魔力超大国へ
魔力集積国家
シエラをスカウトした元魔力省長官エドガー・ヴァン・クロウリーと共に渡った国は、
私の知るどの国とも違っていた。
「……すごい」
首都の空に、魔力の流れが可視化されている。
都市全体が巨大な魔術回路のように脈動し、建物ひとつひとつが魔力を吸い、流し、変換していた。
「ここが《ユナイテッド・アルカディア》。
世界で最も魔力が集積し、最も魔術が進歩した国だ」
エドガーは誇るでもなく、淡々と言った。
共和制の国家体制…
自由な経済活動…
極端な能力主義…
はびこる拝金主義…
大きな貧富の格差…
世界中で活躍するグローバル企業…
前の世界でもこんな国はあった…
この世界では、魔力は均一ではない。
ある者は「炎に特化した魔力」を持ち、
ある者は「記憶を操作できる魔力」を持ち、
またある者は、ほとんど実用性のない、微弱な魔力しか持たない。
だが――
この国の魔力投資会社は、それを無価値とは見なさなかった。
「シエラ、見ておけ」
案内された研究施設で、私は息をのんだ。
無数の魔力が、結晶化され、分解され、再構築されている。
「弱い魔力を買い取り、集積し、金融魔術で最適化する。
単体では意味のない魔力も、束ねれば“兵器”になる」
「……国家転覆も、理論上は可能ですね」
「可能、ではない。すでに“実績がある”」
そんな大事なことをさらっと言わないでほしい。
シエラはそう思ったが、その裏にある恐ろしい力に憧れる自分がいた。
魔力投資会社は、銀行であり、証券会社であり、研究機関だった。
魔力の買取
魔力を担保にした融資
魔力の集積と変換
魔力デリバティブ(未来魔力の先物契約)
前世で見た金融商品が、全部、魔術として存在している。
(……やっぱり、私の世界だ)
私は研究員として毎日金融魔術の研究に集中した。次々と新しい商品を生み出していた。
たしかに私には魔力があった。
でもそれだけではない。
前世の経験からくる閃きとでもいうのか、そんなものが加わっていたこともたしかだ。
そして次に作り上げた商品の運用担当としての任務にも就いた。
そこでも前世の経験を活かして頭角を現していった。
保有魔力の組み合わせによる最適化。
魔術の効果を最大化するための分散配置。
リスク魔力の切り離し。
「この子、魔力より頭が危険だぞ」 「いや、むしろ魔力と頭が両方危険だ」
評価は上々だった。
やがて私は気づく。
この国は、魔力を使って世界を動かす側であり、
かつて私がいた国は、動かされる側になりつつあることに。
バブル崩壊後、回復できず、萎縮し、
魔力規制だけが厳しくなったあの国…
「帰る時だ、シエラ」
ある日、エドガーが言った。
「投資会社として、あの国に入る。
底値だ。これ以上は下がらない」
「……私を連れて?」
「ああ。
君は“元その国の人間”で、なおかつ“内部事情を知っている”。
最高の切り札だ」
私は小さく息を吸った。
(孤児院から始まって、学園で監視されて、
今度は――投資会社の一員として帰国、か)
なんておもしろい人生だろう。
最高に。
「わかりました。
――徹底的に買いたたきましょう!」
自然と笑顔がになっている自分がそこにいた。
今の自分なら可能性は無限大だ。
前世とは違う。
この世界は私のためにある。
私の可能性を無限に発揮できる。
それを徹底的に追求することが私がこの世界に転生した意味だ。
それ以上はあってもそれ以下はない。
あの国、転生後の。
あの国は私の実験場になるんだ。
こんなに未来に希望があってワクワクすることはない。
その夜、シエラは興奮して全然眠れなかった。




