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ドラゴンは幸せが分からない  作者: ほのぼのる500
旅立ちと家出獣人
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 王城を出て王都を歩く。

「あのガルガさん」

「どうした?」

「私が来ていたドレスを売ってお金に換えたいのですが。宝石もあるので、かなりの資金になると思うんです」

 ミルフィを見るガルガ。

「いいのか? 売ってしまったら、二度と手にする事は出来ないぞ」

「問題ありません。屑からのプレゼントなど、二度と見たくないので」

 ミルフィが言い切ると、ガルガが頷く。

「それなら問題ないな。高値で売れる場所を探すか」

「はい」

 ガルガが通りすがりの人に話を聞くと、ある店を紹介された。

「バズ。大丈夫か?」

「はい。大丈夫です」

 バズは今。顔を隠すためにマントをかぶっている。しかも顔には大きなマスクをしているので、目だけが見えている状態だ。

「バズさん、なんだか、かっこいいです」

「えっ? そうかな?」

 照れ笑いするバズ。そんな彼にガルガが温かな視線を向けている。

「あった、あの店だな」

 ガルガが指した店は、古いがとても味のある雰囲気があった。

 店に入ると、丸眼鏡を掛けた男性が奥の部屋から出てきた。

「いらっしゃい。今日はどんな御用ですか?」

 男性は我々を順番に見ると、首を傾げた。

「ドレスを売りたいんだ、査定を頼む」

 ガルガがミルフィに視線を向けると、彼女は頷きドレスを男性の前に置いた。

 男性は、ドレスを見るとチラッとミルフィを見た。

「そこそこの物ですね。一級品の生地ではないですが、裁縫はしっかりしています。宝石は数があるのでそれなりの金額となりますが、中には屑と呼ばれる宝石が混ざっていますね」

「えっ?」

 男性の評価に、驚いた表情をするミルフィ。

「今、計算しますね」

 男性はそんな彼女にチラッと視線を向けたが、査定価格の計算を始めた。

「屑と呼ばれる宝石に二級品の生地。はっ、嘘でしょう?」

 ミルフィの表情が険しくなっていく。

「だ、大丈夫か?」

 ガルガはミルフィを見ると、ちょっと引いている。

「ふふっ、一級品の生地と最高級の宝石だけを使ったドレスだと聞いたのですが、違うみたいです」

 ガルガは生地の評価をした男性に視線を向ける。男性は、視線に気づいたのか首を横に振る。

「私は、嘘は言っていません。この生地は一級品とは違いますし、屑と呼ばれる宝石も混ざっています」

「そうか」

 ミルフィは大きく一度深呼吸すると、気持ちを落ち着けたのか表情が戻る。

「査定額が出ました、こちらです」

 男性は紙に書いた金額を、ガルガとミルフィに見せる。

「ガルガさん。これがあれば、旅の準備は出来ますか?」

 ミルフィは心配そうにガルガを見る。それに彼は笑う。

「あぁ、お釣りがくるくらいだ」

 ガルガは安堵した表情になるミルフィの肩をポンと叩いた。

「お売りしますか?」

「はい」

 男性の言葉に嬉しそうに答えるミルフィ。

 資金か。

「我も用意した方がいいのか?」

「ルクスの準備は、獣人たちがしてくれたから問題ないぞ」

 そうだけど、少し旅を経験してわかったが、いろいろと必要となる。それらを購入する資金は必要だろう。

「ルクス」

 ガルガを見る。

「気になるのか?」

「そうだな」

 ガルガには世話になっているしな。

「そうか。だったら資金が足りなくなったら言うよ。その時に、ルクスの持っている物を売ろう」

「わかった」

 今は十分に資金があるという事か。でももし足りなくなったら……何を売るんだ?我の持っている物? あっ!

