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ドラゴンは幸せが分からない  作者: ほのぼのる500
旅立ちと家出獣人
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「ひっ」

 我の本来の姿を見て、悲鳴を上げる獣人。獣人の姿に戻る頃には、彼の顔色は青ではなく白くなっていた。

「で、何を持ち込んだ?」

「爆弾だ。かなり威力が強い物だ」

 震えながら答える獣人。我が気になるのか、ちらちらと視線を向けて来るが無視しておく。

「くそっ、爆弾か」

 ガルガの声に視線を向けると、少し慌てているのがわかった。

「あの」

 クルビズが我々に向かって声を掛ける。

「どうしたの?」

「あれが爆弾だったなら、大変です。既に向こうの爆弾は設置されたはずです。俺たちの方も、設置するために森を見回っていました。そこで、あなたたちを見つけて様子を窺っていたんです」

 クルビズの説明に、爆弾だと教えた獣人が視線を地面におとす。

「なんだって?」

 ガルガは焦った様子で獣人の胸元を掴む。

「爆弾をどこに設置した?」

「知らない」

「本当に?」

 我の声にビクつく獣人。

「本当だ! もしもの時のために、情報は最低限に抑えていたから」

 獣人を放り投げ、ガルガが頭を両手で押さえる。

「こいつ等の目的はアグーたち。森を守る獣人だ。だとすると爆弾は……」

「アグーさんと仲間の近くに爆弾を設置するのではないですか?」

 バズの言葉にガルガは首を横に振る。

「少し前に森が攻撃されたから、警戒はかなりしている。そんな時に、不審な動きをした獣人がいれば、対処するはずだ」

 ガルガとバズが考えている中、我は獣人の様子を見る。

 視線を地面に向けている獣人の表情は見えない。でも、何か変だ。本当に知らないのか?

「なぁ、お前は本当に何も知らないのか?」

 我の言葉に息を呑む音が聞こえた。これは怪しいな。

 獣人の手を掴む。

「我は加減が出来ない。握り潰したら申し訳ない。でも、仕方ないよな。我はうそつきが嫌いなんだ。そんな奴が目の前にいたら、切り刻みたくなる」

 別にうそつきが嫌いではない。面倒な嘘は嫌いだが、必要な嘘もあるとリーガスに習った。そして、切り刻むのは嫌いだ。面倒くさいから。

 獣人の腕を掴んでいる手に少しだけ力を込める。

「ぎゃぁ」

 ん~、本当に力加減というのは難しい。まさかこれだけで折れるなんて。でも、潰れなかった。これは、我の中では凄い事だ。

 良し、彼には実験台になってもらおう。まだ話す気がないようだし。

 今掴んだところは折れたから、もう少し上を。

「獣人だ! 獣人が背負っているんだ。それを、目的の人物の傍で爆発させる!」

「な、なんだと! お前らはなんて事を!」

 ガルガが苛立った声を上げる。

 爆弾を背負った獣人か。

「べつに、無理矢理ではない。奴らが自らやると――」

「家族の命を守るためと言ったんだろう? 俺の時のように」

 獣人の言葉を遮るクルビズ。

「それは……」

「時間がない。どうすれば」

 ガルガが、アグーがいる方角を見る。

「ガルガ。我に乗ればすぐに着く」

「えっ?」

 目を見開くガルガに視線を向ける。

「今すぐアグーの下に行く必要があるのだろう?」

「あぁ、そうだ」

「それなら我に乗って行くのが、一番いい方法だろう」

「それはそうだが」

 戸惑った様子を見せるガルガ。それに首を傾げる。

 なぜ迷う必要があるのだろう?

「乗ってもいいのか? その、不快に思ったりはしないのか?」

「別にないけど?」

 おかしな質問をするな。

「我は当初、旅でもガルガを乗せるつもりだったが? 歩くと言われて止めたが」

 飛んだほうが早いのに、のんびり行くのも旅のいいところらしいからな。

「あぁ、あれはそういう事だったのか」

「もしかして我がガルガを咥えて移動すると思ったのか?」

「いや、深く考えなかった」

「そうか。それで、どうする?」

「ルクスが良いなら、頼みたい。すぐにアグーの下に行かないと駄目だから」

「わかった」

「だがその前に、こいつ等をどうするかだな」

 ガルガが獣人たちを見る。

 起きているのは一人。あとはまだ眠っている。あっ、クルビズの事を忘れていた。でも彼はもう大丈夫だろう。

「それに、こっちにある爆弾もどうにかしないと」

「結界を張ってその中に閉じ込めておくか」

 ガルガが困っているみたいだから、我は出来る事で助けるか。

「悪い、ルクス。何から、何まで」

 ガルガを見ると、困ったような悲しむようなよくわからない表情をしている。

「どうした?」

「いや、旅は任せろと言いながら問題が起きたらルクスに頼り切っているから情けなくて」

 これは落ち込んでいるんだな。こういう時は、何を言ったらいいんだ?

