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ドラゴンは幸せが分からない  作者: ほのぼのる500
旅立ちと家出獣人
23/28

23

―ガルガ視点―


 もの凄い勢いで落下するのでビビる。

 静かに敵に近づこうとした作戦が、さっそく駄目になった。

「ルクス!!!!!」

 地面には無事に着地成功。それにホッとしながら、上空を見る。ドラゴンの尻尾が左右に揺れている。

「はぁ、まぁ無事に着いたからよかったか」

 ルクスの魔力に包まれたのがわかったから、大丈夫だとは思ったけど怖かった。本当に怖かった。

「誰だ、きさま」

 まぁ、あれだけ派手に登場したらこうなるよな。

 俺の周りを囲う六人に、視線を向ける。

 武器は剣に、弓もある。あとは、腰に下げているのは魔道具だな。何が起こるかわからないから、時間を掛けるのは悪手だな。

「初めまして。獣人を解放して欲しいんだが」

 俺の言葉に馬鹿にした様子で笑う者たち。たった一人なので、気が緩んでいるようだ。

「お前、頭は大丈夫か? それで『どうぞ』なんていう奴がいるわけないだろうが」

「そうだな」

 右足を少し後ろに引き、目の前にいる者との間合いを確認。

「それなら、しょうがない。力ずくだな」

 言い終わった瞬間、目の前にいた者を倒す。次は左にいる者だ。

 二人倒したところで、少し呆然としていた敵が動き出す。でも遅い。もうすでに、三人目を倒し四人目に向かう。少し反撃されたが倒し、五人目に視線を向けて動きを止めた。

「動くなよ」

 五人目の腕の中には、子供の獣人。残った二人を見る。

「どうする?」

「向こうに知らせろ」

 向こう?

 二人の視線は、先ほど見つけた建物の方を見ていた。

 呼ぶなら早い方がいいぞ。だって、そろそろルクスが、

 ドドドーーーーン。

 巨大な音と一緒に地面が揺れる。

 やり過ぎないように言ったのに。

 二人を見ると、揺れで隙が出来ている。その隙を見逃さず、獣人の子供を助ける。

「あっ! 待て!」

 バキバキバキ。

 地面の揺れが落ち着くと、木々の倒れる音が森に響く。

「何が起きているんだよ!」

「しるか!」

 目の前の二人がケンカを始めたので、そっと獣人の子供に話しかける。

「獣人たちが監禁されている場所は?」

「あっち」

 俺が怖いのか震えている獣人の子供は、縋るように俺に視線を見てある方向を指した。

「ありがとう。一緒に来るか?」

「うん」

 ケンカ中の二人を見ながら、子供が教えてくれた建物に向かって移動する。

「ここ?」

「うん」

 獣人の子供が心配そうに扉に手を当てる。もしかしたら、この子の家族が中にいるのかもしれない。

 建物を調べ、最後に扉を確かめる。

「おい、何していやがる」

 俺のことに気づいたのか、苛立った様子で近づく二人。

「後ろに下がって」

 獣人の子供を下がらせると、近づいて来た二人に俺から襲い掛かる。

「えっ。うわっ」

「あっ」

 あっという間に二人を倒すと、獣人の子供に視線を向ける。

「大丈夫か? 怖くなかったか?」

「凄くかっこいい」

 えっ? 

 キラキラした目で俺を見る獣人の子供に笑ってしまう。

「かっこよかったか?」

「うん。凄く、凄くかっこよかった」

 獣人の子供の返答に笑いながら、倒れた一人に近づく。彼が倒れた時、首から提げている鍵が見えたのだ。

「これか」

 倒れている者から鍵を引き千切ると、獣人たちが監禁されている建物の扉に鍵をさす。

「合っているみたいだな」

 鍵を回すと、ガチャリと音が聞こえた。そっと扉を開けると、薄暗く汗臭かった。建物の中に入ると、巨大な檻がある。そしてその中に子供や女性、年配の獣人たちがいた。

「ママ」

 獣人の子供が檻に近づき、ある女性に必死に手を伸ばす。

「ルイ―ス」

 手を伸ばされた女性は、子供の手を掴むと泣き出した。

 その様子を見ながら檻の周辺に視線を向ける。

 何処かに檻の鍵がある筈だ。

「お兄さん。鍵なら扉の傍にある棚にあるよ」

 年配の獣人が指す方を見ると、棚が見えた。

「ありがとう」

「それはこっちの言葉だよ。ありがとう。本当に、ありがとう」

 俺に向かって深く頭を下げる年配の獣人。彼の体には、殴られた痕があちこちにあった。

 鍵を開けると、獣人たちが体を支え合いながら檻から出て来る。

 その様子を見て、監禁が随分と長い間だった事に気づいた。獣人は人より体の作りが強い。それなのに、足が弱っている。

「大丈夫ですよ。元の生活に戻れば、すぐに体は元に戻ります」

 ある獣人が、俺の様子を見て笑って教えてくれる。それに笑って返すと、一緒に建物を出た。

「何をしていやがる」

 苛立った様子の獣人が、俺たちの前に来る。

「お前か? こいつ等を出したのは。余計な事をしやがって。おい、誰が出てきていいと言った。戻れ!」

 威圧的に怒鳴る獣人は、おそらくラクスア国を裏切った村長だろう。

「うるさいな」

「なんだと」

 村長は俺の胸ぐらを掴むと、殺気を向ける。

「部外者は黙っていろ。メディート国に引き渡してもいいんだぞ?」

「やれるものなら、やってみろ」

 村長から少し後ろに視線を向けると、こちらに飛んで来るルクスが見えた。

「あぁ、それならやってやるよ」

「その前に、逃げた方がいいぞ」

「はっ? というかお前、何を見ていやがる」

「空飛ぶドラゴン」

 俺の言葉に、眉間に皺を寄せる村長。

 周りの獣人も少し戸惑っている様子がわかった。

「わぁ、ママ。ドラゴン様だよ」

 子供の声に、獣人たちが視線を空に向けポカンと口を開けた。

「終わったのか」

 上空から聞こえるルクスの声に、ここに来る前に聞いた声も間違いなくルクスの声だったと知る。

「あぁ、大丈夫だ」

「それは?」

「それ?」

 ルクスが何を聞いているのかわからず首を傾げる。

「ガルガに引っ付いているそれ。それは何だ?」

 引っ付いている?