「ドラゴンの鱗――」

「あぁ、ルクス」

 焦ったように大きな声を出すガルガ。バズも隣で慌てている。

「それは駄目だ」

「そうなのか?」

 我の持っている物で、簡単に売れるのは鱗ぐらいなんだ。鱗だったら、すぐに生えてくるし。

「お待たせしました」

 ミルフィの声に視線を向けると、我もガルガもバズも驚く。

「髪……どうした?」

 ガルガが戸惑った様子で問う。それに笑顔で応えるミルフィ。

「邪魔だしお金になるというから売りました。凄く頭が軽くていいですね」

 腰ほどまであった髪が、肩のあたりにまで短くなっているミルフィ。

「はぁ」

 ガルガが大きな溜め息を吐く。

「あはは。ミルフィさんは思いっきりが良いですね」

 バズの言葉に、笑うミルフィ。

「はい。私の決意表明みたいなものです」

「まったく。貴族女性にとって髪は大切な物なのに。まぁ、もう切ってしまったんだから何を言っても無駄だな。よしっ、ミルフィの旅の準備をするか。まずは服と武器……は必要か?」

 ミルフィは、ガルガの説明に期待を込め頷く。その楽しそうな表情にガルガが笑う。

「わかった、武器もだな」

「はい。ありがとうございます」

 ドレスを売った店から出て、まずは服を買う事になり王都を歩く。

 歩きながら、周りの雰囲気を見る。ラクスア国は獣人の国だが、人も結構いるんだな。特に二つの種がいがみ合っているようにも見えない。いい関係が築けているのか。

「店主が教えてくれたのは、あそこだな」

 ドレスを売った店の男性がお薦めしてくれた店に着く。ガルガは中を覗き込むと、ミルフィを見た。

「ここは、ミルフィだけで行ってくれ」

「えっ? でも冒険者の服なんて買った事がないのでわからないです」

 戸惑うミルフィにガルガも困った表情になる。

「俺も女性の服を用意した事がないんだよ。だから、細かい事まではわからなくって」

 性別が違うからな。

「お店の人に聞いてみましょうか」

「あっ、そうだな。そうしよう」

 バズの提案に賛成するガルガ。ミルフィもホッとしている。

 店に入ると、店員がにこやかに近付いて来た。

「ミルフィに冒険者の格好を一通りそろえて貰えないか?」

「わかりました。武器は何を使用しますか? それによって必要な物が変わって来るのですが」

 店員は、ズボンやスカートなどを次々と選んで行く。ミルフィは武器と言われ、ガルガに視線を向けた。

 ガルガは、ミルフィの全身を見て困った表情になった。

「ミルフィ、どんな武器に興味がある?」

「えっと、私でも持てる武器ならなんでもいいのですが」

「レイピアにするか? 細身で先端の鋭く尖った刺突用の片手剣だ。護身用にも良い」

「はい。ではそれで」

 ガルガが苦笑する。

「ミルフィ、レイピアを見た事は?」

「えっと……」

 ガルガから視線を逸らすミルフィ。どうやらレイピアがどんな剣なのかわかっていないようだ。

「今まで貴族として生きてきたんだ、無理もないか。武器屋でレイピアを見て無理そうなら、言ってくれ」

「はい」

 ガルガとミルフィの話から、店員は服を選ぶと目の前に並べた。

「こちらが、ミルフィ様にお薦めの服となります。武器が決まっていないようなので、一般的な服だけを集めました」

 店員が選んだ服を興味津々で見るミルフィは、ガルガと相談しながら選んで行く。しばらくすると、沢山の荷物を嬉しそうに抱えるミルフィが見えた。

「お待たせしました。次に行きましょう」

 次は武器屋だ。実は、我も楽しみなんだよな。

 武器屋に入ると、壁にいろいろな剣が置かれていた。他にも弓に矢。そしてハンマーに鞭。

 鞭?

