神に導かれた未来
列車のコンパートメントで、シエラは一人、足を組んでくつろいでいた。
柔らかな揺れ。一定のリズムで刻まれる車輪の音。
「……喉、乾いたな」
そう呟いて立ち上がる。
連結部を抜け、カフェ車両へ。
昼下がりの時間帯で、客はまばらだった。
「レモンソーダ、ください」
「かしこまりました」
ほどなくして、グラスに氷が入った、淡い黄色の飲み物が運ばれてくる。
そのスタッフは、グラスを置いたあと、ほんの一瞬、言いよどった。
「あの……」
「なに?」
シエラが顔を上げる。
「なにか、いいことでもあったんですか?」
少し困ったような、でも仕事上の笑顔。
「どうして?」
「いえ、失礼しました」
すぐに頭を下げる。
「ただ……とても、いい顔をされていたので」
シエラは一瞬だけ目を瞬かせ、
それから、にこにこと笑った。
「そう見える?」
「はい。すごく」
「ふふ」
シエラはストローを指でくるりと回しながら、
何気ない調子で言った。
「ねえ」
「はい?」
「あなた、神を信じる?」
スタッフは、明らかに驚いた。
「え……?」
予想していなかった質問。
言葉に詰まる。
シエラは変わらず、にこにこしている。
「あなたも、あなたの周りの人もね」
さらりと続ける。
「全部、神の意思で動かされてるって考えたことある?」
スタッフの喉が、こくりと鳴った。
「未来も全部、神が決めてるの」
一瞬、空気が止まったように感じられた。
スタッフは、すぐに営業用の笑顔を作った。
「……はは。そういう考え方も、ありますよね」
声は明るい。
だが、目は笑っていなかった。
この人、ちょっと……
そんな感情が、隠しきれずに滲んでいる。
「ごゆっくりどうぞ」
そう言って、そそくさと離れていく。
シエラはそれを見送り、
ようやくレモンソーダに口をつけた。
炭酸が弾け、喉を冷やす。
「おいしい」
小さく満足そうに呟いてから、
グラス越しに揺れる車内を眺める。
そして、誰にも聞こえない声で。
「悪魔なんてひどくない?神でしょ(笑)」
列車が少し揺れた。
「――見えざる神の手、か…」
その言葉は、
経済学の比喩であり、
魔術式であり、
そして今や――
現実そのものだった。
レモンソーダの泡が、静かに消えていく。
その裏で、
世界はすでに、
“神”に導かれた未来へと進んでいることを、
誰一人として知らないまま。




