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―ドラゴン ルクス視点―
星を見ているバズに視線を向ける。その笑みの浮かんだ表情に首を傾げる。
たった数時間の間に、彼に何があったんだ? 最初に会った時は、悲愴感を漂わせていたのに。
「ルクスさん。僕も一緒に旅をしたいです」
「そうか、わかった」
落ち着いてから決めていいと言ったんだけど、もう決めたようだ。
バズを見る。
「あぁ、落ち着いたのか」
「えっ? あっ、はい。落ち着きました」
不思議そうに我を見るバズに首を傾げる。
「そういえば、ここはドラゴンの森ですよね?」
「あぁ、そう呼ばれているな」
「ドラゴンなんて、本当にいるんでしょうか?」
「んっ?」
バズは何を言っているんだ? 我の前で。
「目の前にいるではないか」
「えっ?」
バズが我を見る。視線が合うと首を傾げている。
「ドラゴンが目の前に?」
「あぁ、我がそのドラゴンだ」
「……えっと?」
バズの視線がガルガに向く。しばらく彼を見てから、戸惑った様子で我を見る。
「それは、本当ですか?」
「本当とは?」
「その、ルクスさんがドラゴンだというのは」
「あぁ」
どうして、そんな事を聞くんだ? そういえば、初めて会った時から我は獣人の姿だったな。そうか、この見た目ではドラゴンだと思わないか。
「少し待て」
獣人から本来のドラゴンの姿に戻る。これで、バズも我がドラゴンだとわかっただろう。
「うわぁ~」
んっ?
「ど、どうした! バズ? ルクス?」
バズの叫び声とガルガの慌てた様子の声に、ドラゴンのまま首を傾げる。
周りを見ても敵はいない。バズは、どうして叫んだんだ?
「ガルガさん。あの、その、あれ!」
「あぁ……はぁ。バズ、とりあえず落ち着け。ルクスは獣人に戻ってくれ」
獣人に戻ると、バズが涙目で我を見ている。また、泣いたのか? 目の腫れがようやく落ち着いてきたところだったのに。
「バズは、泣き虫だな」
「えっ!」
「はぁ」
驚いた表情のバズに、大きな溜め息を吐くガルガ。そんな二人の様子に首を傾げる。
「ガルガ。目覚めるには、少し早くないか?」
そろそろ夜が明けるけど、目覚める時間には早い。
「はははっ、はぁ。バズ、少しは落ち着いたか?」
なぜだろう? ガルガに諦めたような溜め息を吐かれた。
「はい。えっと、すみません。俺の叫び声で起きたんですよね? その、ルクスさんの姿がドラゴンに変わって驚いてしまって」
「謝るな。ちゃんと言っていなかった俺が悪いんだ」
ガルガとバズを見る。二人ともどこか申し訳なさそうにしている。
「ルクス。どうして急に本来の姿に戻ったんだ?」
我を見るガルガ。
「バズにドラゴンがいるのか聞かれて『我だ』と言ったが、信じられないみたいだったから。本来の姿を見たら信じるだろうと思ってな」
「なるほど。まぁ……それなら仕方ないのか?」
ガルガが上空を見ながら苦笑する。どこを見ているのか、視線を追ってみるがわからない。星空か? 何か違うような気がするんだが。
「あの、ルクスさん。かっこよかったです。ドラゴンの姿がとても!」
バズを見ると、なぜか頬が赤い。少し興奮しているようだ。
「そうか? ありがとう」
カッコいいか。あまり言われ慣れていない言葉だな。
「驚いたくせに、かっこいいという感想を抱くなんて。バズはけっこう度胸があるな」
「えっ? そうですか?」
ガルガの言葉に首を傾げるバズ。
「叫びながらドラゴンの姿はしっかり見たんだろう?」
「はい。迫力のある大きさに驚きましたが、月灯りで鱗がキラキラしてとても美しいです。なにより、今のルクスさんよりすごい力を感じました。全身が震えあがるほどの力なんて、今まで感じた事がないから感動です」
「やっぱり度胸があるわ」
バズの感想に、ガルガが感心した様子でつぶやく。
「なんだか、目が覚めたな」
ガルガが腕を上げて、体をのばす。
「寝ないのか?」
「あぁ、完全に目が覚めた。早いけど、メシを作るか」
ガルガの表情を見る。微かに疲れが見えるが、大丈夫なのだろうか?
