不法侵入と波乱
「はぁ。」
「う〜ん、むにゃむにゃ。ん?ふわぁ〜もう朝ぁ?」
布団を捲ると、ベビードールに色白い肌を包みながら、寝惚けているのか腰に抱きついて来た。
長い白髪に、吸い込まれそうな真紅の瞳。
このことから隣にいる奴は───
「おい、刹那。何でお前が此処に居る?」
「んぇ?」
刹那、そう刹那である。
そもそも何故此処に入れたのか、刹那が近づいた時に気付かなかったのかと色々と疑問がある。
「仕方ない。一旦、朝の準備をするか。」
「う〜ん。」
「変わらず朝は弱いな。半吸血鬼だからかもしれないが。」
刹那をベッドに残して、朝食の準備をする紅蓮。
手際よく料理をし、二人分を作り終えて刹那を起こしに行く。
「おい、起きろ。さっさとこの状況について説明してもらうぞ。」
「わかった〜。」
まだ足取りが覚束ないようで、何かにぶつかっては「いたたた…」と言っている。
少し経って、テーブルに着いた。
「わぁ!久しぶりに食べるなぁ、紅蓮が作った料理!いただきまーす!」
「食べながらでもいい。さぁ、話してもらおうか。何故、此処に居るのかを。」
「んと、まずSSSランクの権限を使って部屋に入るでしょ?その後、直ぐに紅蓮の体内にある血を操って感覚を鈍くさせて───」
「ちょっと待て。」
何を言っているんだコイツは。
吸血鬼の特性上、血が操れるのは分かる。
俺の血液操作は、自分だけが対象であって、体外に出てしまえば操作不可となってしまう。
それに対して刹那の血液操作は、体内だろうが体外だろうが、自他関係なく血を操作出来る。
これが原因で、俺が刹那の侵入に気付かなかったのは分かった。
だが、もう一つの“SSSランクの権限”。
何だそれは。
「SSSランクの権限について説明してもらおう。」
「え〜っとねぇ、簡単に言うとフリーパスみたいな?」
これを聞いた俺は「学園のセキュリティはどうなっている。」と思ってしまった。
所詮は能力至上主義、プライバシーなど関係ないということか。
部屋に無断で入れる事になるが、世間的にはどうなんだこれ。
「けど、こんな簡単に乱用出来るのは私だけだよ。」
「どういうことだ?」
「私の一家が、黎明学園設立の手助けをしていたの。だから、そのお礼も兼ねてってことで乱用出来てる。」
ご馳走様と言って、皿を片付ける刹那。
それに続いて、紅蓮も食べ終え皿を持っていく。
皿洗いをしながらも話す二人。
紅蓮は「お前も働け。」と言い、刹那に洗い終わった皿を棚に戻させる。
「ねっ!今日は休みなんだから暇でしょ?一緒にお出かけしない?」
「別に構わないが、行く場所を決めているのか?」
「全然?」
「せめて考えておけよ。」
そう言うと刹那は、唸りながらも考え始める。
俺はその間に、外出する準備を進めていく。
数分後、行く場所が決まったのか、二人は着替えて部屋を出る。
「ところで、最初は何処に行くんだ?」
「えっとぉ〜、お買い物?」
「何で疑問系なんだ。」
「いーいーじゃーん!紅蓮となら何処でも幸せだからさ!」
「決めておいた方が効率よく回れて、長い時間出掛ける事が出来ると思ったんだが…。まぁ、刹那の好きにしたらいい。」
むっす〜といった表情をして、そっぽを向く刹那。
しかし、紅蓮は気付かなかった。
そっぽを向いてる刹那が、嬉しそうに笑みを浮かべていることに。
「さぁ、行こ!」
「あぁ。」
先を歩く刹那を、追いかけるように紅蓮も歩く。
寮を出て、暫く歩いていると突然後ろから声をかけられる。
「おっはよ〜紅蓮ちゃんと刹那ちゃん!」
「お、おはようございます。」
振りかえってみれば、遊黎と居世だった。
遊黎の隣にいた居世を見た刹那は唖然とし、涙目を浮かべながら紅蓮の方を向き叫ぶ。
「え?!隠し子なんて居たの!?」
「何を勘違いしてるんだお前は。」
「そうだよぉ!この子は、私と紅蓮ちゃんの隠し子だよぉ〜!」
「ち、違いま───っ!?」
居世が否定しようとした瞬間、遊黎は常人なら見えない速度で居世の口を塞ごうとした。
居世は突然の出来事に、どうにか避けようとしたが、その対抗も虚しくされるがままになる。
俺は面倒くさいことになりそうだったので、なるべく早急に誤解を解くとしよう。
