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ドラゴンは幸せが分からない  作者: ほのぼのる500
旅立ちと家出獣人
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「言っておくが、俺は軟弱ではないからな。人や獣人は歩き続けると体力が消耗する。その回復に休憩が必要なんだ。一回の休憩は三十分以上。ゆっくり水や果実を食べて、消耗した体力を回復させるんだ」

「なるほど」

 我が、ガルガを軟弱だと思った事によく気付いたな。それにしても、ガルガではなく人間や獣人が軟弱だったのか。たった三時間で、休憩が必要になるほど。かわいそうな体だ。

「なんだろう? ルクスと俺の間に大きな溝を感じる」

 ガルガと我の間に溝?

 足元を見る。

「溝はないぞ」

「……うん、知ってる」

「んっ?」

 どうしてガルガは溜め息を吐いているんだ? そんなに疲れているのか? 幻覚の溝を見るほど?

「ルクス」

「なんだ?」

「リーガスさんと共に生活をしていたんだよな?」

「えっ、違うぞ」

「えっ、違うのか? 一緒にいたんだろう?」

「我はお気に入りの湖や洞窟にいた。そこにリーガスがきて勝手に話をして満足して帰って行く。たまに、リーガスを狙った者が出るので排除して、そのお祝いの場に呼ばれて祝い料理を食べる。その繰り返しだったな」

「思っていたのと違う」

「そうなのか?」

「あぁ、もっと親しく付き合いがあったのだと思った」

 リーガスとか。

「あの時に、今のような姿になれていれば……違った付き合い方が出来たんだろうな」

 なぜだろう? 少し気分が……。

「どうした?」

「リーガスの事を思い出すと、胸が……よくわからない状態になる」

「それは……」

「それは?」

 ガルガを見ると、なんとも言えない表情で我を見ている。なんなんだ?

「悲しいとか寂しいとか。そんな感情じゃないか?」

 悲しい? 寂しい? それはどういう感情なんだろう?

 悲しい……寂しい……あっ。記憶の中に、「寂しい」と言いながら泣いている子がいる。

「寂しいから一緒にいて」と手を伸ばし叫んでいる子も。暗い檻の中で「一人は悲しい」と泣いている子も。

 我は、記憶の中にいるこの子たちと同じ気持ちを抱えているのか? でもリーガスを思い出してどうして悲しいと思う? 寂しいと思う?

「一緒に?」

 我はリーガスと一緒にいたいのか? 死んでしまっているのに?

「よく、わからない」

「そうか。まぁ、ゆっくり知っていけばいいよ。ルクスはいろいろな感情を知らないまま生きてきたみたいだからな」

 ガルガを見ると、納得した様子で頷いている。何を納得したのかわからないが、ガルガが言うように我は感情を知らないんだろうな。いろいろな記憶を見て気付いた。我にはよくわからない感情で、多くの者が涙し悲しみそして苦しんでいる。でも我にもわかる感情があった。

「苛立ちの感情は、凄く馴染みがある」

「ははっ、それはそうだろう」

 ガルガが我の言葉に小さく笑う。

「さてと、そろそろ移動しようか」

 ガルガが荷物を背負う。

「もういいのか?」

「あぁ、ゆっくり出来たからもう大丈夫だ」

 休憩は四五分ぐらいだな。

「わかった」

 ガルガは軟弱だから、休憩が必要になる事を忘れないようにしないとな。


「ルクス、湖だ!」

 ガルガが楽しそうに、湖を指す。

「そうだな」

 湖を見てどうしてあんなに楽しそうなんだ?

「綺麗だな」

 湖が綺麗? ガルガの横に立ち、湖を眺める。

 風が吹くたびに湖面がゆれ、太陽に光でキラキラと輝く湖。

「あぁ、確かに。湖に光が反射して綺麗だな」

「そうだろう? 心が洗われるようだ」

 どうやって? ガルガの胸の辺りを見る。

「心は実際には掴めない物だったはずだけど」

「えっ!……ルクスはいろいろ知っているが、知らない事も多そうだな。それにしても、ぷっあははは」

 ガルガが驚いた表情をすると、次に呆れたように言う。そしてなぜか、おかしそうに笑い出す。忙しい奴だな。

「なんだ?」

「いや、ルクスが心をどう洗うのか考えていると想像したら、楽しくなった」

 ガルガが言い出した事なんだけどな。

「心が洗われるは、綺麗な風景に心が浄化される。つまりすがすがしい気持ちになったという事だよ」

「あぁ、そういう事か」

 すがすがしい気持ちか。もう一度湖を見る。キラキラと反射する光がまぶしく、少し目を細める。

 あれ? 湖の反対側の岸に何かいる。動いていないか? なんだあれは?

「…………ガルガ」

「どうした?」

「獣人が落ちているぞ」

「はっ? 何が落ちているって?」

「獣人」

 ガルガが不思議そうに我の指す方を見る。

「違う! あれは倒れているんだ!」

 慌てた様子で獣人の下に駆けるガルガ。

「あぁ、倒れていたのか」

 落ちた状態と倒れた状態は一緒だから、我には区別がつかないな。

「おい、大丈夫か?」

 ガルガの後ろから獣人を見る。耳の形から犬の獣人のようだな。それにしても、顔色が悪いな。それに微かにだが、腹から音が聞こえる。これは、なんの音なんだろう?

