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ドラゴンは幸せが分からない  作者: ほのぼのる500
旅立ちと家出獣人
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―ドラゴン ルクス視点―


 頬を赤くしてスープを飲むミルフィに視線を向ける。

 目は腫れているが、昨日より明るい表情をしている。昨日は酷い顔をしていたからな。あっ、この言い方は駄目だとガルガに怒られるな。

「ルクスは食べないのか?」

「あぁ、今日はいらない」

 別に我に食べ物は必要ない。ガルガたちを見ていると食べてみたくなるが、今日はならない。

「そうか。うまいのに」

 その「うまい」が我にはわからないからな。

「このパンもおいしいですよ。やっぱり王城で出る料理だけありますね」

 バズの嬉しそうな表情にガルガが笑っている。

「「「ごちそうさまでした」」」

 食後、少し休憩をするとミルフィがお風呂に行った。

「ルクス。これからどうする?」

 ガルガを見ると、ミルフィが出て行った扉を見ていた。

「ミルフィが気になるのか?」

 我の言葉に肩を竦めるガルガ。バズも気になるのか、扉をチラッと見た。

「まぁな。でも貴族の事に俺たちが口を挟むのはまずい」

 んっ?

「自分を大切にしろ」と言っておいて?

「そうですね」

 待て、バズも「思い切って決断を」と話していただろう。

「言っている事と、やっている事が合っていないぞ」

 我でもおかしいとわかるぞ。

「いろいろと経験した者からの、些細な助言だ」

「はい。僕も経験者からのちょっとした小話です」

 二人の言葉に笑ってしまう。バズは、少しずつ変わってきているな。

「それより、何故貴族の事に口を挟めないんだ?」

「あぁ。カシャート国がどんな考えの国なのか詳しくは知らないが、どの国の貴族も平民と深く関わるのを嫌がる。中には友好的な関係を築ける者もいるけどな」

 そういうものなのか。貴族というのは面倒なんだな。

「貴族の無駄な矜持という奴ですよね。僕にとっては、無意味なものです」

「バズは貴族なのに、変わっているな」

「騎士爵は貴族と言っても一番下ですから。まぁ、僕の両親は代々続くその騎士爵に誇りを持っていましたが。僕には誇りではなく足枷でした」

 寂しそうに笑うバズ。

「今はその足枷がなくなっただろう?」

「はい」

 バズの嬉しそうな表情に、ガルガがホッとした表情をした。

「それで、どうするんだ?」

 ガルガの視線が我に向く。

 どうすると言われても……。

「ガルガはどうしたいんだ?」

「俺としては、ミルフィが住むカシャート国に行こうかと考えている。彼女は貴族だ。俺たちの旅に付き合わせるのは悪いからな。馬車でも借りれば、三週間から一ヶ月で着くだろう」

 そんなに掛かるのか? 飛んで行ったらすぐなのに。

「言っておくが、飛ぶのは駄目だぞ。昨日のように、奇襲と間違われる」

 あぁ、そう言えばそんな事もあったな。

「カシャートに行ったら冒険者登録をして、冒険者の活動をしないか?」

「それならラクスア国で登録したらどうだ?」

 わざわざカシャートに行ってから登録しなくても、近場でいいだろう。

 ガルガがバズを見る。そして首を横に振った。

「ラクスアはバズの住んでいた国だ。ここで冒険者登録をすると、彼の家族が探していた場合に見つかるのが早くなる。登録したら、いつかはバレるだろう。でも、国が違えば、バレるまでに時間が掛かる」

「へぇ、そう言うものなのか」

「あぁ」

「あの、すみません。僕のせいで」

 バズが申し訳なさそうに頭を下げる。でもガルガがそれを途中で止める。

「謝る必要はない。そうだろ?」

 ガルガが我を見る。

「あぁ、ガルガの言う通りだ」

「はい」

 ギュッと両手を握り絞めるバズ。

 そうか。この国がバズの国だったのか。んっ?

