第7話 聞いてしまった真実
その夜、王城は奇妙な静けさに包まれていた。
石造りの回廊に反響する足音はなく、
蝋燭の炎だけが、かすかに揺れている。
リシャール王子、急逝。
診断は心臓発作。外傷なし。毒物反応なし。
あまりに完璧な“死”。
「不自然すぎる……」
誰かが囁いた言葉は、やがて城全体に、湿った霧のように広がっていった。
ティアラ姫は、兄である王子の死を悼みながらも、
胸の奥に拭えぬ違和感を抱いていた。
(なぜ……こんなにも、胸が騒ぐの)
その答えを探すように、
彼女は夜の塔へと足を向けた。
それは、偶然だった。
いや、もしかすると運命は、
この瞬間のために、彼女をここへ導いたのかもしれない。
夜の塔の回廊。
月光が石壁を白銀に染め、
影が二つ、静かに向かい合っていた。
一人は、アル。
そして、もう一人。
それは、人ならざる気配を纏う男だった。
黒衣に包まれた長身。
冷たい銀の瞳。
夜そのものが、形を得たかのような存在。
それは、魔族でアイゼンハワードの同僚である。
ザガード・メル=ファングだった。
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「お前が“殺さなかった”のは、見逃してやる」
その声は、感情を削ぎ落とした刃だった。
「だが……もう限界だ、アイゼンハワード」
ティアラ姫は、思わず足を止めた。
(……アイゼン、ハワード?)
聞いたことのない名。
胸が、きゅっと締めつけられる。
「貴様はもはや“魔族”ではない」
魔族。
その言葉が、姫の思考を一瞬で凍らせた。
「心を殺せぬ者が、何を誇りに生きる」
アルは、答えなかった。
いや、答えられなかったのかもしれない。
「私は……任務を果たしてきた」
低く、押し殺した声。
「弱さを抱えてはいても、まだ……」
「いいや」
銀の瞳が、わずかに細められる。
「“人間の目”をした時点で、お前は終わりだ」
ティアラ姫は、息をすることすら忘れていた。
(人間の……目?)
「魔王陛下は、貴様の処分を私に一任された」
静かな宣告。
そして、決定的な一言。
「次、背くようなら
ティアラ姫の命、私がもらいうける」
世界が、音を失った。
その言葉は、
剣よりも鋭く、
呪いよりも冷たく、
確かに心臓を貫いた。
アルの肩が、わずかに震えた。
だが、振り返らない。
守るべき者が、すぐそこにいることを、彼は知らなかった。




