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第14話 虎穴に入らずんば、敵を討てず

 ギャギャギャギャアアアアアア!

 佐原邸の前に到着。パニックブレーキでバイクのリヤタイヤがロック!派手に白煙を上げて止まった。

 オレはバイクを飛び降り、ヘルメットを脱ぎ捨てた。

 佐原邸は静まり返っている。窓のカーテン越しに明かりが燈っているのが見える、玄関の門にも明かりが燈っている。

 門の明かりに照らされた【佐原】と達筆で書かれた表札。その下に呼び鈴が有る。オレは人さし指で押した。

 キンコーン!

 ベルが鳴った。オレは左手にある神威をいつでも抜けるようにして斜に構えた。マグライトを握る。出て来た敵に眼くらまししてやる。

 さあ、来い、不良天使共!このオレが成敗してくれる!

「元就、お前も来たのか?」

「はっ?忠勝……どうしてお前が出てくる?不良天使は?」

 佐原邸の玄関から出て来たのは忠勝だった。「ふう」とため息をついて出てくる。

「不良天使は居なかった。佐原に呼ばれた理由はこれだよ」

 忠勝が手に持っていたのは強力殺虫剤だった。黒い不気味な昆虫が描かれた殺虫剤のスプレー缶を持っている。

「佐原から、助けて電話が来たんだよ。来てみたら。佐原がチャバネ相手にパニックになっていた。しょうがないから殺虫剤で倒した」

「そうなのか?オレのところにも助けてくれ電話が来たんだ。慌てて来たんだけどな……」

 オレ達は考え込んだ。そう、「オレ達、何やってるんだろう」と。

「あっ!貴島先輩も来てくれたんですか?無駄足でしたね」

 玄関から佐原さんが出て来た。「無駄足」といわれた。助けを呼んで置いて、それはあんまりじゃないのか?

「先輩方、じゃあね」

 佐原さんはそれだけ言って家の中へも戻って行った。さすがのオレもチョッとムッときたよ。

「押さえろよ、元就。俺達は血判状で約束した。違えれば切腹じゃ」

 そうだ、そうだった。俺達は【佐原さんを守る】と言う約束を血判状で交わしたんだった。

「でもよ、俺達が相手にするのは不良天使たちだろう、そんなゴキブリ如きで呼び出されてもなあ」

 忠勝は無言だった。

 オレ達は佐原邸から引き揚げた。一路、オレの家に向かう。


「災難だったわね。と言うかあんた達は人が良すぎるのよ」

「また、随分と無茶な契約を佐原さんと交わしましたわね」

 オレの家のリビング。オレ達は帰って来た。エレーヌさんがお茶を淹れてくれた。それ手をつけないオレ達、オレも忠勝も難しい顔をしていた。二人揃って腕を組み、眉間に皺を寄せ、眼を瞑る。

「忠勝、お前、あの血判状に何て書いたんだ?改めて聞くぞ」

「俺は【下記に記す者、佐原イリア殿との約束を違わぬ事を誓う】【島田忠勝】【貴島元就】と書いた。文句あるか?」

「大ありだ!この野郎!その書き方だと、どのようにも受け取れるじゃねえか!」

 約束とは佐原イリアさんを守る事。それは不良天使に限定した訳では無いとも受け取れる。

「まさか、ゴキ野郎が部屋に出たくらいで呼ばれるとは思わなかったよ」

 忠勝は呑気にうんうんと頷いている。テメエ、反省してないだろう。

「まあ、そのうち彼女も飽きるだろうよ。何とかなるさ」

「忠勝、最後に教えろ。期限はいつまでと書いた?」

 オレはあの血判状に約束の期限が書かれていたのを見た記憶が無い。

「さあ、馳走になった。帰る。邪魔したな。おやすみ」

 誤魔化しやがった!もう勘弁できねえ!

