「香水が鼻につく」と追放された私だが、実はその香りは狂戦士の呪いを鎮める唯一の薬だった!呪われた隣国の騎士団長に「君の匂いがないと死んでしまう」と首筋に顔を埋められ、一日中離してもらえない
私は王宮の調香師だったが、
「お前の香水は鼻につく」
と追放された。
王都を歩いていたら、理性を失った騎士にぶつかる。
私の匂いで落ち着いた騎士。
何故か、隣国に連れて行かれる私……。
◇◇
「聖女! ここは君の部屋だ好きに使ってくれ」
「なんですか、聖女って?」
「俺の理性を取り戻してくれたんだから、君は聖女だ」
「はあ……?」
落ち着ける場所が出来たからどうでもいいけど。
私はトランクから荷物を出そうとする。
「あの、見られていると気が散ります」
「それは失礼」
そういって騎士団長は顔を背ける。
「あの、私の部屋から出て行って欲しいんですけど」
「それは無理だ。俺の部屋でもある」
なんですと!?
「君の匂いがないと死んでしまう」
騎士団長が私の首筋に顔を埋める。
「いやあああああ」
変態! 変態! 変態!
「聖女、呪われた俺の気持ちもわかって欲しい」
確かに、自分の意思を無視して狂戦士化してしまうのは可哀想。
出会った王都では、宿屋で暴れて出禁になってた。
「でも、首筋に顔を埋められる私の気持ちもわかってください!」
私は香水の瓶をドンッと机に置く。
薬草と柑橘系の香りが混ざった特別な私の香り。
「これがあれば私の匂いと同じ効果が得られます!」
「聖女の身体からする匂いがいい……」
ますますくっついてくる騎士団長。
変態! 変態! 変態!
◇◇
「団長! 聖女さまも。お部屋で落ち着かれましたか?」
「ああ、聖女は気に入ってくれたよ」
騎士団長は部下の前では別人のように紳士的だ。
「団長が隣国の宿屋で暴れ出した時には驚きました。止める事も出来ずに飛び出して行って……」
「ああ、偶然、聖女が通りかかっていなかったらどうなっていたか……
私も血走った目の騎士団長と対峙した時はどうなることかと思った。
宿屋のドアを壊して、全てを破壊しようと理性を失った男に突進されて、命がないと思った。
けど次の瞬間に、騎士団長は私の首筋に顔を埋めて匂いを嗅いでいたのだ。
鼻につくと言われた私の匂いが、騎士団長の狂戦士化を一瞬で押さえる特効薬だった。
「聖女さまが騎士団長を癒す姿は思い出しても神々しいです。宿を壊された店主も見惚れるほどでした」
それほどですかね?
満更でもない気分です。
「しかし、どこで呪いを受けたのでしょう?」
「隣国で受けたとしか考えられないが、何処かまではわからんな」
「聖女がこちらにいては、万が一呪いが蔓延した時に困るのではないですか」
「ダメだ! 聖女は渡せない!」
紳士な騎士団長の豹変に部下が驚いています。
私も理不尽に追放された国になんて帰る気はありません。
「部下さん、呪いを解くには香りさえあればいいんです。こっちで作って売りに行けばいいんです」
「しかし、それは騎士道精神に反します……」
「騎士道精神なんてあったらいたいけな調香師を追放なんてしないんですよ。あんな国に呪いの解術を委ねるほうが騎士道精神に反するってものです」
「そうだな」
騎士団長もわかったような顔で加勢します。
「こちらで大量に作って香水を売る! これが一番多くの人を救う方法です」
「……! 僕が浅はかでした! 騎士団長と聖女さまにそんな深い考えがあったなんて!」
今思いついたけど、かなり深く儲かりそうです。
『聖女! 君も俺がいないと死んでしまうんだな!』
みたいな顔を、騎士団長がしていますが、
違います。
◇◇
私は自分の部屋で香水の大量生産体制に入る。
「ほう、香水とはこうやって作るものなのか」
「邪魔です。騎士団長」
「俺の部屋でもあるからな」
「……香料に触らないでください」
大量生産と言っても、原料がなくてはこれ以上作れない。
「仕方ない、明日、原料を探しに行くか……」
「終わったのか、聖女」
「わ、騎士団長! まだいたんですか!?」
「俺の部屋だ」
別の部屋で寝ればいいのに。
「おいで」
何故か、手を広げられて抱っこ体制になってる騎士団長。
恥ずかしい! 行くわけないです。
私は顔が真っ赤です。
でも、騎士団長の座ってるベッド以外は足の踏み場もない。
「ここしかないから! 仕方なくですよ!」
「ああ、わかってる、聖女」
騎士はベッドに横になると、私を抱いて首筋に顔を埋めて匂いを嗅ぎます。
私も騎士団長の身体にギュッとしがみつきます。
「聖女、君もこうしたかったんだな」
「ち、違います! 動いたら、香料にぶつかって壊れるから、くっつくしかないんです!」
本当です。
「そうだな」
騎士団長はわかってないような口調で、私の匂いを嗅いでいます。
私にも、騎士団長の香水からじゃ得られない男らしい香りが漂ってきて、ドキドキしてしまう……。
——ガラーン!
