学園都市の真実
「遊黎、何やってるんだ?」
「あっ!待ってたよぉ?紅蓮ちゃん!」
こっちに向かって、少女に膝枕をしながら笑いかけて来る遊黎。
少女は随分と懐いているようで、されるがままに撫でられていた。
「一応尋問したんだけど、分かった事は一つぐらいだったよぉ。」
「想定通りだ。で、その一つは何だ?」
「白いフードの集団は“E.D.E.N”(エデン)って言うらしいって事だけ。」
“E.D.E.N”、それが裏で動いている組織の名前か。
何にせよ、俺の邪魔をすると言うのなら“殺す”だけだ。
「学園に帰るとしよう。斬反、事情は来る時に説明した通りだ。俺達だけで事を進める。」
「勿論だよ〜。僕も気になるし!出来るだけ内密に…ねっ!」
「あぁ、この子は私の寮に持って帰るよ!」
「呉々も、学園にバレないようにようにしろ。」
「あいあいさー!」
《頂華決戦》終了
最終成績
Sランク代表戦優勝・・・神禍学園
Aランク代表戦優勝・・・神禍学園
Bランク代表戦優勝・・・冥耀学園
Cランク代表戦優勝・・・黎明学園
こうして《頂華決戦》(クラウン・バトル)は終わりを迎えた。
ある程度の平穏が帰ってくるかと思ったのだが、数日後、俺と遊黎は学園長に呼び出しを受けた。
「まず、話すことは二つある。一つ目、君達は《頂華決戦》にて優秀な成績を出したのと同時に、冥耀学園生徒の使用した注射器の発見。あの注射器は“強制覚醒剤”(エクスシード)と呼ばれる使用禁止とされている危険物だ。近年、問題視されている。これらの十分な実績から、君達──“鏖覇紅蓮”と“天楽遊黎”のBランクに昇格しようと思う。どうだ?」
Bランクになれば、能力の実践訓練というものが追加される為、異論は無い。
ただ、ずっと疑問に思っていたことがある。
「一つ質問をしておきたい。この学園都市の本当の目的は何だ?」
そう、この学園都市は何の為に設立されたのか。
能力至上主義と言われているが、能力以外も評価に影響を及ぼしている。
現に、櫻舞遙がそうだ。
能力と実力だけ見れば、SSSランクと言える。
しかし実際は、Sランクに分類されており、能力が全てで無いことが分かる。
SSSランクになれなかった理由は…そうだな、頭の悪さとしよう。
今までの物語を見返せば、ああいうのは外見が完璧な人間に見えるだけで、中身はポンコツの場合がある。
所謂、“ギャップ萌え”というやつだ。
「…いいだろう。まず、この学園都市が設立された目的は“能力者の教育によるE.D.E.Nへの対抗策”と“安定した将来への道標”となっている。だが君の予想通り、今言ったのは表向きの目的だ。この学園の真の目的、それは───“神の炙り出し”と“授けられた能力の覚醒”だ。」
「表向きの目的も初めて聞いたが、存外あっさり話したな。後で脅迫にでも使うつもりか?(E.D.E.Nという組織は国家、もしくは世界規模で暗躍しているのか。)」
「私はそうなっても面白いと思うけどなぁ〜♪」
「ふっ、笑わせてくれるな。そんなことするわけないだろう?実は、能力至上主義をそんなに良いとは思わなくてね。それにこの至上主義を変えれるやつがいたとしたらお前だ──“鏖覇 紅蓮”。お前はそれだけの力を持っている。能力至上主義で差別される友人を救えなかった、愚かな私とは違って…。」
学園長は椅子から立ち、後ろにある窓から空を眺めた。
紅蓮達から見えたその背中は、何処か無気力そうだった。
「質問の回答は終わりだ。二つ目の話をさせてもらおう。こっちの方が本題なんだが、君達にはSSSランクの生徒と会ってもらう。どうやら、君達に興味を持ったようでね。『是非、来てほしい』とのことだ。」
その後、SSSランクの寮に向かう羽目になった。
着いた時に思ってしまった。寮とは名ばかりと。
何故なら、目の先にあったのは周囲を隔絶するかのように建てられた“塔”なのだから。
「此処がSSSランクの寮か。遠くからしか見たこと無かったが、流石、許可制区域だな。」
「うっひょ〜、SSSランクってのはこんないいとこに住んでるのぉ?てか、どんな子がいるんだろ?」
「俺も知っているのは、刹那と斬反の二人しかいない。いい機会だ、他のSSSランクの情報収集も兼ねるとしよう。」
「やっぱり、斬反ちゃんってSSSランクだったんだぁ。」
遊黎は物珍しげな感じで、だけど本質は愉しんでいるように見上げている。
その時、前の門が開いてメイド服のようなものを着ている人物が出て来た。
「お待ちしておりました。鏖覇紅蓮様、天楽遊黎様。ご案内いたしますので、ついて来てください。」
「あぁ。」
「可愛らしいメイドさんだねぇ〜。紅蓮ちゃん、私がメイド服を着たら可愛いと思う?」
「知るか。…ただ、性格は兎も角、面はそこら辺の奴らよりも良いことを踏まえると、似合うのかもしれん。」
「まともな解答をどうもありがとっ!」