「鞭は武器になるのか?」

「結構いい武器になるぞ」

 ミルフィの武器は選び終わったのか、ガルガが我の下に来る。

「そうなのか」

 壁に掛かっている鞭を取る。

「振り回すなよ」

 ガルガに視線を向け笑うと、もの凄く心配そうな表情になるガルガ。

「大丈夫だ」

 とは言ったけど、手に持っていたら振り回したくなるな。元に戻そう。

 壁に鞭を掛けると、ちょうどミルフィがきた。彼女を見ると嬉しそうにレイピアを持っていた。

「気に入った武器があったのか?」

「はい。とてもかっこいいんです」

 レイピアを我の前に出すミルフィ。確かに赤い色が入ったデザインでかっこいい。

「かっこいいですね」

 バズがミルフィを褒めると、恥ずかしそうに笑う。

「服も武器も準備した。あとは、猛特訓だな」

 ミルフィはレイピアを見ると、頷く。

「絶対に扱えるようになりますね」

 武器屋を出ると、乗合馬車の乗り場に向かう。

「貴族が使う馬車と違って揺れるが大丈夫か?」

 ガルガがミルフィを見る。少し不安そうにするミルフィは、ガルガを見て頷く。

「大丈夫です。きっと」

「どうしても無理なら言え、体を少し浮かしてやる」

 我の言葉に、バズが期待を込めた様子で視線を向ける。

「バズもか?」

「はい。長距離の移動になるので、ちょっと不安だったんです」

「おいバズ。お前は慣れていないのか? その……」

 ガルガが言い淀むのを見てバズが苦笑する。

「騎士団での訓練では、馬車は使いませんでした。俺は歩きか走らされたので」

「そうか。悪い」

 頭を掻くガルガは、少し視線をさ迷わせる。

「あっ、あそこだな」

 乗合馬車が止まっているのを見て、安堵した表情をするガルガ。そのまま、御者に話を聞きに行った。

「ホワル国に行ってからカシャート国に行くしかないみたいだ。森を突っ切る馬車なんてないから」

 ガルガの言葉にバズが笑う。

「それはそうでしょうね。出発時間はいつですか?」

「二時間後だそうだ。昼過ぎだな。問題ないなら、チケットを買っていいか?」

 ガルガは我々を見て頷くと、チケットを買いに行った。

「あっ、お金」

 ミルフィが、少し困った表情をして少し離れた場所にいるガルガを見る。

「あとで渡せばいいだろう」

「そうですね」

 ガルガが戻って来ると、バズがガルガの正面に立つ。

「どうした?」

「俺の武器も選んでください」

 えっ?

 バズは争うのを嫌っているのに?

「どうした? 何か不安な事でもあるのか?」

「いいえ、僕も自分の食い扶持ぐらいが稼がないと駄目だと思ったんです」

 バズの言葉にガルガが目を見開く。

「気にしなくていいぞ。魔道具を作りたいんだろう?」

「魔道具は作ります。あっ、魔道具の本はかなり高額なんです。だからお金を貯める必要もあります」

 バズの勢いに、ガルガが少し背を反らす。

「冒険者は魔物を倒すだけでなく、人に武器を向ける事もある。本当に大丈夫か?」

 真剣な表情で聞くガルガ。バズも真剣な表情で頷いた。

「はい。問題ありません。まぁ、少し不安もありますが、でも乗り越えます」

 ガルガがジッとバズを見る。そして溜め息を吐いた。

「わかった、本気みたいだしな」

 ガルガの返事に、バズだけでなくミルフィも喜ぶ。

「良かったですね」

「はい。二人で頑張りましょう」

 ん~、バズとミルフィを見ているとほわっとした気持ちになるな。

 これは……なんだろうな。

「さっきの武器屋に戻って。あっ、バズの武器は何だ?」

「ロングソードを使ってました」

 バズの返答に、ガルガが少し驚いた表情をする。

「そうか。さっきの武器屋に良いロングソードがあったな。あれにしよう」

 バズがガルガを見て笑う。

「僕に合えばですよ」

「……わかっている」

 ガルガの返答に間があったな。バズも気づいたのか不審気にガルガを見る。その視線に気づいたガルガがそっと視線を逸らす。間に気づかなかったミルフィは、ガルガとバズを見て首を傾げていた。

面白い三人だな。

 武器屋に戻り、ちょっと口論もあったがバズの武器も無事に購入。乗合馬車の乗り合い場に戻り、馬車に乗り込んだ。

 正面に座ったガルガとミルフィを見る。そして隣に座ったバズを。

「不思議なものだ」

 目が覚めてから、今までの事を思い出す。どこかくすぐったい気持ちになるのが不思議だな。


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