魔力争奪戦
「買収の報告です」
秘書役の社員が差し出した端末を、シエラは受け取らなかった。
宙に浮かぶ魔術式を、指先で軽く弾く。
「見なくていい。結果は分かってる」
淡く光る術式が回転し、国全域の魔力流通図が立体表示される。
赤と青の線が絡み合い、一本の流れへと収束していく。
「私の魔術式は完璧。魔力は嘘をつかない。最適解の魔術式に集まるだけ」
「ですが……今回は、予測と違います」
その言葉に、シエラの手が止まった。
「違う?」
秘書は一瞬、言葉を選ぶ。
「首都の巨大企業が、対象企業の魔力を確保しきれていません。
こちらがの術式が……解錠されています」
シエラは、ゆっくりと振り返った。
「解錠? 誰が?」
「……金融魔術師です。個人名義の企業ですが、
魔力量と術式精度が異常です」
一拍。
そして、シエラは笑った。
「へえ……」
それは、楽しそうな声だった。
「この世界に、まだ“遊べる相手”がいたんだ」
――――――――――――――――――
同時刻、買収を仕掛けられている企業の会議室。
ドーム状のその部屋はシエラの働いてる部屋とよく似ていた。空間には無数の魔術式が浮かんでは消え、流れていく魔術式達、明るく輝いたり、点滅を繰り返す魔術式達。
「間違いないのか?」
社長の声は低く、疲れていた。
「はい。背後にいるのは、あの女です」
部下の社員が答える。
対面に座る金融魔術師は、淡々と告げる。
「Asterion Magia Capital。
そして、シエラという女」
社長は歯を噛みしめる。
「……あの時は、救われたと思った…」
「彼女は御社を救ったとは考えてはいません」
魔術師は即座に否定した。
「最適化しただけです。
あなたの会社も、社員も、業界も」
「なら、なぜ今……」
社長はシエラの言葉を思い出した。
「彼女は次の段階に進んだ」
魔術師は手をあげてその手をす〜と横に流した。その空間をなぞるように。
そこに浮かぶのは、複雑に絡み合う二つの魔力構造の魔術式。
「彼女は“自分以外の答え”を、許容できなくなったのです。」
――――――――――――――――――
AMC本社・研究所。
シエラは、相手の術式を解析しながら、興奮を隠せずにいた。
「すごい……この組み方。
この世界の理論で、ここまで来るなんて」
クロウリーが腕を組み、背後から言う。
「感心してる場合か?」
「してる場合だよ」
シエラは振り返らずに答える。
「だって、私の魔術式を解錠するなんて!最高だよ!おまけに魔力を奪いに来てるんだよ?これが最高に楽しい!おもしろい!やってくれるなあ!
最高じゃない!」
「……負ける可能性もある」
その言葉に、シエラは初めて振り向いた。
「負ける?」
きょとん、とした表情。
まるで、その概念自体が理解できないかのように。
「負けるって、何?」
クロウリーは言葉を失う。
「この世界は、私が解析して、最適化して、
再構築するためのフィールドでしょ」
シエラは、静かに笑った。
「それを否定されるなら――」
彼女の周囲で、術式が一斉に輝度を上げる。
「壊すしかないじゃない」
クロウリーは、背筋に冷たいものを感じた。
(こいつは……)




