」
とオレが言うより早く動いた人が居た。手にしていた割り箸で、嫉妬に狂った忠勝の邪刀を受け止めた。
パシっ!
「おおおおおお!」
「ひゃああああ!」
エレーヌさんは華麗な箸捌きで、忠勝の剣を箸で受け止めている。
「お食事よ。殿中での抜刀はご法度よ!」
す、すげえ!エレーヌさん。貴女は塚原卜伝を超えたよ。箸で白刃取りなんて。なんて言って褒めて見たけど、もはや人間技じゃない。正体がバレるぞ。
「ま、参りました。レイセオン先輩のお眼鏡に適う様、今一度精進します」
忠勝はパチンと刀を鞘に納め、背中を丸めて、トボトボ自分の席に戻った。ところで忠勝、学校に武士の魂である真剣を持って来ているのはわかるが、隠しておけよ!オレだって持ち歩くの邪魔くさいケド、頑張って隠し通してるんだから。
忠勝のご乱心とそれを成敗したエレーヌさんの活躍?により、教室の中は静まり帰った。オレとエレーヌさんは静々と弁当を食べる。だが、好奇の視線は痛いぐらいに突き刺さっている。
「んー……九十八点ね……元就君」
残二点は何が足りなかったんだ?ちょっと悔しいぞ。
「お弁当、美味しいわ。有難う。元就君って、やっぱり料理が上手なのね。料理長へ格上げしてあげるわ」
その格上げは殆ど意味がない。だってエレーヌさんの使用人の立場は変わらんのだろうから。
「どう致しまして。もし、エレーヌさんに天使のような感謝と慈悲のお心があるのなら、オレの監視は止めて下さい。オレに平穏な日常を返してください」
エレーヌさん眉間に皴が二本出来た。目じりをピクピクさせている。どうだ!思い知ったか!
ビッシ!
「のああ!」
超高速で割り箸がオレの額に飛んで来た。痛てえな、ちくしょうめ。強烈なデコピンを喰らったような感じだ。オレは思わず後ろにのけぞった。
「そうよ、私の心は天使のように綺麗に澄んでいるから、元就君の心を透かして見る事が出来るわ。約束を破ろうとする不埒な心を。知っています?割り箸を音速で飛ばすとどうなるか?」
エレーヌさんがニコッと笑う。割り箸を音速で飛ばすなんて……エレーヌさんなら出来そうだから怖い。
「参りました。エレーヌさん。オレはもう逆らいません」
エレーヌさん。貴女には口では勝てない気がする。
「わかれば、宜しいです」
その後のエレーヌさんは終止にこやかに弁当を食べていた。性格はともかく、その笑顔だけは見ていて心が洗われるようです。この辺はさすが天使という所か・・・・・・・。皆、騙されるな。彼女は色々と気難しいぞ。
弁当を食べ終わったエレーヌさんは「ババ抜きしましょう」と言ってトランプを出した。
隣でしょげている忠勝を呼び、クラスメートの男女も混じって燃えるババ抜きをした。
楽しい時間はあっという間に過ぎた。エレーヌさんはチャイムと共に、自分のクラスへ戻って行った。「エレーヌさんて美人な上に気さくで話しやすい先輩ね」とか「うおおおお!俺の嫁にしてえええ」とか言い出すヤツが出てきた。何言ってやがる。
でもオレは知っている。彼女は魔物が現れると、天使に変身して悪を倒し、我々人間を護っている正義のヒロインだ。性格は凄くひねくれているが。このオレしか知らない彼女の秘密がある事が優越感だった。
オレは今、命がけのバトルをしている。その強大な敵の名は……睡魔。これは立派な悪魔である。今の所、勝率は五割。今日は睡魔が優勢だ。だって、昨日はあんまり眠れなかった。エレーヌさんが居ると思うと、緊張して寝れなかったんだ。弁当を食べ終えた午後の授業。もう、睡魔の攻撃にノックアウト寸前なオレだ。
エレーヌさん。オレは睡魔と言う悪魔に襲われています。貴方が天使なら、今すぐオレを助けてください……zzzzzz……。
キーンコーンカーコン……。
授業終了のチャイムに助けられた。天使の役立たず。
「元就!部活行くぞ!今日も勝って、連勝記録更新だ!」
「わかった。忠勝、先に行って準備していてくれ」
忠勝は廊下へ飛び出して、剣道場へ行った。
今日は二か月に一度の剣道部と薙刀部の定期交流戦。女子薙刀部顧問の先生発案の交流戦。「女子薙刀部の技能向上を目指して、男子剣道部に稽古をつけて欲しい」と交流戦が始まった。ルールは簡単。オレたち男子剣道部が薙刀の装備で薙刀のルールで試合をする。女子へのハンディキャップとしてオレ達にとっては不利な条件だ。
剣道と薙刀はちょっと似ている。持っている武器が竹刀と薙刀の差。そして、剣道には無くて、薙刀にはある攻撃ポイント『脛』。それ以外はだいたい似ている。似て非なる物とも言うけど……。ちなみにこの学校に女子剣道部と男子薙刀部は存在しない。
対戦成績は男子剣道部の全勝。不敗記録更新中だ。女子相手とは言え、不利な条件で健闘していると思う。
オレたちは袴に防具を付け準備万端。おっと、今日は脛当てを付けるんだ。
ガラガラ
道場の引き戸が開いた。女子薙刀部の登場。彼女達は道場の正面に一礼をして入ってくる。さすがに礼儀正しい。武道家の鑑だ。
ん?薙刀部員に紛れ、非常に目立つ人が入ってきた。金髪、碧眼の持ち主、エレーヌさんだ。
あれ?防具を付けている薙刀部の方は四人しか居ない。制服の女の子は二人。その内一人はエレーヌさん。もう一人は胸のリボンの色から一年生。確か薙刀部の佐伯さんっていったっけ?
