消えた夏休みと警戒任務
「夏休みだ〜〜〜!!!!」
「テンション高いな、お前。」
「当たり前だよぉ!だって夏休みが二週間しかないないからねっ!しっかり楽しまないと!」
と、学園長室に向かうまでは意気込んでいたが、私は忘れていた。
いや、違う。
夏休みだから自由だと思っていたんだ。
しかし実際は、そんな事なかった。
“任務”というものがあったから。
呼び出され着いて早々、学園長の一言で私の夏休みは砕け散った。
「夏休みの間、任務として出張してもらう。」
「あぁ、折角の夏休みが…。」
「そんなに落ち込む事か?」
「まぁ、安心しろ。E.D.E.Nが居るという情報は今のところない。念の為に派遣する感じだ。」
紅蓮は、完全なるフラグだと思いつつ黙っていた。
任務先は、海と観光地で有名な地方都市“エンジェルリゾート”。
表向きは観光旅行、裏では警戒任務として向かった。
「あっ!海だ!ちょっと遊んで行こうよ〜紅蓮ちゃん!ね?」
「好きにしろ。ただ、一応任務って事は忘れるな。」
「分かってるから安心してよぉ。」
来たばっかりだというのに、遊黎は海を見て飛び跳ねている。
それよりも気になっているのは、俺達以外にも付いて来た奴らがいる事だった。
「旅行に行くなら、今度からもっと早く誘ってよね。」
「普通の旅行じゃなくて、裏で任務を遂行しながらだからね?刹那、分かってる?」
勘違いしている刹那に、任務の概要を説明する斬反。
何でこいつらは、付いて来ているのか。
別に何をしようが自由の為、そこまで深く言及しないが。
(学園長が変なフラグを立てなければ、普通に過ごせたんだがな。)
海風の中に混じる、僅かな“違和感”。
それはやがて、紅蓮達の夏休みを塗り潰す出来事へと繋がっていくのだった。
異常が起きたのは、任務開始から五日後。
リゾートでの生活も十分満喫して飽きてきた頃、それは突如として起きた。
昼下がり、観光客で埋め尽くされている海辺の屋台通り。
「紅蓮、あそこ行こ!」
「いくらでも付き合ってやるから、引っ張るな。」
「飽きてきたかも。なぁんか面白い事、起きないかなぁ?」
「五日も居れば、こうなるのも必然だと思うよ。」
そう言い、周囲に目線を巡らせる。
現状、特にこれと言った変化はなく、何かが起こる気配もしない。
なら、E.D.E.Nが居るという情報が無いのに、紅蓮と遊黎に警戒任務を頼んだ理由はなんだ?
ランクが高い奴らではなく、名指しで頼むくらいと考えると、人選に明確な理由があったに違いない。
学園長には、何が視えている?
頭の中で思考を巡らせていると、突然空気が変わった。
「ん、何だ?」
「あはっ!やぁっと面白い事が起きそうだよぉ!もう、待ちくたびれちゃったぁ!」
「飽きてたからといえ、テンション上がり過ぎ。」
賑わっていた人混みが、ピタリと止まる。
そして次の瞬間、辺りは絶叫に包まれた。
どうやら、人混みの中に居た観光客が変貌したようだった。
人々が一気に押し寄せ、逃げて行く。
そんな中、紅蓮は不審な動きをしている者に目を付け、人混みから抜けて行くところまで冷静に見ていた。
そいつは何処かで見た事があったような気がした為、変貌した者達は刹那達に任せて、遊黎と共に後を追う。
「ちょ、ちょっと!はぁ〜…私と紅蓮の邪魔をするなんて、許さない。絶対に。」
「なんか、心当たりがありそうだったな紅蓮。ま、そんな事、今はどうでもいいんだけど。こっちを任せられちゃったからには、ちゃんとやろうかな。」
抜刀し、雪崩に逆らうように人混みの中を駆けていく。
刹那の方は、僕が動く前からいつの間にか居なくなってたけど…大丈夫だよね?
