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ドラゴンは幸せが分からない  作者: ほのぼのる500
目覚めと国を捨てた冒険者
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 そうだ。人間の言葉を話せるようになればいいのでは? あっ、駄目だ。我の喉では、人間の言葉は複雑すぎて使えないんだった。

 他には……人間のオスを見る。そうか、言葉を話せる者に変化すればいいんだ。この場合は、獣人でいいだろう。うん、やってみよう。

 記憶の中に方法がないかな?

 あっ、あった。簡単だな。魔法陣を使えばいいのか? ……魔法陣とはなんだ? 魔法を発動させる陣? ……記憶の中にある魔法陣を使えばいいか。

 とりあえずやってみよう。記憶の中にある魔法陣に魔力を流す。

「なんだ?」

 人間のオスの焦った声に視線を向けると、驚いた表情で我を見ていた。

 おっ、我の体が光っている。魔法陣が発動したのか?

 どさっ。

「んっ?」

 体から力が抜け座り込むと、森の木々が一気に大きくなった。

「あっ、違う。獣人になったから、木々が大きく見えるのか」

自分の体を見下ろす。

「おぉ、足がある! 腕も! 指だ!」

 手を目の前まで近づけると、グッと閉じて、パッと開く。

「すごい。それぞれが動く」

初めての感覚に興奮する。

「なっ!」

 目を見開き一歩後ろに後退する人間のオスに視線を向ける。

「あっ、いや、見てないです」

 赤い表情で目をギュッとつぶる人間のオスに首を傾げる。

「すみません、少しこの場を離れます」

「それは駄目だ! お前には聞きたい事がある!」

 慌てて立ち上がると人間のオスの腕を掴む。

「うわっ。服! 服を!」

「ふく?」

「あぁ、もう!」

 人間のオスは自分が羽織っていたマントを脱ぐと我に掛ける。その行動の意味がわからず、首を傾げる。

「裸は駄目です。マントで前を隠して下さい」

「なぜ隠す? 今まで隠して生活した事はないが」

「それは当然でしょう。ドラゴン体だったのですから、でも今は人ではなく獣人? なんです」

「獣人に見えるか?」

 魔法陣を上手く使いこなせたようだな。良かった。全身を見ようと両手を広げる。

「あ~、マントで前を隠せ! マントを広げるな!」

 目の前で叫ぶ人間のオスに視線を向ける。我が獣人になってからこの人間のオスは、ずいぶんと騒がしくなったな。

 あれ?

「言葉! お前、我の言葉が理解出来ているか?」

「はい、わかるから、マントを前で押さえて、腕を広げるな」

「細か事は気にするな」

「気にするから! あ~言っているのに! しっかりと前を抑えて!」

 おかしいな。この数分で、目の前にいる人間のオスがずいぶんと疲れていく。あっ、溜め息まで。

「疲れているのか?」

 人間が襲って来て大変だったみたいだからな。

「誰のせいだと?」

 そんな事を我が、知るわけないがだろうに。

「知らん」

「……さっきの感動を返してくれ」

 大きな溜め息を吐く人間のオスを見ていると、我に掛けたマントの前を閉じ小さな何かで止めた。

「動きにくいが」

「服を用意するまで、我慢して下さい」

「別に服など――」

「獣人が素っ裸で歩くなんて恥ずかしい事なんです。ドラゴン様にはわからないようですが、周りに迷惑が掛かるので駄目なんです」

 ずいぶんと力強く言うんだな。普通に言っても、聞こえるんだけど。

「そうか」

「そうです」

 獣人には獣人のルールがあるのは知っている。服もその一つなのかもな。

「わかった」

「わかっていただけてよかったです」

「服か」

 人間のオスが来ている服を見る。

「窮屈そうだな」

「そうでもないですよ。体に合った服を着ますし、伸び縮みしますので」

 なるほど。でも着たくないな。

「我も着なくては駄目か?」

「そのお姿の時は絶対に」

 ずいぶんと力強く言われてしまった。だが、まぁルールには従った方がいいか。

「わかった」

 我の言葉にホッとした安堵の表情を見せるオスの人間。

「面白いオスの人間だな」

「オスの人間って……。私はガルガ。メディート国の元冒険者です。まぁ、国を出てきたので今はどの国にも属していませんが」

「オス……ガルガか」

 リーガスは、名は大切な物だと言っていた。

「我はドラゴンのルクスだ」

「ルクス様ですね」

 ガルガは何度か我の名を小さく呟くと頷いた。

「どうにも話し方に違和感があるな。気軽に話していいぞ。今の話し方は慣れていないのだろう?」

 話していると、ときどき出る話し方の方がガルガの本来の話し方だろう。

「いや、それだとかなり馴れ馴れしい話し方になるが……いいのか?」

 我の様子をうかがうように見るガルガに頷く。やはりこの人間は面白い。

「良かった。気をつけて話していても、どこかおかしかったから」

 そうなのか? それは気づかなかったな。

「あっ! それよりルクス、様に言いたい事がある!」

「様も付けなくていいぞ」

 今、つけ忘れて慌てただろう?

「助かる。ルクス、力を加減しないと。あれでは、人間たちに恐怖を与えてしまう」

「それの何が悪いんだ?」

「人間は、自分たちに害があると思うと、どんな手を使っても排除しにかかる。そうなると、とても厄介だ。このドラゴンの森を焼き払おうとする可能性だってある」

「人間にとって害か」

 人間は我が眠りにつく前から獣人を目の敵にしていた。あれも自分たちを害する存在だと思っていたからか? だから、何度も何度もリーガスを殺そうとしたのか?

「我にとっては『人間こそが害』だな」

 今思えば、あの時眠らずに人間を根絶やしにすればよかったのかもしれない。

「今からでも、人間の国を排除するか」

 そうすれば、この森を焼かれる事もないだろう。うん、とてもいいかもしれない。

「待て! 待ってくれ」

「なんだ? 人間たちと同じ事をしようと思っただけだ。人間たちに許されるのなら、我にだって許される行為だろう? 人間たちだけに許される行為など、この世界にはないのだから」

「人間たちの中にも、メディート国の上層部の考えに反対している者たちがいるんだ。全ての人間が敵ではない。だから国を排除するのは止めてくれ」

 そういえば、リーガスの周りにいた獣人たちも一つには纏まっていなかったな。皆が皆、違う意見を持ち時にはその考えが衝突する事もあった。

「確かに、人間にもいろいろな考えを持つ者がいてもおかしくないか」

「あぁ、そうなんだ。ドラゴンに好意的な人間もいる……はず?」

 ガルガを見ると、少し困った表情をしていた。それをジッと見つめると、

「いや、その、メディート国ではドラゴンという存在は、物語の中に出てくる存在なんだ。まさか実際にいるとはほとんどの者が思っていない。だから好意的に見る者がいるかどうかが、ちょっとわからないんだ」

「ふっ」

 言わなければわからないのに、正直な奴だな。リーガスに、似ているな。彼女も、正直だった……。ものすごく頑固な面もあったが。

「あぁ、そうだ。聞きたい事があったんだ」

「なんだ? 俺に答えられる事ならいいが」

「幸せには、どうしたらなれる?」

「………………んっ?」

 困惑した表情のガルガは、少し考えたあとに首を傾げた。

 伝わらなかったのかな? 少し言い方を変えてみるか。

「幸せになるには、我は何をしたらいい? 我は幸せになりたいんだが」

「えっと……ルクスは幸せになりたい。……幸せか」


本日より「ドラゴンは幸せが分からない」の更新を再開します。

2025年も、どうぞよろしくお願いいたします。


ほのぼのる500

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