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ドラゴンは幸せが分からない  作者: ほのぼのる500
旅立ちと家出獣人
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「どうした?」

「ルクス以外のドラゴンがいるのか?」

 興奮気味のガルガに少し体が引く。

「今はいない。過去にいたんだ」

 我にドラゴンの知識を教えてくれた者。名前は……忘れた。

「過去?」

「あぁ。我が生まれた時には、多数のドラゴンがこの世界にいた。今は我だけだ」

 そういえば、ドラゴンたちはこの世界を去って行く時に何か言っていたような……なんだっけ? 結構重要な事だと思ったんだけど、思い出せないな。思い出せないという事は、そんなに重要な事ではなかったという事か? いや、昔すぎて忘れただけかもしれないな。

「あっ!」

 そうだ。忘れると思ったから、石板に言葉を刻んで封印したんだ。あれは、どこだっけ?

「どうした?」

「ドラゴンたちから聞いた重要な事を、石板に刻んで封印した事を思い出したんだ」

「重要な事?」

 ガルガが神妙な表情で我を見る。

「そうだ。時間経過は記憶をあやふやにするからな。だから、忘れてしまった時のために、石板に残したんだ。ただ、その石板をどこに封印したのかを忘れた」

「「……」」

 呆れた様子で二人に見られているが、気にしない。時間というのは、恐ろしいものなんだ。どんなに覚えていようとしても、忘れていくからな。うん、我は悪くない!

「あっ、力の暴走について石板に残した可能性はないですか?」

 バズを見る。

「どうだろう?」

 石板に刻んだ言葉……言葉……。

「まったく思い出せない」

「石板の事を思い出しただけで凄いのかもな」

「そうかもしれないですね」

 二人からの視線を無視して、石板について思い出せる事がないか考える。確か、この世界とドラゴンの関係について書いたような気がする。うん、そうだ。とても重要な事だったので、面倒くさかったが石板に残したんだ。

「その石板に残した内容は、重要なのか?」

「かなり重要だ。ドラゴンの姿で石板に文字を刻むのは大変なのに、その当時の我は書き切ったんだからな」

 自慢気に言うと、ガルガに呆れた表情を向けられた。なぜだ? たぶん、その当時の我は凄く頑張ったのに。

「それで、どの辺りに封印したのか何か思い出せたのか? 些細な事でもいいぞ」

 ガルガの言葉に、記憶を思い出そうと頑張る。頑張るが、残念ながら何も。

「あっ、滝だ!」

 そうだ、思い出した。滝の後ろにある洞窟に封印したんだ。

「滝? ドラゴンの森に滝があるのか?」

「ないのか?」

 記憶では大きな滝があったはずなんだけど。でも、この記憶はかなり古い。もしかしたら今は、滝がなくなっているかもしれないな。

「ドラゴンの森については、わからない事が多い。地図もないしな」

 地図もないのか。あれ?

「リーガスが地図を作っていたと思うが」

 確か数年を掛けて、この森を調べていた。

「そうなのか?」

「あぁ」

「地図はあるのか。でもそれは、この森を守る獣人たちしか見られないだろうな」

 森を守る獣人たちだけか。んっ?

「我も駄目なのか?」

「あっ……ルクスは問題ないな」

 我の言葉にハッとした表情をするガルガ。

「そうだよ。ルクスがいるんだから、その地図を見る事が出来るはずだ。よしっ、明日はこの辺りにいる獣人に会いに行こう」

 楽しそうに言うガルガにバズが視線を向ける。

「あの、僕も一緒でいいのでしょうか?」

「あぁ、大丈夫だろう」

 ガルガの言葉にホッとした様子のバズ。

 彼はいろいろな事が心配なんだな。その場になって見ないと答えなど出ない事を心配するなんて、我には考えられない。

「出来たぞ」

 ガルガが三人分のコップに朝食のスープを入れて持って来る。

「ありがとうございます」

 嬉しそうに受け取るバズ。

「次は僕が作ります」

 バズを見ると少し恥ずかしそうに笑っている。

「バズは料理が出来るのか?」

「はい。ガルガさんほどおいしくは作れないかもしれないですが」

 ガルガから受け取ったスープを飲む。

「……薬草が多いのか?」

「薬草って……まぁ、正解だけどな。朝だからさっぱりした味にしたんだ」

 薬草の味が濃いのは当たったな。さっぱりした味?

