まずは手始めに
孤児院裏口――パン受け取りの日
今日も孤児院の裏口には、パン屋の馬車。
パン屋のおじさんがパンを降ろし始める。
シスターたちは感謝の言葉を口にしながら受け取る間、私は近づくタイミングを見計らう。
(ふふ、ここが勝負どころ。可愛い幼女ムーブ、全力発動)
私は子供らしく近づく。そして無垢な目で見上げた。
「ねえねえ、おじさん!」
「ん? おお、シエラちゃんか。今日も元気だな」
「うん! ねえねえ、おじさんのパンね――だいすき!おいしいし!」
言った瞬間、彼の顔がにやけクリームパンになった。
ちょろい。大人なんて、子供が褒めれば脳の難易度が一気に下がる。
「そ、そうか、ハハハ! 嬉しいなあ!」
「でもね……」
私はしおれてみせる。
ポイントは眉をハの字に、声は少し震え気味。
「……パン、買えなくなるかもって……シスター言ってた」
笑顔がピタっと止まる。
「……え?」
「お金、もう足りないって。だからね、パン買えなくなるんだって」
一瞬、彼は困った顔をした。
でもすぐに大人特有の問題を笑いで処理しようとする雑対応が出る。
「まぁ困ったけどな! ハハ、でもただでは渡せないぞ?
これでも契約よりは多めに持ってきてるんだからな!」
「うん、知ってる。ありがと」
私はニコッと笑い、そこから核心へ――
「ねえ、おじさん。パン、もっと売れたら嬉しい?」
「ん? そりゃ嬉しいさ。売れ残りは困るからなあ」
「じゃあ――私が、売れるようにしてあげる!」
彼はまばたきを三回した。
一回目:理解不能の反応。
二回目:聞き間違い疑惑。
三回目:『あ、子供のファンタジーか』という納得。
「ハハハ! シエラちゃんは面白いこと言うな〜。魔法少女かな?」
「うん。魔法使えるよ?」
全然話聞いてないな…この感じは…
信じる寸前で踏みとどまろうとする大人特有の葛藤顔。
「パンがたくさん売れたら売れた分の少しでもいいからパンじゃなくて、お金ちょーだい!」
「お、お金!?」
「うん。パンいっぱいより、お金欲しい!」
私はにこっと笑いながら手を振る。
完全に「幼児の無邪気な冗談」として片付けられる距離感を保って。
「じゃあね! がんばってね、おじさんのパン! すぐ人気出るから!」
「いや……うん……え? 本当に? いやいや……ま、またな?」
パン屋は混乱したまま帰っていった。
私はその背中を見送りながら小さく口角を上げる。
(さあ、契約更新まであと三日。
魔法契約・偽装版――発動準備完了。)
これで前振りはオーケー。
契約書さえ差し替えれば…




