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魔力は売り物だった



孤児院の朝は、決して物音がしないわけではない。ただ、どの音も絶望の重さを帯びていて、うるさく聞こえるだけだ。杖を引きずる老人のような足音、パン切り台の木と金属がこすれる音、そして修道女のため息――


ある日シスターが誰かと話してるのを聞いた。

それはいつも取引してるなにかの取引先?のようだった。

どうもその取引先はシスターに魔力を売ればこの孤児院も安泰だとか言っていた。

私は驚いた。

魔力?売る? どういうこと?

取引先はかなりしつこくシスターに勧めていた。

だがシスターは頑なに断っていた。

どうやらシスターの魔力は売買?は禁じられているらしい。

至極真当な答えだった。

シスターのような聖職者?と魔力売買?は結びつかない.。それはなんの反論か余地もないように思えた。

この世界でもそういうことは同じ価値観があるのかもしれないと。



「ま、魔力って……売り物なの?」

魔力は商品なのだ。

これをたくさん集めて売れば儲かる

魔力を担保に資金を集められる

集めた資金で魔力を買うことも



頭の中が、途端に市場図に切り替わる。現世の用語がそのまま使える。担保、利回り、先物、ヘッジ。我慢できなかった。もしこれが貨幣ならば、前世で私が使っていた手法はここの奴らにも使える。というか――使うべきだ。ここで金(魔力)を集めれば、孤児院の皿がパンで満ちる。


だが、問題がある。私は幼女だ。金(魔力)があるかどうかさえ分からない。子供の身体で魔法を使えたら即商品になるが、そもそも魔法が使えるかもわからない。そこで私は試したくなった。――手近なことから始める。


最初に試したのは、小さな火を作ること。部屋の蝋燭に向かう。集中して火がつくところをイメージ。誰でもやることだ。

何度もやってみる。だめだ。


何度も何度も試し、失敗しては怒り、また試す。そんな時だった。ある日院の一人のシスター、エリサが礼拝堂で膝をついてなにかをしているのを見た。私が見たのは、彼女が手を振るたびに小さな光がポンポンと空中に現れて、蝋燭に火をつけていることころだった。


(これが魔法か)


私は脈打つ希望と、冷静な分析を同時に感じた。エリサの動作を目に焼きつけ、音を耳に刻む。口の中で詠唱のリズムを再生する。言葉というよりは、音の高さとイントネーション、呼吸の長さだ――


誰もいない礼拝堂。

エリサの詠唱を、一か八かで真似る。口が不器用にその音をなぞり、体は子供なので詠唱もたどたどしい。頬に熱が帯びる。私は息を吸って、ゆっくりと手を差し出した――ただ、それだけのつもりだった。


すると、手の先に――小さな光がもや、と現れた。最初は光の反射かと思った。それをエリサのように蝋燭に近づける。

すると…

ぱっと蝋燭に火が…


「やった!」


私の胸の中を何かが駆け抜ける。驚きと、微かな歓喜。それは子供の歓喜ではなかった。全身が締めつけられるほどの「勝ち」の匂いだ。



「シエラ……あなた、それ、どうやって?」


シスターの一人に見られてしまった。


私の手の中の光は、消えかけていた。


「えへへ、私もできたの。すごいでしょ?」

わざとらしく幼女ぽく言ってみた。



その晩、私は寝床で目を開けたまま考えた。魔力がある――それは商品の原石だ。売る。貸す。担保にする。私はこれで孤児院の資金を作れる。だが、無知は危険だ。急に目立てば、私の生存にとって最悪のシナリオだ。


必要なのは知識と情報だ。幸い、この孤児院には小さな書庫があり、古い羊皮紙と本が眠っていることを私は既に知っていた。扉は普段は閉められているが鍵はかけられていない。

私は計画を立てた。魔力に関する基礎を読み、理解を始める。そもそも、どうして私がこの世界の文字を読めるのか。理由はわからない。だがページをめくると理解できる。これは便利であるとだけ思った。


私はついに書庫に潜り込んだ。埃の匂い、古紙の軽いざらつき。暗がりの中で、私は一冊の分厚い巻物を見つける。表紙には「魔力論」と書かれていた(字体は古いが意味は明瞭)。中を開くと、魔力の単位、流れ、価値、契約法、魔力の会計処理まで事務的に書いてある。一行読むごとに、私の頭の中で既視感のような現世の用語が線を結んでいく。




私はページを貪るように読んだ。時間はたっぷりあった。子供はなにもすることがない。時間を見つけては一人で書庫にいって本を読んでいた。

私は脳内で既に「魔力を資本化する」スキームを設計し始めていた。現世でやっていたことを、魔法で再現すればいいだけだ。問題は技術だった。


それからの数ヶ月は長く、そして充実していた。昼の書庫潜入、夜の詠唱練習、暗闇での小さな魔術実験の繰り返し。最初はランプ一つ分の火さえまともに灯せなかった私が、やがては小さなルーンを並べて羊皮紙に魔術式を刻めるようになった。手が震えたり、詠唱が途切れたりするとあちこちから変な物音、鼠の鳴き声のような物音がして、焦るがそのうち慣れた。


学んだ魔法は、ほとんどが「魔力流通」に関するものだった。私は意図的にそうした。



どれも最初は失敗の連続だった。契約刻印で指に小さな印が残り、数日間指が痺れて鉛筆も握れなくなった。


そして何より大事だったのは、魔力が価値を持つ世界では、情報とシステムを押さえる者が最も強いという事実だ。私はそれを、現世で身を以て知っていた。だから書庫にあった“魔力流通論”は、私にとって教科書であり、武器であり、また祈りのようなものでもあった。


数ヶ月の勉強と実験の末、私は孤児院のために最初の“魔力商品”を作った。村のパン屋に融通した魔力で、パン屋は繁盛し、孤児院へ食糧と売り上げのいくらかを渡す。契約にはロックをかけ、違約監視を入れ、売上に応じて利益が計算される。売上や渡す利益をごまかせばこちらにすぐわかる。問題はそれをどうやって契約させるかだ。

私はそれを実行に移した。


毎日シスターの行動を観察するためにまた幼児としての武器の発揮することにした。

明るくはしゃぎながらシスターと追いかけっこ。

かくれんぼ。 

そしていろんな方法でパン屋との契約書がどこかにあるはずだと探し回った。

どうやら院長の部屋にあるらしい。

院長の部屋にかくれんぼで隠れた時に探しまくった。

そこで契約書を見つけた。

でも勝手に契約書は変えられない。

まず初めはパン屋だな…

私の魔力を認めてもらわないと…


計画ではこうだ

パン屋に売上あげてあげると宣言する

誰も信じないだろう 

でも実績が出れば信じるはず…

契約書を私の作ったものと差し替えれば…


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