空っぽの記憶
ここはどこだろうか。
上を見上げれば、そこには星空が輝いていた。
・・・少なくとも覚えていることは自身が死んだこと。
どうやって死んだのか。なぜ死んだのか。
そういう記憶はなかった。
覚えていることは死んだという漠然とした記憶の一部だけ。
「さて、どうするか。」
おそらくここは死者の世界か。それとも己が霊となってその場にとどまっているのか。どちらにしてもなにもしなくては始まらない。
今いる場所は空が良く見える木々の生えた場所。
つまりは森か林となるのだが、周りを見渡しても自身の手がかりになり得そうなものはなかった。
細い手が宙にに浮いている。この手はおそらく己の手。それに加えて骸骨のような自身の顔が浮いているだけだった。
「やはり、死によって霊となったのだろうか?」
暫く宙に浮かびながらあたりをさまよえば、生物を見かけた。
「こいつはなんだ?」
その生物は1mほどの大きさであり緑の肌をもっていた。
その手には小さなナイフをもっており、そのナイフは血で汚れていた。
その生物はこっちを見るなりそのナイフを向けてきた。
「ふむ。少なくとも今の状態だと敵対関係だな。」
この緑の生物はナイフを刺そうとこっちへと、近づいてくるもそのナイフが刺さることはなかった。
すり抜けたわけではない。
ただ、この生物が届かなかっただけ。
宙に浮いているやつにナイフではきついだろう。
ナイフを投げたとしてもそれで倒すことができなかったときそれは自身を守る武器がない状態になる。
それを知ってか知らずか。この生物は下の方でナイフをあてようと工夫をしていた。
石を投げたり木を登ってみたり様々な工夫をしていたもののあきらめたのか逃げるように引き返していった。
「・・・知能が高い生物だな。もしかすると、死ぬ前の自分はあの生物だったのか?いや、違うな。」
まず顔が全然違う。
サルの骸骨のような顔。少なくともこの顔はあの緑の生物のそれじゃない。
「だが、ここが死後の世界ではなさそうだな。」
少なくともここには生物がいる。
死したものの集まる世界ではないとそう確信した。
あの日から数日がたった。
あれから腹がすくことがないので本当に霊になったのだと思う。
この体はどういう原理で動いているのだろうか?
生物だった場合は少なくとも何かを口にしないと生きていけないはず・・・。
そんなことを考えていた時、目の前に何かが出てきた。
そこにはステータスという文字が書かれていた。
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名 なし 種族 幽霊 レベル1
HP 25/25 MP 20/20
力 8 守備 6 素早さ 5
魔力 3 耐性 5 強さの総合評価F
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強さの評価がどの程度かはわからないもののおそらく良いものではないだろう。
数値も全体的にひどいと思われる。それに守備と耐性項目が違うのでないか違いがあるのだろうが現時点ではわからなかった。
だが、力が一番高いことから生前はないかしら力仕事をしていたのかもしれない。
元々、力が強かったという考えもあるが。そうだとしても数値が高いことに感謝するしかないだろう。
レベルというのはどうやら生物を殺すことや何かしら訓練することで上がっていくものらしい。
だが・・・生物の殺傷か。
殺すことにはなぜかは知らぬが嫌悪感はなかった。
どちらかといえば、命の取り合いが不安だ。
あの緑の生物を殺すにはこっちも近づく必要がある。
あの時は殺す気もなかったため飛んで避けていたが、実際に戦えば見立てよりも強いことがあるかもしれない。
罠を張るべきだな。
そう思いすぐさま準備に取り掛かる。
霊とは言っても壁などをすり抜けることはできないし干渉することができる。
この感じからするにあの緑の生物もあたりさえすればこちらはダメ―ジを負うだろう。
もし応援が来た場合そうなれば負けるのはあきらかである。
ならばすることは簡単だ。
鹿などと言った獣と同じ狩り方をすればいい。
そして待つ。
下手に戦って目立つのはごめんだからな。
幸いにも眠くも腹が減ることもないのだ。
それを利用させてもろうじゃないか。
4時間ほどしたか緑の生物が現れた。
その生物は最初は罠を怪しんでいたがそこにはきのみがあり思わず飛び込んでいた。
「かかったな。」
そう言いながら緑の生物に近づく。
「思ったよりも早く捕まえることができたな。」
その生物は焦っていたのか必死に逃げようと足掻くもより逃げることが不可能な状態へとなっていく。
「悪いな。これも強くなるためだ。」
この生物の首元を掴み締め付ける。
相手は逃げようとしても反撃しようとしても罠によって何もできなかった。
ちょうどこの生物が死んだとき、またもやステータスの画面が出てきた。
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名 なし 種族 幽霊 レベル2
HP 27/25 MP 21/20
力 11 守備 7 素早さ 5
魔力 3 耐性 5 強さの総合評価F
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どうやらレベルが上がることでHPなどが回復することはないようだ。
それに必ずしもステータスがあがるとも限らないのか。
そしてもう一つわかったことがあった。
それは自身の生前が男であったことだ。
レベルが上がることによって記憶が戻ったのだろうか?
だと、するならばレベルを上げるのは最重要目標かもしれない。
己の形を知る。生前を知る。そしてレベルを上げる。
・・・暫くはこの生物狩りだな。
ん?
「キッー。グギャー!」
先ほどの生物が騒いでいるようだ。
どうやら先ほどの罠と死体を見られたのだろう。
数は5体。
どっちも逃がすわけにはいかない。
すぐさま予備のプランを実行する。
予備のプランは念のためだったが記憶がよみがえるとわかった以上多くの生物を殺す必要がある。
幸いにもこの生物も多くの生物を殺している。
それは食べるためもあるのだろうが一部の生物は殺すだけ殺して何もしないという場合があった。
おそらくこいつらにもレベルがあってそれを上げるためなのだろうがそうならば自身が殺されることも視野に入れておかなければならない。
それが例え、頂点捕食者であったとしてもだ。
予備プランは単純だ。
用意をしていたところで木に衝撃をいれる。
それだけで頭よりも1周りくらいでかい石が落ちる。
ここらへんは仕掛けた罠が大量にあるのだから何度失敗しても繰り返した。
時には挑発し時には直接攻撃をする。そうすることでもっと動きを単調にする。
「最後の一体も終わりと。」
それと同時に記憶がよみがえる。
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「逃げて!■■■■。」
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蘇ってきたのはたったそれだけだった。
逃げて。これは自分に言った言葉なのだろうか?
その可能性もあるが自分が追いかけていた側なのかもしれない。
・・・ああ少し訂正する。
蘇ったのはそれだけではない。
自分は人だったことだ。
さっきは男だったということしかわからなかったが人という生命体だったということがわかった。
男で人。
これだけではまだ何も見えなさそうだ。
そう思い"俺"はこの森をさまようのだった。
読んでくださりありがとうございました。また次回もお楽しみに