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魔力病院


 その魔力病院は、地方都市にあった。

バブル期に高値で魔力を買い込み、崩壊後に負債だけが残った不良資産の塊だ。

「……小児病棟がありますね」

 資料を見ながら、私は淡々と口にした。

「あります。慢性魔力欠乏症の子供が三十七名。

 魔力供給が止まれば、生存率は――」

「言わなくていい」

 クロウリーが遮った。

 感情は不要だ。


 理事室

理事長と病院長が並んんでいた。

理事長は自分や理事達が助かればそれでいいのが見え見えだった。

しかし、病院長はそうではなかった。

病院長は、会議室で深く頭を下げた。

「お願いします……。この魔力設備さえ維持できれば、子供たちは……!」

 私は提示書類を机に置く。

「当社が保有魔力と設備を買収します。 価格は、負債総額の二割」

「に、二割……!?そこをなんとか…」

理事長は汗を拭きながらニヤニヤ笑いながらそう持ちかけてきた。


「できません」

 即答だった。

「医療魔力は収益性が低い。

 研究・軍事・都市インフラ向けに転用します」

 病院長の顔が、真っ白になる。

「そ……そんな……子供たちはどうなるんですか……!」

 私は一拍、間を置いた。

 ――感情を挟む余地を、わざと作った。

「その後のことは私達の関知しないところです。医療機関として方針までは私達は関与できません。国の福祉制度もありますし。他の病院に移管を検討されては。ただし、魔力供給の継続は保証されませんが」

 沈黙。

 病院長の喉が、ひくりと鳴った。

理事長はまだ汗を拭き続けている。

「やむ得ませんね…」

そのことばは相変わらず責任逃れの一言だった。

こんな経営状態にしたのは理事の責任だ。

ここの理事達にも子供らのことなどどうでもいいのだ。

哀れなのは病院長。

一応医者としての責任を感じている。

理事長よりはまし。

しかし彼にもどうにもできない。

優しそうな病院長は一生後悔するかもしれない。

それでもそれは私にはこの世界の出来事の一つだ。

この世界の一人の病院長が一生後悔しようが別の世界の私にはなんの感情も持てない。


 契約締結後、施設の魔力は停止された。

 病院は閉鎖。

 子供たちは別の施設へ分散移送。

 その夜、私は屋上で夜景を見ていた。

 胸は痛まない。 

架空の物語の一つのエピソードに過ぎないから。

それでも少しは疲れがあった。

 でも、それは“仕事をやり遂げた後の疲労”にすぎない。

「迷いはないか?」

 背後から、クロウリーの声。

「なんの迷いですか(笑)……」

 私は正直に答えた。

「私たちが買ったおかげであの病院は助かったんです。でなければもっと大変なことになっていましてたよ。」

「そうだ」

 クロウリーは満足そうにうなずいた。

「君は、正しい。そしてで非情だ。」

 私は問い返した。

「非情?私が?」

私はおかしくて笑ってしまった。

このボスには似合わない言葉だったからだ。


「ボス、もし、世論が騒いだら?」

「構わん」

「もし、私が“魔力で救える”と分かっていても?」

「なおさら救うな」

 クロウリーは、はっきり言った。

「一度救えば、次は“なぜ救わない”になる。

 市場に感情を持ち込めば、必ず破綻する」

 ――なるほど。

 私は、ここで完全に理解した。

 この人の冷たさは普通に冷たい(笑)。

それだけだ。


 翌日。

 新聞の片隅に、小さな記事が載った。

「魔力病院、経営破綻。魔力投資会社による資産買収」

 それだけだ。

 子供たちの名前も、

 医師たちの顔も、

 何も載らない。

 世界は、静かに回り続ける。

 私はその記事を畳み、クロウリーに言った。

「次の案件は?」

 彼は微笑んだ。

「――孤児院だ」

 私は、一瞬だけ、思考を巡らせた。

この世界のスタート地点も孤児院だった。

 

「……資料をください」

 さあ、次の仕事だ。


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