第25話 対決
クルナス城を望む森の木陰、鼻息も荒い三人の戦闘天使がいた。
クララは双眼鏡で城を見る。
「お城から、煙が沢山上がっていますわ。カトリーヌ達が仕掛けたようですわ・・・・・・予定通り陽動しているようね・・・・・・・」
クララの隣で、頭の上でレードームを模した天使の輪をグルグル廻して情報収集しているエレーヌが居る。
「赤外線探知は・・・・・・無理ね。お城の中の熱源が多すぎるわ。レーダーは障害物で利かないし、偵察衛星の映像も煙が邪魔で何も見えないわ」
「五分経ったわ・・・・・・行きましょう」
ソフィアが淡い紫の翼を広げ、立ち上がった。
「了解・・・・・・」
クララも立ち上がり、栄養ドリンクを飲む。
「今度は何を飲んでいるの?・・・・・・なにそれ、その仏壇みたいなパッケージは?」
クララはグイっと一気に飲み干した栄養ドリンクのビンのラベルをエレーヌに見せた。金色地のラベルに黒い達筆の文字が派手に書かれている。それは、その栄養ドリンクの価格を反映している立派なものであった。エレーヌはそのラベルを見て仏壇を思い起し、思わず「プッ」と笑いを吹き出してしまった。
「緊張がほぐれましたましたか?エレーヌ」
「まあ・・・・・・ね」
「今のエレーヌは顔が引き攣って、血の気が引いていて、見るに忍びないですわ。まるで、なまはげのようですわ」
エレーヌはパンパンと両手で自分のほっぺを叩く。そして、頭の上の天使の輪に軽く指を触れた。天使の輪が一瞬輝き、大きな水色の円盤が現れた。
「エレーヌ、何しているのです?」
「えっ?、ああ・・・・・・これね、オプションの地形回避レーダーよ。これを装備すれば、自動操縦で障害物を回避しながら、低空飛行が可能になるの」
「貴女・・・・・・便利ね」
エレーヌ、クララ、ソフィア、それぞれ武器を手に森の上空へ飛び出した。
「私が先導します。付いて来て!」
エレーヌが先頭に出た。その後をクララとソフィアが続く。敵の探知網を避ける為、地面スレスレの匍匐飛行。
「お城の手前、一〇〇〇メートルで上昇するわ。本丸の最上階へ突入するわ。エレーヌ、合図をお願い!」
「了解!」
クララからエレーヌに指示が飛ぶ。彼女達は更に増速して城を目指した。
「まあ、あれから、色んな事があったよ」
「そうですね。もう、随分と時間が経っちゃった気がします」
オレ達は武器庫の冷たい床に、大きな円陣を組むように座った。忠勝と佐原イリアが語り出した。
「あれからって、学校の屋上での出来事の事?」
深井キャプテンが忠勝の顔を覗き込むようにして尋ねる。
「ああ・・・・・・。俺とイリアとクランツはコッチの世界に来た。ジェイソンやフランク・サーベリオン達の悪巧みを利用して、革命を起そうとした。この地で虐げられている要請たちを解放する為。そして、その目的は着々と進んでいた。カギとなる宝玉も手に入れる事が出来た」
「何だと?革命ってどういう事だ!」
忠勝、コイツは本気でそんな事を考えているのか?思わず大声を張り上げ、立ち上がった。武器庫の中にオレの声が響いちまった。
「まあ、最後まで聞けよ。元就。興奮するのはもうちょっと後になるから」
忠勝はオレの袖を引き、床に座れと。合図した。
「計画は順調でした。クランツ先輩を頼りにサーベリオン家に召抱えられて、主のフランク様に近づく事も出来ました。それに・・・・・・仲間も増えました。執事のペッター・・・・・・ところが彼は、宝玉に取り付かれ、ジェイソンの手に堕ちてしまいました。」
イリアは眼を伏せ、とても困ったような顔をしている。両手でスカートの裾をギュッと握っている。察するに、その、ペッター執事と宝玉がジェイソンに奪われた事がよっぽど悔しいと見える。だが、オレはそんな佐原へ『ザマアミロ』と言ってやりたい気持ちも有る。なぜならば、オレは彼女に騙された上に、殺されそうになった。もっと、考えてみれば、コッチの世界来たのだって、佐原のせいだ。