「忠勝、そこに直れ!叩き斬ってやる!」

「おう、相手になってやるぞ!ここで決着付けてやろうか!」

 オレと忠勝は一触即発となった。お互い、自分の刀の柄に手をかける。

「止めなさい!こんな所で仲間割れなんて!見っともない」

 エレーヌさんがオレと忠勝の間で喧嘩を止めに入った。プンプンと怒っておる。

「明日、イリアちゃんに聞いてみるわ。貴方達をどう思っているのか。だから剣を納めなさい!」

 オレと忠勝は刀を納めた。少し、冷静になった。エレーヌさんは「まったくもう」とため息をついた。


 

 翌日、朝からチョッとした事件が起きた。オレとエレーヌさんが学校に行こうとした時に【ピンポーン】と玄関の呼び鈴が鳴った所から始まった。

「レイセンオン先輩!貴島先輩!おはようございます!一緒に学校へ行きましょう!」

 景気良く開いた玄関のドア。そこから元気よく朝の挨拶と共に女子高生、佐原イリアさんが飛び込んで来た。しかも彼女は背中の透明な羽をパタパタと小さく動かしてる。彼女の心境を表しているようだ。

 三人揃って通学路を歩く。オレとレイセオンさんの間に入る佐原さん。彼女はエレーヌさんと手を繋いでいる。

 先日、佐原さんを助けた時には気付かなかった。彼女は……小さい。小学生以来、身長が伸びなかったのかな?エレーヌさんは完璧なモデルさん体型。身長も高い。男のオレと殆ど変らない。悔しいのは同じくらいの身長で、オレは純日本人体型で低重心(短足)じゃ。エレーヌさん脚が見事に長い。その長身のエレーヌさんの隣りには小さな女の子がいる。

「レイセオン先輩。神界ってどんな所なんですか?私は行った事ないんです」

「そうねえ……」

 エレーヌさんは顎に人差し指を当てて、思いにふけている。ここは一発オレがエレーヌさんと佐原さんを爆笑の釜につき落してやる。

「あれだろ、暗くて、寒くて、寂しくて、マリンスノーが降り積もる。水圧が支配する世界だろ。オレも行った事が無い」

「あはははははは!それって深海じゃない。元就君たら、まったくもう!」

 エレーヌさんには受けた。一方、佐原さんは……冷たく、冷やかな視線がレーザー光線のように注がれている。そう、「コイツは何を言っているんだ」と。

 佐原さんはエレーヌさんの腕へしがみ付いた。エレーヌさんは「どうしたの?」と少し困った顔をしている。

「レイセオン先輩にそんなくっだらないオヤジギャグを聞かせないで下さないね。貴島先輩!」

 佐原さんは少し怒った顔でオレを見た。うーん手厳しいなあ、渾身のダジャレだったのに。

 その時、エレーヌさんが突拍子もない行動に出た。彼女はオレの左腕を絡めとった。俺はエレーヌさんと腕を組んで歩く格好になってしまった。

「イリアちゃん、私のパートナーは元就君なの。わかってね」

 佐原さんの少し怒った顔が、凄く怒った顔に変化した。オレが何をしたんだ?

 それにしても、今の状況。オレの左腕にエレーヌさんがしがみ付き、その、エレーヌさんの左腕に佐原さんがしがみ付いて、横一文字になって歩いている。これは冷静に考えると凄くへんてこな状態ではなかろか?そろそろ学校に到着する。こんな状態を例のやっかみ連中に見られたら大変だ。それでなくても、最近は罠を仕掛けたり、遠距離から狙撃するヤツが出始めている。