「ガルガ」

「どうした? 怪我はしていないみたいだが、病気か?」

「腹から音が聞こえる」

「はっ? 腹から音?」

 ぐぐ~。

「それだ」

「……」

 丁度いい感じに音が大きくなりガルガにも聞こえたようだ。あれ? ガルガが溜め息を吐いた。

「なんだ?」

「あぁたぶん、腹が減っているんだ。まぁ、病気の可能性は捨てきれないが」

 ガルガが獣人の頬を叩く。

「んっ? えっ?」

 意識が戻ったのか、獣人が不思議そうにガルガと我を見る。

「大丈夫か?」

「……お腹が減りました」

「あ~、そうか。病気という事はないんだな?」

「病気ですか?」

 首を傾げガルガに視線を向ける獣人。

「倒れていたから、発作でも起こしたのかと思って心配しているんだ」

「あぁ、すみません。ずっと何も食べていなくて」

 無表情で言う獣人に、ガルガがポンと頭を撫でる。

「それだったら消化にいい物を作らないとな」

 ガルガの言葉に目を見開く獣人。

「あの、お金は持っていなくて」

 獣人の頭をもう一度ガルガが撫でる。

「お金はいらない」

「でも……」

 困った表情になる獣人を、ガルガが優しげに見る。

「困った時は頼ってもいいんだぞ。それでも気になるなら、元気になった時に恩を返してくれ」

 ガルガの言葉に、獣人が頷く。

「はい。必ずこの恩は返します」

「律儀だな」

 ガルガが楽し気に笑うと獣人も微かに笑顔を見せた。

「名前は?」

 ガルガの質問に少し戸惑った表情をした獣人。名前がないのか?

「バズです」

 名前を言うと、そっとガルガの様子を窺う獣人。それを不思議そうに見たガルガは、特に聞く事なく頷く。

「わかった、バズだな。俺はガルガ、人だ。それでこっちはルクス。えっと、彼女は……獣人だ」

 少し考えたガルガの紹介に、バズが首を傾げる。我も首を傾げてガルガを見る。何を迷ったのかわからないんだが。

「ルクス、自己紹介」

「あぁ、ルクスだ。どうしてあんな場所で腹を空かせていたんだ? 腹が減っていたなら森から出るべきだろう?」

「あっ、えっと」

 我の質問に、困った表情で頬を掻くバズ。ガルガは我を見て、呆れた表情になった。

「あえて聞かなかったのに……。バズ、今は何も答えなくていい。言いたくなった時に教えてくれ」

「ガルガ?」

 彼の不思議な行動に視線を向ける。

「今は聞く時ではないんだ」

「そうか」

 いろいろな事をはっきりさせておいた方がいいと思ったけど。どうやら違うらしい。

「とりあえず、何か作るぞ。ルクス、火起こし用に、落ちている小枝や枝を拾ってくれ。間違っても木々を倒す必要はないぞ」

「大丈夫だ、もう間違えない。何度も言わなくていい」

 初日の日に、火起こしの手伝いをした。必要な小枝や枝の量がわからなかったので、近くの木々を数本倒した。それを見たガルガが大慌て。聞けば、小枝や枝は落ちている物で良かったらしい。そういう事は、早く言ってくれなければわからない。

 小枝と枝を拾っている間に、ガルガが料理の準備をする。

「これぐらいでいいのか?」

 両手いっぱいの小枝や枝を見せる。

「あぁ、ありがとう。火を起こしてくれ」

「わかった」

 ガルガに教えてもらった通りに火をつける。と言っても、小枝や枝を集めて魔法で火をつけるだけなので簡単だ。まぁ、最初は火の勢いがよく一瞬で集めた小枝や枝が灰になったが。今は問題ない。

 ガルガがバズのためにスープを作る。その間、バズのお腹が盛大に鳴っていた。

「よく鳴るな」

「えっと、はい」

 戸惑った表情をするバズ。そんな我とバズを見て、ガルガが楽しそうに笑った。

「バズ、悪いな。ルクスは常識が少し、いや。あ~、ないというより知らないんだ」

「えっ?」

 ガルガの言葉にバズが我を不思議そうに見る。

「なんだ?」

「いえ、気にしないんですね」

 気にする? 何を?

「あぁ、常識を知らない事か? 本当の事だからな」

「そうなんですか。えっと……」

 バズがもの凄く困っている。我の言った事が原因だろうか? 特におかしな事を言った覚えはないんんだが。

「ほら、出来たぞ。ルクスの事は、気にするな」

「ありがとうございます」

 そっとスープを飲むバズ。

「うまいか?」

「はい。温かくてうまいです」

 うまいのか。ガルガも自分で作ったスープをおいしそうに飲んでいるな。

「ガルガ、我にもくれ」

「いいぞ」

 少し驚いた表情をしたガルガは、嬉しそうに笑った。

 ガルガの作ったスープを飲む。……うまいのか? 温かいが、味は……肉と野菜の味だな。えぐみはないし渋みもない。

「どうだ?」

「肉と野菜の味だな」

「ははっ。そうだろうな」

 我の返答にガルガが笑う。バズは首を傾げながら、我とガルガを見る。

「バズはこれからどうするんだ?」

 ガルガの言葉にバズは視線を下に落とす。

「……」

 黙ってしまったバズを見る。横顔しか見えないが、どこか苦しそうに表情が歪んでいる。

「一緒に旅をするか?」

「えっ?」

「行くところがないなら、どうだ?」

 ガルガに戸惑った視線を向けるバズ。少し考えて、首を横に振る。

「僕は――」

「俺とルクスは、幸せを探す旅をしているんだ」

「えっ?」

 バズがガルガを見る。

「幸せですか?」

「そう、幸せだ」


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