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恨みと注射器


「おい、お前!さっきはよくもやってくれたなぁ!この俺をコケにしやがって!」


「何か用か?塔越静流。」


俺が質問した途端、畳み掛けるように話して来た。


お前のせいで─や、僕の方が─など言っていたが、右から左へ聞き流していたため何も入ってこなかった。


「お前さえ、お前さえいなければ!」


塔越は謎の注射器のような物を腕に刺す。


様々な物語を経験して来た俺にとって、見慣れた光景だ。


やられたやつが、逆恨みとして喧嘩を売る。


お前らも色々な作品で見ただろう。


「ははっ、こりゃすげぇ!力が溢れてくる!」


「はぁ、さっさとかかってこい。」


「余裕ぶってるのも、今のうちだ!」


注射器を刺してからというのも、見た目で分かるほどの変化があった。


肌の色は天使のように白く、筋肉は皮膚を突き破らんばかりに膨れ上がっていた。


もはや人間なのかも怪しいくらいに。


そして肝心なのは、能力値の変化だろう。


先程とは比べ物にならない身体能力かつ、能力はCランクからSランク相当へ変化しているようだ。


「まるで、別人のようだな。」


「フハハ!恐れたか?」


何処どう見たら、俺が恐れているように見えるのだろう。


身体は進化しているのに、目は退化しているのか?


そうだとしたら納得なんだが。


さて、さっさと倒されるとしよう。


逆恨みの感情は、倒されることでしか終わらない。


一回倒されれば気が済み、今後絡まれることもなくなるだろう。


「はぁ、流石に無能力では勝てない…か。」


「終わりなんだよお前は!」


「あーあ、まずいなあ。」


分かりやすく体勢を崩した瞬間、拳が腹に突き刺さり吹き飛ぶ。


塔越は追撃として、槍を射出して腹に刺してきた。


Cランクの時ではナイフだけだったが、Sランクになったいま、様々な物を飛ばせるようで、どうやら確実に殺しに来ているようだ。


「笑けてくるなぁ!分かったか?俺の方が強いんだよっ!何なら、今の俺はこの学園都市の中で“最強”かもしれねぇなぁ!」


──“最強”だと?黙って倒れていれば、随分といい気になっているようだ。


仕方ない、やられ役は辞めにするとしよう。


“最強”を舐めているコイツにやられ役なんていらない。


「いいことを教えてやろう。本当に死んでいるのか、確認した方がいいぞ。」


紅蓮は、ゆっくりと立ち上がった。


日々の研鑽で得た“自身の血液操作”をして、傷を再生させる。


服に血はついているが、傷口は塞がっており、問題なく動く。


「借り受けた力で“最強”を名乗るなど、愚かにも程がある。」


「な、何故だ!?確実に殺したはず!お前、無能力者じゃないだろ!」


「ただの無能力者だ。…それより、そんな事を気にしてる暇があったら避けろ。」


変異した塔越の驚きをよそに、紅蓮は試合時のように腹に一撃殴った。


しかし、その一撃はあの時とは比較にならず、いとも容易く静流の身体を貫通させ、風穴を空けていた。


身体はそのままに、殴った部位だけが無くなる。


「ク、ソ…がぁ」


「反応も出来ないのか。この程度で何処が“最強”なのか理解不能だな。」


外見だけはまともに戦えそうだったが、……過大評価だったようだ。


何よりも気になったのは、こんな騒動が起きているというのに誰も来ないということ。


広くて聞こえなかった可能性もあるが、都合が良過ぎるだろう。


あり得るとしたら、音が漏れないような結界があるとか。


別に確証があるわけではないため、そこを今考えても無駄か。


その後、俺は変異した静流を引きずりながら、自分の待機室に向かった。


───


「へぇ〜。で?これは?」


俺は静流を待機室に連れてから、遊黎に質問攻めをされていた。


何があったのか、どうやったのか、遊黎は質問をしていくほど、愉しんでいるようだった。


「分かることは、何かが裏で動いているってことかなぁ。そうだよねっ紅蓮ちゃん?」


「あぁ。静流に注射器を渡したやつがいる。」


「この注射器ってさ、絶対一般流通してるもんじゃないよねぇ。だって、使ったら死ぬ可能性だってあるかもしれないんだもん。──それを高校生に持たせるとか、どういう神経してんだろうなぁ。あはっ!愉しくなって来たね!」


愉しく笑う遊黎を余所に、今度は紅蓮が質問する。


「逆に聞くが、お前は俺と別行動をしていた時、何かしていたのか?」


「ん〜。別に?私も紅蓮ちゃんと同じように散策してただけだよ?何か面白いことないかなぁ〜って。…まぁ、そんな思いも虚しく砕け散ったんだけどね♪」


遊黎の言ったことを頭に入れて考えていると、思い出したかのように付け加えた。


「あっ!面白いことは無かったけど、白いフードの人には会ったよ!…会ったと言っても通り過ぎただけなんだけど。もっと言うなら、それと同じ注射器を持ってた気がする!」


コイツ、少しでも愉しめないか考えて、意図して黙っていたのか。


白いフード…?いや、それよりも『同じ注射器を持っていた』だと?