「あの……申し訳ないんだけど」
薙刀部キャプテンの深井澪さんが困り顔で話して着た。
「一年の佐伯が練習で怪我しちゃったの。今日は試合に出られそうにないわ。だから、試合を延期して欲しいの……」
俺達五人は顔を見合わせた。剣道や薙刀の団体戦は五人で戦う。
先鋒、次鋒、中堅、副将、大将。そして俺達剣道部の部員は五名。薙刀部も五名。一人でも欠けると団体戦は無理。
「まあ、しょうがないね。怪我が治ってからにしましょう」
一応キャプテンの忠勝が、試合の延期を受け入れた。集まって来たギャラリーもがっかりしている。
「ちょっと待って……澪ちゃん。私が試合に出てもいい?」
薙刀部の女子が一斉に向いた先には小さく手を上げているエレーヌさんがいた。
「エレーヌ、薙刀出来るの?」
「うん。隠していた訳じゃないけど、私、経験者よ」
エレーヌさん、白々しいぞ。隠してんだろ。それに、あんたが使っていたのは薙刀じゃなくて、大きな鎌だったぞ。ただ単純に出場したいだけだろう、エレーヌさんは。
「いいわよね。元就君」
エレーヌさんはキッと見つめる。しまった、オレの今の心の呟きが顔に出ちまったようだ。
「いいですよ。大歓迎です。じゃあ、準備が出来たら、始めましょうか」
相変わらず調子いい忠勝だった。
「じゃあ、対戦表を提出します」
忠勝は対戦表を深井澪部長へ渡した。その対戦表をみて、薙刀部は対戦順番を決める。これも女子に対するハンデだ。
オレ達剣道部の対戦順番。
先鋒 錦織 五十六一年
次鋒 蜂須賀 晴信一年
中堅 貴島 元就二年
副将 島村 譲一年
大将 島田 忠勝二年
薙刀部は円陣を組み、ヒソヒソ話をしている。
暫しの待ち時間・・・・・・・・・。
「私達の順番よ!今日こそ勝って見せるわ」
深井キャプテンは黒く長い髪を振り乱しながら、対戦順番を書いた紙をビシっと差し出した。
先鋒 深井 澪三年
次鋒 籤宮 茉莉花 三年
中堅 エレーヌ・レイセオン 三年
副将 卯坂 裕香二年
大将 蘭崎 真凛花一年
薙刀部は前半に三年生で攻勢に出るつもりだ。中堅のオレが勝負所になるな。
あっ、しまった!もしかして、エレーヌさんは試合にカッコ付けて、オレを殺す気じゃなかろうか?マズイ、今度は本気で応戦しないとダメかもな。相手は未知の能力を持つ天使様だから。最悪、オレも奥義を出さないとならんかもな。
「元就、お前が勝負所だな。レイセオン先輩は未知数だ。油断するなよ」
「ああ、わかってるよ。忠勝」
充分、わかってるよ。エレーヌさんは手強いと思うぞ、大鎌で魔物をやっつけたんだから。
「先鋒、前へ!」
いよいよ試合開始。先鋒戦、剣道部は一年生の錦織五十六。一年生だが剣道暦八年経験者。小学生の頃から剣道を嗜んでいるから、もうベテランと言っていい。
「一本目、始め!」
「やああああああ!」
錦織は咆哮を上げ、薙刀部深井キャプテンに打ち込んで行った。
「たああああ!」
深井先輩も負けじと応戦する。深井キャプテンも小学生の頃から薙刀を嗜んでいるから、これはいい勝負になった……。
「勝負あり、深井!」
深井先輩が勝った。キャプテンの面目を保った。錦織は惜しかった。一本目を面で先取したが、二本目は深井キャプテンが胴を取った。三本目は深井先輩に脛を取られた。剣道には脛が無いから、オレ達の弱点かも。ヤツらはそこを集中的に狙う気か?
