探索再び~そう見せかけて~
「よう……誰かお探しか?」
話し合い後再び探索に出た俺の前にまた別のクラスメイトが一組。
正直にいって名前はやっぱり覚えてない。適当に命名して田中と太郎で通そうと思う。
胡散臭いに違いない笑みを貼り付け、絶賛警戒中だった二人の背後に降り立ち声をかける。
木から下りてやっとこちらに気付いた二人に、心中では結構いいカモだなとか思いつつ、油断はしない。
「一人か……?」
「探索中だったか、バラけたか、罠だろう。気を抜くな」
あ、やっぱり油断はされてくれないらしい。仕方がないけどな。
二対一でも警戒を緩めもしないのはパートナーの存在を注意しているのか、事前に仕掛けられた罠に対してなのか……そこは不明。
俺から目を必ず片方は目を離さないのは上出来なのだが、だったら背中合わせにでもなって背後も警戒刷るべきだと思うのは俺だけか?
「たしか……自己紹介で暗殺が得意だとかいってた奴だったか?」
「ああ!そういやそうだったな。ん?俺達ってついてね?」
覚えられていたらしい。やっぱり暗殺ってあの自己紹介中でも目立ってたの?
それにしてもついてるってなんだ、ついてるって。下に見られてるみたいで不愉快、なんて思うほど自分に価値もってないけどな!
「暗殺が得意ってことは、直接戦うのは苦手な臆病者ってことだろ!」
言葉と同時。突っ込んできた田中(仮)
なるほど、そんなイメージを植えつけられたのなら正直に話したかいもあったかもな。
暢気にそう思っていると上体を前のめりに倒した姿勢で、田中が迫っている。
手にはグローブ。なるほど、ボクシングかなにかの肉弾戦派ってわけね?
でもさ、自分でさっき言ったろ?俺は暗殺が得意な臆病者だって。
その臆病者がやり過ごせた筈のお前等の前に姿を現した理由位考えてから突っ込んでこいよ。
ちなみに答えは単純明快、
「くらっ……え?」
「はい、残念」
準備は出来てるからだよ。
下から容赦なく俺の顎を狙ってアッパーを繰り出そうとしてきた田中が視界から消える。
最後の呆然とした声音から、意図したことではないというのはお分かりだろう。
足元に顔を向け、そこに先ほどまで無かった筈の、人が一人程度なら余裕で落ちるであろう大きさの穴が出現しているのを確認する。
つまり、ここで俺とこの二人が遭遇したのは偶然な筈が無いということ。
後を付けて、ちょうどよく罠が設置されていた場所で俺が姿を現したに過ぎないわけ。
ちょっとは疑ってくれよな田中太郎組。いや、疑ってはいたか。
「まずは一人っと」
別地点の落とし穴と同じ作りだろうから、一人で早々に脱出することは不可能なのは証明済み。
たかが落とし穴と侮る無かれ。落ちても竹槍に貫かれる、なんて死亡要素はないが、脱出を妨げる方向に技術が注がれているらしく、面倒極まりない。
つまり凹凸を排除し、平均身長の倍近い深さで、穴の直径も突っ張って上ることが不可能なように計算されているらしい。
そんなものを他の罠と連動させつつ、広範囲に展開しているという時点でこの学校の教員の腕が見えるようで……色々と嫌になってきた。
これで序の口とか。新入生歓迎、つまり新入生用とか!
これからもっとレベル上がるってことだろ?
俺が楽しめる範囲の面倒ならいいんだけど、絶対にそれじゃすまないだろ!
もう若干諦めてるけど。精々死なないようにだけ頑張りますかねー。
「さて、お次はお前だ。どうする?パートナー見捨てるか?それとも、俺とやる?」
どっちでもいいぜ?本当に。
三パターン程想定したから、そこから大きく外れない行動ならなんだってしてくれ。
「……自分が負けるとは、思わないのか?」
「いや?そこまで驕っては無いけど?でもさ、どうして俺は、一人なんでしょうか?」
「?探索中か、はぐれ……って、まさか!」
「いや、想定しようぜ?」
同時にしゃがみこむ。被害を受けないため、障害にならないためにだ。
つまりどういうことかというと、俺の後方数十メートルの位置に井上さんが潜んでますって事。
俺が突然しゃがみこんだ事に驚いて、周囲を警戒したはいいが逆にそれで一点への警戒度が薄れる。
瞬間狙ったように軽い発砲音が聴こえた気がする。
直後、僅かに身を硬直させた太郎さん(仮)
ま、防弾仕様らしい制服の上から一発じゃそんなもんか。でも貫通性重視の弾防ぐってどんだけだ。
「悪いな、寝てくれや」
「ぐっ……!」
腹部に一発。……いれたって、防弾制服なんて殴ったら俺の拳があぶねーよ。
だから頚動脈絞めて落とす。ま、こんなもんか。
「でもまあ一人でもやれたかなー……ま、井上さんの腕アピール。加えて俺の実力不透明……ってところでいいか」
太郎(仮)の腕章を一応回収し、田中が落ちた穴に落とすことにする。
多分避けられるだろうと思うんだが、そういえばなんの物音もしない。
……気絶してたりして?ま、関係ないけど。
放置するよりは安全だろ、多分。理由も確証もないけど。
「骨折とかされたら罪悪感あるなー」
言いつつも両手で引きずり、落とす。すぐに重いものが落ちた音と呻き声が聴こえてきた。
悪いな。でも俺何にもしてない。
向かってきた田中は勝手に落ちただけだし、太郎は俺の周囲を警戒してくれてた井上さんが腕試しとばかりに怯ませてくれただけだから。
そこで出来た隙を見逃すわけないんだから、結局本人が悪い。
いや仕組みましたけど?だから何?
「あ、田中(仮)の腕章も回収しなきゃいけねーかな……ま、時間内に脱出できても、取り返しは出来ないからいっか」
太郎(仮)から拝借しましたライターを右手に、左手で黄色にオレンジの一本線が入った腕章を摘み上げる。
そして灯した小さな火で隅に引火させる。案外良く燃えました。何製?
「田中太郎(仮)組はリタイアっと」
腕章を破棄してはいけないなんてルールあったとしてもいわれてなかった筈。
だったら存在してないも同じ事。
奪い返す腕章が存在しなければ、離脱は確定だ。
「ここらにもういないんならさっさと立ち去るに限るね」
結構時間も経ったし、夜は行動したくないし戻ろう。決定して踵を返す。
なんだか恨みの篭った声が背後の穴から聞こえた気がしたけれど無視。
さっさと合流するために、というか拠点に戻るために周囲を警戒しつつ俺はその場を去った。