「そうだ、ペッターがジェイソンの手に堕ちたのは、元就へ果たし状を出した翌日だよ。その翌日、この城に魔物が溢れ出し、蹂躙されたのは。フランク・サーベリオン以下、魔物を駆逐しようと奮戦したが、多勢に無勢。フランク・サーベリオンも負傷。俺たちは城の本丸を明け渡しちまった」
忠勝の説明で納得が行く点が一つあった。
「オレが、丁度、この城に乗り込んで来た時だな。それは」
「そうだよ、元就。本当はお前を呼び出して、お前を倒そうとした。そしてお前を使って、あの、マシーンを使おうと思っていたのさ。革命のために」
そうか・・・・・・全て納得が行った。もしかしたら、オレがコッチの世界に来ることになったのも、折込済みって事だったのか?だったら・・・・・・腹が立つな。忠勝達の思う壺じゃん。
オレは、佐原や、忠勝に利用されかけた事に、無性に腹が立ってきた。だけど、コッチの世界に来てオレがやらなきゃいけない目的もある。今こそ、その目的を果たす時ではないだろうか・・・・・・・・。さっきまで、忠勝とは一緒に魔物相手に戦った。もしかしたら、また、以前のように、忠勝と楽しく遊べるんじゃないかって、思っていたけど。それは、どうやら、オレの独り善がりだったらしい。
ほんのちょっぴりだけ、悲しくなった。だけど、もう、忠勝とは袂を分けたんだった。あの病院の夜の出来事で。
オレは、爆薬が入ったリュックを持って、愛刀神威を持って立ち上がった。
「何処、行くの?元就」
桜子さんが立ち上がったオレを見上げている。その顔はオレがこれから何をしようとしているかを知っていて聞いている顔だ・・・・・・と思う。
「ちょっと、トイレ」
オレは嘘をついた。まあ、バレに決まっている嘘。
「元就、ジェイソンのところへ行く気ね。その爆弾で・・・・・・」
「元就、あのマシーンを破壊する事は俺が許さん。あのマシーンは俺たちの目的完遂の為にはどうしても必要なものだ」
桜子さんの言葉を遮ったのは忠勝だった。
忠勝が愛刀の伊舎那を持って立ち上がった。ゆらりとオレの行く手を阻むように、向って来た。
「忠勝、いいぜ。表に出ろ!最初の予定ではオレとやるつもりだったんだろ」
「そうか・・・・・・そうだな。そのために俺は元就へ果たし状を出したのだからな」
オレは爆薬の入ったリュックを桜子さんに預けた。深井キャプテンへ「そのリュックは絶対に佐原やクランツに渡さないで」とお願いした。
忠勝と並んで歩く。武器庫の出口まで並んで歩いた。忠勝はオレの左側を歩いている。オレは正面だけを向いて歩く。忠勝から突き刺さるような殺気を感じている。ヤツを見なくてもわかる。
対して、オレは今にも溢れ出そうな、忠勝への憎しみを押し殺して、殺気を封じ込めている。ここで、殺気を解放したら、今すぐ忠勝に斬りかかって行きそうだったから。武器庫を出るまでは我慢しよう。
武器庫の外は眩しい世界だった。武器庫の中の暗さから、一機に晴天の空の下に出た。眼がその光に慣れるまで暫し、眼がくらむ。
眼が廻りの明るさに慣れて来た。足元には切り揃えられた綺麗な緑の芝生が広がる。目の前、約三メートルの所に、見慣れた黒い学生服姿の忠勝が聳える。準備万端のようだな。
オレは刀を鞘から抜いた。神威の刀身が太陽の光を反射してギラギラと光る。
「元就、お前とはこうなる運命だったようだな、お前をこれより先に行かす訳には行かない」
忠勝は伊舎名を抜いた。二刀を持って構えている。最初っから本気を出すようだ。手加減は全く許されないな、これは・・・・・・・。
オレは、刀を正眼に構えた。剣術において、一番隙の無い構えだ。視線は忠勝の眼を見据える。相手の目を見ていれば、どんな攻撃にも対応が出来るはずだ。
忠勝も右手に持つ一刀で正眼に構えた。オレと忠勝の刀の剣先が触れるか触れないかの距離で構える。お互い、一歩、踏み込めば、完璧な有効射程距離であり、且つ相手に致命的な一撃を加える事が出来る距離だ。
お互い、睨み合いながら、攻撃の機を狙う。相手の動きに全神経を集中させる。集中させなきゃ、勝てる相手じゃない。
ようし、ちょっと突っ突いてみるか!このまま睨み合っていてもしょうがない!
