推測と想定した戦闘
夏休みも近づいて来たある日、四人で集まり昼食をとる事となった。
「あっ!居たぁ〜!」
「悪い、待たせた。」
「そんなに待ってないから、大丈夫だよ!」
「揃ったことだし、行こうか!」
斬反が歩き出し、紅蓮達はその後に付いていく。
その際刹那は、いつの間にか紅蓮の腕に抱きついていた。
「え?もしかしてぇ、刹那ちゃん?」
「何?」
「紅蓮ちゃんのことぉ、好きな──」
「勿論!そうだけど?」
「く、食い気味…。」
私は揶揄うつもりで言ったのだが、意表を突かれてしまった。
しかも、笑っていたのに何かヤバかった。
少し、心臓がキュッとなった気がする。
何より紅蓮ちゃんが何も反応しないのが、一番気になったのは内緒にしとこう。
「斬反ちゃ〜ん、何処に向かってるのぉ?」
「レストランかな。ちょっと変わってるけどね。」
数十分歩くと、斬反の言った通りレストランに着いた。
しかし、予約している様子は無い。
それなのに、何故か地下一階に向かう斬反。
「何故、地下に行く必要がある?」
「そうだよぉ〜。食べに来たんでしょ?」
「忘れてない?僕と刹那は、SSSランクなんだよ?」
『だからどうした』と思いながら付いていくと、地下一階には喫茶店があった。
店員が刹那と斬反を見ると、大慌てでこっちに来る。
斬反が店員に説明すると、奥の部屋に案内された。
「じゃあ着いたし、紹介しようか。ここはSランク以上専用の喫茶店で、今僕らが座っているのがSSSランク専用の場所だよ。」
「へぇ〜。だからここに来たんだぁ!」
「何で、俺らが入れるんだ?」
「僕らと関わりがあるからね。さ、話は終わりにして昼食をとろうか。元々その予定だしね。」
斬反がそう言うと、それぞれ食べ物を選び始める。
しかし紅蓮と遊黎は、ケーキなど色んな食べ物が載っているところの下に“その他”と書いてあるのが見えた。
「“その他”って、何これ?」
「頼んでみるか。」
「ん?その他っていうのは、好きな物を注文出来るんだよ。この一覧に無いのもね。」
この一覧に無いのも頼めるのなら、一覧など要らないのではと思ってしまう。
現に斬反と刹那は、何も見ずに店員に頼んでいた。
一応の喫茶店要素という事だろうか。
…だとしても地下にある上に、そもそもSランク以上は入れない事を考えれば、無意味と言える。
「なら、適当にケーキで。」
「“その他”っていう、愉しそうな物を無視してケーキ!?正気!?」
「遊黎、俺はお前みたいな奴じゃない。」
「あははは、随分と仲がいいみたいね?」
「刹那、その殺気をどうにかしてほしい。空間が捻じ曲がってるから。」
その後全員の注文が来て、会話もしながら食べ始める。
そして、ある程度時間が経つと、紅蓮が斬反にこの集まりの真意を聞いた。
「で、何の為に俺と遊黎を誘ったんだ?」
「そりゃ、新しい仲間の紹介と情報交換をね。」
「新しい仲間?」
俺が言葉を返した瞬間、前に座っている遊黎がバッと立ち上がる。
その動作だけで、仲間になった奴が誰だか分かった。
「はーい!遊黎ちゃんでーす!よろしくね!」
「だろうな。…それで言うと、こっちからも話がある。」
紅蓮が目線を刹那に送ると、刹那は遊黎と同じように立ち上がり、遊黎向けて言う。
「私も、遊黎ちゃんと同じく仲間になったからよろしくね!」
「あはっ!面白いじゃん!よろしくね、刹那ちゃん!」
新しい仲間の紹介が終わり、別の本題である情報の交換が行われ、紅蓮達は学園長が言っていたことを話した。
「そういえば、E.D.E.Nって何なんだろ?」
「能力犯罪者組織とも言われてる、国が敵視している奴らだっけ?」
「そう。その名の通り、能力の使用が法律で決められているにも関わらず、乱用する集団だね。」
「それらに対抗する為に学園都市がある、という話だが、どうやって対抗しているんだ?」
対抗する為と学園長は言っていたが、どんな事をしているのかを聞き忘れたな。
もっと具体的に説明してくれると助かったんだが、後で直に聞いた方がいいか?
