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『私の愛したティアラ姫』魔族の貴族と人間の姫の愛憎物語  作者: 虫松


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第12話 【消耗戦】鐘は、救いではなく

鐘が鳴っていた。


それは祝福の音ではない。

勝利を呼ぶ合図でもない。


「戦が始まった」ことを、国に知らせる鐘。


南の城塞《バリュスト要塞》。

王国最後の防波堤。

この地が落ちれば、王都まで遮るものは何もない。


秋の空は、異様なほど澄んでいた。


その地平線の向こうから、

“それ”は静かに現れた。


帝国軍。


白銀の甲冑に身を包んだ騎士団が、無言で隊列を組む。

戦象部隊の足音が、大地を低く揺らす。

砲撃陣地が淡々と築かれ、

空にはすでに帝国の飛行兵が影を落としていた。


多すぎる。


数ではない。

質と準備が、違いすぎる。


対する王国軍は、その半数。

物資は細く、補給路はすでに帝国の斥候に嗅ぎつけられている。

ここは、長く持たせる場所ではない。


それでも――

兵たちが逃げ出さなかった理由は、ひとつ。


城壁の上に、

王女ティアラが立っていたからだ。


開戦初日。


帝国は試すように攻めてきた。

正面衝突ではなく、探り。

砲撃、散発的突撃、空からの撹乱。


それに対し、王国軍は――

想像以上に、持ちこたえた。


ティアラ姫を中心に構築された防衛陣形。

地形を生かした罠。

投石と火計。

そして、参謀たちの冷静な判断。


アル=アイゼンハワードは、

地図の前で一切の感情を切り捨て、指示を飛ばし続けた。


「前に出るな。耐えろ」

「一人も死ぬな、今日は“時間を稼ぐ日”だ」


その結果、帝国は想定より進めなかった。


城壁の上で、兵たちが叫ぶ。


「我らには姫様がいる!」

「王国は、まだ終わらない!」


ティアラ姫は、その声を聞き、

ほんの一瞬だけ微笑んだ。


だがアルは、その横顔を見ていた。


これは“勝っている顔”ではない。

覚悟を決めた者の顔だ。


日が経つごとに、削られるもの


3日目。

帝国は正面攻撃をやめた。


5日目。

補給路への襲撃が始まる。


10日目。

物資輸送隊が、炎に包まれた。


13日目。

水源に毒が撒かれる。

浄化には時間がかかり、飲料は配給制になる。


15日目。

要塞周辺で採れる食料が尽きる。


兵士たちは、保存食を噛みしめながら夜を越えた。

塩漬け肉。

乾いたパン。

水は一日一杯。


夜になると、

咳。

呻き。

祈りとも呪いともつかぬ声が、石壁に反響した。


「……昨日、また倒れた」

「剣を振る腕が、上がらない……」


それでも、

誰もティアラ姫の前では弱音を吐かなかった。


姫は毎朝、城壁を歩いた。

負傷者の前で膝をつき、

兵の名を呼び、

感謝を告げた。


その背は、細く、

その肩は、日に日に重くなっていく。


25日目――破られる北門


夜。


炎が上がった。


北門だ。


帝国精鋭《灰騎士団》が、夜陰を利用して強行突入。

疲弊しきった守備兵は、踏みとどまれなかった。


「北門、突破されました!!」

「ぐああっ……!」


血の匂い。

火の粉。

悲鳴。


ティアラ姫は、迷わなかった。


自ら馬にまたがり、

燃え盛る門の前へ出る。


剣を掲げ、叫ぶ。


「怯えるな!!

この地は、我らの家だ!!」


声が、夜を裂く。


「私は逃げない!!

一歩も退かぬ!!」


兵たちは、再び立ち上がる。

だが

その目には、確かに“影”があった。


参謀の沈黙


指揮本部。


アルは、拳を握りしめていた。


(もう……限界だ)


勝てない。

数字は、嘘をつかない。


(姫は……)

(この国は……)


彼は地図から目を離し、

炎に照らされる城壁の方角を見た。


これは、英雄譚ではない。

滅びへ向かう物語だ。


そして

その先に、さらに“最悪”が待っていることを、

アルだけが、知っていた。

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