「せいやあああああああ!」
オレは、通用しないとわかっていて、上段から、一気に斬りかかった。
キン!と金属同士が弾け合う音が響き、耳に痛い。忠勝は左手に持つもう一刀で、オレの攻撃を受け止めた。
その隙を見逃さない忠勝!オレの腹に刀を突き刺そうと「突き」を放った。
「そんなのは、わかり切ってる!」
忠勝がオレの腹に突きを放とうとするのはお見通しだ。このまま、やられるオレじゃない。悪あがきしてやる!
オレは忠勝の刀で受け止められた神威を力いっぱい押し付けた。忠勝は左手の片腕で受け止めている。一方オレは両手。力押しなら、コッチが有利!
「チッ!」
忠勝は、後ろに飛退き、間合いを取った。逃げやがった・・・・・・。
「とうりやああ!」
オレは畳み掛けた。そのまま胴を薙ぎに行く。忠勝は・・・・・・オレの剣を受けずに更に後ろへ飛退いた。
「とう!」
忠勝は後ろへ飛退き着地した瞬間、地面を蹴り、オレへ斬りかかって来た。右手の刀は上段から、左手の刀はオレの胴を斬りに来た。
「元就!覚悟!」
「喰らうかよ!」
オレは猛然と忠勝の懐へ向け飛び込んで行く。オレの頭上から雷の如く、ギラギラした忠勝の刃が落ちて来る!オレは刀背でその刃を受け止めた。
カッキーン!と鉄琴のような美しい金属音が響くのと同時に、ドス!と鈍い音がした。
「元就、てめえ・・・・・・」
「忠勝、オレはそんなに甘くない!」
忠勝が胴を薙ぎに来たその刀はオレの右わき腹に食い込んだ。だが、それはオレの予想道理。オレは今、防弾チョッキを着込んでいるし、刀は鍔元がオレの腹に食い込んでいるから、全く斬れていない。でも・・・・・・痛い。鉄パイプで殴られたのと同じだから、いくら防弾チョッキを着込んでいても痛いのは痛い。
痛みで顔が歪みそうになるが、そんなツラは意地でも忠勝に見せない。むしろ「こんな攻撃オレには効かないぜ!」と言わんばかりに余裕の笑顔を頑張って見せ付ける。
「このやろう!」
鍔迫り合いの体勢から忠勝を突き飛ばす。忠勝は後方へ下がり、再びオレと間合いを取る。
「元就、俺の技はこんなもんじゃないぜ!」
「なっ?忠勝!」
忠勝は腰から短い脇差を抜き、三刀を子って構えている。右手に一振り、左手に二振り。その左手に持つ脇差をオレに向って投げつけてきやがった!
「忠勝!子供騙しだ!」
オレは右に軽くステップして、飛んでくる脇差をかわす。忠勝はオレが脇差を避けた瞬間、その隙を突いて仕掛けてくると思ったが、忠勝は全く動かなかった。でも、そんな事で、怯むオレじゃない。見くびるなよ、忠勝!
「子供騙しじゃねぇ!この攻撃を避けられるか?元就!」
忠勝のその言葉には明確な自信がある様に思えた。その瞬間、オレは左の後ろの方から、只ならぬ殺気を感じた。慌てて振り返る。
「!?」
オレの目の前に、さっき避けたハズの脇差がその刃をオレに向け、再び飛来してきた。空中で方向転換しやがった!
カキーン!とオレは神威でその脇差を弾く。
弾かれた脇差は、忠勝の手に戻っていった。
「・・・・・・手の込んだ手品を見せてくれるじゃねえか・・・・・・忠勝」
忠勝はニヤリと笑った。あの笑いは勝利を確信する笑いか?
「手品じゃねえ・・・・・・・魔法だよ。イリア・・・・・・妖精たちに教わった魔法だよ。俺は目的を達する為なら、何だってする。俺は剣術と魔法の融合と言う新たな武道を作るんだ!・・・・・・覚悟!元就」
ヒュン!と脇差が飛んできた、オレは脇差を身を屈め避ける。
「隙だらけだな、元就!」
忠勝が身を屈めたオレに向って斬りかかってきた。
「くそっ!」
キン!オレは忠勝が振り下ろしてくる刀を頭上で受けた。
「脇が甘いぜ、元就!」
左から、脇差が飛んでくる。オレは慌てて、忠勝から離れ、脇差を避ける。が、その避けた所へ、忠勝の二刀目が胴を薙ぎに来た。
「でやああああ!」
避けられない!と思った瞬間、オレは忠勝に突きを放つ!ヤツの顔と胴への二段突きを放つ。
ザザッと芝を踏みつけ、忠勝はオレの突きを交わす。
「チャンス!」
突きを避けた反動で、忠勝の構えが崩れた。オレはヤツに神威を斬り付けに行く!右から袈裟斬りにしてやるぜ!
