表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/25

祝杯


 社長室の空気は、まだ冷えていた。

 数時間前まで、ここでは解雇通知が配られていた。

 地方の中堅企業。

 不良魔力を抱え、資金繰りに詰まり、買い叩かれた側だ。

 社長は泣いていた。

 中には長年一緒にやってきた社員もいた。そういった社員の名前を、一人ずつ読み上げながら解雇通知を手渡していた。

 私は、それを黙って見ていた。

社員のほとんどが私を睨んでいた。

それはそうだ。

人生を翻弄する、いわゆる悪役なのだから。

悪の元凶。

今回の案件では私の存在はそういうことだ。


 解雇通知の配布が終わり、契約が締結され、

 会社は社員が半分になった。

 夜。

 同じ社長室で、今度はテーブルに酒が並べられる。

「……正直、胃にくるな」

 社長が、震える手でグラスを持つ。

「でも、あなたの決断のおかげで会社は生き延びた。残った社員は感謝していますよ。あなたは最適解を選択したんですから(笑)」

 私は即答した。

「………」

 社長は苦笑した。

「社員を半分切って、それでも“最適”と言えるあなたは……すごい」


 私は、グラスを手に取った。

 琥珀色の液体が、光を反射する。

 ――綺麗だ。

「素晴らしい成果でしたね」

 私は、笑った。

「不良魔力を切り離し、

 資産価値を再定義し、

 再編後の利益率は想定以上」

 社長が、戸惑ったように私を見る。

「……あの、社員が……」

「ええ」

 私は、遮った。

「泣いていましたね」

 そして、私は本当に楽しくなって言った。

「ですが、その感情とこの結果は、無関係です!あなたはこの会社を残すことで取引先にも貢献しています!それにつながる社員とその家族にもね!」


 私はグラスを掲げる。

「祝いましょう!あなたとこの会社の希望ある未来に!」

 社長が、固まる。

「え?」

「あなたは、優秀です」

 私は笑顔のまま言った。

「正しい決断を下せた」

「それは、称賛に値します。いい仕事をしました。経営者として最高の仕事でした(笑)」


 沈黙。

 クロウリーが、初めて言葉を失っていた。

 彼は冷酷な人間だ。

 切ることに躊躇はない。

 だが――喜ばない。

 必要だからやる。

 それだけだ。

 だが、シエラは違った。


「では、乾杯を!」

 私はグラスを軽く打ち鳴らした。

「新しい会社の誕生に!」

 社長は、震える手で応じるしかなかった。

 グラスが触れ合う音は、やけに軽かった。


 社長が席を外した後。

 クロウリーが、低く言った。

「……お前は、なぜ笑える?」

 私は首を傾げた。

「成果が出たからです」

「人が、泣いていた…」

「はい」

「罪悪感は?」

 私は、ほんの少し考えた。

罪悪感?この場合の罪悪感…

 

「罪悪感?なにか私は犯罪を犯しました?違法行為でも?(笑)」

 

 考えた結果、存在しなかった。罪悪感はなにも。



「この世界は」

 私は、淡々と言う。

「私にとっては、実験場の一つでしかありません」

「人も、制度も、感情もすべて実験の条件です」

 クロウリーは、背筋が冷えるのを感じていた。


「達成感はあります」

 私は、心底楽しそうに微笑んだ。

「とても」

「私の魔術と魔力が、 また一段階、可能性を示した」

「それが、楽しいんです!(笑)」


 クロウリーは、グラスを置いた。

 しばらく黙ってから、笑った。

「……なるほどな」

「お前は…」

 彼は、初めて本音で言った。

「最初から、こちら側にいない」

 称賛と、

 ほんのわずかな恐怖を込めて。

「最高だ、シエラ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