香料の便がベットから落ちた。
割れてはいない。
朝目が覚めて、私は騎士団長を睨みつける。
「わかった、聖女。一緒に寝る部屋は別の部屋にしよう」
「そっちを、私の部屋にしてください」
「ダメだ! 君と一緒じゃないと俺が呪いで死ぬ」
◇◇
騎士団長が一日中私にくっ付いているから忘れてましたが、呪いが解けたわけじゃありません。
「狂戦士化を防ぐために、君の匂いを嗅ぐ必要があるんだ」
「完全に治らないなら継続して売れますね」
前世で言うところのサブスクです。
「騎士団長が狂戦士化して戻らなけらば問題になるし、大量生産する理由はあります」
「聖女と二人っきりで遠出か……何かが起こる気がする」
「変なフラグ立てないでください」
私は騎士団長の馬に揺られて、香水の原料の薬草を取りに草原にやってきました。
「聖女、どの草を取ればいいんだ」
「素人には難しいので、騎士団長はお昼の用意でもしていてください」
ここは騎士団長の領地で、私の国との国境のすぐそばにあります。
調香師の素材集めで自国の草原は見慣れていますが、国境を越えると全く同じ種類の薬草があるわけではないみたいですね。
私は商売人というより根っからの調香師です。
つい珍しく草に夢中になってしまいました。
「聖女! 危ない!」
気づくと、獰猛な獣型のモンスターが私の目の前で牙を剥いています。
噛みつかれる!
そう思って目を閉じると、
ドンッ!
「ギュルルルッ!」
騎士団長が獣を一撃で倒していました。
「さ、さすが騎士団長です……。ありがとうございます……」
「待て、聖女!」
騎士団長は警戒を解かずに、倒れた獣を見つめています。
完全に倒れて、死んだような傷。
「グルルルッ」
「きゃ!」
死んだと思った獣が立ち上がります。
「……どうして……」
「狂戦士化している」
え!? モンスターも!?
「下がってくれ、聖女! 倒せるが、相手は痛みも感じず、どんな動きをするかわからない!」
「下がってと言われても……」
ゾクッ
獣がこっちを見て、動く瞬間を狙われている気がする。
一瞬の間。
獣が私に向かって飛ぶ。
騎士団長の剣が獣を斬るが、倒れない。
その隙に、私は香水を出してひと瓶全てぶちまけた。
香りが風に乗って獣の鼻腔に届く。
「クーン」
獣の狂戦士化が治った。
しかし、戦いで負った傷は癒えない。
「騎士団長! 回復薬は無いんですか!? このままでは死んでしまいます!?」
「助けるつもりなのか、聖女!?」
「当たり前です。大人しくなった動物の命を奪うなんて出来ません」
「そ、そんな優しい心を持っていたのか、聖女!? お金にしか興味ないのかと思っていた」
「騎士団長、私をなんだと思ってたんですか!?」
一日中私に抱きついてたくせに!
◇◇
騎士団長の持っていた回復薬で回復した獣と、騎士団長が作った本格的な昼食を食べる。
「この子は私の国に多い獣ですけど、騎士団長の領地でも生息しているんですか?」
「滅多に見ないな」
「狂戦士化して国境を越えてきたのかもしれません」
「人間のみじゃなく獣も狂戦士化する呪いか……」
「領地で他に狂戦士化した獣や人間の報告はありますか?」
「ないな……。国境を監視している砦に連絡を取ろう。なにか掴んでいるかもしれない」
暖かいスープを飲む私。
獣も美味しそうに食べてる。
「美味しいですけど……。こんな本格的な道具を持って来るなんて、運ぶ馬が可哀想ですよ」
騎士団長が驚愕の表情で私を見る。
「聖女、本当にどうしてしまったんだ! 急に優しくなった」
「だから、一日中ひっついてる女性にいう言葉じゃないですよ」
騎士団長に抱き寄せられる。
「強くて行動力があって一流の調香師で、これ以上君を好きになる理由なんていらないだろう」
騎士団長の言葉に私は赤くなる。
「もっと好きになったら、本当に一生俺の屋敷に閉じ込めておきたくなる」
首筋に顔を埋められるのも嫌じゃない。
ドキドキするけど、されないと物足りない。
「クーン」
獣が皿を咥えておかわりを要求している。
騎士団長は渋々とおかわりをよそう。
「この子も国境まで返してあげなければいけませんね」
「放っておいても勝手に帰るだろう。聖女との時間を邪魔されたくない」
不機嫌な騎士団長は、動物に優しくない。
◇◇
私、騎士団長、獣は国境の砦に来ていた。
報告を待つより実際見た方が早いし、獣を返すためだ。
「狂戦士化した獣が増えているという報告があります。特に狂戦士化した獣が密集している地域があるようです」
兵士が教えてくれた。
「確認に行くか……」
「騎士団長が行くなら私も行きます!」
「聖女には危険だ」
「私から離れたら、騎士団長が狂戦士化するでしょう?」
「君の作った香水がある」
騎士団長は笑って香水の小瓶を見せます。
「ダメです。私がいるのに、騎士団長は香水を使うの禁止です。売り物なんですから」
香水瓶を取り上げる。
「我が国最強の騎士なんですから、騎士団長といる方が安全ですよ」
兵士がいう。
騎士団長は観念して私を連れて行く。
獣も一緒に私の国の狂戦士化した獣が密集しているという地域に行く。
「獣が先を行ってる。案内してくれるのかしら」
「獣がか? まさか!」
「騎士団長、獣に嫉妬しないでください」
獣について行くと狂戦士化した獣に出会わずに、洞窟につく。
人間の足跡が洞窟の入り口にくっきりとついている。
「ここが狂戦士化の呪いを作っている大元らしいな」
中に入って行くと人の声が聞こえました
「もう既に王都や主要都市に狂戦士化の呪いは撒いた。後はこの研究所の痕跡を消すだけだ」
聞き覚えのある声がします。
「狂戦士化が始まれば、隣国の仕業と疑われるだろう。逆側の隣国の依頼で王宮の調香師が呪いを作っていたなど、バレることはない」
この声! 私を追放した調香師の責任者です!