…だとしたら、配っているのだろうか。


何にせよ、案外早く犯人が見つかったものだ。


「遊黎、そいつは何処へ───」


『Cランク戦、決勝。黎明学園Cランク代表、“鏖覇 紅蓮”および“天楽 遊黎”。対するは、神禍学園Cランク代表、“天御 柊”と、“不破 士葵”。』


紅蓮と遊黎が話している最中、不意にアナウンスが響く。


勝ち上がってきた次の相手は、四つの学園の中で最も能力至上主義が強いと言われている学園──神禍学園。


この情報から冥耀学園よりも格上と言えた。


「神禍学園ねぇ。愉しめると思う?」


「知るか。ただ、少なくとも一試合目の冥耀よりも愉しめるとは思うが。」


「あはっ!そう?」


こうして俺らは先程と同じように戦場へ向かった。


──静流は置いたままにして。


そうしたのには、理由があった。


それは、注射器を渡したやつが情報の漏洩を防ぐために始末しに来るかもしれないからだ。


始末されればそれだけの情報を渡していたことになる。


逆に始末されなければ、注射器を渡しただけの使い捨てということになる。


「ねぇ?紅蓮ちゃん。もう試合後のこと考えてるでしょ?」


「当然だ。裏で動いている奴らは、今後に障壁──邪魔となる可能性がある。今から考えていても損は無い。」


「そう?ふふっ。」


戦場に着くとすでに二人の姿があった。


派手な金髪に長身の男子生徒である天御と、じっとこちらを見つめている謎の女子生徒の不破だ。


「遅いじゃんか。鏖覇くんと天楽さん?随分と余裕があるみたいだね。」


「“天楽さん”って呼ばれるの新鮮だなぁ。」


話が噛み合っていない。

お互い、相手のことを気にかけていないということなのか。


睨み合っている天御と遊黎を遮るように開始の合図が鳴る。


開始早々、不破が周囲の磁力を圧縮して打ち込んできた。


Cクラスに同じ能力がいたが、こんな地形が抉れるほどのことをしていない、違う能力と割り切るべきか。


だとしたら、過去の物語から何か攻略の手口を見つけるしかない。


「使い方が荒いな。無能力者だからって手加減してくれているのか?」


「五月蝿い…」


今度は、さっきみたいな一撃ではなく、アサルトライフルのように連射してくる。


仮に撃ってきた弾に当たれば、あらぬ方向へ磁力が働き、捻り切れるだろう。

物理的に受けるのは得策とは言えない。


遊黎の方は…冥耀学園の時よりかは、愉しめているようだ。


「あはっ!確かにさっきよりも愉しい!けど、ちょっと足りないなぁ。」


「コイツ…!能力を使う隙を与えないために、俺に張り付いているのか!」


私はもう気付いていた。


天御が演技をしていることに。


“誰かさん”と比べて、表情の変化が分かりやすいのだ。

いや、表情の変化が“有る”の方が正しいのかもしれない。


「はっ、油断したなぁ!」


「油断なんてしてないよぉ?私はずっと見ていたんだから。」


天御の振り下ろした腕から放たれた斬撃は、空気を切り裂くほど鋭く、確実に遊黎を狙っていた。


しかし、通過した位置には、遊黎の姿がなかった。


「──っ!?何処に──」


「ここだよぉ〜♪あはっ!」


天御は、いつの間にか懐にいた遊黎に殴られていた。


腹部を抉られ、後方へ吹き飛ぶ。


彼の身体が地面に叩きつけられると同時に、士葵の動きも一瞬止まった。


「しゅ…う?柊!まさか負け──」


「戦いの最中に、余所見とは感心しないが。」


不破が振り返るよりも早く、紅蓮の蹴りがその腹を撃ち抜いた。


軽く腹を蹴っただけで、不破は宙に浮き、背中から地に倒れる。


「悪い。加減したつもりだが、そこまでオーバーリアクションするとはな。」


「あれ?私の方の敵さん、まだ立ってるや。」


確かに立っていた。


───天御 柊が。


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