「家出していたよな?」

「はい」

「バレない内にとっとと出て行った方がいいな」

 我を見て、嬉しそうに笑うバズ。やはり、早くここから離れたいのかもしれないな。

 コンコンコン。

「失礼します。戻りました」

 部屋に戻って来たミルフィを見て、ガルガとバズが驚いた表情をする。

「あの、似合いますか?」

 ミルフィはドレスではなく、平民が着るような服を着ていた。

「どうしたんだ? 俺たちの面倒を見てくれている者にドレスをお願いしておいたんだが」

 ガルガが少し戸惑った様子で、扉に視線を向ける。

「用意してくれていました。でも、一人で着られる服をお願いしたんです。えっと、似合いませんか?」

「うん。似合わないね」

「ルクス!」

 またガルガに怒られた。何故だ? 正直に話しただけなのに。

「悪いな。えっと……似合うかな?」

 ガルガの返答に、ミルフィが楽しそうな笑い声を上げた。

「ふふっ。無理に褒めなくていいですよ。私も鏡を見て驚きました。全く似合っていないので」

 ミルフィの所作が綺麗だからだろうか? どこか服が浮いている。

「あの、ルクス様。お願いがあります」

 私の前に来たミルフィが緊張の面持ちで我を見る。

 どうして、ガルガとバズまで緊張しているんだ? 

「あの……私も旅の仲間に加えてください。お願いします」

 頭を下げるミルフィに視線を向ける。

「悪い」

「駄目ですか?」

 悲し気に我を見るミルフィ。

「そうではなくて。旅の決定権は全てガルガにあるんだ」

「えっ?」

 ミルフィがガルガを見る。彼は眉間に深い皺を作り、我を見る。

「全てではないだろう?」

 そうだっけ? いや、最終決定権はガルガだろう。

「ガルガさんだと思いますよ」

 ほら、バズだってそう言っている。

「そうか?」

「うん」

 絶対にそうだ。

「はい」

 バズも賛成しているんだから。

「ガルガさん、お願いします」

 ミルフィに頭を下げられたガルガが困った表情をする。

「いや、旅は大変だぞ」

「大丈夫……とは言えませんが、頑張ります。あの、食器を洗うのだって料理だって覚えます。最初はその、いろいろと迷惑を掛けると思いますが。駄目でしょうか?」

 不安そうにガルガを見るミルフィ。

「……はぁ。そうだな、面倒をみるのが二人から三人になるだけだな」

 んっ? それはもしかして我とバズの事か?

「ははっ。ガルガさん、これからもよろしくお願いしますね。末永く」

 バズが楽しそうに言うと、ガルガが呆れた表情をする。

「末永くって」

「我も頼むな」

「ルクスはもう少し謙虚に言ってくれ」

 謙虚に?

「頼んだぞ」

「いや、違うだろ!」

 ガルガの突っ込みに、バズとミルフィが笑う。

「そうか?」

「お願いしますだろ?」

「お願いします」

「「ぷっ」」

 我の言葉にバズとミルフィが噴き出す。

「まったく心が籠っていないだろう。少しは気持ちを込めろ」

「お願いします?」

 心を込めて? 難しいな。

「疑問形で言うのはおかしいだろう。はぁ、もういいよ。頼まれた」

「そうか」

「まったく」

 呆れた様子を見せるガルガ。バズとミルフィは、そんな彼を見て楽しそうだ。

「よし、これからの事も決まったし。用意したら行くか」

 ガルガが立ち上がると、テーブルを片付け出した。

「お手伝います」

 ミルフィはガルガの真似をして、使ったお皿などをワゴンに載せていく。バズは、そんな二人を見ながら部屋を片付け出す。

 食器の片付けも終わり、部屋の掃除も終わるとガルガが男性獣人に挨拶をした。

「森にいるアグーに手紙を渡して貰いたいのだが、良いだろうか?」

「はい。森に行く騎士団がいますので、渡しておきます」

 ガルガは手紙を渡すと、軽く頭を下げた。

「世話になった。ありがとう」

「いえ、私も楽しかったです」

 そうだろうな。この部屋から出て行くたびに楽しそうに叫んでいたもんな。バズも聞こえていたからだろう。下を向いた状態で肩が揺れている。きっと笑っているな。


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