「次鋒、前へ!」
次鋒戦。我が剣道部は蜂須賀。蜂須賀は高校に入って初めて剣道を始めた。対して籤宮先輩は薙刀暦十年。剣道も薙刀も経験年数が物を言うスポーツだからこの次鋒戦は厳しいか。まあ、やれる所まで頑張って欲しい。
「一本目、始め!」
「やああああ!」
籤宮先輩の気合が響き渡る。蜂須賀が飲まれている……これは試合う前から勝負ありだな……。
「勝負あり、籤宮!」
やっぱり取られた。これで対戦成績は零対二。オレが負けたら、その時点で試合終了。剣道部の負けが決る。
「中堅、前へ」
オレは薙刀を持って、前に出た。
「元就……」
「任せろ、忠勝。連勝記録は止めないぜ」
口ではそう言ったけど、本当は殺されないように何とか凌ごうと思っている。
目の前には白い道着に赤い胴。白い袴。面の後ろに金色の髪を束ねている。面の奥に青い瞳が見える。彼女の目から気合が滲み出ている。本気のようだ。まあ、相手が誰であれオレは本気で戦うけど。
薙刀を構え、間合いを取る。
「一本目、始め!」
さあ、行くぜ!
「やああああああ!」
エレーヌさんは袈裟斬りで突っ込んで来た。
カンカンカンカン!
彼女は連続で斬り込んで来る。オレは薙刀で攻撃を受け流す。薙刀同士がぶつかる音が道場内に響き渡った。オレは後ろに大きく下がり、体勢を整える。
「元就君、逃げていたら、勝てませんよ」
「じゃあ、こっちから行きますよ」
オレは薙刀を水平に構え、突きを繰り出す。
エレーヌさんは突きを避ける為、薙刀で防御した。
「うおおおりやあ!」
エレーヌさんが怯んだ所に、斬りかかる、大きく振りかぶり・・・・・・・・
「面!」
パン!と綺麗な音をたてて、エレーヌさんの頭にオレの薙刀が入った。
「一本!貴島」
中央に戻り、剣先を合わせ構えなおす。
対峙するエレーヌさんの顔に悔しさが滲んでいるのが判る。オレの目をじっとに睨んで来る。今度は本気で来るようだ。
「二本目……始め!」
審判の開始の合図と同時にエレーヌさんが大きく振りかぶって突っ込んで来た。
エレーヌさん、オレはここで初歩的な技を使わせてもらう。
「篭手!」
エレーヌさんの薙刀はオレの右手目掛け飛んで来た。オレはタイミングを取り、右手を引いた。
「な!」
悲鳴にも似たエレーヌさんの声が聞こえた。彼女の薙刀はオレの右手を外し、空を斬りながら床に落ちていく。
面がガラ空きだぜ、エレーヌさん!
「面!」
オレは容赦なくエレーヌさんの頭に打ち込んだ。
「勝負あり!貴島」
オレのストレート勝ち。お互いに礼を交わし、試合場から出た。
「ようし!一つ返した!元就やったな!」
「おうよ!」
この後の試合はワンサイド・ゲームだった。忠勝は相手が女子だからと言って、勝負の手を抜くヤツじゃないから相手の一年生が可哀想だった。
結局三対ニで剣道部の勝ちとなって、連勝記録更新だ。女相手に本気出すなよってギャラリーから野次が飛んだが、女子薙刀部に強くなって貰う為には手加減をしてはいけないと思う。
オレ個人的には手を抜くと、天使様に殺されるから否応なしに本気になった。
試合終了後、道場で反省会。剣道部も薙刀部も制服に着替えて、ジュースとポテチとかポッキーとかお菓子を囲む。顧問の先生は忙しいとか言って、職員室へもどっていった。
「悔しい……また勝てなかったわ……私達には何が足りないと思う?忠勝」
深井キャプテンが腕を組み、難しい顔をしている。
「うーん……そうだね。いいや、今回はキワドイ勝利だったよ。第一回目の交流戦から比べたら、格段に強くなってるな」
「そう言って貰えると嬉しいわ。協力ありがとね」
深井キャプテンが忠勝にクッキーを渡している。忠勝はお礼も言わず、クッキーを食らう。深井キャプテンと忠勝は幼馴染なんだとさ。
「私達も地区大会は突破できるようになったわ。強くなったと思っていいんじゃない?」
籤宮先輩が満足げに話す。確かに最近の薙刀部は強い。地区大会は突破し、全道大会上位に食い込む、強豪チームになりつつある。まあ、薙刀部が少ないのもあるけど。それに比べてオレたちゃ……地区大会一回戦で敗退が常。
「そう言えば、レイセオン先輩は薙刀出来たんですね……」
