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ドラゴンは幸せが分からない  作者: ほのぼのる500
旅立ちと家出獣人
16/28

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 バズが我を見る。

「滝以外に思い出せる事はありますか?」

 滝以外?

「滝の後ろに洞窟がある。滝の近くには……んっ?」

 滝と洞窟以外に、何も思い出せないな。何か、あったような気もするんだけど。

「思い出さないんだな?」

「あぁ」

 ガルガが我の言葉に、少し困った様子を見せる。

「仕方ない、三ヵ所を近い順に回って行こう。時間もあるし問題ないだろう」

「わかりました。この場所はえっと?」

 地図を持って来た獣人が、現在地をバズに教える。彼はそれに「ありがとうございます」と言うと、滝の方角や距離を確認した。

「よしっ。覚えました」

「俺もだいたいの位置は確認した。ところでルクス」

「なんだ?」

 ガルガに視線を向ける。

「ルクスはなぜ、地図を確認しないんだ?」

「二人が覚えるなら、我は必要ないだろう?」

 不思議そうにガルガを見ると、なぜか溜め息を吐かれた。バズは、隣で小さく笑っている。

「まぁいいか。一番近い滝は、ここからだと約七キロメートルだな。行こうか」

 地図を見せてくれた獣人にガルガとバズが丁寧にお礼を言うと、滝に向かって出発する。

「ドラゴンの森はなんだか綺麗な空気ですね」

 しばらく歩いているとバズが不思議な事を言う。

「綺麗な空気とは?」

「えっと、どう言えばいいかな?」

 バズが真剣な表情で悩み出す。

 それを見ながら首を傾げる。

「澄んでいるという言葉が近いと思います」

 澄んでいる。つまり空気が濁っていないという事か。

「ドラゴンの森は、我の魔力が充満していて他者の魔力が抑え込まれている。だから、そう感じるんだろう」

「「えっ?」」

 バズだけでなくガルガまで不思議そうに我を見る。

「なんだ?」

「今のは、どういう意味だ?」

 ガルガを見ると、本当に不思議に思っているのか真剣な表情をしている。

「人間や獣人が沢山いると、彼等から放出される魔力が空気中で混ざる。でもこの森に流れる魔力は、我のものだけ。だから、この森の空気が澄んでいるという感覚になるんだろう」

「魔力が、空気中に混ざる?」

 んっ? 気になるのは、そこなのか?

「人間も獣人も、絶えず魔力をわずかに放出しているだろう?」

 ガルガとバズの様子を見ると、目を見開いている。もしかして知らなかったのか?

「そうなのか?」

「あぁ、生まれた瞬間からわずかにだけどな。そして、それが空気中に放たれて他者の魔力と混ざる。ここは、我の魔力が強すぎて他の魔力を抑え込むというか食ってしまう。その結果、一つの魔力で満たされた場所となった。ガルガたちが澄んだ空気と感じるのは、そのせいだろう」