「どうした?」
我の視線に気付いたのか。
「疲れているみたいだが、大丈夫なのか?」
「えっ? あぁ、ちょっと寝つきが悪くてな」
そういえば、寝る体制に入ってから随分と長い間起きていたな。あれは、眠れなかったからなのか。
「まぁ、大丈夫。これぐらいで倒れる事はない」
料理を始めたガルガに視線を向ける。
ガルガは冒険者として強いようだが、人間の体は弱い。よく燃えて、すぐに死ぬ。気を付けていた方がいいかな?
「どうしたんですか?」
隣に座ったバズを見る。
「ガルガはすぐに死ぬから、気を付けた方がいいかと思って」
「えっ?」
驚いた表情でガルガを見るバズ。
「こら、ルクス! 誰がすぐに死ぬだ!」
なぜ、怒る?
「人間は弱いだろう?」
「ルクスに比べたら誰だって弱いだろうが」
「人間は、獣人に比べてかなり弱い。疲れが続くと死ぬかもしれない」
「それはもしかして、心配してくれているんだな。わかりにくいな。いくつか訂正するぞ。獣人に比べたら人の体は弱い。でも、疲れが続いてもすぐには死なない。まぁ、それが数十日続けば体が弱まって病気になる可能性はあるが」
「やはり死ぬのか」
「違う。数十日続けばだ。俺はしっかり休む時や休む。だから大丈夫だ。あと、獣人より体の作りは弱いかもしれないが、獣人も病気には弱いからな」
「そうなのか?」
ガルガだけでなくバズも弱いのか。
「はい、人より抵抗力はありますが、病気にはなりますね。獣人特有の病気もありますし」
「そうか。人間も獣人も大変だな」
我の言葉にバズが苦笑する。
「ルクスはどんな病気にもかからないのか?」
「あぁ。病気にかかる事はないな。怪我もすぐに治る」
ガルガが少し羨ましそうな表情で我を見る。
「病気の心配がないのはいいな」
「そうですね」
ガルガの言葉にバズも頷く。
「ドラゴンが心配するのは一つだけだ」
「なんだ?」
興味津々の表情でガルガが聞く。
「力の暴走。これが起こると、周りを巻き込んで大爆発を起こす」
「周りを巻き込んで? どれくらいの規模の爆発なんですか?」
バズの言葉に、少し考える。今の我の力が制御出来ず爆発するとなれば……。
「この世界全てだな」
「「……」」
二人が目を見開き、我を見る。
「そんなに大きな爆発になるのか? この世界全てって事は……人の獣人も滅びるとか?」
「最悪な状態だと、そうだな」
我が持つ力は、以前に比べて膨大になっている。おそらく、この世界から命はいなくなるだろうな。
「その力の暴走? それは、なぜ起こるんだ?」
「知らん」
「「えっ?」」
驚いた表情をする二人に視線を向ける。
「なぜ起こるのかは、聞いていない」
そういえば、誰に聞いたんだろう? ん~、昔すぎて記憶があやふやだな。でもドラゴンの事なのだから、ドラゴンに聞いたと思うんだが。
「知らなければ、防ぎようがないな」
「防ぐ?」
ガルガを見ると、眉間に深い皺を作っている。
「あぁ、この世界全体に影響が及ぶなら『もしも』を考えておくべきではないか?」
そういうものか? でも、
「何をしても無駄だろう。我の持っている全ての力が爆発するんだぞ?」
あっ、ガルガに睨まれた。
「原因を本当に知らないのか?」
「あぁ、聞いてない」
断言すると、ガルガが頭を抱える。
不思議な奴だな。どうしてくるかもわからない事で、そんなに心配が出来るんだろう? 「もしも」を考えて? 「もしも」がきたら、終わりだ。間違いなく。
「あの……」
バズを見る。
「ルクスさんは、その事を誰に聞いたんですか?」
「そうだ。そんな重要な事を誰に聞いたんだ?」
バズの質問にガルガも首を傾げる。
「ドラゴン仲間にだな」
「「えっ?」」
なぜか驚いた表情をする二人。




