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ドラゴンは幸せが分からない  作者: ほのぼのる500
旅立ちと家出獣人
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「ぐっ。くっ。腕を離せ」

 んっ? 呻いている獣人を見る。ガルガは頭だけではなく、我が痛めた腕も押さえていたのか。

「話す気になったか?」

「ぐっ……何を、聞きたい?」

 苦し気に言う獣人。ガルガは少し力を抜くと、頭を地面に抑えた状態で聞く。

「ガード侯爵に雇われているのか?」

「………」

 答えない獣人の腕に足をのせるガルガ。

「ぐっ、そうだ!」

「なぜだ?」

「金だ! 協力したら金をくれる!」

「ガード侯爵は獣人を嫌っている。協力して金が手に入っても、殺されるかもしれないのに?」

「け、契約した。協力すれば、俺たちに地位をくれると。契約したんだから、裏切られる事はない」

 契約か。

「そうか」

 ガルガが不審そうな表情をする。

「ここにいる全員が契約しているのか?」

「はっ、まさか」

「全員ではないのか。その契約について、ばらしても契約違反にならないんだな」

「それだけ信頼されているからな。なぁ、お前もどうだ? お前もガード侯爵に付かないか? 言っておくが、この森はいずれ奴の者になるぞ。それは絶対だ。ドラゴンが目覚めたとか馬鹿な事を言っているが、そんな存在なんていない。目が覚めたというなら、俺たちの前に姿を見せてみろって言うんだ」

 獣人の言葉に、ガルガとバズが我を見る。

「この姿だと、やはりドラゴンとは見られないんだな」

「それは当然でしょうね。見た目が、全く違いますから」

「今の我には、ドラゴンらしさがないのか」

 どこかにドラゴンの特徴でも出しておこうか。鱗だと、別の獣人だと間違われるよな。あとは羽か? いや、羽は邪魔だな。

「そのままでいいぞ」

 ガルガを見ると、笑っている。

「そうか?」

「あぁ、そのままでいい。バズもそう思うだろう?」

「はい」

 そうか。このままでいいのか。

「くそっ、いい加減に離しやがれ。おい、お前たちも考えろ。獣人側にいても、どうせ無残に死ぬだけだ」

 ガルガが離さないとわかると、獣人は我とバズを見る。

「本当にドラゴンがいたらどうしますか?」

 バズの言葉に、獣人がおかしそうな表情をする。

「だったら俺の前に連れて来い。連れてきたら信じてやるよ」

 馬鹿にしたような獣人に、バズが我を見る。それに頷くと、本来の姿に戻り獣人を見下ろした。

 まさか獣人が、白目をむいてひっくり返っているとは思わなかったな。

 さっきまでの勢いはどうしたのだ? バズでもそんな無様な姿をさらさなかったのに。情けない。

「ひぃぃぃぃぃいいいい」

 どうやら、ガルガに眠らされていた別の獣人が目覚めたらしい。そして我を視界に入れたのだな。

「うるさい」

 姿を獣人に変えると、叫んでいる獣人の頭を掴み持ち上げる。

「我はうるさいのが嫌いだ。黙れ」

 無言で何度も頷く獣人。手を放すとどさっと地面に転がった。

「んっ?」

 なぜかもぞもぞ動く獣人。その不思議というか不気味な動きに引く。

「逃げようとするな」

 ガルガの言葉に頷く。

 縛られているから不気味な動きになっていたのか。

「上手く縛れたみたいで良かったです。ヘビ獣人の結び方は少し難しいんですよね。関節が異様に柔らかいですから。しかも元の姿に戻らないように、縛らないと駄目なので」

 バズの言葉に首を傾げる。

「そんな縛り方があるのか?」

「はい。それぞれ弱点という場所があり、その場所をギュッと縛り付けると元の姿に戻りにくくなるんです」

 知らなかった。

「我にもあるのだろうか?」

「どうでしょうか? ルクスさんの場合は……」

「なんだ?」

 バズが少し困った表情をする。

「縄ぐらいだと、力で引き千切りそうですよね」

 あぁ、そうだな。元の姿に戻る以前に、そうなるだろうな。

「ドラゴンはヘビともトカゲとも違いますよね? 弱点はどこなんだろう?」

 バズが我の首の辺りを見る。もしかして首の辺りがヘビやトカゲの弱点か?