メイドに案内された通りに進み、辿り着いた場所は王の玉座のようだった。
扉が開いた瞬間、威圧のような空気が流れ込んでくる。
成程な。格が違うと言われるだけある。
「二人をお連れしました。SSSランクの皆様。」
メイドがしゃがみ込み、座っている五人のSSSランク生徒に忠誠の姿勢をとる。
「やぁ、二人とも。僕は、明日野 観月。僕たちは君らに興味があってここに呼ばせてもらった。」
「そんなことは学園長経由でもう知っている。何が目的で呼んだ?『興味がある』だけではないだろう?」
「ははっ、流石だね。本当は、君らがどれくらい強いのか気になったからだよ。」
その言葉を聞いた瞬間、瞬時に思いついたのだ。
ここで挑発して戦闘になれば、SSSランクのやつらの能力が知れるかもしれないと。
そうとなれば挑発するしか無い。
「なぁ、お前らは───俺より強いのか?」
俺の発言に様々な反応が見られた。
驚愕する者、微笑する者、愉しむ者、憤る者。
さぁ、挑発に乗ってくるやつは誰だ。
「貴様…!いいだろう!Cランクごときが、SSSランクに喧嘩を売るということは、どういうことか、身をもって知れ!」
「悪いが、俺はお前の名前を知らない。名乗ってもらえると助かる。」
「過戮真 来征だ。覚えておけ!」
どんな能力を使ってくるのかと伺っていると、前にいたはずの来征はいつの間にか真横にいて、紅蓮は蹴りを受けて壁に叩きつけられていた。
「おいおい!さっきの威勢はどうした!」
(紅蓮ちゃんが反応出来なかった?いや、違う。能力の見極めってところかな?…ていうか、叩きつけられた壁が傷一つ付いていない。ってことは、紅蓮ちゃんには直接衝撃が届いてる…うわ、痛そ〜。)
「はぁ、能力は瞬間移動の類か?」
正直に言えば、見えなかった。
ただの瞬間移動ならば俺は見えていたはずだ。
何より、ただの瞬間移動なら空気に何か変化が起きるはず。
移動する際、微弱な風の動きなどがそれにあたる。
ということは、ただの移動ではない。
過去を辿れ、例え記憶が虫喰いで失われていても、思い出せるはずだ。
必ず経験しているはずだ。
────あぁ…なんだ、時間系統か。
もっと言うのであれば、時間停止だろう。
もし時間を操作出来るのであれば、こんな攻撃よりももっと対処不可能な攻撃をしてくるだろう。
少し考えれば分かることだったな。
記憶が虫喰いだと手間がかかる。
肝心の対処だが、時間を停止する前に動いていればいい。
ただそれだけだ。
「チッ、次で仕留める。」
「…」
また目の前から突然消える来征。
だが、さっきとは違う。
その攻撃は、紅蓮に当たらなかった。
「なっ!?」
「確実に当てなければ、仕留めることは出来ないぞ。」
「驚いた。来征の攻撃を見切るなんて……殆ど不可能のはずなんだけどな。」
この現状に来征は焦ったのか能力を使用することも忘れ、殴りに殴りまくった。
が、紅蓮は拳の軌道を少しずらして受け流し続け、いつでも決着を付けれる間合いに留めておく。
「クソがっ!何で当たらないんだよ!?」
「能力が通用しないことに焦っているのか?…焦り過ぎだな。もっと冷静になれ。」
そう諭すように言った直後、胸を押して一瞬だけ呼吸をしづらくさせる。
こうすることで、慣れていなければ脳は呼吸することしか考えられなくなる。
明確な隙が出来たところに、蹴りをお見舞いする。
人間の身体が粉々になる威力では蹴っていないが、かなりぶっ飛んで反対側の壁まで行ってしまった。
さっきのお返しということにしておこう。
「さっすが、僕の幼馴染〜随分と派手にやったね?」
「私の紅蓮に傷をつけるなんて……!ま、無事ならいいけど!」
そう言い席を立って、近づいてくる刹那と斬反。
刹那が遊黎を見ると
俺が知っているSSSランクの二人というのは幼馴染である斬反と刹那のことである。
「貴方が天楽遊黎ちゃん?私の名前は徒花刹那って言います!」
「頂華決戦の時に会ったけど、ちゃんとした自己紹介はまだだったね。僕は彼岸斬反。よろしくね〜。」
「よろしくねっ♪刹那ちゃん!斬反ちゃん!(う〜ん、この子たちSSSランクなだけあって、相当な手練れだなぁ。)」
談笑し合っている刹那たちを放置して、気を失って倒れている来征をツンツン触っている観月のところに向かった。
「まさか、来征がやられるなんて思ってもいなかったよ。想像以上だ。…あぁそれと君の予想通り、来征の能力は“時間停止”だよ。」
「俺がいつ、そいつの能力が時間停止だと言った?」
「ふふっ、僕も“能力者”なんでね。」
その言い方は、間接的にそういう能力と言ってるようなものだ。
知られても別に構わないのだろうか。
何にせよ、頭の片隅に置いておいて損は無いだろう。
明日野と話していると、突然刹那から話しかけられた。
「ねぇ紅蓮?今日は私の部屋に泊まって行かない?」