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天災と愉悦


ただ立っているわけではなく、果てしないほどの風が天御の周りに集まり始めていた。


…成程な。どうやら天御の能力は“風”に干渉出来るようだ。


遊黎との戦闘時に出していた斬撃は、風を飛ばしていたらしい。


そして言うなれば、これは───最後の一撃。


「大気よ、ここに集え!荒れ狂う暴風よ!全てを吹き飛ばせ!風哭嵐滅(ゲイル・アナイアレーション)!」


「詠唱?“魔術”ならまだしも、“能力”で意味なんてあるのか?」


集まった大気が、風が吼えて怒りの咆哮のように唸りを上げる。


観客席からも、悲鳴と叫びが混ざったような声がした。


まるで“天災”のようなものが、俺たちを呑み込もうとしていた。


「──俺の、全てを……!」


恐らくこれに直撃をしてしまえば、普通なら肉片一つ残らないだろう。


俺は無事だと思うが、問題は遊黎にある。


コイツは無理だろうと思っている矢先、遊黎はこの状況を愉しんでいた。


「ふ、ふふっ、アハハっ!待ってたよぉ!こういう状況を!」


この頭のイカれた女は、能力をあまり使わないと言っていたが、重要なのは『“あまり”使わない』と言ったことだ。


───そう。


この女は腐っても愉悦を感じるために保険をかけていた。


そして今、集まった大気が解放されて近づいてくる。


「───“愉悦”。さぁ、その一撃が一瞬で消えてしまったら、貴方はどんな顔をするの?」


大気が奔流となって衝突するはずだった次の瞬間──荒れ狂う暴風は、どこかへに消えた。


まるで世界から“事象ごと”失われたように。


「……な、に……を……?」


「ん〜?ただ、能力を使っただけだよ?それ以上は〜教えてあげな〜い♪。まぁ、教えたところで対処なんて出来ないと思うけどっ。…余程バグったやつは、別かもしれないけどね。」


そう言い、遊黎は横目でチラッと俺の方を、まるで「貴方のことだよ?」と言っているかのように見た。


考えていけば辿り着ける理論ため、そんな難しいことはしていないはずだ。

ただ、完全解答とはいかなかったが。


「俺の…全力でも…届かな…かった…。」


天御の声は、風の残滓と共に掻き消えて、彼の身体はその場に崩れ落ち、完全に気を失った。


静寂。観客も、査定者も、声を上げられない。


ただ、風だけが吹いていた。


『Cランク戦、決勝。勝者──黎明学園Cランク代表“鏖覇 紅蓮”および“天楽 遊黎”。』


「無能力者なのに、すげぇ!」

「神禍学園が負けた…」


静かだったのが、歓声でいっぱいになる。


紅蓮と遊黎は、その声を背中で受け止めて待機室へと戻る。


待機室の扉が開くと、神禍学園との戦闘前と変わらない塔越の姿があった。


「成程な。そこまでの情報を渡していないか。」


「お〜、まだ生きてたんだ。静流ちゃん?」


結論から言うと、塔越は始末されずに生き残っていた。


つまり、塔越は最初から“捨て駒”ということになる。


また、あの薬に肉体の崩壊や、死に至らしめるほどの副作用はないことも見て分かる。


現状、俺らが得られる情報はこれぐらいしかない。


さっさと上の奴らに引き渡すとしよう。


Cランクの出る幕が終わったこともあり、変異した塔越と注射器を引き渡すために、俺と遊黎は学園都市評議会の連中のところへ移動を開始した。


「てかさぁ〜この後どうするの?紅蓮ちゃん?」


「Sランクの試合を見る。帰るも付いて来るもお前の自由だがどうする?」


「付いて行くよぉ〜。紅蓮ちゃんと一緒だと、愉しいこと起きそうだしっ。」


ある程度歩いて、連中が居る部屋に着いた。

忙しいのか、中からバタバタと音がしている。


(此処って、白いフードの人が入って行ったところだぁ。)