ただただ、やり過ぎない事だけが心配である。
「一般人に被害が出るのは、面倒くさいし使った方がいいか。彼岸流──伍華 血華葬。」
瞬間、生物が把握する事など出来ないであろう速度の連撃を繰り出し、巨体が粉々に吹き飛ぶ。
肉片一つ残りはせず、そこには紅の血溜まりがあるだけとなった。
刀に付いた血を払い、次に向かう。
しかし着いてみれば、数秒前まで見えていた巨体は、既に無惨な姿となっていた。
「おかしいな。さっきまで白い巨体が見えてたはずなんだけど。」
恐らく、刹那がやったんだろう。
その証拠に、海岸方面にも現れていた奴らは、軒並み排除されている。
それも、同じやり方で。
海岸方面の排除が終わり、今度はこっちに居る奴らを排除する事にしたらしい。
なら、僕がやる事はただ一つ。
「僕も、負けてられないな。」
そう言って、先程とは比べ物にならないほどの速度で移動する。
その時浮かべていた表情は、何処か楽しげだった。
一方、紅蓮と遊黎は、見慣れた奴らと対峙していた。
「げ、またお前らかよ。」
「それはこっちのセリフだが。」
「何で、すとーかーしてくるの?」
「平和な日常に飽きちゃったんだよねぇ。」
やれやれといった感じで、首を振る遊黎。
質問の返答になっていないのは、分かっているのだろう。
しかし、彼女にとって重要なのはそこでは無い。
今此処で、戦闘するか否か。
ただそれだけだ。
俺は戦闘心を剥き出している遊黎を無視し、会話を続ける。
「いい加減、話してもらおうか。お前らの狙いを。」
「そう言って、話すとでも?」
「話さなければ、戦闘になるが。」
「え、だる。」
俺は頭を掻きながら、目を閉じて考える。
どうすれば、戦闘をせずにこの場を切り抜けられる?
一層の事、話してしまうか?
「仕方ない。話せるとこまでは、話してやるよ。そうすれば、今後は邪魔してこないだろ?」
「そうとは限らない。」
「は?うざ。こっちにメリットが無いなら、話す意味も無い。ま、話さずとも後に分かるんだけど。」
“後に分かる”?
あの時も、“また会う事になる”とか言って姿を消した筈だ。
今回の遭遇が想定外だとするなら、後に必然的に会う事になるだろう。
それにこいつらは、俺達に刺客を送り、邪魔をして来た。
戀によれば、この前以外にもまだ刺客は学園に居るようだ。
これは、今後も邪魔して来ると言う事だ。
ならば、此処で決着をつけた方がいい。
ただ、もしも殺す事が出来ないと判断した場合、確実に瀕死には持っていくとしよう。
そうすれば、次会った時に確実に殺せる。
「遊黎。」
そう言い、遊黎に目配せをした。
直後、リードで繋がれている飢えた狼は、我慢を止めて動き出す。
一瞬にして少年との距離を詰め、蹴りで吹っ飛ばしていた。
少年からすれば、目の前に居た奴が突然消えたようにしか見えない。
そう、遊黎の動きは、二人には認識出来なかったのだ。
「なっ!?ベルゼ!」
「おい、何処を見ている?お前の相手は、目の前に居るというのに。」
俺は余所見している隙を見逃さず、青年の頭を掴み、地面に亀裂が出来る程の威力で叩き付ける。
ただの人間ならば気絶するというのに、直ぐに起き上がり頭に手を当てていた。
コイツ、人間じゃなかったのか。
「いってぇ、マジで油断した。」
「これで終われば、手っ取り早かったんだが。」
「面倒くさい事になった…。本当に怠りぃ!目的も果たせてないのに!早く探さないといけないのに!」
「成程な。目的は探しものというわけか。」
それから、先程とは比べ物にならないくらいの動きで戦闘が始まった。
紅蓮は攻撃を受け流しながらも、思考を巡らせる。
コイツらが探しているものは、何なのか。
今までの物語の中で、同じような事がなかったか探ってみるが、記憶の虫喰いが酷過ぎて見つけられなかった。
情報の整理が終わり、思考を戦闘に集中させる。
そして場面は、遊黎に移る。
「びっくりしたー。」
「ごめんねぇ?やっと許可が出たから、勢い余っちゃった!」
「気にして無い。だって、前からずっと君と戦いたかったから。」
その発言に、私は気持ちの昂りが抑えられず、自然と笑みが溢れる。
刺激が無い日々は、余りにも退屈だった。
それは頭が狂いそうな程に。
此処数日間、平和過ぎたのだ。
だからその分、思うがままに愉しもう。
この時を。
「さ、始めよっかぁ!」
「うん。」
「「遊戯/殺し合いを。」」




