仲間の誘いと模擬戦闘
「何を言って───」
言いかけたとき、真紅の眼が揺れているのを見て真意を汲み取った。
恐らく『話がある』ということだろう。
仕方ない、付き合ってやるか。
「はぁ、分かった。今日は泊まるとしよう。」
「えぇ〜じゃあ私は?」
「遊黎は、僕の方に泊まるといい。紅蓮と刹那の邪魔はしたくないだろ?それに、こっちも君に話がある。」
「へぇ?」
こうして俺は刹那の部屋に、遊黎は斬反の部屋に泊まることとなった。
泊まるのに必要な日用品や衣類などは、全て用意することが可能らしく、特に問題は無い。
少しして刹那の部屋で一息ついていると、話の内容を語り出した。
「斬反と能力至上主義を壊そうとしてるんだって?」
「そうだ。と言ったらどうする?」
「そりゃあ、私も参加するに決まってるじゃない!」
「何?」
刹那には至上主義を壊す理由が無いはず。
だというのに、どうして自ら踏み込んで来るんだ?
それよりも、何故その事を刹那が知っている?
色々な疑問はあるが、付いて来るのは刹那の自由だ。
「一応聞くが、何の為に壊すんだ?」
「そんなの決まってる。紅蓮の為だよ!」
刹那が言った後、室内が沈黙に包まれた。
紅蓮は目を瞑り、刹那の言っている事について思考を巡らせる。
しかし、何度考えても回答は出てこなかった。
「俺の為?」
「そう!紅蓮の為!」
「何故だ?」
「隣に立って、一番近くで貴方を支えたいからだよ。」
目の前で優しい笑みを浮かべる刹那。
つまり、俺の手助けがしたいということだろう。
なら、俺が言う言葉は───
「分かった。…刹那、共にこの至上主義を壊そう。」
「うん!」
紅蓮がそう言った瞬間、刹那はダイブして抱き付いた。
一方その頃、遊黎と斬反も同じ内容の会話していた。
「僕と紅蓮は、能力至上主義を壊すことを目的としているんだ。」
「知ってるよぉ?紅蓮ちゃんと戦った時に言ってたもん。ってか、斬反ちゃんもそうだったんだ?」
ビンゴだ。
《頂華決戦》の時に見た遊黎の戦い方、そして常に探るような話し方。
僕は遊黎がこういう性格をしていると思っていた。
だからこそ──能力至上主義を壊す“仲間”として、誘う価値がある。
「なぁ、遊黎。僕らと一緒に能力至上主義を壊さないか?紅蓮は“自由”のために、僕は“飽きを無くす”ために、遊黎は──“愉しむ”ために。どうだい?」
「……ほんっとに!紅蓮ちゃんたちは面白いなぁ。───いいよ。“仲間”になってあげる!その方が愉しいだろうから!」
その後、斬反と遊黎はボードゲームや様々な遊びをしていた。
「ねぇ!それずるくない?」
「ズルじゃなくて、“実力”だよ。もしかして、弱かったりする?」
あからさまな挑発。
けれど私は、そんな挑発にも乗ってあげる。
「言ってくれるじゃん。愉しみはここからだよっ!」
そこから朝までゲームを続け、次の日を迎えたのだった。
───
次の日、紅蓮と遊黎はBランクフロアの一年生の教室に赴いていた。
「じゃあ、紹介する。Bランクに昇格した鏖覇紅蓮と天楽遊黎だ。」
「これから宜しくねっ!」
「……宜しく。」
俺は最小限の言葉しか言わず、クラスの奴らを分析することに集中していた。
パッと見て気が付いたのは、人数が少ないこと。
Cクラスが20人だったのに比べて、Bクラスは俺ら含め17人しか居ない。
他は…肯定と否定の二極化だろうか。
無理も無い、この短期間でランクが変動し、自分達と同じランクになったのだから。
ましてや、その一人が無能力者なら尚更だろう。
「HRは以上だ。一限に遅れないように。」
生徒達に説明が終わると、教師は紅蓮達を連れて廊下に出る。
「二人には悪いが、一限は二、三年生との合同授業でな。」
「問題無い。」
「大丈夫い!」
「そう言ってくれると助かるよ。場所は学園都市外の市街地だから、遅れないようにな。分からなかったら、地図アプリを使えよ?」
教師の話が終わった後、地図アプリに従い市街地へ移動する紅蓮と、それにただ付いていく遊黎。
「ま、Bクラスになって定期テストが無くなったのは、Cクラスよりも楽なところだよねぇ。」
「愉しむ為だけにCランクとなった奴が、何を言っている?」
能力至上主義だと言うのに、何故Cクラスには定期テストがあったのか。
