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スクリーンの中で

吸収合併後――パーティー会場の夜

新社名のロゴが、会場の中央で静かに輝いていた。

磨き上げられた床。

柔らかな魔力灯。

地方企業の集まりとは思えないほど、洗練された空間。

――吸収合併を経て生まれた、新会社のスタート記念パーティー。

「今日はお越しいただき、ありがとうございます」

依頼主の社長は、終始機嫌が良かった。

疲労の色はあるが、それ以上に達成感が勝っている顔だ。

「あなたのおかげです、シエラさん」

「仕事ですから」

シエラはグラスを口に運ぶこともなく、軽く頷いた。

社長は人混みの中から、ひとりの社員を指差した。

「彼は合併した会社にいた社員です」

「合併前は……正直、ひどい扱いでした」

社長は少し声を落とす。

「あの会社の経営状態に危機感を持って、

 自分で研究して、情報を集めて、

 何度も上司や経営陣に提案していたそうです。それだけではない。自分の業務内で改革を行なっていました。それは聞いたら称賛に値するものでした。役員にだってなれるくらいのね…」

シエラは、黙って聞いていた。

「ですが、提案には返事はなかった。改革にもなんの評価もなかった。それどころか次第に煙たがられ、最後は……いわゆる窓際です…」

社長は悔しそうに眉をひそめる。

「愚かですよ。あれほどの人材を、活かせなかった」

視線を戻す。

「合併後、彼は今や中核です。提案は現実的で、視野も広い。今の新体制には、欠かせない存在になっています」

誇らしげな声だった。

「……前の会社が、どれほど愚かなことをしていたか。どうしても経営者の質が担保されないのが中小企業、それもオーナー企業の宿命ですね…今なら、よくわかります、私も気をつけないと(笑)」

社長は満足そうに息をつく。

「人は、環境で輝く。

 私は――彼の人生に、価値を与えられたのかもしれない…」

半ば独り言だった。

その言葉を聞いて、

シエラはゆっくりと社長を見た。

「ええ」

にこり、と微笑む。

「あなたは、その社員の人生に価値を与えました」

社長の表情が、ぱっと明るくなる。

「正しい経営者のあり方です」

「……!」

胸を張る社長。

その背中は、まるで英雄のようだった。

――だが。

シエラの内側は、凪いでいた。

(……価値、ね)

感慨も、共感も、羨望もない。

(よくできた話)

頭のどこかで、そう分類する。

(感動的。

 努力が報われ、

 才能が活かされ、

 人生が好転する)

(……映画みたい)

グラスに映る光が揺れる。

(でも、私には関係ない)

ここは、ただの転生世界。

登場人物が生き生きと動く、

精巧な舞台装置。

人の人生も、

企業の再生も、

幸福な結末も。

すべて――物語の演出に過ぎない。

「……シエラさん…」

「はい?」

呼ばれて、初めて現実に戻る。

「助けていただいてこういうことをお伝えするのは大変恐縮なんですが…」

社長がニコニコとシエラの顔をみていた。


「はい?なんでしょうか?」

シエラは機嫌よく返事をした。


「裏切るなよ…」


一瞬シエラの顔から表情が消えた。

「裏切るな、という契約はありませんね(笑)」

また笑顔に、いつもの営業スマイルに戻っていた。

「たしかに…」

社長は即答だった。

その目はもうシエラをみてはいなかった。


「とても、良いパーティーですね」

そういうシエラの笑顔。

完璧な営業スマイル。

社長は満足そうに笑った。

その背後で、

社員たちは未来を語り、

新しい会社の成功を疑っていなかった。

シエラだけが――

そのすべてを、

スクリーン越しに眺めている観客だった。

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