「エレーヌさん、悪いけど、オレはここで別れるよ。職員玄関からこっそりと校舎へ入るよ」

「じゃあ、私がレイセオン先輩を無事、生徒玄関へ届けますから」

 佐原さんは小さく敬礼をして、エレーヌさんをグイグイと引っ張って行った。

「あっ……元就君、お昼休み屋上で……」

 佐原さんに連れ去られるエレーヌさんの言葉は最後まで聞き取る事が出来なかった。ゥ振り返るとエレーヌさんの腕にガッチリとしがみ付く佐原さん、二人の後ろ姿が見えた。

 オレは職員玄関から校内に入った。流石にこっちには(やっかみ)達の姿はなかった。

 教室に入る。忠勝はもう席に付いていた。オレも自分の席に付く。

 朝のホームルーム。担任が教壇に立ち一言話す。その一言がオレにとっては衝撃的な一言だった。オレと忠勝にとってはとんでもない一言だった。

「あー転校生を紹介する。皆仲良くするように……特に彼は留学生で日本には慣れていないから。あー、クランツ・サーベリオ君だ」

 担任の隣に立つのは……間違いない!奴だ、先日オレと忠勝で懲らしめた不良天使のリーダー格のアイツ。なんでここに来た?

 忠勝の方をチラッと見る。ヤツは机の下で短刀を握っている。相変わらず、導火線の短い奴だ。

「自分はクランツ・サーベリオンと言います。よろしくお願いします」

 教室内がざわつく。特に女子が。サーベリオンと言ったけ?まあ、金髪の美男子と言えば見えなくもない。でも、あの時、サーベリオンの頭のテッペンの髪の毛を削ぎ落としてやったんだけど、今はフツーの髪型だ。もしかして失敗したのオレ?いや、あの妙に艶々した髪の毛は……多分カツラだな。

「あー、サーベリオ君の席は……貴島の後ろで良いかな」

 サーベリオンは担任に促されて、オレの後ろの席に付いた。なんか、嫌な感じ。

「貴様……貴島元就と言ったな。昨日は世話になったな……」

 さっそく来た。小声で話しかけられた。予想していた反応有難うよ!サーベリオン。オレはいつでも左腕から刀を抜けるようにする。もし、クラスメートに手を出したら……斬る。

「そうだ。貴島元就だ。何しに来た?オレに用があるんじゃないのか?こんな回りくどい事しなくても、いつでも相手になってやるぞ」

 オレは肩越しにヤツの気配を感じながら話す。だが、何故だか、サーベリオンの殺気は感じられない。

「まあ、マトモに戦っても、自分には勝ち目はない。悔しいが、剣の腕は貴島の方がチョビットだけ自分より達者なようだから。回りくどい作戦を取らせて貰った」

「てめえ!このクラスメートに指一本でも触れて見ろ。その指では二度とハナクソほじれないようになるからな」

「そんな事言えるのも今のうちだぜ、この自分の髪の毛の恨み、貴島の身体に、心に刻み込んでやるからな!」

 こうして、啖呵の切り合いをしている内に授業が始まった。


 一時間目が終了した休み時間。オレの席と言うか、サーベリオンの席の周りは女子で溢れ返っていた。そう、サーベリオンを取り囲む女子の群れ。まるでアイドルを見つけたような大興奮。

「かっこい!いかっこいい!」

 けっ!

「サーベリオン君、何処の国から来たの?英国?仏蘭西?」

 あちらの世界だよ!

「きれいなブロンドね?」

 でも、テッペンは禿だぞ。オレが剃ってやった。

「彼女いるの?居ないなら、私、立候補しようかな?」

 やめとけ、そいつは女の子をいじめるぞ!

 まあ、オレはこんなふうに女子の黄色い声援に対して、毒づいてやっている。心の中で。

 そんな騒動も二時間目の授業が始まるチャイム共に、去って行った。やっと静かになったよ。

「貴島、羨ましいか?羨ましいと言え!ふはははははは!」

「うるせえよ!」

 これからはこんな調子でやって行かなきゃならないのか?疲れるなぁ。

  