 あぁ、未だに胸倉を掴んでいる獣人に視線を向ける。

 村長は、顔色を真っ白にして微かに震えていた。

「獣人を虐げてきた、原因の村長だ」

「あぁ、それが」

 ルクスの中で、村長は「それ」みたいだな。獣人として扱って貰えないなんて可哀そうに。

「ルクス、このままラクスア国に報告に行きたいが、連れて行ってくれないか?」

 僻地の事とは言え、ラクスア国。国が彼らを守らないと。

「わかった。それは連れて行くのか?」

「あぁ、もちろん。あと、こいつ等もだな」

 俺が倒した者たちを見る。

 さて、どうやって連れて行くか。それが問題だな。

「あっ、向こうの建物にいた者たちは?」

「…………」

「ルクス?」

 まさか、全員が死んだのか?

「生きている者はいなかったぞ」

 あららっ。

「ガルガさん、ごめんなさい。止める間がなかったです。尻尾でバン。それで終わってしまって。建物も完全に崩壊しました」

 あちゃ~。

「まぁ、それなら仕方ない」

「ガルガに言われたから、加減はしたんだぞ」

 ルクスの言葉に笑ってしまう。

「どこがだ?」

「壊れたのは建物だけだった。地面はセーフ」

 あぁ、なるほど。いや、納得してどうする。でも、ルクスがそう言うという事は本気を出したら……。

「尻尾を本気で叩きつけたら?」

「それはもちろん、地形が変わるな。前は巨大な穴が出来て、その後その場所は湖になった」

 それに比べたら随分と加減してくれたんだな。

「あの」

 鍵の場所を教えてくれた獣人が傍に来る。

「もしかして、彼らが建てた建物を破壊したのですか? そうだとしたら逃げて下さい。あの場所を管理しているのは、メディート国なんです。彼らに目を付けられたら殺されてしまいます。あの国の者は、我々に何をしてもいいと考えている。本当に、酷い国なんです」

 俺の元いた国って、外から見ると本当に酷い国なんだな。いや、ある程度は知っていた。でも、ここまで恐れられ、そして嫌われているなんて。中にいると気づかないものだな。

「どうやって管理をしているんですか?」

「この村と隣接している村に、騎士たちが在住しています。その騎士たちが、何度も確認に来るんです」

 やはり、ラクスア国が動く必要があるな。

「ラクスア国に現状を伝えてきます。少し待っていて下さい」

「国に? 動いてくれるでしょうか?」

 それは、俺には答えられない。もし国が動かないのなら、獣人たちを森に連れて行った方がいいかもしれないな。

「とりあえず、すぐに行ってきます。えっと、こいつ等は……とりあえず縄で縛って」

 どうしよう。置いていくのは心配だ。それにラクスア国に侵入した犯罪者として連れて行きたい。

「ガルガ。全員を縄で縛って塊にしてくれ。そうすれば我が縄を咥えて運ぶ」

 あっ、それは良いな。そうしよう。

「その運び方だと、凄く揺れそうですね」

 バズの言葉に想像して笑ってしまう。

 確かに、揺れるだろうな。

「恐怖に慄いてもらおう」

 俺の言葉に獣人たちが、笑い出す。そして、あちこちから楽しそうに縄を持って来てくれた。

「ありがとう。バズ、手伝ってくれ」

 そういえば、この村の獣人たちはドラゴンを見て驚いてはいたけど、恐怖を感じている者はいなかったな。何故だろう?

「あの」

 傍にいた獣人に声を掛けると、少し緊張した面持ちで俺を見た。

「ドラゴンを見ても怖くなかった?」

「えっ? 怖くはないです。ドラゴン様は、この村をお作りなった存在で、ずっと信仰の対象でしたから」

 信仰の対象! それにこの村を作った?

「そうだったのか」

「はい。とても綺麗なお姿ですよね」

 うっとりするような表情でルクスを見る獣人。

 彼女の本性がバレる前に村を出発しよう。うん。それが良い。

「ガルガ様」

 様? 呼び方に驚いて視線を向けると一人の女性獣人が頭を下げた。

「国に報告する際、私もこの村の代表として一緒に行っては駄目でしょうか? この村の実情について、直接訴えたいのです」

 実情を知るのはこの村に住む者だけだ。一緒に来てくれた方が、話は進むだろう。

「わかった。ルクスに聞いてみるよ」

 女性獣人はルクスを見ると、頬をゆるめる。

「ルクス」

「話は聞いていた、乗せてもいいぞ」

「うわっ」

 小さな声を洩らす女性獣人に、ちょっと笑ってしまう。

 実情を訴えたいのもあるが、ドラゴンに乗りたい気持ちもあるんだろうな。

「ありがとうございます。すぐに準備をしてきます」

 興奮気味に走り去る女性獣人。その姿に、周りからくすくすと笑い声が上がった。


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