「解術や沈静化の香りを作る調香師は追放した。狂戦士化した者たちは、食事も忘れて、餓死するまで止まらない。国は大混乱するだろう」
「そこでボロボロになった国に逆側の隣国が攻め入り、私たち調香師の地位も安泰というわけですね」
責任者と同僚だった調香師が話してる。
だから、私は追放されたのかぁーー!
「話は聞かせてもらいました」
「! お前は追放したはずなのに!」
「国を売った人間を売らせた国が信用するわけないでしょう。あなた方はだまされていますよ」
「そんなわけ……」
調香師たちは言いかけて止める。
「当然起こる事だ、お前たちの地位が安泰などということはない。大人しく国王に報告して、事態の収束を図るのが懸命だ」
隣国の騎士団長にバレてしまっては計画は台無しです。
国王にバレても牢に入れられ、かなり重い罰を受けることになるでしょう。
「く……」
責任者が事態を理解したらしい。
一歩後退り何かにぶつかる。
パリーン
香水の瓶が割れた。
「の、呪いの瓶が!」
狂戦士化の呪いの香水らしい。
私や調香師たちには耐性があるけど……。
騎士団長の動きがおかしい。
沈めていた狂戦士化の呪が香りを直接嗅いで最大化する。
ガシャーン
騎士団長が暴れ出して周りを破壊する。
「うわー!」
「きゃああ」
調香師たちは逃げ惑う。
自分たちで作っておいて、扱えないなんて……。
私は騎士団長に向かって手を広げる。
騎士団長に香りが届く。
「聖女……」
私の首筋に頭を埋めて、あっという間におとなしくなった。
調香師たちは唖然と見ていた。
「追放された調香師! どうか、我々を隣国の亡命させてくれ!」
「嫌です」
と言いたいところですが、こちらも香水を作る人手が足りません。
すんでのところで呪いがばら撒かれる前なら、止めることも出来たけど、ばら撒かれたなら仕方ない。
「住まい(牢屋)と食事の保証はありの、週休二日。無給でもいいなら、考えましょう」
「わかりました! ありがとうございます。あなたは、聖女だ」
喜んでもらえて良かった。
「証拠を隠滅するのはいいですが、狂戦士化の呪いの資料はください。鎮めるだけじゃなくて完全に解く香りも作らないと、人間は一時凌ぎでよくても、獣はそのまま死んでしまいます」
「聖女、君は本当に意外性を持っているなぁ」
「騎士団長、もうそのボケはいいです」
◇◇
完全な解術の香りを作り、獣たちにまくと狂戦士化は止まった。
最初に懐いた獣だけは、結局元には帰らず、騎士団長の屋敷の番をしている。
騎士団長も呪いは解けたのに私を離してくれません。
騎士団長を引っ付けたままに母国の商人や貴族と香水の取引を行うけど、まだまだ需要に生産が追いつきません。
狂戦士化の呪いを鎮める香水だけでなく、王宮の調香師が作っていたものもこちらに買いにきます。
まあ、消えてしまった彼ら本人たちが作ってるんですけどね。
それに調香師たちをそそのかして、狂戦士化の呪いの香水を作らせた逆側の隣国。
そっちにも狂戦士化の呪が広がっているという噂があって……。
自業自得、商売繁盛です。
「調香師の皆さんにはしばらく無給の無休で働いて貰うしかないかも」
週休二日で余裕そうにしてるし、大丈夫じゃない?
「お金はたくさん入って来るけど、悩みは尽きませんね」
私は報奨金や領地運営で莫大な資産を持ってる騎士団長に愚痴をいう。
「君もやっとわかったか」
騎士団長は私を抱きしめる。
「君の匂いがないと死んでしまう」
「私も、一日一回は騎士団長の匂いを嗅がないと死んじゃいそう」
「俺にはもっと必要だ」
首筋に顔を埋められて、一日中離してもらえない。
私も離さないから、一生溺愛が続きそうです。