誤解を解いた後、その状況を愉しんでいた遊黎は安堵した刹那による制裁チョップを受け、地面に減り込んだ。
直ぐに起きた遊黎曰く、神に会えそうだったらしい。
死にかけたのだろうか。
「というか何故、居世が居るんだ?」
「ん〜?斬反ちゃんに会いに行ってだんだよぉ。居世ちゃんの事について…ね!」
「居世って、その子の名前?」
「そうだよぉ。刹那ちゃんには話してなかったっけ?この子が新しい仲間って事。」
「何それ、知らされてないんだけど。」
刹那に居世の事を説明しながら歩く遊黎。
その後、遊黎は居世を先に帰らせて、紅蓮達に付いて行く事となった。
そこから一時間程度、色々な所を回りショッピングモールに備えられていた休憩室で休む事にした。
「先に行ってて。私はそこら辺の自動販売機で、飲み物買って来るから。何か飲みたい物とかあったりする?」
「スポーツドリンク!」
「刹那と同じので構わない。」
「りょーかい!」
紅蓮と遊黎は、誰も居ない休憩室の扉を開けて、足を踏み入れた瞬間、床が光る。
直前、紅蓮は遊黎の身体を突き飛ばし、何処かに空間転移させられるのを防いだ。
「あいたたた…ちょっと、何すんの紅蓮ちゃん?…って、あれ?」
「はぁ、しくじったかな。」
私が辺りを探していると、物陰から一人堂々と歩いて来る。
灰色の髪に緑の眼をした男子生徒。
黎明学園で見たことはない───っていうか制服が違った。
あの制服は《頂華決戦》で見たことはあるような、確か“神禍学園”だった気がする。
「紅蓮ちゃんを転移させたのは、貴方?」
「それ以外に何がある?ただ、少々誤算だったのは、お前が転移されていなかったことだな。」
「そっかぁ〜。で、何が目的なのかなぁ?」
質問をし続ける遊黎。
当然、それに答えることはない。
数秒の沈黙の後、男子生徒は能力を使い、遊黎の背後に現れる。
そして首を掴もうとするが、その手は空を切った。
「乙女に無断で触れるのは厳禁だよ?」
「な、に?」
「何かぁ、すんごいびっくりしてる〜。あはっ!面白〜い!」
何なんだ、この女は。
何でコイツは、俺の後ろにいる?
何より、何故こんなにも…笑っている?
「気味が悪い奴だな。」
「そう?褒め言葉をありがと!最近、そういうの言われなくなっちゃったからなぁ〜。」
「褒めたつもりはない。」
再び二人は対峙する。
そんなことが起きている間、紅蓮は───空から落ちていた。
(さて、どうするか。)
俺は思考を回しつつ、衝撃を地面に流すため、真下に向かって殴る姿勢をとる。
しかし、問題はこの身体が衝撃に耐えられるかだ。
…正直、心配などしていない。
これは過信では無い。
何故ならそれ程の事を、この身体に刻み込ませたのだから。
肉体は傷付ければ、その分だけ強くなる。
それと同じ事をしただけに過ぎない。
「やるか。」
地面との距離が少し近づいた時、誰かがいることに気がついた紅蓮。
よく見ると、白いフードを被っていた。
(また、E.D.E.Nか。それにしたって、頻度というものがあるだろう。読者も飽きてくる頃だというのに。仕方ない、地面に着いた衝撃で全て吹き飛ばすか。)
落ちる方向を、E.D.E.Nの居る方へと変える。
だが、気付いてしまった。
その中に、居世にいることに。
確かあの時、遊黎が先に帰らせたはずだ。
ということは、学園都市内にE.D.E.Nが潜んでいて捕まったのか?
捕まるということは、余程の大役なのだろう。
少々、考えが足りなかったようだ。
「何でこうも、居世には“自由”が無いのか。というか遊黎は、分かってやっているのか、と思うぐらいに完璧なタイミングで先に帰らせていたな。」
アイツの事だ。
狙ってやってても、おかしくは無い。
しかし、他の事なんて考えず、思うがままに行動しているだけだろう。
実際、謎の転移に巻き込まれたしな。
それと、捕まっているのなら聞くべきだな。
助けてほしいかと。
別にいいと言うなら俺は…助けずに帰るとしよう。
転移させた奴も捜索したいところだ。
いや、今から行っても残った遊黎が終わらせているか。
「もう直ぐ地面か。さて、やることはただ一つ───蹂躙だ。」