ガッツ!と鈍い音。オレの太刀筋を遮るように、忠勝の脇差が空中でオレの一撃を受け止めた。
「はっ!」
オレは嫌な予感がして、後ろへ飛退いた。オレの腹をかすめるように、忠勝の刀がすっ飛んで行く。
オレは、忠勝と距離をとって刀を構えた。
「元就、お前に勝ち目は無い。俺達の同士になれ!世界の新たな秩序を作るんだ。俺の剣はそのためにある。お前が、俺たちの前に立ち塞がるなら、容赦しない!」
忠勝は二刀流の構えで、且つ、脇差を自分の周りにふわふわと浮かべている。その目はオレを睨みつけて・・・・・・眼光でオレを服従させようとしている。
「バカ言うな・・・・・・お前達がどう言う理想を掲げようと勝手だが、あのマシーンは使わせない。あの機械はこの世にあってはならん物だ。忠勝よ・・・・・・お前達のように革新を求めメている人間ばかりではない。変化を望まない人たちだっているんだ。急激な変化は混乱と破壊を生むぞ!」
オレは忠勝に言ってやった。ちょっとスッキリしたけど、忠勝の眼光は更に鋭くなった。きっと、怒っているんだろうな。
忠勝は一歩一歩、ゆっくりとオレに向って歩んでくる。両手の刀を空中へ解き放ち、更に二刀を手に握る。
「元就、やっぱり、俺とお前・・・・・・決着を付けなければならんようだ。俺はこの場で理想を手に入れ、紫苑流を打ち破る!」
忠勝を取り巻くように、三振りの刀がグルグルと飛び交う。まるで、主人を守る番犬のようだな。不用意に飛び込むと三枚卸しにされそうだ。
「掛かって来いよ・・・・・・元就」
忠勝は挑発してやがる。なんか、腹立つ。オレの方が不利って事をオレ自信、認めてるってことか?
殺られる事をわかっていても、斬りかかって行きたくなる。何か策は無いかと考える。廻りを見渡して、使える物が無いか探すオレ。どうも、追い詰められているような気がする。
「掛かって来ないなら、コッチから行くぞ!」
オレが心理的に追い詰められている事がバレている。いよいよか?
覚悟を決めて、忠勝に切り込む。黙っていてもオレに勝ち目は無いからな。
「くたばりやがれ!」
半分ヤケクソになって、忠勝へ向って突っ込んでいく。
「バカか、お前は!」
ドス!っと腹に衝撃!飛んできた刀が、オレの腹にぶち当たった。その場でオレの突進は止まった。
「グフっ!ガッ!」
背中、腕、脚、体中に痛みが走った。ヒュンヒュンと空気を切り裂く音を立て、三振りの刀がオレを痛めつけやがる。緊張のせいか、痛みは余り感じない。だが、身体が動かなくなってきた。やっぱり相当なダメージを受けているんだろうな。
「クっ・・・・・・くそったれ・・・・・・」
「元就・・・・・・負けを認めろ!・・・・・・かつての友達として、お前の命を奪いたくは無い。峯打ちで勘弁してやる。だから負けを認めて、もう引き下がれ!」
忠勝の顔から、殺気が消えた。以前の・・・・・・・一緒に剣道部で稽古していた時の顔に戻っている。それは・・・・・・・オレを敗者として憐れんでいるのか?それは・・・・・・。
それはそれで凄くムカつく!
まだ終わったワケじゃねえし、オレはまだ戦える。しかも、相手に憐れに思うなんて、オレにとっては、耐え難い屈辱だ!
忠勝は『魔法』何て怪しげで、もはや剣術と呼べない技を使う。そんないかがわしいモノと戦う奥義は、紫苑流にはない。まあ、無いなら、作ればいいのだ。紫苑流を継ぐ者として、技の進化を止める訳にはいかない。先人達は、継承した技を更に磨き、進化させて来た。オレの持つものが最終形態とはならない!
