表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『私の愛したティアラ姫』魔族の貴族と人間の姫の愛憎物語  作者: 虫松


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/17

第6話 王族の盾 真実に近づく者

「……貴様、どこで剣を学んだ?」


訓練場の朝。

まだ霧の残る石畳の上で、近衛騎士団長ベルク=グレインは、剣を肩に担いだまま、じっとアルを見据えていた。


灰色の短髪。

獣のように光を反射する双眸。

王家直属、三代の王に仕え、数えきれぬ暗殺を退けてきた“盾”。


その男の視線は、敵を測るそれだった。


「王都の傭兵と聞いていたが……嘘だな」


ベルクは一歩踏み込む。

足音は重く、だが無駄がない。


「斬撃に“ためらい”がない。

 剣を振る前に、もう“殺し終えている目”だ。

 人間の剣じゃない」


周囲の近衛兵が息を詰める。

これは訓練ではない。尋問だった。


アルは剣を下げ、軽く頭を垂れた。


「評価、痛み入ります。

 ですが……戦場では、生き残るために“ためらい”など捨てました」


「捨てた?」


ベルクの口角が、わずかに吊り上がる。


「違うな。

 貴様は最初から、持っていない」


ベルクは木剣を放り投げ、素手でアルに近づいた。


「教えろ。

 剣の構えが三拍子遅れている。

 だが踏み込みは、魔獣狩りのそれだ。

 人を斬る剣と、獣を殺す剣は違う」


沈黙。


「……答えぬか」


ベルクの拳が、唐突に飛んだ。


避けられない距離。

だがアルの身体は、考える前に動いた。


最小限の動きでかわし、肘を引き、重心を落とす。


その瞬間。


ベルクの目が、確信に変わる。


「やはりだ」


低く、獣の唸りのような声。


「貴様、戦場で“命乞い”を聞いたことがないな?」


アルは、わずかに目を伏せた。


「……聞きました」


「嘘だ」


ベルクは断言した。


「聞いて、それを“音”として処理する者の目だ。

 意味として、受け取っていない」


一歩、また一歩。


「王女殿下の傍に立つ者はな、 剣の腕より、“何を斬れぬか”を見られる」


アルの胸に、鈍い痛みが走る。


(……この男、危険だ)


「忠誠とは何だ?」


突然の問い。


「……命を賭すことです」


「半分だ」


ベルクは鼻で笑う。


「忠誠とは、“疑い続けること”だ。 守るべき者のために、味方すら疑う」


その目が、鋭く光る。


「だから聞いている。 貴様は、何者だ?」


アルは一拍、間を置いた。


「……名もなき傭兵です」


「なら」


ベルクは背を向けた。


「気をつけろよ、アル。 王子殿下は……鼻が利く」


低く、重い声だった。


「そして俺は、もっと利く」


その背中が去っていくまで、

アルは一歩も動けなかった。




その日の午後。

アルの私室の扉が、静かに叩かれた。


「入るぞ」


リシャール王子だった。


細身の剣を杖のようにつき、

細い瞳で部屋を見渡す。


「……異国の傭兵と聞いていたが、 どこの言語体系にも属さぬ言葉を、

 お前は時折、口にするな」


視線が、突き刺さる。


「ティアラの命を救った男として感謝はしている。

 だが……お前の目は、

 なぜか“喪っている者”の目をしている」


(……王族特有の“勘”か)


アルは、ゆっくりと立ち上がった。


魔力を、指先に集める。


魔族の術法。

心臓を一瞬だけ麻痺させ、自然死に見せかける。


簡単なことだ。

指を鳴らせば終わる。


それが“任務”なら


だが。


王子は窓の外を見て、静かに言った。


「……ティアラはな。 幼いころ、母を病で失っている」


アルの指が、止まる。


「強くあろうとして、鋼の心を身につけた。

 だが最近……お前が来てから、

 少しだけ“柔らかく”なった」


沈黙。


(殺せない)


魔力が、ほどけていく。


王子が部屋を去ったのは、

それから数分後だった。


そしてその夜。


リシャール王子は、突如、倒れた。


心臓発作と診断された。

遺体に傷も痕跡もなく、毒物反応もなし。


「不自然すぎる」と囁く声が、城の廊下を這った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