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ドラゴンは幸せが分からない  作者: ほのぼのる500
旅立ちと家出獣人
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 さて、この石板をどこに封印しようかな。この洞窟ほど、手を掛ける時間はないし。

 洞窟の外に視線を向ける。

「封印はどこが良いと思う?」

 ここほど最適な場所が思い浮かばないな。

「そうだな。人や獣人が簡単には行く事が出来ない場所……絶壁の途中とか、か?」

 絶壁の途中? 魔法で飛べば問題ないはずだが。

「あの、絶壁だと隠している時に見られるのではないですか?」

「あっ、そうだな」

 バズの言葉にガルガが悩む。

「隠し場所……人も獣人もいなくて、隠している時に見られなくて――」

「このままこの洞窟で良くないか? もっといろいろ手を加えれば、絶対に辿り着けなくする事が出来る」

 ガルガが必死に考えているが、この場所がやっぱり最適だと思うんだよな。場所が知られていたとしても、別の場所に誘導して偽物を手にすれば満足するだろうし。盗みに入る者は、本物と偽物の区別など出来るわけがないのだから。

「どんな罠を仕掛けるのですか?」

「別の場所に誘導するのが一番簡単だろうな。そこに偽物でも置いておけば、盗みに来た者は満足して帰るだろう。まぁ、そこにたどり着けたらの話だけどな。あぁ、帰り道もいろいろ仕掛けるのもいいかもしれないな」

「別の場所に誘導して、偽物を渡すのか」

 ガルガは頷いているが少し違う。

「偽物だとしても、簡単に渡すような事はしないぞ。確実に狙われていると分かったのだから」

 あぁ、なんだか楽しくなってきた。どんな方法で、盗みに入った者たちで遊ぼうか。

「ルクス、あまり表情が変わらないのに、今は楽しそうだな」

 えっ?

 ガルガを見ると表情が引きつっている。彼をそんな表情にするほど、我が楽しそうに見えるのか? まぁ、

「凄く楽しいな」

「こっわぁ」

 何を言う。我は怖くない。他人の物を、盗もうとするのが悪いのだから。例え、どんな理由があろうと。

「決まったら、さっそく作っていくか。まずは、本物を……この場所に湖を作るか」

「「えっ?」」

 我の言葉に目を見開くガルガとバズ。

「よし、そうしよう。その湖に触れたら……呪いでも掛かるようにして、あぁそうだ。湖に引きずり込むのもいいな」

 うん。そうしよう。

 地面に手を当て、空間を広げる。あっ、崖が崩れないように魔力で補強しておこう。湖の大きさは空間の半分でいいな。

「出来た」

「凄過ぎます。もう、何を言っていいのか分かりません」

「そうだな。俺も今目の前で起こっている事が信じられないよ」

 バズの言葉とガルガの言葉を聞きながら、湖に呪いを施す。水に魔力を流し、近づいた者を襲うように指示を出す。

「完璧」

 あとは、手に持っている本物の石板を、作った湖の中央に放り投げる。

「うわっ。大雑把」

「んっ?」

 ガルガを見ると、ボチャンと音を立てた湖を見ている。

「どうした?」

「なんでもない。というか、もう罠を作り終えたのか?」

 近づいて来ようとしたガルガとバズを手で制する。

「近づくと、湖に引きずり込まれるぞ」

 ぴたりと止まる二人。そして、後ずさる。息が、ぴったりだな。いつの間にそんなに仲良くなったんだ?

「次に、別の空間はどこが良いかな? 別の場所……別の場所」

 知っている場所は、リーガスの墓のある崖。あそこは却下。

 あっ! ゴーレムがいた場所に、大きな岩があったな。あの下に、空間を作りそちらに誘導するようにするか。

 あの岩の周辺には、何があったかな?

「ここから出よう」

「分かった。これから何をするんだ」

 ガルガが興味津々に聞いて来る。その隣にいるバズの表情も楽しそうだ。

「楽しいのか?」

 さっきまで驚いていたのに。

「あぁ、次は何を見られるのか楽しくなってきた」

 ガルガの言葉にバズが頷く。

 楽しくか、それなら少し派手目にやろうかな? あっ、ダメだ。これは極秘で進める必要があるんだったな。

「それで何をするんですか?」

「誘導する場所を整えて、偽物の石板を置くつもりだ。最後に、誘導場所とこの場所を繋げて終わりだ」

 洞窟から出るために最初の空間に戻る。転がっている骨を燃やし灰にすると、湖のある空間を偽壁で隔てる。その偽壁に結界を施す。前回同様に、無理矢理結界を突き進むと別の空間に誘導させるように魔法を施す。

