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ドラゴンは幸せが分からない  作者: ほのぼのる500
目覚めと国を捨てた冒険者
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『どうしてこの者の名前が刻まれた石だけ大きいんだ?』

 あれ? 名前の下に言葉が刻まれているな。

『「ルクス、ごめんね」えっ? もしかして我の知っているリーガスなのか?』

 戸惑いながら、石に刻まれた言葉を読む。


【ルクス、ごめんね。私が弱かったせいでルクスは眠ってしまった。もっと私に力があれば。ルクス、どうして何も言わず眠ってしまったの? いつ起きるの? もう一度、飛んでいる姿が見たい、声が聞きたい。ねぇ、ルクス。目覚めたら今度こそ幸せになってね。私は、ルクスと出会えて幸せだったよ。ありがとう】


『リーガス』

 我が目覚めるのを待っていたのか? 我のせいで、いろいろな者に狙われてしまったのに。

 ツキッ。

 微かに胸が痛み、首を傾げる。

 今の感覚はなんだろう? 初めての感覚だから、気になるな。沢山ある記憶の中に、答えはあるだろうか?

 頭の中で記憶を辿る。仲間を裏切った者が感じた感覚に似ているな。彼は裏切った事を「後悔」している。

『つまり我は、後悔をしているのか?』

 しかし、何に対して後悔をしているんだ?

 大きな石に刻まれた名前を見る。

 リーガスに何も言わず眠った事だろうか? それとも、彼女の望みを叶えてあげられなかった事だろうか? 我の事なのに、分からない。

 温かな風が吹くと、ふわりと懐かしい香りがした。

『この香りは、リーガスが好きだった花だな』

 あぁそうか、ここは。

『墓場だ』

 リーガスの亡き母が眠る場所に、ここは似ている。

一度だけリーガスと一緒に墓参りというものをした。その時に見た場所と、ここは一緒だ。という事は、石に刻まれている名前は、亡くなった者の名だ。

大きな石を見る。そこに刻まれたリーガスという文字。

『そうか、リーガスは……。リーガス……久しぶりだな』

 リーガスと出会ったのは、彼女が幼い頃。我が眠っている場所に、彼女が落ちて来た。それが我と彼女の始まりだ。たまたま目の前に落ちてきたから助けたが、少しずれていたら放置していた筈。彼女は運がよかった。

 まぁ、我にとってはその後の方が大変だったがな。なんせリーガスは、我を見た瞬間真っ青になり悲鳴をあげ泣き始めたからな。「食べないで」と「ごめんなさい」と「許して」を何度も、何度も繰り返して。我は「人間は食べないから安心せい」と言ったが、ドラゴンの言葉。リーガスに伝わるわけもなく、出会ってから数時間も泣き声を聞き続ける事になったんだよな。

『ふっ、あれはつらかった。リーガスは泣きつかれて寝てしまうし。本当にどうしたものかと悩んだものだ』

 目が覚めてからも、リーガスは騒々しかったな。

 我が食べないと分かったら、今度は聞いてもいないのに我の下に来た経緯を話し始めた。「私はリーガスです。ずっと妾の子だと馬鹿にされ、邪魔だからと崖から突き落とされたのです」と。そして「行くところがないから、一緒にいさせて下さい」と泣きながら頭を下げた。

「別によいぞ」と言ったが、ドラゴンの言葉。体を使ってなんとか伝えたが、あれは疲れた。もう二度と、あんな伝え方はしたくないものだ。

 一緒に生活を始めて数日。我は、リーガスとは一緒に生活が出来ない事に気付いた。リーガスは、まだ幼く弱いため守られる存在。我は強いが、獣人に変化出来ないドラゴン。しかも人間の言葉を習得していなかったので、意思疎通も難しい。

『リーガスとの生活は楽しかったがな』

 変化のない日常が、リーガスによって変化した。それが、正直楽しかったのだ。でもリーガスをこのまま傍に置くと、命に係わる。だから「仲間たちがいる場所へ帰れ」と、伝えようと思った。

 どう伝えたらいいのかと迷っていた時、森がにわかに騒がしくなった。原因は、森に沢山の獣人が入ってきたため。森に来た理由は分からなかったが、丁度いいと考えた。彼等にリーガスと託せると。

 我はリーガスを銜えると、彼等の前に落した。魔法で怪我をしないようにしたが、彼等の慌てた姿にちょっと焦った。リーガスが怪我でもしたのかと。無事な彼女を見た時は、誤解させた獣人たちに苛立ったものだ。「リーガス!」という名を呼ぶ獣人が現れなければ、威嚇をしていただろう。

 リーガスと呼んだ獣人が泣きながら彼女を抱きしめたので、我はその場から離れた。彼女を心配する者がいるなら、もう大丈夫だと思ったから。そして、我とリーガスの関係もその日で終わったと思った。まさか数年後、また会うとは思わなかったからな。

『まぁあれは、リーガスが我に会いに来たんだが』

 少し成長したリーガスと、顔を引きつらせたリーガスに似た獣人が目の前に現れた時は驚いたものだ。しかも、リーガスの話から偶然ではなく我に会いに来たと言う。

『あの日から、新しい関係が始まったんだよな』

 リーガスと再会してから、彼女は度々我に会いに来た。どうやら彼女の父親はある程度地位のある人物らしく、彼女には護衛が付いていた。その護衛は、我の傍に来ると震え上がって護衛の意味を成していなかったが。