なんだか、ヤル気が出てきたぜ!忠勝に一太刀でもお返ししてやらないと、オレの気が済まない。
オレは脚に力を入れ、立ち上がった。おっ、まだ動くじゃん、オレの身体。そして、愛刀構える。剣先を忠勝に向け、オレに戦闘続行の意思がある事を、明確に忠勝へ向ける。
「忠勝、残念だがオレはまだ生きてるし、戦える。だから、負けを認めるなんてありえない!」
忠勝が大きなため息を付いて、刀を構えた。
忠勝の二刀流を攻略する為に、オレはたった今、思い付いた技を使って見ようと思う。偉大なる紫苑流の先人達が編み出した必殺技に、オレが料理へ隠し味をつけるような改良を加えて見る。
「愚かなヤツだ・・・・・・悪足掻きにしかならんぞ。元就!」
忠勝の右腕が上がる。それを合図にヤツの廻りを飛び回っている刀が一斉に俺に向かって飛んできた。
その刀を追いかけるように忠勝も地面を蹴り、斬り込んで来やがった。
万事休す!だが、オレはさっき、頭の中に思いついた即興の奥義を使う。
「紫苑流奥義・・・・・・投影斬改!」
オレは自分の足元目掛け、まるでゴルフスイングのように刀を振り下ろした。足元の芝は刀の風圧を受け、空に舞い上がる。
「ヤケクソか?元就」
カキーン!と空中からオレに襲い掛かってくる三振りの刀が、それぞれ真っ二つに折れ、地面へ落下した。
「なっ?何ィ!」
突然の出来事に忠勝の突撃が止まった。
「投影斬の変化球だよ。地面の中を通して、空中を飛ぶ刀を切ったのさ。地中で空へ向って飛び上がる剣撃を出したんだよ。まさか、上手く行くとは思っていなかったけどな」
以前、トロールに捕まったエレーヌさんを助けた時に使った技の応用だ。
「ズルしやがって、何でもありだな、紫苑流」
「ウルセー!てめえだって、魔法なんて物に頼りやがって・・・・・・魔法に頼りすぎて剣術を忘れやがったな!」
これで、お互い、ズルは出来なくなった。最初に戻って、純粋に剣術の勝負となった。
「さあ、やろうか、忠勝。望み通り決着を付けてやるぜ!」
勝負は振り出しに近くに戻った。オレと忠勝は刀を構え、間合いを取った。
再び殺気が支配する領域となった。少し離れた場所から、桜子さんと深井キャプテンがオレ達の勝負の行方を見ている。オレ達を止める事なんて出来ねぇだろうよ。そんな事はオレも忠勝も望んじゃいない。
「うおおおおりああ!」
「たあああああああ!」
オレと忠勝は同時に踏み出した。オレは切先を忠勝の腹目掛け、突き刺しに行った。忠勝。は右腕は上段、左上の刀はオレの胴を薙ぎに来た。
「はっ!」
オレは半歩、バックステップで忠勝の胴をかわす。かわし切れず、切っ先がオレの服を割いた。
距離を置いて構えなおした。
「元就、二刀流の俺には勝てないよ!」
忠勝は諭すように言う。オレはその忠勝の眼を睨み返す。
「かつて・・・・・・バイクレースの世界で・・・・・・2サイクルエンジンのパワーに劣る4サイクルエンジンで対抗しようとしたバイクが有った。爆発サイクルが2サイクルの半分の4サイクルは・・・・・・二倍の回転数で対抗すればパワー的には対等になると言った技術者が居た・・・・・・」
「なにを言っている、元就。お前の言う事は、バイクマニアにしか理解出来ないぞ」
忠勝の呆れ顔を無視してオレは続けた。
「お前は二刀、オレは一刀。簡単な計算だ。オレはお前の2倍のスピードで剣を叩き込めば、オレの勝ちになる!」
オレは地をけり右上段から刀を振り下ろした!
キン!と忠勝が左の剣で受けたが、スピードと両手のパワーに勝るオレの神威は止められなかった。
「クッ!」
忠勝の声が漏れた。尽かさずオレは手を返し、左下から刀を掬い上げる。そしてそのまま胴を突く。
忠勝は身体を捻じ曲げて、オレの突きを交わす。しめた!ヤツはオレのスピードに追いついていない!