「場所の指定は後でするとして……夢魔法はこのままでいいか」

 随分と役に立つみたいだからな。

「待て」

 夢魔法を掛け直し、洞窟から出ようとするとガルガから声が掛かった。彼を見ると、険しい表情で洞窟から外を見ている。

「此処を窺っている獣人がいる」

 岩陰からガルガが指す方を見ると、木の後ろに獣人が隠れていた。

「複数いますね」

 バズが、ガルガが指した方向とは違う方を指して言う。

「本当だな。武器も持っているようだ」

「何が目的でしょうか?」

 バズの言葉にガルガが首を横に振る。

「ドラゴンであるルクスを襲おうとする事はないだろう。あと考えられるのは、俺とバズを狙っている可能性だな。でも、どうして狙われるのかは考えてもわからないが。バズはなにか思い当たる事があるか?」

 バズがすぐに首を横に振る。

「ドラゴンの森に来たのは初めてです。だから、思い当たる事は何もありません」

「そうだよな」

 ガルガとバズが考え込んでいる姿を見る。こちらを窺っている獣人に視線を向ける。

「邪魔だな」

 排除するか。

「待て、ルクス。頼むから今は何もしないでくれ」

「なぜ?」

 鬱陶しのに。

「彼らの目的が知りたい。いろいろと聞きたいから、灰にされたら困る」

 ガルガが真剣な表情で我を見る。

 いろいろ聞きたいのか。でも、全員が生き残る必要はないよな。一人か二人いれば、話は聞ける。

「こちらを窺っている獣人の中には、命令されて従っている者もいるだろう。その者たちは、目的を知らない場合がある。だから、今は全員を生かしておかないとダメだ。指示を出している者がわかれば、あとはルクスの好きにしていいから。とりあえず今は動かないでくれ。俺が動くから」

 仕方ない。ここからでは、目的を知っている獣人なのか。それとも知らない獣人なのかわからない。

「わかった」

「ありがとう。さて、どう動くかが問題だな」

「ガルガさんは、ルクスさんに甘いですよね」

「甘い? 舐められた事はないが?」

「「……」」

 どうして二人して、溜め息を吐くんだ? なにか間違っただろうか?

「甘い? あぁ、わかった。態度の事か?」

 我の言葉にバズは頷く。

「別に甘くはないだろう。我にいろいろ言う者は、ガルガが初めてだな」

 リーガスもあまり言わなかったな。

 んっ? なんだか胸がもやもやする? なんだ、これは。

「そうなんですか?」

 落ち着いた。今のは、なんだったんだ?

「あぁ、そうだ」

「そうなのか」

 我を見て、嬉しそうに笑うガルガに首を傾げる。

「あっ、動き出したぞ」

 ガルガの視線が、木々に隠れながら移動する獣人に向く。

「数は全部で六人か。困ったな。この洞窟から出て行くところを見られてしまう」

「出て行くところを見られないようにすればいいのか?」

 我の言葉に、ガルガが視線を向ける。

「出来るのか?」

「転移すればいいだけだろう?」

 我の言葉に、乾いた笑いを見せるガルガ。

「転移は、難しい魔法だから思いつきもしなかった」

 難しい魔法か。

「まぁ、失敗したら『ぐしゃっ』となるらしいからな」

 我は失敗した事がないので、見た事はないが。

「えっ?」

 ガルガが目を見開く。

「ぐしゃっとは、なんですか?」

 バズは首を傾げ聞いてくる。

「体がぐしゃっと潰れて、肉の塊になる事があるんだ。さてガルガ、どの辺りに転移する?」

 ガルガを見ると顔色が悪い。

「ルクス。お前はわざとなのか? そうなんだろう」

「んっ? 何がだ?」

 意味がわからずバズを見る。

「えっと、ぐしゃっとなる可能性があるとわかって転移するのは怖いです」

「あぁ……なるほど」

 どうやら我の話が、ガルガを怖がらせてしまったようだな。

「ガルガ、大丈夫だ。ここから見える範囲に転移するぐらいで失敗などしない」

 ぐしゃっと失敗するとしたら、馴染みのない場所に無理矢理転移した時ぐらいだ。それだって、数十回に一回ぐらいだろう。

 我は体が強いから失敗しても潰れる事はないが、ガルガとバズを見る。そうか、彼らだとぐしゃっと潰れるかもしれないのか。

「気を付けるし、安心しろ」

 おかしい。自信満々に言ったのに、なぜ不安そうな表情になるんだ?

