休日の朝〜幸せ音の確認
数え切れないキスをした。
朝起きて、まどろみの中。
瞳を閉じて、静かに。
見つめ合って、微笑みながら。
吹き出すのを我慢しながら。
強く。
弱く。
押し付け。
かすめ。
唇で輪郭を撫ぜる。
つま先から、頭のテッペンまで。
くすぐったい。
笑って。
笑って。
愛おしくなって。
お互いを貪る。
痛みが目を覚まさせてくれる。
射すような日差し。
グーっとお腹が鳴る。
放っておくと食べられてしまいそう。
のそのそとベッドから芋づる式に這い出る。
シーツが小気味よく擦れる音。
抱き合いながら部屋を出る。
歩きながらキスをする。
床が冷たく心地いい。
ペタペタとフローリングに張り付く裸足。
食パンの袋から出される音。
トーストをセットするカチッと言う音。
ポットのお湯が注がれる。
コーヒーの濃い匂いが漂い立つ。
食卓の軋む音。
向かい合って座る。
背筋を伸ばしてキスをする。
何もなかったようにする。
でも、キスをするたび、少しだけ体温が上がるのがわかる。
ガチャっとトーストが焼きあがる。
芳ばしい。
バターをたっぷり塗って。
あなたはそこにマーマレードを重ねる。
馬鹿みたいに塗りたくる。
頬張る度に、パリパリと音が鳴る。
何も口を開かない。
代わりにキスをする。
ムシャムシャしながらキスをする。
さわやかで甘ったるい匂いがする。
それをコーヒーで飲み下す。
同じものを食べている気になる。
見つめ合って黙々とトーストを齧り、コーヒーをすする。
お腹が満たされていく。
部屋に涼しい風が吹き込んでくる。
鳥の鳴き声と木の葉が重なる音。
息を吐いて、吸う音。
君と僕が生きている音。
嫌いな音は何一つない。
キスも微かに音がする。
音がしないようにしても、耳を澄ませると聞こえてくる。
この世界には、数え切れないほど、幸せな音が潜んでいる。
君はそれを知っているだろうか。
読んでいただきありがとうございました。
一言でも感想いただけると嬉しいです。