重い真剣を片手で持つより、両手で持った方が早く動けるんだ!
「二刀流はそんな言うほど、有利じゃねえぜ!忠勝!」
「二倍のスピードで動いて、対等になったつもりか!」
「対等じゃあねえ!紫苑流奥義、稲妻改!」
ヒュン!オレの愛刀が上段から一直線に降り押された。忠勝の前髪数本と学生服の第二ボタンを掠め取った。
忠勝は驚愕の顔で、言葉を失っている。
「はあ、はあ、オレの神威は大太刀だ・・・・・・お前の刀よりリーチがちょっぴり長いんだせ。有効射程距離に差があるのを忘れたのかよ!」
乱れる息を無理やり整える。ジリジリと忠勝に詰め寄る。忠勝はジリジリと後ずさる。形勢逆転。心理的に有利に立った!
「ば、バカな・・・・・・俺は紫苑流を打ち破る為に・・・・・・ガキの頃、紫苑流を学んで、対抗する技を編み出したんだ。間違い無く、勝てるはずだ」
オレは歩みを止め、刀を正眼に構える。
「忠勝・・・・・・お前は紫苑流に勝てただろうよ。オレは紫苑流免許皆伝者として、紫苑流を改造した。そのアイデアはお前にとって未知数なんだろうよ!」
ザッ!と芝を踏みしめ、八双の構えを取った。忠勝へ向け、最後の一撃を放つ。
「これが最後だ!」
オレは八双の構えから真横一文字に刀を振りぬいた。刀を握る両手に全神経を集中させ、持てる力全てを込め、振りぬく。愛刀が自分の身体の一部になったような錯覚を覚えた。
パキン!とガラスの割れるような耳障りな音・・・・・・。オレの一撃を二刀を持って防ごうとした忠勝の刀が折れた。二刀、両方とも折れた。正しく言うなら・・・・・・オレが折ってやった。最後の一撃で。
「今のオレに斬れないものは無い!」
と、思いたい!少なくとも、刀を刀で折った。いいや、斬ったんだ。
忠勝の顔に悔しさと驚きの色が混ぜこぜになっている。完全に終わった。オレは愛刀を左腕に収めようとした。
「貴島元就、そこまでだ!島田忠勝に手を出すな!」
声の方を向く。クランツ・サーベリオンが拳銃をオレに向って構えている。
「動くな!」
クランツはオレを撃ち抜こうと引き金に指を掛けている。
「島田先輩、さあ、今のうちに」
佐原イリアが忠勝の手を引き、連れて行こうとする。忠勝は力なく、イリアに手を曳かれて行くだけだった。まあ、なんとも、抜け殻になっちまったな。忠勝。
「何処へ行く気!」
「お前達も動くな」
オレとクランツの間に割って入ったのは桜子さんと深井キャプテンだ!彼女たちもそれぞれ拳銃を持ってクランツとイリアを威嚇する。
「そんなの私達の勝手でしょ!この場で怪我人を出したくなかったら、私達を黙って見送る事ね!」
イリアの言葉に動けなくなる桜子さんと深井キャプテン。オレは刀を左腕に納め、桜子さんと深井キャプテンの前に出た。
「行けよ・・・・・・とっと行け!だが、あのマシーンは使わせない・・・・・・それだけだ!」
イリアへこの場を去るように促す。
「わかったわ・・・・・・」
イリアは忠勝を後ろから押して、この場を去ろとした。
「ま、待てよ。貴島は今のうちに片付けた方が良いんじゃねえか?」
クランツはオレに銃口を向けたままだっだ。CZ75なんてマニアックな銃使いやがって・・・・・・。
「よしなさい。クランツ先輩じゃあ、貴島さんの相手にはならないわ」
その通りだ。クランツに負ける気は全くしない。念のため、左手の神威はいつでも抜けるようにする。そして、じわり、ジワリとクランツとの間合いをつめ、居合い斬りの射程距離に近づく。
「コイツは最後まで、オレ達の邪魔になる。だったら今のうちに始末するべきだ!」
クランツは顔中に汗をかき、オレに銃を向けている。余ほどの緊張と思える。
「あんた、銃を下ろしなさい!さもなければ、死ぬ事になるわよ!」
クランツに警告を言い放つ桜子さん。彼女の顔には焦りも緊張も無い。多分場慣れしているせいだろう。クランツとは雲泥の差だ。
「やれるもんなら、やって見ろ!オレは本気だ・・・・・・」
クランツの引き金に掛かる指に力が入ってきているのが見えた。オレはヤツの拳銃をぶった斬ろうと居合い宜しく左手から神威を抜こうとした。
「くたばれ!貴島!」
「あんたんがね!」
全然別人の罵声がオレの背後から聞こえてきた・・・・・・フツーなら戦の最中は全く気に留めないのだが、オレがその声に反応したのは、その凄まじい殺気と・・・・・・聞き慣れた声だったからだ。
ヒュンヒュン!五本の矢がクランツの足元に突き刺さった。
「何だ?」
クランツもその声の主の方を向く。チャンス!オレは先ずクランツの拳銃をやっつけようと、神威を抜いて斬りかかって行く。致命傷でなくとも、手傷を負わせれば、コッチの勝ちだ!
