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彼女と私  作者: 夢島 空
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予感

そんなある日、いつものように昼御飯のチャイムが鳴り若菜ちゃんが私の元にお弁当を持って駆け寄ってくると、また大友が若菜ちゃんを止めた。

私はこの時、なんとなく予感が走った。

若菜ちゃんは「なんか大友が呼んでるから行ってくる」と言って大友について行ってしまった。


「若菜ちゃん!ちょっ・・・。」


私は若菜ちゃんの後ろ姿がどんどん離れていく気がして引きとめようとしたが、なんで引き止める必要があるんだろう、と我に返り大人しく席に腰を下ろした。

そして私の予感はまんまと当たったのだ。

20分ほどして若菜ちゃんは顔を真っ赤にしながら私の元に走ってきた。そしてこう言った。


「大友と付き合うことになったの!!」


ってね。

私は喜ぶ若菜ちゃんに作り笑顔をし、彼女を抱きしめた。


「よ・・よかったね!若菜ちゃん!」


そして私の胸は大きくズキンズキンと音を立てて鳴った。


そうだ。私は女でありながら女の若菜ちゃんに恋心を抱いていた。

決して人には言えないし、若菜ちゃんにも決して言えない。

もし言ってしまったら、きっと私達のこの関係は崩れてしまい二度と若菜ちゃんのそばにいれなくなる。それが一番恐わかった。


それからクラスの様子はずいぶん変わった。

いつもなら前の席から何度もアイコンタクトや笑顔を私に送ってきていた若菜ちゃんは、傍にいる大友の方に笑顔を送るようになった。

お昼も必ず大友が私達の輪に入ってきて、帰り道も若菜ちゃんは私でなく大友の帰りを待ち二人で帰るようになったのだ。

二人は付き合っているんだから仕方がない。そう思うように自分を押し殺して二人の前では絶えず笑顔を作っていた。


そんなある夕方、若菜ちゃんと大友が付き合って約1週間が経った頃、私の部活の帰りを待っていたのは大友だった。

若菜ちゃんがいつも待っていた校門の前で、学ラン姿の大友が私に気づき声をかけてきた。


「川村!」


ズキン

大友の声と私の心臓の音が重なった。


「大友・・・。」


「話があるんだけど・・・今いい?」


最近大友と若菜ちゃんが一緒に帰るようになってから自転車通学にしていたので私は乗っていた自転車を降りて大友のそばに寄った。


「若菜ちゃんは?」


「先に帰った。」


大友はサッカー部で、部活帰りのワイシャツ姿は少し色っぽかった。

腕まくりしている太い腕は流行の黄色と緑で編んだミサンガがあり、肩にはだいぶ汚れた黒井エナメル質の斜め掛けバックを下げていた。

顔立ちも決して悪くない大友は、教室でいつも若菜ちゃんと話しているときのふざけた表情はなく、視線を下に落としながら私に歩調を合わせた。

大友、自転車、私という形で川の字になって歩いた。

薄暗い下校道に男と女名部活帰りに待ち合わせをして帰るなんて、まるで付き合っているみたいで居心地が悪かった。


「で、どうした?」


変な空気を感じながら、打ち切るように大友に問いかけた。

すると落としていた視線を私に向け言った。


「川村さぁ、俺と同じサッカー部の吉田って知ってる?」


「は?」


大友は少し照れたように言葉を続けた。


「実は吉田がお前の事気になってるんだよ。今好きな人とかいる?」


「はぁ?」


引いていた自転車を止め、私は大友を見た。

若菜ちゃんの話をされると思い、多少の覚悟を決めていたのに大友から出た言葉は私と吉田という男の『恋のキューピット』の話だった。


「吉田って誰?若菜ちゃんの話じゃないの?」


あっけに取られて自転車の先を大友に向けると大友は笑いながら言った。


「違う、違う!若菜は関係ないよ。」


若菜・・・


大友の口から自然に出た「若菜」と言う言葉が頭に響いて、私は下唇を噛んだ。


『付き合っているんだから呼び捨てにするのは当たり前だ。

 だけど、大友と若菜ちゃんはまだ付き合って1週間程しか経ってないだろう。

 私はもう10年以上も若菜ちゃんといるのに・・・』


私は心の中でそう思いながら大友とまた歩き出し、大友は私に嬉しそうにこういった。


「じゃあさ、吉田にお前のメアド教えてもいいかな?」


今、私の中で吉田の存在は消えて若菜ちゃんと大友が本当に付き合っているんだっている事実ふぁ突きつけられたようで、心なしか歩く歩調も早くなった。


「やっぱ・・・駄目かな?」


申し訳なさそうに顔を覗き込む大友の目が、何故だか憎たらしく見えた。


「いいよ。別に・・・。」


そのまま大友と目を合わさずに先をじっと見つめて答えて見たが、本当は不機嫌なのを悟ってもらいたかったのかもしれない。

そんな私にお構いなしに大友は大きい目をさらに大きく広げ足を止め、自転車に手を掛けた。


「まじで!サンキュー!吉田喜ぶよ!」


大友の喜ぶ声が聞こえているが、私の心にはおっかりと穴が空いたようだった。


その夜、お風呂からあがった私はベットに腰を掛けて、まだ濡れたままの髪を乾かないまま枕元に置いてあった携帯に手を伸ばした。

メール受信2通


一人目は知らないアドレスだった。


題名: こんばんわ

本文: 大友からアドレス聞きました。 

    教えてくれてありがとう!

    これが俺のアドレスです。良かったらメールください。

    吉田


『吉田?あぁ、大友が言ってた奴だ。』


何の胸の高まりもなく、あえて返信する気もなく次の新着メールに切り替えた。

二人目は若菜ちゃんだった。


題名: お疲れ~

本文: 今日、大友から聞いた?

    吉田ずっと潤ちゃんが好きだったんだって♪

    今度Wデートでもしよっか(^^)/

    

ズキン


まただ。胸がギュっと鷲掴みにされたように苦しくなる。

何度も同じメールを読み返してみては、若菜ちゃんが大友の事を本当に好きなだってことがメールからヒシヒシと伝わってきた。

私は枕に頭をうっぷんし、このモヤモヤとした気持ちを振り払おうと携帯をまた手に取った。


題名: メールありがとう

本文: じゃあ今度遊ぼうか?


送信。


パタンと二つ折りに携帯を閉じて、また枕にうっぷんした。


「あぁ。メール返しちゃったよ。」


そう。私は吉田にメールを返信したのだ。

返信する気はまるでなかったのに、なんでか若菜ちゃんのメールを見たら自然と吉田に返信してしまったのだ。しかも私からデートに誘っているようなメールだ。

枕に頭を埋めていると、耳元で携帯が鳴った。

着信音でこの着信相手が若菜ちゃんだって事に気づいたが、今この電話に出たら若菜ちゃんに嫌な態度を取ってしまいそうで、そのまま私は寝たフリをしてしまった。

その後すぐにメールの受信音が鳴り響いたが、きっと吉田だと思いまたそれも無視した。

そして私は髪の毛もまだ乾かぬまま、夢の中に逃げてしまった。


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