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吸血鬼なり

目が覚めた。

いつもと変わらない風景。見渡す限りの山、山、山。

今日こそは前に進もう。そう何年も前から毎日毎日思い続けてきた。

でも、今日こそは進める気がする。何にも頼らずに明るい場所へ行ける気がする。

よし、行こう。そう心に決めて山、ゴミ山をかき分けて進む。

そして、ドアノブをつかんだ。少しだけ引っ張る。

その久しぶりに見た光のまぶしさに負けて、ドアを閉めた。

そう、俺は吸血鬼なのだ。だから外には出ない。ただ閉ざされた空間の中に一人こもり続ける。

吸血鬼は日の光を浴びると死んでしまうのだ。ニンニクにも弱い。

そう自分に言い聞かせてきた。

でも現実は違った。俺は日の光を浴びても死なないし、ニンニクにも弱くない。

ただ、中学を卒業して一度も高校に行かず、家からも出たことのない引きこもりだ。

俺が引きこもったとき、母はショックで倒れ、父は怒り狂った。

きっかけは些細なことだった。ただ何となく学校に行きたくないそう思っただけだった。

そこからずるずると行かなくなり気づけば学校に行くことはなくなった。

親に迷惑をかけていることも疎まれていることも理解している。

だからこそ外に出ようと努力はしているつもりだが長年こもってたせいで外に出にくい。

明日こそ出よう。そう思った時だった。父が押し入ってきた。

「お前のせいで、お前のせいで母さんは!!」

父はとっくの昔に我慢の限界を迎えていたのだろう。俺のせいで倒れた母さんの分まで稼ぎ、いくら稼いでも改善されない家庭環境に。

改善も何もすでに壊れていたのだろう。あの頃の優しかった父と自由にさせてくれていた母はもういない。

「勇希、すまない」

そう言って父は持っていた果物ナイフを俺の腹に深く差し込んだ。父からの恨みとほんの少しの明るい家庭への希望と共に俺の意識は深い闇の中へと落ちていった。

そうして俺こと木村勇希は生涯を閉じた。年齢なんか忘れた。だがとてつもなく長い人生だったように感じた。

願わくば来世では希望と安寧に満ちた世界を。

~~~~~

目が覚める。ここはどこだろう。真っ白な天井。体が動かない。

目だけ動かしてみる。どこを見ても真っ白。

まっすぐ前、そこが天井なのかすらわからない。自分がどこを向いているかさえ。

体が動かないというのも不可解だ。

そもそもなぜ俺はここにいるのだろうか。何も思い出せない。

ここはどこなのだろう。ただひたすらに無。何もない。

しばらくそんなことを考えていると、突如として空間がゆがんだ。

ゆがんだという表現が正しいのかはわからないが、無だった空間が捻じれて、切れて、生まれた。

そこには穴。そこはどこにつながるのだろうか。

この何もない場所から抜け出したいその一心で穴へと近づこうとする。

しかし、体は動かない。自分の無力さを知っ『』

その無力さを悔やんでいるとき、穴からは一人の女性が出てきた。

とてつもなく整った容姿。いうまでもなく知らない人。

人かどうかも怪しい。

「だ、、れ、、、、」

気づくと私は問いの言葉を発していた。声は出せたのか。

するとその女性は言った。

「お前は死んだ。父親に刺されて、な。」

思い出した。父は俺を刺した。父は俺を恨んでいた。幸せな家庭を壊した俺を。

そうだ、俺は死んだのだ。ならなぜこうして話せる、見える。

「ここはどこだ。」

そう問うしかなかった。

「ここは死後の世界。そして私は死後の世界を管理する者。あなたたち人間からは女神や死神、悪魔、神様とか呼ばれている奴だ」

と、女性は言った。

「そうか、ならとっとと用事を済ませてくれ。俺はもう死にたい。」

それは事実だった。父にも母にも迷惑をかけ生きてきた俺にこのような時間を割く女神もかわいそうだ。

「珍しいな。ここへ来た者たちはみんな口をそろえて『異世界転生できるんですか?』などと現世の知識だけで話しかけてくる。もちろん異世界転生など存在しない。」

女神はそういった。そんなことは知っている。俺は世の中にあふれている空想を信じるような人間ではなかったから。人間なんて死ねば意識が消え、そのまま終わりだろ。

そう考えていると女神はまだ続ける。

「だが、お前には3つの選択肢をやろう。1つ目はこのまま意識を消して完璧に死ぬ。2つ目は記憶を持ったまま現世に赤子として転生する。3つ目はそのまま現世に戻し更生するチャンスをやる」

驚いた。死んだ人間の選択肢が三つもあるなんて思いもしていなかった。

生前親不孝という悪行を重ねた俺は地獄にでも落とされるのだとばかり思っていた。

それでもここまで破格の選択肢を示されて1つ目を選ぶほど死を受け入れられてはなかった。

これまでたくさんの人を困らせて生きてきた俺にこんな権利があるとは思っていない。

でも、叶うのならもう一度やり直したい。

謝って済むことじゃないのもわかってる。それでも謝りたい。自己満足だなんてわかってる。

自己満足でもいい。それでも今までの償いをしたい。だから......

「異世界へと転生させろ」

女神は目を見開いた。

「は?私は心の中が読める。だからわかるが、償うのではなかったのか?」

俺は食い気味にこう答えた。

「お前こそ何を言っている?俺は吸血鬼の神祖ぞ?俺がなぜ償う必要がある。貴様は黙って異世界へと送ればいいのだ。俺の頭を勝手にのぞいた愚行はそれで許してやる」

場が凍り付いた。俺はとっくに壊れていたのだ。俺は吸血鬼なんだ。こんな女神なんざ秒で殺せる。

「そこまで女神を侮辱しますか。ならばこのばで消して差し上げよう」

女神は持っていた杖を振り上げる。

もちろん俺は体が動かないため抵抗するすべもなくやられる。

わけもなく。

体は少し前から動いていた。だから勢いよく走り杖を奪う。その杖で女神の腹を刺す。

そうして俺は言った。

「杖よ!俺を俺の望んだ異世界へ!!!!」



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