「なるほど」

 ガルガが自分の手を見て、首を傾げる。

「どうした?」

「いや、魔力を放出していると言うから意識してみたんだが、わからないものだな」

 まぁ、人間や獣人では感じる事が出来ないだろうな。

「あっ、見えてきましたよ」

 バズが指す方を見ると、三本の滝が見えた。地図ではどんな滝なのかわからなかったが、ごつごつした岩を勢いよく水が流れ落ちている。

「始めて見る滝だな」

 我の言葉に、ガルガが視線を向けた。

「つまり、探してる滝ではないんだな」

「あぁ、そういう事になるな」

 我が探している滝は、かなり大きな滝だ。目の前にある滝の二倍の高さがあるだろう。

「少し休憩して、次の滝を目指そう」

「はい。それにしても綺麗な水ですね」

 ガルガがお湯を沸かす準備を始めると、バズが近くに流れる川から水を汲む。

「魚がいますね」

「どれだ?」

 バズの傍で川を覗き込む。

 あっ、いた。

「大きいな」

「そうですか?」

「あぁ、三〇センチメートルはあるぞ」

「えっ?」

 我の言葉に、川を覗き込むバズ。

「そんなに大きくはないと思うんですが……あっ! あっちの魚ですか?」

 んっ? どうやらバズとは違う魚を見ていたみたいだな。

「うん。そっち」

「確かにあれは大きいですね。おいしいかな?」

「食べたいのか?」

 ビックリしてバズを見る。バズは我の言葉に少し恥ずかしそうに笑う。

「魚が好きなんです。家では肉ばかりだったので」

「そうか。ガルガ、バズは魚が好きらしい」

 話を聞いていたガルガが、我を見て溜め息を吐いた。

 それに首を傾げる。

「夕飯を魚にしろって事か?」

「いや、報告しただけだが。魚料理が出来るのか?」

「ただの報告かよ。まぁ、出来るぞ」

「そうか。あれが欲しいのか?」

 我が川に向かって手を翳す。

「待て! ルクス!」

 なぜか慌てだすガルガ。

「なんだ?」

「何だって、何をするつもりだ?」

 ガルガの言葉に、バズも頷いている。

「魚を水から出そうと思って」

「あぁ、なるほど。ただ、まだ夕飯には早い。そしてここで釣っても、いや釣りなのか? 違うな、今はどうでもいい事か。あ~、落ち着け!」

 混乱しているガルガを見る。

「狂ったか?」

「狂うか! つまり、ここで釣っても食べる頃には味が落ちているから待てって事だ」

「ここで食べないのか?」

「夕飯ではないのか?」

「夕飯には早いだろう?」

「「……」」

 ガルガとバズが困惑した表情で我を見る。

「だが、今魚を水から出そうとしただろう?」

「あぁ」

「それはいつ食べるつもりなんだ?」

「今だけど? お茶請けだっけ? 焼き魚なんてどうだ?」

 我は食べた事がないが。獣人たちが食べていたのを、よく見た。まぁ食べていたのは夕飯が多いけど、別に今でもいいだろう。

「うん、そうか。お茶請けに焼き魚か。しかも三〇センチメートルの? ちょっと違うかな」

 えっ、そうなのか? 大きいから食べ応えがあると思うけどな。

「お茶請けは、お茶の味を引き立てるお菓子の事だから」

 お菓子。

「魚でお菓子は作れないのか?」

 我の言葉に、ガルガが頭を抱える。

「魚を使った骨せんべいとかあるな。でも、俺には作れないから」

「そうか。バズ、残念だったな」

「えっ? 僕ですか? えっと、ガルガさんすみません?」

「ははっ。バズ、落ち着こう。謝る必要は何処にもないから。あと、次の滝で夕飯にしようか。その時に、ルクスは魚を提供してくれ」

「わかった。大きい魚がいるといいな、バズ」

「あははっ、そうですね」

 なんだろう? 二人が疲れている。……もしかして、我のせいか?

「ガルガさん、凄いですね」

「大丈夫だ。すぐに慣れて、きっと対応出来るようになる」

 二人の会話に首を傾げる。なんとなく我の事を言っているのはわかる。でも「対応」とは?

 ガルガが入れてくれたお茶を飲みながら、「対応」について考える。あぁ、我が人間や獣人の常識を知らないせいか? 今のお茶請けもどうやら間違ったみたいだし。……まぁ、いいか。

「よしっ。次の滝に行こうか」

 ガルガの一声に、出発の準備を始める。汚れたのはコップとお茶を作った小鍋だけなのですぐに準備は終わり、次の滝に向かって移動を始める。

「次が探している滝だったらいいですね」

「そうだな。ルクスの探している滝は、どんな滝だ? 横の幅とか高さとか」

 前を歩く二人に視線を向け考える。

「高さは先ほどの滝の二倍だ。横幅も結構あったな。滝の上部はゴツゴツした岩に水が伝っていたが、滝の中腹からは水が落下している感じだ。中腹から岩が後ろに下がっているんだ。そしてそこに洞窟に入れる穴がある」

 思い出せる滝の状態はここまでだな。時間が経っているので、形を変えている可能性もあるが。

「かなり大きな滝だな」

「そうみたいですね」

 我の説明に二人が頷いた。そこから二時間ほど歩き続けると、微かに水の叩きつけられる音が聞こえた。

「水音だ」

「んっ? ずっと川の音が聞こえていただろう?」

 ガルガが我を見る。

「水の流れる音ではなく、叩きつける音だ」

 首を傾げるガルガとバズ。

「そういえば、ルクスは耳もよかったな」

「そうでしたね」

 ガルガとバズが、納得した表情をする。

「まだ遠いんだろうな」

「ははっ。おそらくそうだと思います」

 遠い? 音が聞こえているから、それほど遠くはないと思うけどな。


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