超越
「もう…無理みたい。ごめん…ね?」
あぁ───また護れなかった。
どうして俺は、こんなにも無力なのだろう。
何もできない自分に、悔しさではなく怒りが湧いてきてしまう。
俺の終わらない物語についてきてしまったばっかりに…君を巻き込んでしまった。
何度物語が繰り返されても最後には───必ず消えてしまう。
まるで、誰かがそういう風に操作しているみたいに。
どうすればいい?どうすれば救える?
…そうか、今の“能力がある物語の俺”なら新しい物語を始めることが出来るかもしれない。
いや、始めなければならないんだ。次の物語が始まる前に、俺の手でこの物語を終わらせる。
そして君が───刹那が消えず、自由な物語を始める。
「こんな結末は認めない───認めたくないんだよ!」
そう叫び、能力を使用した瞬間、全身の概念が崩壊するかのような感覚が走った。
───これがどんなものか分からないだろう。
でも、それでいい。分かるわけがないのだから。
もしわかってしまえば、君たちは何もかもが壊れてしまう。
使った結果は───失敗。
…まぁ分かりきっていたことだ。ループを壊し、自分で物語を始めるという異例中の異例───観測者すら理解しようとすることも不能な境地なのだから。
「失敗といっても、今のままだから失敗なんだ。『覚醒』さえしてしまえば関係ない。」
どうやって?無理にでも『覚醒』すればいい。
───“無理矢理の覚醒”。
それは、己の意思を持って無理矢理“一時的”に“覚醒”を引き起こすこと。
但し……覚醒が終わると代償として“何か”を失う。
この代償は“真の覚醒”をした時、取り戻すことが出来るらしいが、それなら、今は代償のことなんて考えなくてもいい!“覚醒”のことだけを考えろ!
「超えろ。超えるんだ。何もかも、物語も設定も全て───全て超越しろ!」
瞬間、音が消えて色も失くなる。ものの形すらも崩れていく。
そして、全てが暗闇に包まれ、紅蓮の意識も闇の中へと消えた。
「・・・・・・ん。此処は・・・」
どうやら俺は、いつからか意識を失っていたらしい。
目が覚めると、辺りは漆黒で無数の星屑が浮遊しているようだった。
まるで宇宙と幻想が交差したような、これ以上に具体的に表すのは不可能な程の神秘的な空間に居た。
“覚醒”に成功したと見ていいだろう。
能力を失い、代償が発生するというのに、こうも呆気なく終わってしまっては、割に合わない気さえする。
この覚醒状態が終わる前に早く新しい物語を始めるとしよう。
───あ…れ?何で刹那が消えてしまわないようにするんだっけ?
それだけじゃない。
記憶も消えてはいないけど、思い…出せない。
代償は記憶なのか?分からないが、虫喰い状態になっていることは確かだ。
…まぁいい。最後に刹那が消えず、俺らが“自由”であるなら何でもいい。
「俺の“物語を始める”という目的は果たした。あとは、好きにしろ作者。だが───もう物語は始まっていることを忘れるな。」
───
暫くして新たな物語が開始され、俺は赤子の姿で目を覚ました。
このような現象など最早慣れてしまっため、別に違和感はない。
だが、気をつけなければいけないことがある。
……身体が、初期状態に戻っていることだ。
前の物語でどれだけ強くなっていたとしても、始まるたびに俺はただの人間の状態へと引き戻される。
前作と比べれば、計り知れないほどの弱体化。雑魚にも程があると言える。
だが、それでも構わない。一からやり直すのは、いつものことだ。
それに、経験を活かせばいい。ただ…それだけだ。
今回も、効率よく己を研鑽していくとしよう。
この物語の“設定”についても理解する必要がある。
どんな世界なのか。何がルールで、何が例外なのか。
この物語が終わればどうなるのか……想像もできない。
なにせ、自分の手でループを壊したのだから。
無理もないだろう。これは異例中の異例──前例のない物語だ。
(さぁ、最後の物語を始めよう。)
……ここまで観ている読者には、ちゃんと説明しておくべきだろう。
───これは“転生“とは少し違う。
俺は幾重もの物語を経験しており、“物語が終わっても新しい物語が始まる”という自分の意思で終われない強制的なループの呪いを受けてしまったためだ。
さて、説明は以上だ。
さぁ、読者──この物語を、鏖覇 紅蓮の物語を見届ける準備はいいか?