「あぁ、それなら生徒が任務としてやっているよ。まだ紅蓮達はやってないだろうけど、近いうちに任務が来ると思うよ。」
「それって、意味あるのぉ?」
「E.D.E.Nを捕まえた後、国に送られるから結構効果あるらしいんだけど、事件が少なくなってるとは感じないかな。」
効果はあると言われているが、任務は変わらず事件の対処をしており、少なくなっている様子は無い。
数え切れない程の人数が居る可能性があるか、もしくは───“循環”しているか。
可能性が高いのはこの二つだろう。
捕まえた後は国に送っているらしいが、国自体がE.D.E.Nと繋がっているのなら、それは全て国の計画通りという事。
学園長が言っていた事を踏まえて言うなら、この学園都市は“実験所”であり“研究所”だ。
生徒とそいつらを戦わせて、能力研究の礎としているのだろう。
結局のところ、俺達は“まだ見ぬ能力の真髄”を見られているだけに過ぎない。
取り敢えず、言える事は───
「国が怪しいな。」
「だよねー。」
「私も紅蓮と同意見ね。」
「じゃあ、国と戦うってこと?何それ、愉しそうじゃん!」
遊黎はケーキを食べながらも愉しそうに笑い、紅蓮達は早速今後の事について考える。
その後昼食を終え、レストランを後にした。
レストランを出て歩道を歩いていると、遊黎が思い出したかのように言う。
「てかさ、刹那ちゃんの紅蓮ちゃんに対するスキンシップって…。」
「気にしなくていいよ。小さい頃からだから。」
「へぇ、そんな仲なんだぁ。ふふっ。」
後ろで歩いている斬反と遊黎は、ニマニマしながらこちらを見ている。
何を笑っているのだコイツら。
「至上主義を壊すのは、段階を踏んでいくんだよね?」
「あぁ。今のまま国を壊してもいいが、戦力が足りない上に、その後の事も考えると得策とは言えないからな。だから、まずは学園都市から壊す。」
とは言っても、今暴れたところで意味は無い。
なら、どうするか。
簡単だ。
───E.D.E.Nが学園都市を襲撃した時に、同時に俺らも動けばいい。
そうすれば、その時やったことも全てE.D.E.Nに押し付けれる。
今までの物語から踏まえると、戦闘系の学園ものは必ずと言っていい程襲撃されるからな。
ただ、いつ襲撃が起こるのかは分からない。
そこは仕方ないと割り切るしか無いか。
「紅蓮ちゃ〜ん!次の授業あるから、早く行こ〜!」
「刹那、僕らも少し文献を漁りに行こう。何か分かるかもしれない。」
遊黎の言葉に紅蓮は「分かった」と返し、刹那達と分かれる。
その際、連絡先を交換して離れていても会話を出来るようにした。
「紅蓮ちゃんと私はその〜、何とか組織っていう奴らと戦えるってことだよね?」
「斬反が言うにはな。」
「ワクワクが止まらないよ!」
それから少し時間が経ち、学園都市外の市街地──では無く、廃都市にて授業が始まった。
今回の内容は、E.D.E.Nに変装したAランクとの戦闘で、Bクラスの一年生のみで行われる。
前回と場所が違うのは、E.D.E.Nが暴れた後に戦闘になるのを想定されている為である。
それは間接的に、任務に駆り出されるのはもう直ぐと言ってるようなものだった。
「これからお前達には、E.D.E.Nだと思って戦闘に臨んでもらいたい。」
「えっと…、これは訓練で死ぬ事は無いですよね…?」
「死ぬ事は無いが、本気で殺しに来るぞ。だから、負けたら死だと思っておけ。死ぬ事が無いからと手を抜いていると、任務の時には死ぬからな!」
そう言い、親指を立ててグッドのポーズをとりながら笑う生徒。
名前は確か、二年生のAランク生徒“焔堂 烈火”(えんどう れっか)だったか?
分かりきっている愚かな質問にも答えているが、俺だったら「それぐらい自分で考えろ。」と言ってしまう。
「さぁ、始めるぞ!戦闘の準備をしろ!」
「は、はい!」
各々が戦闘体勢をとり、E.D.E.Nを迎え撃とうとする。
数秒後、建物の上に人影が現れた。
「あれが“E.D.E.N”でいいのか?」
「それ以外に何があるのさ、紅蓮ちゃん?」
「よし!E.D.E.Nが来たぞ!戦うんだ!」
建物に居た奴の一人が、飛び降りて来る。
着地の瞬間を狙い、攻撃を仕掛けようとした。
しかし、相手のつま先が地面に触れる方が速く、瞬時に地面が砕けていく。
「何だこれ!?」
「体勢を立て直さないと…!」
皆が焦っている中、悠々と凸凹になった地を飛んでいき、攻撃する。
相手は驚いていたが、私にとっては造作もない事だ。
だって、こんなに愉しいのだから。
「数はざっと七体ぐらいか。おいお前、俺と遊黎で一人ずつ相手をする。他の奴らに三人一組で一人を相手しろと伝えておけ。」
「わ、分かった!皆、聞いてくれ!今紅蓮が───」
「…さて、俺の相手はお前か?」
俺は未だ建物の上に居る奴に向けて言う。
それからの戦闘は拮抗よりも、やや劣勢程度に収まっていた。
あのまま組を作らずに戦っていたら、生徒達は今更ボロボロだっただろう。
「君、指揮が得意なの?」
「いや、そういう"経験”があるだけだ。」
これは本物のE.D.E.Nではなく、Aランクの二、三年生が変装して戦闘するもの───だった。
本物の“E.D.E.N”が出てくるまでは。
訓練の最中、変装しているのとは別格の雰囲気を纏っている奴らが現れたと報告があった。