 我はリーガスの成長が楽しかった。会いに来る度に成長する彼女は、我にとって珍しい存在だった。変わらない日々を過ごす我にとって、リーガスはちょっとした非日常。彼女はつまらない我の生活に、少しだけ楽しみをくれた。

 そんな日々を過ごして数年。リーガスの様子がおかしい事に気付いた。何か思いつめている。それが何か分からないが、嫌なものを感じた。だから、様子を見に行った。

 上空からリーガスの様子を魔法で見ると、彼女は婚姻の儀という行事を行っていた。多くの獣人が笑顔なのにリーガスは悲しげで、それが気になる。しかもリーガスの隣にいる獣人の視線に嫌悪感を憶えた。だから、上空からリーガスの傍に下りた。

 一気に騒がしくなる周り。リーガスは驚いた表情をしたが、我を見て安堵した表情に変わった。その表情に、様子を見に来て良かったと思った。

 我の下に駆けて来るリーガス。それを止めようとする、獣人たち。なんとなくムカついたので、牙をむいて威嚇した。ついでに尻尾で周りを薙ぎ払った。叫び声に悲鳴。振り返ると建物が崩壊していた。簡単に潰れる物に興味はない。だから、気にせずリーガスを乗せて飛び出った。

 追って来る獣人。それを無視し森に向かって飛んだ。途中で、獣人が森まで来ると面倒になると思いブレスで追い払った。

『リーガスはそれを見て慌てていたな』

 えっとなんだったかな。

『あぁ「やりすぎ! 馬鹿! あぁ、なんて事を」と言っていたような……』

 まぁ、既にブレスで追い払ったあと。灰になった者は戻せないと無視したら、凄く怒りだしたな。

『我に向かって「馬鹿」だの「もっと優しく」だのと怒った者はリーガスだけだ』

 そして我がリーガスと森に帰って来た日から、また我々の関係が変わった。

 リーガスは家に戻らず、森で生活を始めた。しかも、どこからか獣人たちを連れ帰って来ては、鍛え始めた。

 一緒に生活をして知ったが、リーガスは獣人の中ではそこそこに強いらしい。我に比べると弱いが、リーガスが連れ帰った獣人たちでは手も足も出ないようだった。

 そんな少し変わった日々を数年。人間たちが、森に攻撃をしてきた。しかも、人間たちはリーガスを狙った。我を人間たちに従わせるための人質として。

 リーガスと彼女の仲間は、森を守るために攻撃してきた人間と戦った。我もブレスで応戦したが、リーガスに威力を弱めてほしいとお願いされた。強いすぎる力は、狙われ続ける原因になるからと。面倒だったが、仕方ないとブレスの威力は最低限に弱めた。

 最初はリーガスたちが森に詳しい分、有利に戦っていた。でも人間たちは数が多く、しつこい。リーガスたちは少しずつ疲弊し、ほんの少し隙が生まれた。その好機を人間たちは見逃さず、リーガスは大怪我を負う。

 我は、人間たちの行動を面倒に感じてきていた。遥か昔から、人間たちは何度も何度も森を攻撃する。その度に薙ぎ払って来たが、それが本当に面倒だったのだ。

 しかもリーガスが「我を利用するために狙われて」大怪我を負う。リーガスの血を見た瞬間、すべての事がどうでもよくなった。まぁ、リーガスに怪我を負わせた者はすぐに灰にしたが。

 我は、終わりを願った。丁度人間たちが攻撃しているので、あれで終わろうと。

 しかし人間たちは弱かった。あまりの弱さに呆然。

 これでは死ねないと、我は力を外に放出した。魔力が弱くなれば、人間たちの攻撃も効くだろうと。そして、眠っている間にすべてが終わっている事を願い眠った。

『まさか死なずに、ずっと眠っていたとは思わなかった』

 人間たちよ、弱すぎるだろう。あれほど、無防備に攻撃しやすいようにしてやったのに。

 リーガスの墓に刻まれた文字を見る。

『目が覚めるのを待っていたのか? 悪かった』

 そうだ、リーガスの望みを叶えよう。そうすれば、リーガスも喜んでくれるだろう。

『リーガスの望みは「目覚めたら今度こそ幸せになってね」だな』

 幸せか。我はリーガスの望み通り、幸せになろう。……あれ?

『幸せってなんだ?』

 我の幸せは……何も思い浮かばないな。リーガスは、何かを食べては「おいしい、幸せ」と言っていたな。つまり、おいしい物を食べればいいのか?

 ガサガサガサ。

 草をかき分ける音に視線を向けると、人間がいた。姿からオスだろう。森を攻撃していた者たちの仲間だろうか? だが、敵意は感じないな。

「ドラゴン。あぁ、本当に」

 人間のオスの言葉に、首を傾げる。

「すごい。とても驚異的な力を感じる」

 この者は、それなりに強いようだ。ある程度の力を持っていないと、相手の力量や魔力量は分からないからな。


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― 新着の感想 ―
内容は面白いけど、段落が全部くっついてるせいかメリハリなくだらだらと話が続いてるようで非常に読みづらかった これは人によって感覚が異なるかもしれないからなんとも言えないけど……
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