転生して魔王になったので世界征服
魔術式の再配置が一段落し、ドーム内の光がわずかに静まった。
それでもなお、空間は完全には止まらず、淡い輝きが呼吸のように明滅している。
クロウリーは腕を組み、シエラの背中に問いを投げた。
「……お前には、夢というものはあるのか?」
それは、経営者としてでも、研究者としてでもない。
一人の人間に向けた、素朴な問いだった。
シエラはすぐには答えなかった。
指先を止め、宙に浮かぶ魔術式を見上げる。
しばらくの沈黙。
やがて、彼女は小さく息を吐き、口元を緩めた。
「そうですね……」
考えるふりをしてから、くすりと笑う。
「世界征服でも、しようかな(笑)」
クロウリーの眉がわずかに動く。
「……本気で言っているのか」
「さあ?」
シエラは肩をすくめる。
「面白そうだし(笑)」
クロウリーは半ば呆れ、半ば冗談めかして言った。
「魔王にでもなるつもりか」
「魔王か…それもいいですね!(笑)」
シエラは振り返り、にこやかに笑った。
かと思ったらよほどおもしろいと感じたのか本格的に笑い始めた。その笑い声は一人でいるときにするような恥も外聞もないその笑い声だった。
その表情には、悪意も野心も感じられない。
「転生して魔王になる、っていうのはテンプレだから…」
まるで独り言のように、誰に聞かせるでもなく呟く。
クロウリーは一瞬、言葉を失った。
「……何の話だ」
この世界に「転生」という概念は存在しない。
死んだら終わり。
魂は循環するか、消えるか、それだけだ。
だから彼には、シエラの言葉が理解できなかった。
シエラはその反応を見て、少しだけ首を傾げる。
「ああ、気にしないでください ただの戯言ですからね(笑)」
そう言いながら、再び両手を動かす。
静まっていた魔術式が、また生き物のように動き出す。
クロウリーはその光景を見つめながら、言い知れぬ違和感を覚えていた。
彼女はこの世界に属している。
だが同時に――
どこか別の物語の視点で、この世界を眺めている。
その感覚だけが、胸の奥に重く残った。