「楽しそな話をしているが、こっちを先に終わらせよう」

 ガルガが呆れた様子で我とバズを見る。

「そうですね。すみません」

 バズが小さく笑うと、震えている獣人に視線を向ける。

「さてと、いろいろと聞きたい事がある。ドラゴンを怒らせたくなかったら、素直に話してくれよ。お前もガード侯爵と契約をしているのか?」

 ガルガの質問に獣人がふるふると首を横に振る。

「お、れ、俺は、ちが、う。それ、にガード侯爵と契約は、誰もしていない」

 話していると少し落ち着いたのか、スムーズに話し出す。聞きづらかったので良かった。わざとなのかと、殴りそうになった。

「んっ? あそこで白目を向いている奴はガード侯爵と契約したと言っていたが?」

「最初はそう思った。でもよく考えると違った。契約した相手は、ガード侯爵が紹介した人物だった」

 獣人の言葉にガルガが溜め息を吐く。

「どうしたのですか?」

「ガード侯爵の獣人嫌いは筋金入りだ。だから、疑問だったんだ。森を手に入れるためとは言え、獣人と契約したというのが。でもわかった。奴は最初から獣人を使い捨てにするつもりだ」

「でも契約をしているんですよね? ガード侯爵とはしていないとは言え、彼の紹介した人物と」

「おそらく紹介したのは、奴が用意した捨て駒だ。いつ死んでもいい者たちだ」

 獣人も人間も使い捨てか。ガード侯爵という人物は、随分と傲慢で横暴なようだ。

「そんな、金は? 地位はいらないけど金は?」

 ガルガの話を聞いていた獣人が慌てた様子を見せる。

「奴が獣人に金など払う訳がないだろう。まぁ、森を手に入れるまでは払うかもしれないが、目的を達成されたら、お前たちを殺して回収するだろうな。言っておくが、奴は非道だ。お前たちの家族も一緒に処分されるからな」

 ガルガはガード侯爵を良く知っているみたいだな。ただ、奴の話をしている時の表情を見る限り、もの凄く嫌いみたいだが。

「ウソだ。だって、金をくれて守ってくれるって。だから、家族が反対したけど……ウソだ」

 地面に頭を打ち付けウソと叫ぶ獣人。

 うるさいな。さっき言った事を、もう忘れているみたいだ。

 手を伸ばすと、ガルガに止められた。彼を見ると、首を横に振る。

「なぜ?」

「まぁ、悲しむぐらいはさせてやろう」

「……わかった」

 うるさく泣く獣人から少し離れる。そうしないと、足で蹴り上げそうだ。

「ルクス」

 ガルガが我のところに来て、険しい表情を見せる。

「なんだ?」

「持ち物を調べたが、奴等は森に住む獣人のようだ。他にも、裏切り者の獣人がいるかもしれない。ルクスの力で調べてほしいんだが」

「無理だな」

「えっ、無理なのか?」

 ガルガが驚いた表情で我を見る。出来ると思っていたようだが無理だ。いや、もう少し考えてみるか。沢山ある記憶の中に、方法があるかもしれない。……駄目だ、この森で出来る方法はない。

「森を守る結界は利用できないか?」

「森は、我の力が満ちている状態だ。そこに住む獣人にもかなり影響を及ぼしている」

「えっと、つまり?」

 不思議そうな表情をするガルガに視線を向けて、どう説明すればいいのか少し悩む。

「我の張った結界が敵を排除するのは、彼等の持つ力が森を守る我の力と反発するからだ。どんなに言葉や表情で見繕っても、森に対する嫌悪感や攻撃性など負の感情はなくせない。そしてそれが、敵の持つ力に少なからず影響を与えている。だから森はその力に反応出来るのだ」

 我の説明で理解出来たのか不安に思い、ガルガを見る。

 どうやら大丈夫のようだ。良かった。それにしても、説明とは難しい。あと必要な事は……、

「森に住む者は、我の力の中で生活しているようなものだ。だから、負の感情が敵の力に影響を与えようとしても、我の力より弱いから無効化してしまうのだ。あっ、我の力が敵を強化している可能性があるかもしれない」

「えっ! ちょっと待ってくれ。考えを纏めるから。えっと……結界は敵の力を見極めていて判断。結界内はルクスの力が満ちている。ついでに、敵の力にも影響を与えている。だから、敵味方を区別できない状態にある。うん。何とか理解できた。それで、敵を強化しているかもしれない。……マジで?」

 ガルガが我を見る。

「おそらく、本来持っている力が我の力に影響されて、少しだろうが強くなっているはずだ。それから考えると、本来の強さより強くなっていると思う」

「そういう事か。さすがドラゴンの力という事か」

 我が頷くと、ガルガが小さく唸る。

「裏切り者が見つからないどころか、強化しているのかぁ」

 パン。

「よしっ、ここで嘆いていても仕方ない。とりあえず、アグーに、獣人の中に裏切り者がいる事を伝えに行こう」

 ガルガは頬を自分で叩くと、我とバズを見る。

「わかった。バズ? あれ? バズは?」

 傍にいたバズがいない。どこに行ったんだ?

