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魔力を喰う者


 その国は、沈んでいた。

 街は静かで、人々は下を向いて歩いている。

 魔力バブル崩壊後、何年も経ったというのに、空気は重く澱んだままだ。

 かつて“魔力立国”を夢見た国。

 今は、不良魔力の墓場になっていた。

「……ここまでとはな」

 高層ビルの会議室から街を見下ろし、エドガー・ヴァン・クロウリーは静かに呟いた。

「シエラ。予定通りだ。

 ――買え」

 短い指示。

 それだけで十分だった。


 最初の標的は、中堅魔力会社《フレイム・リンク社》。

 かつては魔力集積と販売で名を馳せた会社だ。

 だが、バブル期に高値で仕入れた魔力が、今では“使えない魔力”になっている。

「この魔力、価値はほぼゼロです」

 私は淡々と資料を並べる。

「劣化が進み、単体では発動率が三割以下。

 再調整には、莫大なコストがかかる」

 社長の顔色が変わる。

「だ、だが……! それでも我々には社員が……!」

「承知しています」

 私は微笑まない。

 同情もしない。

「ですから、今なら買い取ります」

 提示した金額は、帳簿上の価値の十分の一。

 いや、実質的には“処分費用込み”の値段だ。

「……そんな……」

 社長の声が震える。

「受け入れなければ、どうなりますか?」

 私は事実だけを告げた。

「半年以内に倒産。

 社員は解雇。

 保有魔力は、無価値のまま凍結されます」

 沈黙。

 やがて、社長はペンを取った。

 ――契約成立。


 次は個人だった。

 かつて魔力を担保に借金し、返済できずに追い詰められた一家。

「この魔力……家を建てるために買ったんです……」

 男は、震える手で魔力証明石を差し出した。

 私は一瞬だけ視線を落とす。

(家族。子供。生活)

 ――関係ない。

「相場は、こちらです」

 提示額は最低水準。

 だが、現金だ。

「……お願いします」

 男は頭を下げた。

 魔力は私たちのものになり、

 彼の人生は、彼自身のもののままだ。

 それ以上でも、それ以下でもない。


 買い集めた魔力は、金融魔術で再構築された。

 弱い魔力を分解し、

 特性を抽出し、

 組み合わせ、最適化する。

「炎魔力と防御魔力を組み合わせろ。

 持続性を上げろ」

「了解」

 結果、生まれたのは――

 高性能で汎用性の高い“商品魔力”。

 それは、国防、医療、都市インフラ、あらゆる分野で使えた。

 そして、高値で売れる。


「よくやっている、シエラ」

 クロウリーは、完成した魔力結晶を眺めながら言った。

「君はもう、この国の人間じゃない。

 市場の人間だ」

「……はい」

 かつて孤児院で、

 パン一つの値段を気にしていた私。

 今は、国の魔力価値を左右している。

 誰かの人生がどうなろうと、

 会社が潰れようと、

 社員が路頭に迷おうと。

 それは、私にはなんの関係はない。

所詮私はこの世界の住人ではない。

この先どうなるかは私も知らない。

だが、私にはここになんの思い入れもない。

 だから躊躇はなかった。

 市場は感情を持たない。

 なら、私も持たない。

「次の買収先は?」

「地方魔力銀行だ。

 ――骨までしゃぶれ」

 クロウリーの指示に、私は静かにうなずいた。

 こうして私は、

 この国で最も嫌われ、

 この国で最も必要とされる存在になっていく。

 ――魔力を喰う者として。

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