表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『私の愛したティアラ姫』魔族の貴族と人間の姫の愛憎物語  作者: 虫松


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/17

第2話 銀の姫と偽りの忠誠

剣戟の音が、霧に溶けていた。


戦いの最前線。


【アレルシア王国北門】

石造りの古い砦を舞台に、魔界の先遣部隊と王国軍が噛み合うように殺し合っている。


霧は視界を奪い、叫びは方向を狂わせる。

だが、その混乱の只中で、アルはすでに全体を“把握”していた。


(左翼、崩壊寸前。中央、持ちこたえているが指揮が鈍い。

右翼、あそこだけが、異様に整っている)


剣を振るうより先に、戦場を読む。

呼吸の乱れ、足運びの癖、盾の傾き。

アルは一度視線を走らせただけで、敵味方双方の力量と持続時間を測り切っていた。


偽りの傭兵アル。

その正体は、魔族アイゼンハワード。


戦闘とは、技量ではなく構造だ。

どこが折れ、どこが支点で、どこを潰せば全体が瓦解するか。

それを理解した者だけが、生き残る。


そのときだった。


霧の向こう、白銀の閃光が走った。


「退がれ! ここの防衛は私が引き継ぐ!」


若く、澄み切った声。

だが、張り上げた叫びではない。

戦場の騒音を“貫通”する、正確な声量と間。


アルの視線が、自然と引き寄せられる。


甲冑は軽装。

無駄な装飾はなく、動きを殺さない構成。

剣は長剣だが、重心が前に寄せられている突きと斬りを即座に切り替えるためだ。


(……訓練ではない)


白銀の髪を血と泥に汚しながら、彼女は前に出る。

盾役の兵を一歩下げ、自らが半歩前へ。


敵の斧が振り下ろされる。

彼女は避けない。

刃の根元を叩き、軌道を逸らし、次の瞬間には喉元に剣を差し込んでいた。


一連の動作は、速さよりも迷いのなさが際立っていた。


(選択が早すぎる……)


判断、踏み込み、剣筋。

そのすべてが、戦場という“不完全な状況”に最適化されている。


セーラ・ティアラ・アレルシア。

姫であり、王女。


だが

彼女は、指揮官としても、戦士としても、完成度が高すぎた。


挿絵(By みてみん)


「……あれが、王女?」



姫でありながら、剣を取り、盾を持ち、

民を守るために自ら血塗られた戦場へと降り立つ王族。


銀糸のような髪が、泥と血にまみれながらも輝いていた。

その手の剣は、ただ美しいだけではない。

迷いなく、鋭く、命を奪う強さを持っていた。


砦の上段。

死角にならない位置から戦場を見下ろしていたアルは、知らず言葉を漏らしていた。


冷静と計算を信条とする男が、

初めて“予測外”を見た瞬間だった。


「第一接触は成功ですか?」


傭兵団の一人が、軽い口調で尋ねる。

アルは視線を切らず、小さく頷いた。


「近くに入る許可を得た。 王女殿下に挨拶の機会もあるだろう。 我々傭兵の礼儀を、きちんと見せてやろうではないか」


口元には、柔らかな笑み。

だが、思考は別の場所にあった。


(普通ではない。 剣の腕だけではない。

 兵の配置、下がる合図、踏みとどまる間。 あれは“人を守る戦い方”を知っている)


兵に檄を飛ばすだけの王族ではない。

彼女は、自分が傷つく位置を選び、

部下が生き残る確率を上げている。


それは、嘘のない者だけが発する“本物”の覚悟だった。


(……これは、まずい)


アルは、自身の内部に生じた微細な乱れを正確に認識した。


美しさに惹かれたのではない。

信念に、心が反応したのだ。


(私の任務は、この国を壊すこと。 王女に接近し、王家の情報を盗み、

 民の信を崩し、内部から腐らせる)


それなのに


(この姫だけは、 破壊の対象として“歪すぎる”)


ほんの一瞬、そんな考えが浮かぶ。


「……笑止」


アルは、内心で自嘲し、切り捨てた。

感情は不要。

任務は任務だ。


だが、胸の奥に刺さった針のような違和感は、抜けなかった。


その夜。城門近くで、彼は正式に王女への謁見を命じられる。


王都入り。

目的は、セーラ・ティアラ・アレルシアへの接近。

護衛任務を勝ち取り、王宮へ入る

魔王が命じた、任務の本当の始まり。


しかし。


その先で、

自らの天才的な戦闘感覚すら狂わせる“何か”を得て、

同時に、取り返しのつかないものを失うことになるとは。


このときの若きアイゼンハワードは、まだ、知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