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ドラゴンは幸せが分からない  作者: ほのぼのる500
目覚めと国を捨てた冒険者
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―ドラゴン ルクス視点―


「こっちだ! あぁ、まさかこの目でドラゴン様を見られるなんて」

 人間のオスのあとから、獣人たちがわらわらと集まって来る。それに少し戸惑うが、彼らからも敵意は感じない。

『誰だ?』

 我の声に、獣人たちが盛り上がる。だが、言葉はやはり通じなかったのか答えはなかった。残念だ。

「ドラゴン様。眠りを妨げ申し訳ありません。これからも我々はあなた様に仕え、この森を何者からも守ります」

 獣人たちの中で一番高齢だと思われる者が、先頭に立ち我に向かって両膝を地面につけ頭を下げる。後ろにいた獣人たちも同じように、両膝を地面につけ頭を下げた。

 彼らの態度に、正直戸惑う。「森を守る」というのは、なんだろう? 我は、何かに守られてきたのか?

 助けを求めるように、一人立っている人間のオスに視線を向ける。彼は、恍惚とした表情で我と獣人たちを見ていた。そしてハッとした表情をすると、眉間に皺を寄せ振り返った。

「いたぞ」

 静かな場所が無粋な声で騒がしくなる。

 現れたのは敵意を持った人間たち。彼らは、獣人たちに向かって剣を振り下ろした。獣人が切られるかと思ったが、人間のオスが間に入り守る。

 獣人たちはすぐに態勢を整え、人間たちを戦いだした。だが、人間たちの数が多いため獣人たちは押され始める。

 静かだった場所がうるさくなり、イラっとした。その瞬間、体の奥がカッと熱くなる。だが、ブレスは駄目だ。我を守ると言った者たちまで巻き込む。彼らには、聞きたい事があるので死なれては困る。

 少し悩んでいると、沢山ある記憶の中に魔力操作を得意とする魔法使いの記憶が浮かんだ。その彼の記憶を元に、人間たちに向かって炎の塊をぶつける。

 剣を振り上げていた人間が一瞬で炎に包まれる。そしてその炎は、つぎつぎと人間たちに襲い掛かる。すべての人間が炎に包まれると、獣人たちから歓声が上がった。

「炎が強い! 少し弱めてくれ!」

 人間のオスが我の傍に来て叫ぶ。

『強い?』

 今の攻撃もかなり弱めたが、まだ強いのか? 人間とは本当に弱い生き物だな。

 しかし困った。沢山ある記憶を探っても、力を抑える方法がない。どの記憶も強くなるに必死な者ばかりだ。

『あぁ、一気に灰にしてしまえばいいのか』

 そうすれば炎は消える。燃やす者がないからな。

 炎を強め、人間を一気に燃やし尽くし灰にする。

「馬鹿か! 違う」

『馬鹿?』

 人間のオスを見ると少し焦った表情をした。

「あっ、申し訳ありません」

 人間のオスは頭を下げると、炎に向かって膨大な水を掛けた。

『なんだ、水を掛ければかったのか』

 ただ我は、水魔法は出来ないがな。

「はぁ、俺の魔力でぎりぎりだな。さすがにあれ以上の魔力が炎に籠っていたら俺の水でも消せなかった」

 この者は、魔法に詳しいようだな。我は、魔法については……攻撃する以外の使い方を知らない。それにしても「馬鹿」か。我にその言葉を言ったのはリーガス以外ではこの人間のオスだけだな。

 この者は面白い。

 そうだ、獣人ではなくこの人間のオスに「幸せ」とは何かを聞けばいいのでは?

「ドラゴン様」

 あっ、獣人たちの事をすっかり忘れていたが、大丈夫だったのだろうか?

「ありがとうございます」

 獣人たちが、我の前で地面に膝をつき深く頭を下げる。

「申し訳ありませんでした。ドラゴン様の手を煩わせてしまい」

 煩わす? 我が人間を攻撃した事か?

