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ドラゴンは幸せが分からない  作者: ほのぼのる500
目覚めと国を捨てた冒険者
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「そうだ。魔王について聞いた事はあるか?」

 アグーなら知っているかもしれないな。

「魔王? あぁ、それはルクス様の事でございます」

「我の事?」

 不思議そうにアグーを見ると、小さく笑っている。

「どういう事だ? なぜ我の事を魔王などと呼ぶんだ?」

「ルクス様が眠りにつく前、メディート国を攻撃しましたよね?」

 メディート国を攻撃? そんな事をした覚えはない。いや。リーガスを狙っていた者たちと彼らがいた場所も、一掃してから眠ったな。もしかして、その事か?

「ルクス様の攻撃は、メディート国の領土の七割を火の海にしました」

 七割? ……ちょっと威力が強すぎたみたいだな。あの時は、苛立っていたから、思いっきりブレスを吐いた。そのせいだろうな。

「そのお陰で、ルクス様が眠った後も、森を攻撃する者はいませんでした。あの攻撃で、森にいるドラゴンを怒らせると国が焼かれると噂になったそうですから」

 リーガスは守れたんだな。それなら、あの攻撃も無駄ではなかったな。

「ただ、メディート国では国土を焼かれたものですから、かなり怒り狂っていたようです。しばらくすると、無慈悲に国を襲った魔王と勇者の話が聞かれるようになりました。そしていつか目覚める魔王を倒すために、国が冒険者たちを支援しだしたそうです。今も形を変えて、国が冒険者たちを強化しています」

「ふ~ん」

 なるほど。我が魔王なのか。だから、記憶の中にある独特の魔力を持つ魔王がいないのか。

「お気を付けください」

「何をだ?」

「メディート国は、ドラゴンであるルクス様を狙うでしょう」

 あぁ、ガルガが言っていたな。魔王を倒す事が、冒険者たちの目標だと。

 我は幸せを探す旅に出る事が決まった。そんな我を狙う冒険者は、旅を邪魔する存在だ。

「面倒だな」

 ガルガも魔王が復活してから対応を決めると言っていたな。そういえば、ガルガは?

 ガルガを見ると、体がゆらゆらと揺れている。そのおかしな動きが気になり見ていると、アグーが小さく笑った。

「どうやら眠ってしまったようですね」

 あれは、眠っているのか? 随分と体がふらふらと揺れているのだが、疲れないのか?

「ガルガ。ガルガ」

「んっ? あれっ? ルクス? ふあぁあ。悪い、眠っていたようだ」

「そうだな。ガルガ、さっき話していた魔王はどうやら我の事らしいぞ」

「……はっ?」

 我の言った事を理解したのか、意識がはっきりしたようだ。

「我は眠る前にリーガスを狙う者がいる場所を攻撃した。その時の攻撃が、ガルガがいた国を焼いたらしい。それで我の事を魔王と呼んでいるそうだ」

「マジで? あれ? ルクスが目を覚ましたという事は……魔王の復活?」

「そうなるな。ガルガ、どうする?」

 我の言葉に不思議そうな表情をするガルガ。

「魔王が目を覚ましてから、討伐に向かうのか考えると言っていただろう?」

「あぁ、それは魔王の正体を知らなかったからだ。それに国が焼かれる原因を作ったのはメディート国なんだろ? リーガスさんに手を出さなければ、ルクスが攻撃する事はなかったんだろうから」

「まぁ、そうだな。メディート国に興味もないしな」

 我の言葉に、ガルガが笑う。

「あぁ、なんというか……あの国の上層部は馬鹿なんだな。ルクスを敵にまわすなんて。あれ? あぁ!」

 急に大きな声を出すガルガに、お酒を楽しんでいた獣人たちが視線を向ける。

「うるさい」

 耳を押さえ、ガルガを睨む。

「悪い。あのさ、ルクス。旅に出るのは無理かもしれない」

 あれほど旅に誘っていたのにどうしたんだ?

「なぜだ?」

「メディート国は、魔王が復活したと冒険者たちに発表するはずだ。そうなると、あの国から多くの冒険者が、森に押し寄せると思う。常識のある冒険者だったらいいが、馬鹿な冒険者も多いんだ。ルクスがいなかったら、きっと森で暴れ回る。獣人たちが止めるだろう。でも、奴らはあくどい手を使う。きっと獣人たちに被害が出るはずだ」

「なるほど」

 旅に行くつもりになっていたから、冒険者などに邪魔をされるのは苛立つな。害ある者が、森に入ってこれないように出来れば。

「そうだ、結界を張ればいいのではないか?」

「えっ、この森に? いや、森は広いから無理……。もしかして森を覆う結界が張れるのか?」

「もちろん。中心に核となる物が必要だが出来る」

「核? それはどんな物だ?」

「なんでもいい。我が力を籠めて核にするから。そこらへんに転がっている石でも十分だ」

 んっ? どうしてガルガは驚いた表情をしているんだ?