 時間は経過して、昼休み。一時的に授業から解放された生徒達がにわかに活気づく。今日は天気が良い事もあり、中庭や校庭の気の下でお弁当を広げる生徒たちも居た。

 その生徒たちを見つめる瞳が四つ。その眼の向く視線は、生徒達を下等な生き物を見るような視線だった。

 学校の屋上にある給水塔の陰、青い翼の男と、薄青色の翼の男が校舎を眺めている

「サーベリオン様は上手く潜入出来たようですね」

「うむ。それくらいは容易い事だろう。まさに、【虎穴に入らずんば、敵を討てず】だな」

 ジェイソンとアランは腕を組み、頷く。だが、この二人にこの先、具体的な作戦は無かった。

「クランツ様は貴島元就を倒して、宝玉を手に入れる事が出来るのでしょうか?」

「まあ、無理だろうな……クランツに倒せるぐらいなら、オレ達の力で何とかなる。ヤツは危険だ」

二人揃って、ため息をついた。

「人間界の侵略がなかなか進みませんね。私達は何をやっているのでしょうか?」

「そうだな、凄い廻り道をしている気がして来たな……何?アラン!伏せろ!」

 ジェイソンがアランの頭を押さえつけ、給水塔のタンクの下へ潜りこんだ。

 ドゴオオオン!

 給水塔が爆発と共に吹き飛んだ。二人は身体に破片を被る。

「まずい!見つかった!アラン、長居は無用だ!遁走するぞ!」

「了解です!ジェイソン殿!チャフを散布して眼くらましします」

 アランは腰のポケットから手榴弾を投げた。それは空中で破裂し、キラキラしたアルミ箔が空中に漂っていた。

「行くぞ、アラン。戦闘天使が来る!」

 ジェイソンとアランは空中へ飛び出し、飛翔した。学校を後にして逃げ出す。

 シュン!

「ジェイソン殿、誘導弾です!」

 ジェイソンとアランに向かって誘導弾が二発飛んで来た。その誘導弾の飛翔速度は、ジェイソン達を遥かに凌いでいた。ジェイソンとアランは全速力て誘導弾から逃げる。

「回避だ、逃げろアラン!」

 ジグザグの尾を引いた一発の誘導弾がアランに迫って来た。

「逃げろ!アラン」

「ダメです!逃げ切れません!」

「アラン!諦めるな!左バンクで逃げろ!」

 ドン!低い破裂音が聞こえて来た。ジェイソンが振り返ると。アランは黒い煙を曳いて墜落して行った。

「戦闘天使やってくれたな!」

 ジェイソンは速度を緩めず、真っ直ぐに飛んで逃げて行った。


 アランは学校近くの河川敷に墜落した。全身に激痛が走る。身体を動かそうとしても、動かない。背中の薄青色の翼は黒く焦げ、その殆どを失っていた。

 最後の力を振り絞り、懐から拳銃を取り出した。いつもより重く感じた。

 空を見上げた。真っ青な空に大きな朱鷺色の翼を広げた天使が飛んでいるのが見えた。


「逃がさないわよ!」

 エレーヌはFN90サブマシンガンをアランへ向け、ズダダダダダダダ!と地上掃射する。アランの周りに土煙が舞う。

 私は魔天使に向かって一直線に降下(ダイブ)する。ヤツは動かなくなった。止めを刺さないと。

『エレーヌ、掃射停止(フリーズ・ファイヤー)魔天使の身柄を確保します』

 クララから統合戦術情報伝達システムで通信が来る。私は射撃を止め、空中で警戒を続けた。ロート・ドームの策敵範囲は最大にしている。逃がしたもう一人の魔天使の反撃を警戒している。