 周りを見ると、裏切り者の獣人のバッグを漁っていた。

「どうしたんだ?」

 ガルガの言葉に振り返ったバズ。その彼の表情は喜々としている。

「何か見つけたのか?」

「魔道具です! 僕は、魔道具技師になりたかったんです」

「そ、そうなのか?」

 今までにないほど興奮しているバズに、ガルガが少し戸惑っている。バズは、興奮し過ぎてガルガの状態に気付いていないが。

「はい。ガルガさん、この魔道具で何が出来るかわかりますか?」

 獣人が持っていた魔道具を嬉しそうにガルガに見せるバズ。その我慢しきれないバズの様子に、ガルガはしばらく彼を見て吹き出した。

「あはははっ」

「えっ、ガルガさん?」

 笑い出したガルガを、困惑した表情で見るバズ。

「笑って、悪い。えっと、その魔道具だな」

 ガルガとバズが一つの魔道具を挟んで話し出す。

 そっと二人の間にある魔道具を見ると、木で出来た箱が見えた。箱の蓋には、直径二センチメートルぐらいの魔石が嵌っているようだ。

 魔道具は確か、光を点したりするだけの道具とは違い魔法陣を組み込み様々な事が出来る道具だったな。

「この魔石の大きさと透明度から、かなり魔石を消費する魔道具みたいだな。ボタンが四つ……駄目だな。これだけでは、何をする魔道具なのかわからない」

「魔道具を分解して、組み込まれた魔法陣を調べたらわかりますか?」

「あぁ、それだとわかるが。ただ魔道具の分解には知識が必要だ。下手な事をすると、魔法陣が崩れたり魔道具本体が爆発する事もある」

 そうなんだ。魔道具に触れた事がないから知らなかったな。

「大丈夫です。分解するのに必要な知識はあります」

「そうなのか?」

 バズを見ると、少し恥ずかしそうな表情をしている。

「はい。騎士になれと言われても、どうしても魔道具技師になりたかったから内緒で勉強したんです。大変だったけど、あの時間がなければ僕は狂っていたかもしれない」

 バズを支えていたのか。

「魔道具では何が出来るんだ?」

「時間差の攻撃に魔道具を使ったりするな」

 ガルガの言葉に首を傾げる。

「魔道具を仕掛けておけば、その場にいなくても敵を攻撃出来るんだ」

 攻撃に使われているという事か。

「僕は攻撃系の魔道具を作りたいのではないんです」

「えっ?」

 ガルガが驚いた表情でバズを見る。

「灯りを点す道具には、屑の魔石が必要ですよね?」

「あぁ、そうだな」

「屑の魔石で四日から五日は、灯りが点きます。僕は最低でも、屑の魔石で二週間は灯りが点くようにしたいんです」

「そうなのか? でも……」

 ガルガが困った様子を見せる。

 どうしたんだ?

「わかっています。魔道具は攻撃や防御の道具です。でも、魔道具こそ生活に取り入れるべきだと思うんです。だって屑の魔石だってタダではないんですよ? 普通の家庭でも、屑の魔石代が大変なんです。教会なんて、夜になると真っ暗です。そのせいで子供たちが怪我をする事だってあると聞いてます」

「確かにそうだ。夜になると教会は真っ暗だった。トイレに行く時に躓いて怪我をしたり、酔っ払いが教会に入り込んで暴れたりもしたな。顔がわからなかったから、泣き寝入りだ」

 ガルガがバズを見る。そしてポンと彼の頭に手を置いた。

「凄いな、バズ。お前の考えは最高だ」

 嬉しそうに笑うガルガにバズが戸惑う。

「まだ、こうなればいいなと考えているだけですよ」

「バズは、その夢をどうしたいんだ?」

 ガルガがバズを真剣な表情で見る。バズはその表情を見て、少し考える。

「叶えたいです。いえ、叶えます。家族から離れられたんです。次は、夢を叶えます」

 力強く言うバズに、ガルガがまぶしそうに目を細める。そして、嬉しそうに笑顔を見せた。

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