「そ、そうか。それなら森は安全だな」

「あぁ。アグーもそれでいいか?」

 アグーも驚いているな。そんなに驚く事があったのか? ……わからないな。

「はい。結界で守っていただけるなんて、ありがたい事です」

 核を何にするか考えないとな。そこらへんに転がっている石でもいいとは言ったが、大きい方が魔力を溜められる。探すのは面倒だから、ガルガにお薦めがないか聞いてみるか。

 ガルガを見ると、真剣な表情で地面を睨みつけていた。それに首を傾げ、彼の言葉に耳を傾ける。

「森の心配より。メディート国にいるかつての仲間たちの方を心配した方がよさそうだ。魔王の正体を知らせてみるか? うん、正体を知った方が。あぁでも、ドラゴンを狩りたいなんて馬鹿な考えになるかもしれない。だったら、魔王がメディート国を襲った原因を知らせてみるか? どう考えたって自業自得だからな。まぁ、ちょっとやりすぎかもしれないが……ルクスだから。少ししか関わっていないが、しょうがないとした言いようがない」

 ガルガはどうやら、冒険者仲間を心配しているようだ。いろいろ心配する事が多くて大変だな。んっ?……最後のは我をバカにしているのだろうか?

「よしっ!」

「何か決まったのか?」

 我の言葉に、口を押さえるガルガ。無意識に言葉が出てしまったのか。

「えっと、昔の仲間にメディート国の襲われた原因が自国にあると知らせようかと。あと、俺や仲間がどれだけ集まっても全く手を出せないほど強いドラゴンがいて。実はそのドラゴンが『魔王』の正体で、下手な事をすればメディート国が消える可能性だってあると」

「なんだ、消していいのか?」

「違う、違う。消していい許可ではない」

 なんだ、違うのか。面倒だからすっきりしたいのに。

「なぜそんなに残念そうなんだ。頼むから簡単に消そうとしないでくれ」

 ガルガの焦った様子にアグーが密かに笑っているな。ガルガを見る。確かに少し面白いな。

「アグーは、森を襲った国が消えなくもよいのか?」

 森を守っている獣人はどう思っているんだろう?

「我々はメディート国が消える事を望んではいません。あの国にもよい人はいますから」

「そうか。ガルガ、わかった」

「ありがとう。俺は、俺の冤罪を晴らしてくれた仲間たちは信じる事にした。だから、森に住む獣人とメディート国の間で何があったのか全て知らせようと思う。ルクス」

「なんだ?」

「『魔王』の正体が『ドラゴン』だと知らせてもいいか?」

「いいぞ」

 別にどうでもいい。

「ルクス、ありがとう」

 喜ばれる理由はわからないが、ガルガが嬉しそうなのはいい事だな。

「よしっ、森は結界で守って、仲間には手紙で知らせて、あとは……旅の準備だな。何が必要なのか、ルクスが知っているわけないよな」

「あぁ、全くわからない」

「少しは考えてもいいのでは?」

「考えてもわからないから、考えない」

「……まぁ、わからないなら仕方ないか。ルクス、苦労という言葉を知っているか?」

「あぁ、知っている。それが?」

「苦労をした事は?」

「ない」

「だと思った。いいか、ルクス! 旅は苦労をするのも醍醐味だ! 苦労を避けては通れないからな!」

「……やっぱり飛んで――」

「駄目だ! 苦労の先に幸せが見つかるんだ…………たぶん」

 小さな声で「たぶん」と言っているが、大丈夫か?

「本当だろうな?」

「あぁ~、ん~……おそらく?」

「あはははっ。ルクス様。確かに苦労の先に幸せはありますよ」

 えっ? なぜ急にアグーは笑い出したんだ?

 ガルガと我の傍で笑うアグーを見る。涙を出すほど笑っている。

「すみません。お二人を見ていると、笑えてきて。ふふふっ」

 ガルガを見ると、少し顔が赤い? まだ、酒が残っているようだな。

「ルクス様。いろいろな苦労をして、初めて何が自分にとって幸せなのかわかるのです」

「そういうものなのか?」

「いろいろな考えを持つ者もいるため、違う考えも持つ者もいるでしょうが、私はそう思います」

「そうか。苦労か」

 面倒だと思ったら避けて、敵だと思ったらブレスで消す。我の生活は……とても単純だ。これでは駄目という事か。

「わかった。旅で苦労というものを経験してみる」

 我の言葉にガルガが安堵した表情をする。アグーは……なんとも言えない微笑みで我を見ているな。なんだか、ちょっとむずがゆいというか、視線を逸らしたくなるというか……不思議な感覚だ。

「よしっ。明日から旅に向けて準備だ、ルクス。もちろん手伝って貰うからな」

「わかった」

 ガルガに言われた通りにすればいいだろう。考えてもわからないから。


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