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ドラゴンは幸せが分からない  作者: ほのぼのる500
目覚めと国を捨てた冒険者
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―元冒険者 ガルガ視点―


 ドラゴンのルクスに、服の重要性を理解してもらい本来の話し方でいいと言われ、気が緩んでいた。まさか「幸せ」について聞かれるとは。

 ルクスを見るが、揶揄っている様子はない。彼女は本気で幸せについて聞いている。でも俺は、ルクスの質問に答えられそうにない。

「悪い、その質問の答えを俺は持っていない」

 俺の言葉に、ルクスはジッと俺を見つめる。嘘を言っていると思われているのだろうか?

「本当に知らないんだ」

 メディート国で冒険者をしている頃は、多くの者たちを助けた事で「勇者」と呼ばれた。

 国にも認められ、幸せだと思った。親に捨てられた俺が、皆に認められる存在になったのだと。


 でもその幸せは、一瞬でなくなった。


 俺に冤罪を着せたのは、仲間の一人だった。俺は、奴の実力を認めていたのに。彼こそ、次の勇者になる存在だと。そんな信じた仲間に、俺は裏切られた。

 罠に嵌めたのが誰なのかわかった時、俺は衝撃を受けた。他の仲間が俺の冤罪を晴らしてくれたが、やるせない思いは消えず。そんな状態の俺に届いたのは、国からの「勇者としては不適格、国を欺いた可能性あり。よって二度と勇者を語るな」という通達だった。

 幸せだった俺の世界は、一瞬で崩れ去った。

「ガルガ、大丈夫か?」

 過去を思い出し、険しい表情でもしていたのか?

「大丈夫。少し過去を思い出しただけだ」

「過去?」

「あぁ……仲間だと思っていた者に裏切られて、幸せを失ったんだ」

「幸せを失った?」

「あぁ」

 ルクスに何を話しているんだ? 幸せが何か知らないドラゴンに話したところで、俺の気持ちが伝わる事はないのに。

「悲しいな」

 ルクスの言葉に首を傾げる。

「わかるのか?」

「我にはわからん。でも、記憶の中にいる者が幸せを返せと泣いている。つまり幸せを失うのは、悲しい事なのだろう? まぁ、記憶の中の者は泣くだけでなく、原因を刺し殺して笑っているが」

「えっ? 記憶の中の者? んっ? 誰の事だ? というか、刺し殺す?」

 記憶という事はドラゴンであるルクスの記憶だよな? つまりルクスは幸せを知っている? いや、知らないから俺に聞いたんだよな? ……駄目だ、頭がこんがらがってきた。それに刺し殺して笑っているって……不気味過ぎるだろう。

「我の力を得て、生き延びた者だ」

 ルクスの力で生き延びたという事は、

「ルクスとは別人?」

「そうだ。その者が死んで力が我に返って来たんだが、どうやら記憶も持って来てしまったようだ」

「そうなのか」

 力の譲渡をした者が死んで、力が戻って来た。その力に、力が宿っていた者の記憶があったという事だな。

 力を他の者に譲渡? ドラゴンはそんな能力を持っているのか。物語で読んだドラゴンより、凄い事が出来るのだな。

「幸せを失ったという事は、幸せを持っていたんだよな? その幸せは何をして得られたんだ?」

「幸せを持っていたというか、幸せだった時があるという事なんだが。俺の幸せは国に認められた事……なのか?」

 俺の幸せは、メディート国の上層部……あんな奴等に認められる事だったのか?

「ガルガ?」

「頑張った事が認められて幸せだと思った。でも、あの幸せは俺が思っていたより、価値がなかったようだ」

 俺の言葉に、少し首を傾げるルクス。

「幸せに価値?」

 混乱している様子のルクスに、ちょっと笑ってしまう。最強の力を持つドラゴンが、「幸せ」を知ろうとして混乱している。

「ふむ。ガルガの言っている事は、よくわからんな。それにしてもお前は、短い人生なのにいろいろと経験しているんだな」

 短い人生? あぁ、ドラゴンに比べたら人の人生など短いだろうな。

「ルクスは、どれくらい生きているんだ?」

「さぁ? 覚えていないな。子供の頃――」

「子供の頃があったのか!」

 ルクスが俺を見る。その真っすぐな目に、そっと視線を逸らす。

「悪い。あるよな。うん。ドラゴンにだって子供時代はあるんだ」

 真っすぐ俺を見るルクスにちょっとたじろいだ。

 ルクスの瞳は不思議だ。赤みがかった金色の瞳に真っすぐ見られると、なぜか逃げ出したくなる。別に魔力で圧を掛けられたわけでも、武器を手にしているわけでもないのに。

「すまない、ルクスの子供時代が想像出来なかったんだ」

「そうか。ずっとずっと昔の事だから、我もあまり覚えていないな」

 今のルクスの姿は二四歳ぐらいか? でも実際は、俺たちからは想像も出来ない時間を生きているんだよな。

「不思議だな」

「不思議?」

「あぁ、長く生きるとはどういう感覚なんだ?」

 人でも、魔力が強いと長生きだ。それでも、二百年ぐらいだったはずだ。ドラゴンからしたら、二百年などあっという間なのだろうな。

「つまらない」

「えっ? つまらない?」

「あぁ、全てがつまらなくなる。でも、リーガスがいた時は違ったな」

 リーガス?

「ガルガは、リーガスに似ている」

 俺がリーガスに似ている? んっ? リーガスは人なのか?

「リーガスさんは、何者なんだ?」

「我の……友だった獣人だ」

 ルクスの友。つまりドラゴンの友か。

「俺が? ルクスの友に似ているのか?」

「あぁ。彼女は面白い存在だった」

 つまり、俺は面白い存在という事か? どこがだ?

「リーガスは、食べるたびに幸せだと言っていた。ガルガはどうだ?」

「まぁ、うまい物を食う時は幸せかな」

「なんだ。ガルガもリーガスと同じで、食べれば幸せになれるんじゃないか」

 確かにそうだけど、ルクスの求める幸せはそれでいいのか?

「ルクスは、なぜ幸せになりたいんだ?」

「リーガスが求めたからだ」

 ルクスの言葉の意味がわからず、首を傾げる

「リーガスの墓に「幸せになってね」と書いてあった。だから、我はリーガスの願いを叶えたい。だから幸せにならなければならないんだ」

「あぁ、それは……」


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