「ガルガさん。適材適所という言葉があります。今はルクスさんに助けてもらって、旅が始まったらルクスさんを助ければいいんだと思います」

 バズの言葉に頷く。旅の間は、我は全く役に立たないだろうからな。

「そうだな。旅の道中は任せてくれ。クルビズ、爆弾が置いてある場所に案内してくれ」

「わかりました。見張りはどうしますか?」

「大丈夫だ、すぐに片付けるから。その前に……」

「グアァ……」

 獣人の首を絞め眠らせると、ガルガが我を見る。

「結界を頼む」

「わかった」

 獣人を囲うように土で檻を作る。そして檻に我の力を注ぎ強度を上げると、簡単には崩れない檻の形をした結界が完成した。

 パチン。

「凄いな。土なのに、崩れない」

 ガルガが、土の檻に触れて楽しそうに笑う。

「時間があったら、もっと詳しく見るのに」

 悔しそうな表情をするガルガに、バズが少し呆れた表情をする。

「ガルガさん。時間がないですよ」

「あぁ、そうだな」

 次はクルビズの案内で、爆弾が隠してある洞窟に向かう。

「変だな。見張りが三人もいる。いつもは順番で一人の時もあるのに」

 クルビズの視線を追うと、厳つい体格の男性が三人いた。

「腰に魔道具らしき物がぶら下がっていますね」

 バズの言葉に、ガルガが眉間に皺を寄せる。

「魔道具は厄介だな。こちらが敵だとわかった瞬間、使われそうだ」

 まぁ、そうだろうな。

「あれ? 結構な近さまで来ているのに、気付いていないな。もしかして、見掛け倒しか?」

 警戒しながら三人に近づいたが、そろそろこちらの動きに気付いてもいい距離だ。

 隠れていた場所から顔を出すガルガ。しばらくすると、呆れた雰囲気になった。

「この距離で気付かないとは。見た目は強そうだけど、実際は違うみたいだ」

 ガルガは我らに「待つ」ように言うと、三人の死角になる場所を見つけては移動していく。

 そして、

「ぐぅ」

「がぅ」

「ひっ」

 あっという間に三人を倒した。

 洞窟に入ると、大量の爆弾。

「これを使われなくて良かったよ。最悪な事になっていたかもしれないから」

 ガルガが、爆弾の一つを手に取って溜め息を吐く。

「ガルガ、外に出よう。結界を張って、誰も洞窟に入れないようにするから」

 ガルガが洞窟から出ると、出入り口に結界を施す。我以外の者を排除する魔法を掛け、完璧だと頷く

「ありがとう。次は」

 ガルガとバズが我を見る。

「クルビズはどうするんだ?」

 彼を見ると、首を横に振っている。

 ここで待っているという事か。

「クルビズ、あとは頼むな」

「はい。えっと、誰も近づかないように見張ります」

 彼の言葉に、ガルガが笑う。

「無理はしないように。ルクス、頼む」

 ガルガとバズの前に、ドラゴンに戻った我は下りる。

「ありがとう。頼む」

「お邪魔します」

 ガルガはいいとして、バズのそれは正しいのだろうか? まぁ、気持ちは伝わって来るのでいいが。

 二人を乗せ、アグーのいる森の中央に飛ぶ。数分で森の中央に着くと、上空からアグーを探す。

「ルクス、右だ」

 ガルガの言葉に視線を右に向ける。

『見つけた』

 アグーの姿を見つけると、彼に向かって降下する。

 上を見て唖然としているアグーの前に到着すると、ガルガが慌てた様子で我から下りる。

「アグー、大変だ。この辺りに、爆弾を背負った獣人がいる!」

「えっ、どういう事ですか?」

 ガルガがアグーに説明している間に、我は周辺に視線を向ける。

 獣人の姿より、ドラゴンの方が見通しは良い。

『見つけた』

 何かを背負い、思いつめた表情の獣人が立ち止まり我を見上げている。

『人間がいるな』

 獣人たちの中に人が一人、二人、三人。彼らは何も背負ってはいない。もしかしたら、獣人たちの見張り役かもしれない。

 ガルガを見る。どうやら説明は終わったみたいだな。ならば、こちらに近づく獣人と人間の事を知らせて……しまった、ドラゴンの姿の時に会話は無理だったな。

『仕方ない』

 ドラゴンから獣人の姿に戻ろうとすると、爆弾を背負った獣人が我に向かって叫んだ。

「お助け下さい。私の家族を。どうか、ドラゴン様」

 泣き崩れる獣人に、どうするべきかと考える。

 あっ、見張り役の人間が獣人を蹴飛ばした。爆弾を爆発させようとしているのか?

 ガルガを見ると、視線で方向を示す。それに頷いた彼は、アグーに選ばれた獣人を連れて走って行った。

『ガルガは凄いな、あれだけで理解してくれるとは』

 んっ、こちらにも人間が近づいて来た。アグーに何かするつもりか?

 あれ? 違う、我にか?

「死ね」

 獣人から取り上げた爆弾を我に投げる人間。

「ルクスさん!」

 バズの悲鳴に近い声が聞こえたけど、問題ない。投げられた爆弾をぱくりと口に入れると爆発した。

「ルクス!」

 ガルガの焦った表情でこちらに駆けて来る。そして、爆弾を投げた人間を殴り倒した。

「ぐあぁ」

「大丈夫か?」

 心配そうに我を見るガルガとバズ

 それに首を傾げながら獣人になる。

「二人には、言っておいたはずだが?」

 我の言葉に二人は首を傾げる。

「我の体は強いと、怪我も病気もしないと」

「聞いていたが、口の中で爆発したんだぞ? それでも問題ないのか?」

 ガルガが我の口の辺りをジッと見るので、舌を出して怪我はしてないと見せる。

「問題ない。あれぐらいの爆発なら傷一つ負う事はない」

「凄いです」

 バズは嬉しそうに走り寄ると、我の体を隅々まで見る。

「バズ。爆発は口の中だ。足や手は関係ないぞ」

「そうなんですが、口を見ていると恥ずかしくなってしまって」

 口を見ると恥ずかしい? バズは独特の感性を持っているのか?

「バズ、ルクスはドラゴンだからな」

「わかっています」

 ガルガとバズの意味のわからない会話を聞いていると、小さな声で呼ばれた。視線を向けると、我に泣きついた獣人がいた。


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