「相変わらず、無駄に広い会場だな。」


紅蓮は渡す際に状況も説明したが、本当のことは話さず、『倒れていたところを偶々偶然発見した』ということにした。


隣に居た遊黎も空気を読み、話を合わせる。


話さなかった理由は、変に目を付けられると今後の生活が面倒なことになる可能性があるからだった。


引き渡してを終え、紅蓮と遊黎は来た道を戻る。


「そういえば、Sランク以外の試合は見ないの?」


「見ない。あくまで、櫻舞という生徒の試合を見る延長線上でSランクの試合を見るだけであって、本題は櫻舞の試合のみだからな。」


「じゃあ、その時まで暇だねぇ〜。」


悠々と話していると、何処からともなく私達の邪魔をするかのように白いフードの集団が現れる。


私は愉しい事が起きて、思わず笑ってしまった。


「あはっ!暇じゃなくなったね?紅蓮ちゃん!」


「丁度いい。白いフードの奴らが気になっていたところだ。知っていることを話してもらうとしよう。」


試合とは関係なく、謎の白いフードの集団と紅蓮達は戦うことになるのだった。


───


「あはっ!愉しぃ♪」


感情剥き出しで戦う遊黎とは対照的に、淡々と白いフード達を圧倒する紅蓮。

それは戦闘スタイルにも表れていた。


遊黎は段々と追い詰めていく愉悦を感じる戦い方だが、紅蓮は一撃で相手を動きを制限する無駄の無い戦い方。


双方が各々戦っている中、紅蓮は能力を使おうとしている奴がいることに気が付く。


「能力を特定の事以外で使うのは禁止と法律で決まっているはずだが。」


「っ!?」


能力を無闇に使ってはいけない。


それがこの世界の“暗黙の了解”である。


この国は能力について厳しく取り締まっているのもあって、法律によって制限がかけられている。


まぁ、考えてみれば分かる事だろう。


制限が無ければ、この世界は既に壊れているのだから。


「紅蓮ちゃ〜ん!そっちになんか飛んでったよ〜?」


(爆弾を投げて来るか。なら───)


紅蓮は爆発する直前にその場で軽く飛び、身体を宙に浮かせた。


当然、爆風で身体が吹き飛ばされる。


「逃亡しようとしているのを、俺が見逃すとでも思ったか?」


「なっ!?」


「あはっ!面白いことすんじゃん!」


俺は爆風を利用して、その場から逃げようとする相手の所まで移動した。


空気抵抗を考えながら少しずつ下がっていき、身体を捻って腹に蹴りをいれる。


走っても追い付いただろうが、こっちの方が変に勘繰られることもないだろう。


周りから見れば、俺が爆発によって吹き飛ばされただけにしか見えないからな。


「遊黎。愉しむのも終わりにしろ。」


「えぇ〜?」


もう少し遊んでいたかったと言いたげな表情をしながら遊黎は、相手の足を引っ掛けて転ばせる。


そして「えい!」と鳩尾を蹴り、まるでボウリングのように残った相手を片付けた。


「はい!お〜しまい!終わったよ、紅蓮ちゃん?」


「本当に終わったのか、確認してからこっちに来い。」


確認作業を遊黎にやらせている内に、情報を聞き出そうとする紅蓮。


「まずは、この中で一番位の高い奴は誰だ?」


「貴方の目の前に居るわよ…。」


「───嘘だな。視線が泳いでいる。本当の事を言った方が身の為だと思うが。」


そう言い、紅蓮は首を掴んで持ち上げる。


しかし、それでも口を割る気配は無い。


そこに確認作業が終わったのか、遊黎が戻って来る。


「紅蓮ちゃ〜ん!終わったよぉ〜!ちゃんと全員くたばってるから安心して?」


「本当か?」


「信用無いなぁ〜私。ま、いいケドさ。」


私は、彼のしている行動について何も疑問に思わなかった。


だって、情報を吐かせるんだったら普通だもん。


なんなら、私がするよりも優しいまである。


「私の方が上手く出来る気がするんだけど。」


「お前がやると吐かせる為の“尋問”では無く、愉しむ為の“拷問”になるだろうが。」


紅蓮と遊黎が話していると、奥の方から気怠げそうな青年と、何処か気の抜けている少年が歩いて来た。


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