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第9話 本山冬夜

 「三森さーん」




 人懐っこい顔で話しかけてきたのは、グループ最年少の本山冬夜だった。20歳になったばかりの彼のために事務所が企画した写真集の撮影日で、休憩時間に彼の方から話しかけてきた。




 「この後に予定していた仕事って、バラシになったんだっけ?」


 「はい、予定していたバラエティー番組のMCの方が急遽来れなくなったということで、2日後の夕方にリスケになりました。あとでスケジュール送りますね」




 女の子のような顔で、「ありがとう」と笑った。彼自身の年齢とは裏腹に、彼を推しているファンには30代以降の女性が多い。彼の純真無垢な言動に惹かれているのだろう。彼を見ていると嫌なことや理不尽なことをすべて許せるような気持ちになってくる。




 「三森さんって、仕事に一生懸命ですごく可愛いなって思う」




 突然、恥ずかしがる様子もなく、まっすぐな目で見つめてくる。


 また昨日の二の舞にならないように、冷静さを保つように集中する。彼らは仕事でこういうことに慣れているだけで、私に対して特別にやっているわけではない。


 それでも意識せずにはいられず、邪念を払うためにスマホで先ほどの撮影写真のチェックをすることにした。本山冬夜は、無視されたことを気にする様子もなく、さらに近づいてくる。




 「そういえば、昨日、蓮くんとスタジオにいたよね?」




 心臓が飛び跳ねそうになった。スタジオってことは、彼が私の手を掴んでいたところを見られたのだろうか?それはまずい。




 「本山さん、あの…」


 「冬夜って呼んでね」


 「…冬夜さん」


 「なに?」


 「昨日は、三浦さんと今後の話をしていたんです。彼自身、他にもやりたいことがあると教えてくれて、その手助けをしたいと思いました。私は彼だけではなく、メンバーの皆さん一人ひとりがやりたいことを応援したいです。冬夜さんも何かあれば、教えてくれませんか?」


 「僕も三森さんと仲良くなりたい」


 「…え?」




 頭がフリーズする。




 「あの…私が言っているのはそういうのとは違いまして…」


 「僕の今の望みはそれだよ。昨日の蓮くんと三森さんみたいに、僕も三森さんと仲良くなりたい」




 “昨日の蓮くんと三森さんみたいに”とは、どういう意味なのか。そもそも三浦蓮と私は深い関係もなく、それは彼もわかっているはずだ。昨日の、ということは、私と手をつなぎたいということ…?いや、そんな「手をつなぐだけの関係」なんてないし、第一必要ないだろう。


 わざとやっているのか、やけに可愛い、いじわるな顔をして私を見ている。




 「写真、手伝うよ」




 そういってスマホの画面をのぞき込む。顔が近づいて、お互いの髪の毛が触れ合っている。嗅いだことのない良い香りがした。




 「ちなみに三森さんってさ、年下の男のことってどう思う?」




 それって、私から見た彼のことを聞いているんだろうか…?


 本山冬夜は21歳、私は前世でも今の世界でも28歳。7つも年下の男性を意識したことなんてない。でも、この状況が私の考えを今まさに変えようとしている。こんなの、意識せずにはいられない…




 「…弟みたいに思うかと思います」


 「そっか」




 私の発言によって悲しんでいる様子もなく、何事もなかったかのように撮影現場の方に歩き出した。特に意味のない、ただの世間話だったのか。安心してふっと息を吐きだした瞬間、本山冬夜がこちらに振り返った。




 「嘘つき」




 さっきと同じいじわるな顔で笑って見せる。


 彼の顔が脳裏から離れず、私はその場で座り込むことしかできなかった。

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