「まぁ、ここにずっといる事も出来ないしな。えっと……奴等の一番後ろに頼む」

 ガルガの指した方を見る。

 こちらを窺っている獣人たちの中でも一番体格のいい獣人の後ろか。あれは、熊の獣人だな。力が強く、叩き潰すのが得意だ。

「ガルガさん。熊の獣人が腕を振り上げたら、気を付けて下さい。彼らの腕力は凄いですから」

 バズは、熊の獣人を良く知っているみたいだな。

「わかっている。俺も冒険者だったから、獣人の特徴は頭に入っている」

「問題ないなら、転移させるぞ」

「あぁ、頼む」

 ガルガの表情が強張っているが、大丈夫か?

 ガルガに手を翳し、目的の場所を見て転移魔法を発動させる。目の前にいたガルガは消え、熊の獣人の後ろに姿を現した。

「良かった。ぐしゃっとなりませんでしたね」

 この範囲で失敗などありえないのに。失敗の話をしたのは、ダメだったのかな?

「バズもガルガも心配性だな」

 まぁ、肉が潰れる可能性のある体を持っているとそうなるのかな?

「ぐわぁ」

 洞窟の外から叫び声が聞こえ視線を向けると、熊の獣人が倒れていた。驚いて動かない獣人を次々と倒していくガルガ。

「ガルガさんは、強いんですね」

「そうだな」

 ガルガはどうやら意識を奪っているだけのようだ。我には出来ない方法だな。

「どうやったら死なずに意識だけを奪えるんだ?」

「えぇ~……やっぱり、力加減だと思います」

 困った表情をするバズ。

「力加減か」

 ガルガにも言われているな。力加減を憶えてくれと。憶えた方がいいのだろうか?

 最後の獣人を倒したガルガに視線を向ける。そして、その様子を興奮気味に見ているバズに移動する。

 彼らと共に旅をするなら、必要なのかもしれないな。

 ガルガが我らに向かって手を振る。

「行きましょう」

「そうだな」

 バズと共に洞窟を出てガルガの下に行く。彼の傍には、七人の獣人。

「六人ではなかったのか?」

「あぁ、あそこからでは見えない場所に隠れていた」

 ガルガが一人か二人隠れる事が出来る岩を指す。

「そこで、これを見つけた」

 ガルガが見せてくれたのは、ある紋章が刻まれた紙。

「この紋章は、映像で見た物と同じだな。ガード侯爵だったか?」

「そうだ。奴の紋章だ」

 ガルガが紙に書かれている内容を読むように促したので、目を通す

「森で混乱を引き起こす?」

「あぁ、ルクスが目覚めた時に森が襲われていただろう?」

 目覚めた時というか、あの騒々しさで目が覚めたんだけどな。

「あぁ」

「守りを固めていた獣人が混乱したのは、どうやら内部でこいつ等がなにかしたんだと思う」

「つまり、この獣人はガード侯爵側の者。僕たちの敵ですね」

 バズの言葉に、ガルガが頷く。

「そうなるな。でもどうしてガード侯爵に手を貸すんだろうな。奴は獣人を毛嫌いしている。手を貸したところで、見返りなどないと思うが。弱みでも握られているのか?」

「もしかしたら人質かもしれないですよ」

 ガルガとバズの話を聞いていると、獣人の一人が不審な動きをした。ズボンから、何かを取り出そうと手が動いている。

「何をしている?」

 ズボンのポケットに手を入れようとしたので、足で踏みつけ聞く。

 ゴキッ。

 あっ、ちょっと力を入れ過ぎた。

「うがぁぁ。くっ」

 起き上がり腕を抑える獣人。

「ルクス、もう少し優しく」

 難しい。

 我の様子を見て笑ったガルガは、呻いている獣人の髪を掴む。

「さて、話を聞かせてもらおうか」

「離せ! クソが!」

 ガルガを睨む獣人が、彼に唾を吐く。頬に付いたそれを手の甲で拭うと、ガルガは獣人の頭を地面に押さえつけた。

「今、その態度はダメだろう。あっ、バズ」

「はい、なんでしょうか?」

「倒れている奴らを紐で縛ってくれ。起きて暴れられると面倒だから」

「分かりました。あのガルガさん」

「なんだ?」

「僕も少しは戦えますよ。一応、騎士の訓練を受けてきたので」

 少し嫌そうに話すバズに、ガルガが笑う。

「どうしても手を借りないとダメな時は借りるよ。今は、まだ大丈夫だ。ありがとう」

「はい」

 バズは意識がない獣人たちを縛り上げていく。その縛り方をガルガが見て、小さく笑った。

「どうした?」

「いや、さすがだと思って。それぞれの獣人にあった縛り方をしている」

 獣人によって縛り方が違うと思ったけど、合わせていたのか。

「よしっ。出来ました」


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