あの時聞いたら、学園長はこう言っていたな。
『もう一つ質問したい。何故Cクラスに学力の定期テストがあるんだ?能力至上主義だとしたら必要ないだろう?』
『基礎的な知識があるのを前提としているからだ。分かりやすく言うなら、基礎的な知識があって初めて能力が評価される。でないと能力の応用も就職も出来まい。』
『変な思惑があるのかと思ったが、普通か。』
『何で分かりきってる事を聞いたのやらと思ったけど、紅蓮ちゃんなりに考えがあったんだ?』
『Cクラスに定期テストがあるのはそれが理由だ。そもそもCランクの奴らは基礎的な知識が足りない、もしくは能力の評価が低いかのどちらかだからな。』
『つまりBランクからは、ある程度能力の応用が出来る奴らと言うことか。』
『君達はこれからBランクなんだ。期待しているよ。』
…今思い返せば、何を期待しているのか明言されていない。
まぁ、どうでもいいか。
期待されたところで何も変わらないしな。
───
「環境に依存しない戦い方を覚えることだ。ということで、模擬戦闘を行う。何事も実際にやった方が早いからな。」
「えぇ!?聞いてないよぉ〜!」
「先に言って欲しかったな…。」
全学年合わせてBクラスは、50人に満たないくらいで構成されている。
早速、市街地にて授業が行われたが、突然の模擬戦闘に一年生は阿鼻叫喚の嵐となった。
対して二、三年生は、慣れた様子で指示に従う。
「最初は一対一からだ。適当にAとBに振り分けていくぞー。」
「ありゃ、紅蓮ちゃんと一緒じゃ無いのかぁ。ちぇ〜、紅蓮ちゃんと一緒の方が愉しいのになぁ。」
「わざとらしいな。解決方法は分かっているのに。」
解決方法は単純だ。
俺が呼ばれた後、一つ抜かして後ろに居ればいい。
そうすれば同じグループになる。
こんな単純な事、遊黎が分からない訳が無い。
「おし、グループ分けが出来たな。じゃあBグループは、反対側に行ってくれ。」
準備が終わると、一対一の模擬戦闘が行われた。
元々一目置かれていた紅蓮と遊黎は、交流戦のような戦闘を見せていったことで、より一層周りから一目置かれていく。
「Cランクよりも、まともな実力だな。」
「そりゃ、Bランクだからね!ちょっと昇格したからって自惚れてんじゃない?」
「仮にそうだとしたら、もうやられていると思うが。」
俺は飛んで来る火の玉を、軽々と躱して接近する。
だが、Bランクに居る生徒なだけあって、身を捩り即座に反撃してきた。
「躱された後の事も考えてるとはな。」
「それ、馬鹿にしてる?」
「どう捉えるかは、お前次第だ。」
「あっそ!」
女子生徒は追撃してくるが、紅蓮は受け流して腕を掴み、そのまま地面に叩き付ける。
しかし、それだけでは終わらなかった。
女子生徒がもう片方の腕を振り払って、火を斬撃のように飛ばして来た。
「諦めない判断はいいが、もう片方の腕を俺が掴んでいる事を忘れているのか?」
「痛たたた!ギブっ!ギブアップ!」
「降参により、戦闘終了!」
戦闘が終わり、隣で行われている遊黎の戦闘を見る。
いつも通り愉しみながら戦っているが、相手の実力が上がったのもあって、身体能力の高さがより際立って見える。
相手の攻撃が当たる直前で、意図的に避ける事など常人なら無理だろう。
避ける為には反射神経が重要であり、脳から身体への伝達力が物を言う。
その華奢な見た目からは、信じられない程の身体能力で相手を圧倒していた。
「ふんふふ〜ん♪あっ!ぐれ〜んちゃん!そっちはどうだったぁ?」
「変わり無い。」
「だよねぇ〜!」
その後、団体戦も行われたが、俺は戦闘よりも気になった事があった。
それは、同じような能力の奴が居る事である。
別にそれ自体は珍しく無いのだが、どういう法則で能力が同じになるのか。
それを解明すれば、能力が同じ奴が居るかどうかが判断出来る。
今は見当もつかないが。
そんな事を考えていると、いつの間にか模擬戦闘が終わり、学園都市に帰る準備が進んでいた。
「これからの授業も大体こんな感じかぁ〜。」
「そうなるだろうな。」
話しながら紅蓮と遊黎は、来た時に乗ったバスに乗り、学園都市に帰る。
こうして、Bクラスになって初めての授業が終わった。