「うにゃあ?……そ、そうよ……」
一年生の質問にエレーヌさんは慌てている。お菓子を食べるのに一生懸命になっていて、話を聞いていなかったみたいだ。あーあ、クッキーをボロボロこぼしてる。咄嗟に嘘をつくからだよ。薙刀経験者なんて。
「私も知らなかったわ、エレーヌが薙刀をあんなに上手く出来るなんて……言ってくれれば、一緒に部活やれたのに」
「ゴメンね……澪ちゃん。隠してた訳じゃなかったの。薙刀よりもやらなきゃならないことがあったから」
エレーヌさんが言ってる「やらなきゃならない事」って多分、天使の仕事だろう。その仕事を片時も忘れていないのは尊敬できる。
「いいのよ。エレーヌにはエレーヌのやりたい事があるんだから……」
エレーヌさんと深井キャプテンは仲良しの友達みたいだと言う。エレーヌさんは天使だけど生徒って言う身分が確立してるんだな。だから友達もいる。
「ところでぇ……エレーヌ先輩と貴島君は付き合ってるんですか?」
「なっ?」
全員の目がオレとエレーヌさんも方を交互に見る。とっても恥ずかしい。何故、その話がでるんだ。話題の中心にされてしまった。卯坂さん、その話を出して欲しくなかったぜ。
「別に……付き合っている訳では……むしろ狙われていると言った方が……」
「そうよ、付き合っているし、一緒に住んでいるわ」
エレーヌさんは、オレの否定を遮り、話してしまった。「きゃああああ」とか「おおおおおお」とか歓声が上がった。オレは気恥ずかしさで小さくなってしまう。
「素敵ね、エレーヌ。でも一緒に住むなんてまだ早いんじゃない。ご両親が許してくれるわけ無いわ」
深井キャプテンの言う事はもっともだ。フツーの常識だね。
「そうね、日本じゃあそうかも知れないけど、私の国では高校生が同棲するのは珍しい事じゃないわ。それに私の両親は外国だし、貴島君は……一人ぼっちだし。どっちかって言うとお姉さん代わりかな」
あんたの利害関係がたまたま当たっただけだだろうに。
「素敵、憧れます。レイセオン先輩、好きな人と一緒に生活出来るなんて」
蘭崎さんがウットリして、エレーヌ 蘭崎さんがウットリした目でエレーヌを見ている。当のエレーヌは顔を赤くしてほっぺに両手を当てていやんいやんしている。なんかうそ臭い。アイツはオレを殺そうとしているのに、白々しい。
「のおおおおおお!元就!エレーヌさんと同棲してるだぁ?ふざけんな!やはりお前は愛刀《伊舎那》のサビになるしかない!」
忠勝が刀で斬りかかってきた。またかよ。どんだけ嫉妬してるんだ?こいつは。
「止めろ!忠勝」
オレは両手を頭の上で振る。コイツいい加減にしろや!
キン!
忠勝の刃をフォークで受け止めた。エレーヌさんが……。ケーキを食べるのに使っていたデザートフォークで受け止めた。「わああああ」と言う歓声とぱちぱちと拍手が起こった。
オレはなんで、こんな凄い技を使う人に勝てたんだ?エレーヌさんは手を抜いたんじゃないか?だとしたら、ちょっと悔しいぞ。
「皆、お願があるの。この事はここに居る人だけの秘密にして欲しいの。学校中に広まったら、私達、一緒に居れら無くなってしまうから」
何?エレーヌさんは皆に釘を刺した。
「そうよ!薙刀部も剣道部もこの事は秘密にするのよ!もし、裏切り者が出たら、私、深井澪の名に置いて成敗してくれるわ!」
「そうよ、島田君もいい?今度殿中で刀を抜いたら、籤宮茉莉花が切腹申し付けるわよ!」
三年生女子に捲くし立てられて、忠勝は小さくなってしまった。愛刀を鞘に収めた。オレは色んなヤツに命を狙われている。オレは、エレーヌさんの方を見た。彼女はさっと目を逸らす。ちくしょうめ。
上等だ!漢に生まれたからには命の一つや二つ狙われる事ぐらいで動じてはならん!自分の運命は自分の手で斬り開いてやるぜ。
でも、カッコつけては見たけど、これからどうなるんだろう。オレは静かに、目立たず高校生活を送りたいだけなのに。オレを狙ってくるヤツは増えていくのではなかろうか?
チョッとばかり不安になって来た。一番、避けなければならない事はエレーヌさんの正体がバレる事。それだけは護り通すと心に誓った。