 魔天使に向かってクララが歩いて近寄って行くのが見えた。手には大鎌を持っていた。

 クララは鎌をアランへ向かって突き出した。

「武器を捨てて、投降しなさい。貴方には黙秘する権利が有ります。貴方には弁護士を呼ぶ権利が有ります。捜査に強力すれば減刑もあり得ます」

 アランは河川敷の石の上でぐったりしながら、拳銃を手放した。

「そうだな……黙秘権は行使させて貰おうか……」

 私達は魔天使一名の身柄を拘束した。この男を尋問して計画の全容を把握して、対抗策を練らないとね。



 昼休み、オレはエレーヌさんと約束した屋上へ上がった。屋上に居たのは……あれっ?桜子さんと深井キャプテンだ。エレーヌさんは居ない。桜子さんと深井キャプテンは二人とも、一心不乱に自分の得物を磨いている。桜子さんは拳銃を分解整備している。あの特徴的なバレルの形はベレッタM92Fだな。深井キャプテンは……薙刀の刃を砥石で研いる。長方形でグレーの大きな砥石の前に正座して、刃を研いでいる。シュッ!シュッ!と小気味良くリズミカルな音で研いでいる。

「あっ、元就、いらっしゃい。お弁当食べる?」

 桜子さんがサンドウィッチを出してくれた。パンに挟まれているトマトとハムが旨そうだ。

「あんた、桜子に名前で、しかも呼び捨てで話すようになったの?」

 深井キャプテンは研ぎ終わった薙刀の刃の切れ味を試している。半紙がスパッと切れた。凄い斬れ味。あれで斬られたら、痛みを感じないだろうな。

 ダン!とオレの後の威勢よく扉が開いた。屋上に入る扉。

「エレーヌさんいますか?」

 元気よく屋上に飛び出して来たのは、佐原さん。両手に抱えきれない程のお菓子を抱いて来た。足を付き出しているのは、多分、足で扉を蹴り開いたからだろう。

「いらっしゃい、佐原さん。エレーヌはまだ来てないわ」

 佐原さんは桜子さんと深井キャプテンの前にお菓子を広げた。

「有難う、佐原ちゃん」

 深井キャプテンが、佐原さんの頭を撫でている。佐原さんは頬を赤くして、背中の妖精の羽をパタパタさせて嬉しそうだ。

 もう、既に桜子さんと深井キャプテンは佐原さんの正体を知っているようだ。説明をしなくて楽でいいな。

 それにしても、エレーヌさんは遅いな。どうしたんだろう?オレはサンドウィッチをパクつきながら空を見上げた。

 黒い影?大きな翼の影が見えた。

 キイイイイイイイイイイン!

 けたたましい金属音が空から聞こえて来た。何の音だろう?空の大きな翼の影がドンドンオレの方に迫って来ている。

「あれは鳥じゃない!エレーヌさん!」

エレーヌさんが空から物凄いスピードで降りてきた。ここままじゃ屋上のコンクリートに激突する。エレーヌさんは全然減速しない。

 ガッシッ!

 エレーヌさんは空中で電線を掴み速度を殺し、トンと着地。電線がビョヨヨーンって伸びた。

「艦載機ですか?エレーヌさんは?」

「コントロールされた墜落ってヤツよ。元就君」

 キイイイイイイイイイイン!

 再び激しい金属音が聞こえて来た。

「きゃあああ!元就さーん!どいて!どいて!」

 もう一人墜ちて来た。クララさんだ。

 ガッシッ!

 クララさんも電線を掴んで着地……する筈だったんだけど、予想以上に電線が伸びて、オレ目掛け墜ちて来た。ヤバい!クララさんを避けたら、彼女が屋上に激突する!

「おらあああ!」

 オレはクララさんを受け止めた。オレは尻もちをついた。そのままクララさんを抱きしめたまま、背中でスライディングした。

 ケツと背中が痛てえ!

 逆に顔の方は凄い事になっていた。二つの大きな膨らみの間にオレの顔が埋まっている。まさにデュアル・エアバッグ。何と言うか、柔らかくて、それでいて弾力が有って、そんな絶妙な感じが気持ちいい。それに、何かイイ匂い。オレはケツの痛みを忘れ、さらにクララさんの胸へ顔を埋め込んで行った。こんな気持ち初めてだ。どうしたんだろう、オレ?自分が自分じゃ無くなったような気がする。こんな不埒な事をクララさんにしてしまうなんて。自分で自分をコントロール出来ん!