『別にかまわない。この森を人間が好き勝手するのは気に入らないからな』

 我の言葉に、深く頭を下げる獣人たち。

「どうか、怒りをおさめて下さい」

『んっ?』

 そう言えば、ドラゴンの言葉を彼らは理解していなかったな。

 リーガスともなかなか意思疎通ができず大変だった。森の中にある木や石を使って、意思疎通を図った事もあったな。

あぁ、そうか。この森にはリーガスとの思い出が沢山あるんだ。眠っている間に森はその姿を大きく変えているが、それでもこの森は我にとって大切な場所。だから、この森を攻撃している人間に対して、もの凄く苛立ちを感じたのか。

『森に人間を入れるのは、嫌だな』

 リーガスの墓を見る。奴らはきっとこの場所も壊すだろう。

 ……本当にイラつくな。

 森へと視線を向ける。森のあちこちに人間がいる。

『邪魔だな』

 ふわりと体内にある魔力が膨れ上がる。奴らを森から消さないと、リーガスの守った森が安全にならない。

「ドラゴン様?」

 人間のオスに視線を向けると、真っ青な表情をして我に近付いて来る。

「魔力を少し押さえて下さい。周りに影響があります」

 周りに影響? 獣人たちを見ると、ふるふると震えていた。それに首を傾げる。

 攻撃もしていないのに、なぜだ?

「ドラゴン様の魔力は、とても多くそして強いです。それを感じて本能で恐怖を感じてしまうのです。どうか魔力を抑えて下さい」

 崖の下が騒がしくなる。見ると、人間がまた獣人を襲っている。

『あいつら、また!』

 崖の下にいる人間に向かって炎の塊を放つ。さっきは加減したが、もうしない。だって、

『奴らは、この森にはいらない!』

「えっ?」

 獣人を襲っていた人間たちが一瞬で灰になる。

 ふわっと体を浮かせると、上空へと上がる。ある程度の高さまで飛ぶと、森全体を見る。あちこちに点在する人間の気配。それと人間の集まっている場所が三か所。

攻撃は、人間の集まっている場所からだな。

高速で移動して、人間が集まっている場所に向かってブレスを吐く。森の被害が少なくなるように、ブレスの威力は出来るだけ加減する。人間は弱いので、威力が弱いブレスでも問題なく消せる。

 三か所にいた人間の排除が終わると、次はあちこちに点在する人間を消していく。森の中を飛び回りながら、目に付く人間を消していく。

『多いな、次は?』

「待て! これ以上は止めろ!」

 森からほとんど人間の気配がなくなる頃に、崖の上にいた人間のオスが目の前に現れた。

「はぁはぁ、追いついた。もう止めて下さい。奴らは森から逃げようとしています。もう森は安全です。逃げる者を殺すのは卑怯者のする事だから、もう攻撃はしないで下さい」

『卑怯?』

「あっいや、ドラゴン様が眠っているところを不意打ちするのも卑怯だけど、戦意喪失した者は見逃してやってほしい。上からの命令で無理矢理に戦わされている者もいるんです」

 無理矢理に戦わされている者か。沢山ある記憶の中に、家族を人質に取られた者たちが命令を無視出来ずに戦わされていたものがある。まぁ命令を下したのは、我の力を持って生まれた者だか。

 なんとなく気が逸れたのか、膨れ上がっていた魔力が収まる。

「ありがとうございます」

「ひっ」

 我と人間のオスの傍に、人間が姿を現した。

 その者は、我の姿を見ると尻もちをつき目を見開き震えだす。

「おい、しっかりしろ」

 人間のオスの言葉に人間がハッとした様子で彼を見る。

「あ、あなたは冒険者の」

「元だ。俺はメディート国を出た者だ。メディート国に帰れ、そしてドラゴン様の怒りで国が滅ぼされたくなければ大人しくしろと伝えろ。お前は貴族である程度の地位を持った者だから、上に進言が出来るだろう?」

 人間のオスの言葉に、人間は胸元にあった何かを掴む。そして視線をさ迷わせた。

「俺はお前を殺すつもりはない。ドラゴン様も今のところ殺す事はしない。だから今のうちに帰れ。とっとと行け!」

 人間のオスの言葉に人間は慌てた様子で立ち上がると、ふらふらと逃げていった。

「先ほどの者を見逃していただき、ありがとうございます」

 人間のオスに視線を向ける。

 この人間のオス、本当に面白いな。丁寧な話し方になったり、横暴な話し方になったり。少し話してみたいな。「幸せ」についても聞きたいし。


「ドラゴンは幸せが分からない」を読んで頂きありがとうございます。

2024年の更新は、本日が最後となります。

来年も、よろしくお願いいたします。


2025年は1月6日より、更新を始める予定です。

頑張ります。


ほのぼのる500

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