「クランツ、覚悟!」
「ちくしょう!」
クランツはオレに向って拳銃を投げ付け、走って逃げた。その後を追うようにイリアと忠勝も走り去っていく。
「逃がしてよかったの?」
桜子さんが大きなため息を付いて、オレを見る。
「正直、どうしたら良いのか、わからないよ」
本来なら、忠勝へ止めを刺して、決着を付けるべきなんだろうな。どうやら、勝負から逃げたのはオレの方かもな。
「元就くーん」
上空から声が聞こえてきた。やっぱり聞き覚えのある声だ。その声の主は大きな朱鷺色の翼を広げて、俺の前に着陸した。弓を構えて、走り去る忠勝達へ狙いを定めている。矢の形は、また、ご丁寧に赤外線追尾ミサイルにそっくりだ。結構抜け目が無いんだな、エレーヌさん。
「皆さん、大丈夫ですか?」
エレーヌさんの後を追って着地したのはクララさんだ。もう一人、紫色の翼を持った女の人も降りてきた。察するに、クララさんの仲間か?
昨晩、から、そんなに時間は経っていないが、なんとなく、久しぶりに会ったような気がする。
「元就君・・・・・・」
エレーヌさんが弓を法衣の裾の中へ格納しながら、オレの傍へ来た。でも、なんだか、嫌な雰囲気を感じるのは何故だろう。エレーヌさんじゃない。何か汚らわしいモノの気配がする。
「なかなか、面白い余興を見せてもらったよ。貴島元就!」
汚らわしい気配がした理由は簡単だった。ドサクサに紛れてジェイソンが立っていた。いつの間に?不倶戴天の敵。そいつは真っ蒼な翼を広げ、オレに歩み寄ってきた。
「問答無用!」
オレは何も考えず、刀を抜き、ジェイソンへ斬り掛かって行った。今、ここで、コイツを斬れば、今後の戦いはオレにとって相当有利になる。
「待てよ!貴島」
キン!
ジェイソンも剣を抜き、オレの一撃を受け流した。まあ、そうだろう。ヤツがそう簡単に斬らせてくれるハズもない。
「まあ、俺の話を聞いてくれないか?貴島」
ギリギリと鍔迫り合いをするオレとジェイソン。
「問答無用と言ったハズだ!」
「聞かないと損をするぞ・・・・・・俺はお前とエレーヌ・レイセオンをヘッドハントしに来たんだ」
「何だと?」
「何ですって?」
何を言ってやがるんだ?オレが、ジェイソンの仲間になんてなる訳が無い。
「バカにしてんのか?オレは忠義に厚い人間として有名だぜ」
ジェイソンは剣でオレの刀ごと押し飛ばし、後ろへ下がった。間合いを取り直す。
「その忠義とやらを纏めてヘッドハントしようとしているんだ・・・・・・どうだ?俺たちの仲間となり、この世、ありとあらゆる世界を支配して見ないか?やりがいのある仕事だと思うぞ。島田」
やりがいのある仕事・・・・・・だと?
オレは何かその言葉が凄く心に響いたような気がした。
「元就君!どうしたの?」
エレーヌさんはオレの心境にちょっぴりだけど変化が出た事に早速、気が付いたようだな。そうだろう、今のオレは自分の身体から満ち溢れていた殺気が失せていると思う。
オレは微妙な笑顔を見せるジェイソンを睨んだ。
「なにを考えていやがる・・・・・・ジェイソン」
「まあ、聞けよ。悪いようにはしない」
オレはジェイソンの言葉を聞き入ってしまった。