「……まぁ、言われればそうだな」

 我を見たガルガが小さく笑う。バズは、少し驚いた表情をしている。

「どうした?」

「いえ、結構さっぱりした味なので」

「そうだな」

 それがどうかしたのか? 我がバズを見ていると、彼が困った表情をする。それに首を傾げる。

「すみません」

 バズが謝った?

「ルクス。バズが困っているぞ」

「なぜ?」

 我が困らせているのか? そんなつもりはないのだが。

「ルクスの味音痴に驚いてると、睨まれたからだろうな」

「睨んだ覚えはないぞ」

「いや、ちょっと睨んでいたぞ?」

 指で目元に触れる。睨んでいたのだろうか?

「よく、わからない。バズ、我は睨んでいないぞ」

「はい。そうみたいですね」

 バズとのよくわからないやり取りが終わると、スープを飲み切る。

「ごちそうさま」

 おいしいかどうかは、まだよくわからない。ただ、なんとなく体が温かいな。

「よしっ。獣人を探して地図を手に入れるぞ!」

 ガルガの言葉に、視線をある方向に向ける。

「獣人ならあっちにいるぞ」

 我の言葉に、ガルガとバズが視線を向ける。

「そうなのか? まったく気配を感じないけど」

「少し遠いからな」

 だいたい五キロだな。

「行く方向も決まったし、行こうか」

 ガルガの言葉に頷くと、五キロ先の獣人の下に向かう。

 んっ? 森に張った結界が発動した? これは、攻撃を受けたので反撃したみたいだな。誰なのか知らないが、無駄な事を。

 歩き始めてそろそろ一時間かな。ゆっくりだから、獣人に会うにも時間が掛かるな。

「ルクス。本当にこっちで大丈夫か?」

 ガルガが心配そうに我を見る。

「あぁ、そろそろ気配を感じるのではないか?」

「そうか」

 ガルガが歩く先を見る。そしてハッとした表情をしたあと、安心した様子になった。

「まさかここまで離れていたとは思わなかった」

 そういえば、どれくらい距離があるのか言い忘れていたな。まぁ、もういいか。

「止まれ! お前たちは誰だ?」

 武器を持った獣人たちが目の前に現れると、ガルガが両手を上げる。

「俺たちは、敵ではない。俺はガルガ。ドラゴンのルクス。あと……仲間予定のバズだ」

 ガルガの説明に笑ってしまう。

 そこまで正直に言う必要はないだろうに。

「おい今、ドラゴンと言わなかったか?」

「言った。ほんとにドラゴン様なのか?」

 ドラゴンという言葉に反応した獣人たちから、戸惑った声が上がる。

「アグーから何か聞いていないか?」

「森の賢者様からはドラゴン様が目覚められたとは聞いたが。本当に?」

 疑うような視線を向けられると苛立つな。

「ドラゴンの姿を見せればいいのか?」

 我の言葉に、先頭にいる獣人が戸惑ったように頷く。

「わかった」

 獣人の姿からドラゴンの姿に戻る。戻った時間は数分。獣人の姿に戻り獣人たちを見ると、全員が地面に座って頭を下げていた。

「申し訳ありませんでした。ドラゴン様を疑ってしまい」

 先頭の獣人の体が震えている。怖がっている様子に、ガルガを見て肩を竦める。

「気にする必要はない。それより、頼みがあるんだ」

「何でしょうか? 出来る事でしたら、何でも致します」

 先頭の獣人が我を見る。

「そんなにかしこまらなくていいぞ」

「いえ、ドラゴン様は我々にとって最上の存在ですので」

 最上の存在ね。面倒だな。

「森の地図を持っているか?」

「はい。とても大切な物ですので、厳重に管理させていただいています」

「その地図を見たいんだけど、いいか?」

「わかりました。すぐにお持ちいたします。こちらでお寛ぎ下さい」

 獣人たちが用意した椅子に座り、暫く待つ。

「どうぞ」

 慌てたのか、少し髪の乱れた獣人が我の前に地図を広げた。

「滝は……」

 ガルガが地図に書かれた滝を指す。

「三ヶ所ですね」


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