「元就さん、大胆ですわ。皆の見ている前で。私、チョッと恥ずかしい。二人きりの時にして」

 ハッとした。オレはクララさんを起こして、パッとクララさんから離れた。彼女は顔を真っ赤にして俯いている。そして自分の背中名の翼で顔を隠してしまった。

 オレも恥ずかしい。

「あんた。本当に懲りないわね!他の女の子にチョッカイ出して。私の気持ちも考えてよ!」

 エレーヌさんが怒っている。オレの前で仁王立ちしている。

 オレは「自分の意思じゃない!」と言い訳しようとしたが、止めた。この状態でどんなに言い訳しても、通用しないと思うから。

「でも変ね……貴島君はこんな女の子に変な事する人じゃ無かったのにね……最近モテモテで人が変わっちゃったのかな?」

 深井キャプテン、誤解を招くような事言わないでください。オレは……こんな事するつもりは無かった。なんか身体が勝手に動いたんだ。

「チョッと待って!」

 桜子さんが、大きな声で立ちあった。皆の視線が桜子さんへ注がれた。

「宝玉の影響が出ているのかも……元就の心に忍び込んでいるかもしれないわ!」

 何?レオンの影響が出ている?だと?

「そう言えば、あの宝玉はスケベ根性の塊だったな。オレの心を支配しているのか?」

 皆、考え込んでしまった。

「でも、貴島先輩だって、女の子に興味無い訳じゃないですよね?」

 おい、佐原。敢えて呼び捨てにするぞ。そんな身も蓋も無い事言うなよ。ほら、他の女の子は疑いの眼差しをオレに向けた。

 どうも、昨晩のゴキブリ事件とイイ、この佐原さんとは相性が良くないようだな、オレは。あんな血判状を渡してしまったんだろう。後でもっと大きな混乱を招かないか心配になって来た。

「どうなの?元就君。私は貴方を信じたいわ。でも痴漢は許せない」

 エレーヌさんがオレの前に座った。オレも正座して彼女に向き合った。

「阿弥陀如来様に誓ってオレの意思じゃないと言います。嘘、偽りが有ったら腹を斬ります」

 オレはエレーヌさんに言った。自分の思う全てを言った。客観的に見て、証明できるものは何もない。信じて貰う以外に無い。

「わかったわ……元就君を信じるわ。寂しくなったり、心を支配されそうになったら、いつでも私の胸にいらっしゃい」

 そう言って、エレーヌさんはオレの頬を両手で撫でてくれた。彼女の背中の翼がオレを抱いてくれた。畜生!涙が出てくるくらい嬉しいぜ。オレはレオンの意思を封じ込める事が出来ないのが悔しい。

「おい、お前ら。サッキュバスの言う通り、貴島元就の身体にある、宝玉を放って置いたら、貴島の心は宝玉に乗っ取られるぞ!」

 オレの後ろから、声がした。その声の主は青い翼を羽ばたかせ、宙に浮いている。

「サーベリオン!」

 ヤツは空中で腕を組み不敵に笑う。

 桜子さんは拳銃を構え、深井キャプテンも薙刀を構える。クララさんは大鎌を持ちあげて頭上で回す。佐原さんはエレーヌさんの背中に隠れた。

 エレーヌさんは弓を引く。

 戦闘態勢となった。

 オレも刀を取る。だけど、まだ、抜かない。鞘に納めたまま、左手にに持つ。サーベリオンはまだ言いたい事が有るようだったから。

「おい!サーベリオン。何が言いたい。本当に言いたい事は何だよ?」

 オレはサーベリオンの下に行きヤツに問う。

「そうだ、オレは取引に来たんだ。貴島元就、お前にとっても悪い話じゃない」

 サーベリオンは不敵な笑みを浮かべたまま、屋上に降り立った。

 オレとヤツは屋上で対峙した。

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